乙女が泣けば、デフレスパイラルー4
「それにしても手際よく解体してくよねぇ」
悠里が、感心したように呟く。
すでに、スターライツブルーのコスチュームに変身している。
「変・身っと。《ラ・フィエスタ》の戦闘員は皆ベテランだしな」
鋭一が、スターライツイエローに変身しながらそれに答えた。
航輝達《スターライツⅤ》のコスチュームは、フルフェイスのