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乙女が泣けば、デフレスパイラルー5

「ふっはぁっはっは。やるな《スターライツⅤ》」

ドン・ファンの声が響き渡る。

 それにしても、あの声は何処から出ているのだろうか。普段の重蔵の姿からすると、想像もつかない。

都は、我が父ながら恥ずかしく思った。

「わぁがはぃ秘蔵の、女幹部バイラオーラを呼ぶしかなようだなぁぁっ!!」

重蔵の声が聞こえてくる。

航輝が戦闘員との戦いを終え、いよいよ、自分が登場する番だ。

それにしても、あっさり倒してしまった。

あの二人は《ラ・フィエスタ》のなかでも怪人級に強い、エリートな戦闘員なのだ。

じゃぁ、怪人になればいいと思うかもしれないが、怪人への人体改造は相当の覚悟を必要とする。

他の組織はどうだか知らないけど、《ラ・フィエスタ》の中では、改造手術をうけて怪人や幹部になるかどうかは、その構成員の自由意思に任されている。

怪人への改造が嫌で戦闘員を続けている者はほかにも結構いるのだ。


そう言う意味においても、子供の頃から勝手に改造されている自分は、結構可哀そうだと思う。悪の首領の娘が、悪の幹部にならなければいけないと言う法はないはずだ。

「損よねぇ……」

都は、ため息をつく。

普通の家の女の子と比べて、スタート地点から劣っていると思う。

悪の首領の娘として生まれたばかりに、航輝と話す話題の大半が、正義と悪の組織の在り方について等の小難しい話になってしまうのだ。

都としては、もっと別の話題で盛り上がりたい。

「イーッ!!(お嬢。そろそろですぜっ)」

お付の戦闘員AとBがやってきて言った。

「わかってるわよ」

ぷにぷにのお腹周りを隠す、布の具合も確認する。

もう少しスレンダーな体型だったら、こんな悩むことも無いのだろうに。

よし、がんばろう。

ステップを踏み、ジャンプ。

都のパーソナルウエポン『死神の靴』の力で5m近くを軽々と跳躍し、重蔵と航輝の間に割って入る。

やはり、変身すると、体が羽のように軽い。今の都は、力も運動能力も、防御力も超人のレベルなのだ。小さな建物ぐらいなら、文字通り「一っ跳び」出来る。

しかし、良い事ばかりではない。

この変身した感覚のまま、変身を解いた後も行動すると酷い目に合うのだ。

宇宙飛行士が宇宙で長く生活していると、その感覚に慣れてしまい、地上に戻った時に様々な失敗をするように。あまり変身した姿のままで生活していると、変身を解いた後、自分はこれぐらい出来ると思って大怪我をする事だってある。


「私の名は、《ラ・フィエスタ》の女幹部『バイラオーラ』。《スターライツⅤ》よ、我が名を耳にした事を光栄に思うがよい」

ふつう、こんな自己紹介するだろうか?自分の事を『女幹部』とか言ってるし……。

内心で、突っ込みを入れながら、登場のセリフを言う。

「バイラオーラだって?!」

航輝のスターライツレッドが驚いた声をあげる。

「大変!首領のドン・ファンだけでも、手ごわいと言うのにっ!!」

スターライツブルーの悠里も合いの手を入れてくれる。

都は、スターライツレッドの方をじっと見ながら、後ろのドン・ファンに言った。

「ドン・ファン様。ここは私だけで十分。後ろに下がり、私がスターライツを倒す様を、悠々とご観覧くださいっ!!」

「頼もしい奴め。よかろう。みていてやる。」

重蔵は引き下がった。

「一人で来ると言うのかっ」

「ブルー・イエロー下がっていてくれ。敵ながら正々堂々と来るというんだ。ここは俺一人で相手するっ!!」

「解った!!」

ここまでは打ち合わせ通り。


周りで見ているギャラリー達も、この展開に色めき立つ。

「《ラ・フィエスタ》にバイラオーラ何て幹部いたかな」

「まって、ちょっと検索してみる」

携帯端末で検索し始める輩もいる。

「それにしても、色っぽいな、あの女幹部」

「あったぞ。だけどこれは違うな。ネットに乗ってるのは、どう見てもオバサンだし」

「二代目って言ってたぞ」

「代替わりしたのかー!」

なんか、変な事を言っていたが、出来るだけ気にしないことにする。

やっぱり、こんな露出の多い服で人前に出るのは恥ずかしい。

地元テレビ局の腕章を付けたクルーも見える。

重蔵が、こっそり話を通しておいたらしいが、用意周到な事だ。

「いけぃ!バイラオーラ、レッドを倒せば、褒美は望みのままだっ!!」

「はっ!ありがたき幸せっ!!」

万が一勝ったら、今まで欲しくて手が出なかったダイエットグッズを買って貰おう。

半ば本気でそう思いながら、跳躍した。

後は、ある程度戦って、逃げるだけだ。

(航輝に、本気で相手されたら、戦いにもならないものね)

実家が悪の組織だけに、昔から戦闘訓練は受けてきたけれど、最近はそれもサボりがちであった。

『死神の靴』のサポート戦闘システムを最大値に設定する。

これは、蓄積された情報をもとに、最適の行動に導くものだ。

(ええと、最初は軽く牽制の攻撃だっけ?)

都は、いくつも挙げられた攻撃方法のリストから、一つを適当に選択し、実行した。

その場で、軽くステップを踏む。

その姿は、さながらフラメンコを踊るダンサーのようであった。

都は構えている航輝に向かって、軽く蹴りを見舞う。

「えぇいぃ!」

航輝は、そのキックを左手を使って払いのけると、距離を取る。

間を置かずに、詰め寄ると、後退する航輝に合わせるように、蹴り技を繰り出した。


戦闘サポートシステムを最大値にしている都は、厳密に言えば、自分自身で戦っているという事にはならない。

都が、「こんな感じで攻撃したい……」と考えたイメージをシステムが受け取り、パーソナルウエポン『死神の靴』に蓄積されている戦闘方法のデータの中から、最も効率の良い方法を選びだす。

要するに、都はシステムの力を使って、一時的に『死神の靴』に記録されている、初代バイラオーラ。つまり、都の母の戦闘技術を借り受ける事で、航輝と戦っているのだ。そのため、スピンキックなどの様な、蹴り技の中でも高等な技術も、難なく使うことが出来る。

都は、大きく飛び上がり、するどく回転のかかったスピンキックを航輝に見舞った。

「やぁぁぁぁ!」

「クッッ!!」

避けきれ無かったのか、航輝の左腕を掠める。

「だ、だいじょうぶ?」

「気にするな!大した事じゃない」

「う、うん」

確かに、そんな心配をしている暇はない。

ミドルキックから回し蹴りへの連続攻撃を、航輝は剣で受け止める。

「いい感じだぞ、都!」

「なんとかねっ!」

ギャラリーには聞こえないように小声で喋りながら、二人はさらに数合打ち合った。


以前も説明したように、バイラオーラの主な武器は、『死神の靴』と呼ばれる靴である。

この靴で、航輝の剣を受けたり、そのまま攻撃に転じたりと、バイラオーラの戦闘方法は何かと足を高く上げて戦う方法が多い。

(脚が丸見えになるのが嫌なのよね……これ)

紅いロングスカートを着てはいるものの、そのスカートは、右側に腰まで大きくスリットのがあるので、動くだけでも太腿まで丸見えになる。

SMのボンテージのようなトップスと相まって、とても扇情的に見えるのだ。

(うう、やっぱり恥ずかしい……)

ぷにぷにのお腹と同様に、むっちりとした太腿も都のコンプレックスの一つである。お腹まわりは布で隠してあるからまだ良いとしても、太腿があらわになるのもあまり好ましい事ではなかった。

「あぶない!避けろ!みやこっ!!」

航輝の声がする。

ハッ!として意識を戻す。

すると、航輝の振った剣が、自分のすぐ横の位置まで届いてしまっていた。

航輝も避けられると思ったのだろうが、余計な事を考えていた為に反応が一瞬遅れてしまった。

避けられないっ。

「ぐッッ!」

航輝が横なぎに振った剣の一撃が都の右わき腹にヒットする。

都の顔が苦悶に歪む。

コスチュームの高い防御力で、切られることは無いが、やはり痛い。

(いったぁぁぁぁぁ!戦闘員の人達はこんな攻撃を毎回、受けてんの?)

とっさに、横に跳び、威力を弱めたが、いまだに受けた右腕の感覚が無い。

意識も少し飛んでいたようだ。慌ててジャンプしたので、積み上げられている荷物に体ごと突っ込んでしまったらしい。

どうやら、それはビールのビンのケースだった。

ケースがひしゃげ、中身のビンが割れている。

頭から、ビールがかかり。都は体中にビールを浴びてしまった。

「冷たっ!!」

気持ちが悪いが、仕方がない。

戦闘中に余計な事を考えていたために、反応が遅れた。

航輝が声を掛けてくれなかったら、気が付かないまま攻撃を受けていただろう。

仰向けに転がったまま、頭の上に覆いかぶさっていたビールのケースを掻き分ける。


パシャリ


ビールのケースを掻き分けた都が初めて見たのは、巨大なレンズを構えた少年だった。

それはプロ仕様じゃないのかと言いたくなるほど、ゴツイ写真機を構えた。

いわゆる『カメラ小僧』だ。

熱心に仰向けに転がった都を、いやバイラオーラの写真を撮っている。

ほかにも沢山の一般人が、携帯電話やデジタルカメラなどを構え撮影しているではないか。

(ん?え?な、なに?!商店街にはもう誰もいないはずじゃないの!?)

頭が混乱する。

少なくともさっきまで、周囲数十メートルの範囲には、誰もいない場所で戦っていたハズだ。


そこまで考えた、都は何か周囲の様子が騒がしいことに気が付く。

「おい、そこの小僧どけよ、バイラオーラちゃんが撮れないじゃないか!」

「そうだそうだ、退け退け!」

「せっかく、ここまで飛ばされて来てくれたんだ。こんなチャンス滅多にないぞ!!」

「悪の女幹部とか、私こんなに近くで見たの初めてぇ―」

そう、衝撃を和らげる為に跳んだ方向が、商店街の外れ。ギャラリー達の避難している区域だったのだ。

航輝の一撃と、バイラオーラの靴の跳躍力が相まって、戦闘していた範囲から離れたところまで吹き飛んでしまったのだった。

(な、な、な)

「やー、下着は黒っすかっ!やっぱ黒っすよね!」

「俺は、ガーターベルトが付いていないことに抗議すべきだと思う!」

「おおおー。いいねー仰向けで、全身にビールが掛かっている姿って、ちょーいいねー」

「しっ!気が付いたみたいだから、あんまり変なこと言うんじゃねぇ!!あ、でもその意見には心から賛同するっ!!」

めいめいに勝手な事を言っている。

(な、な、な、な)

都は、恐る恐る自分の姿を見下ろした。

吹き飛ばされビールのケースに突っ込んだまま、びしょ濡れで仰向けで転がっている。

ロングスカートは、大きくはだけ、スリットからは脚が覗き、ギャラリーからはおそらく下着まで見えているに違いない。

さらに、お腹に巻いていた薄布も、何処かへ行ってしまい、プニプニのお腹(と都は思っている)が見えてしまっている。

それらを、足先から激写されている……。


たっぷり10秒の間、思考が停止した。


「い、い、いや」


(お、おな、おなか丸見え!や、やめ、撮らないで!!)


「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

そう叫ぶと、ギャラリーの集団から全力で逃げる。

恥かしいし、怖くもあった。

この時の都に、正常な判断など出来ないでいた。

同時に、都のパーソナルウエポン『死神の靴』の、戦闘サポート機能も混乱した。

着用者の意志を受けて、戦う方法を決める戦闘サポートシステムも、その着用者の意識が混乱していては正常な判断は出来ない。

戦闘サポートシステムは、それでも中途半端には機能した。

着用者の意識から最も、強い思考を検索する。

どうやら「この場から逃げ去りたい」と考えているようである事だけが伝わった。

着用者が何も考えられない以上、これは緊急事態である。速やかに逃げ帰らねば、大変危険だ。エマージェンシーモードへと移行したシステムは、脅威を全力で回避するべく全力で行動を開始した。

「逃げる事を妨げようとする者」全てが敵だ。


立ち向かう者はすべて排除する。


それがたとえ……。

「都っ!!大丈夫か?!……ぐはァァ!!」

自らの剣を、当ててしまい心配で駆け付けたスターライツレッドであったとしても。

航輝は『死神の靴』によるサマーソルトキックにより、天高く打ち上げられた。


それがたとえ……

「この動きは、早苗!?都どうした?なにがあった?!……ハグォッ!!」

娘を心配して、近くに寄ってきた悪の首領であったとしても。

重蔵は、ドロップキックにより、100m程バウンドもせずに突き飛ばされると、広場に設置されたアドバルーンの土台に激突し、これを破壊して目を回す。


その日、暴走するバイラオーラによって、商店街のいくつかの建物と、広場の特設会場およびアドバルーンの土台が破壊され、正義の味方数名と悪の首領が一名程怪我をするという惨事が引き起こされたのであった。


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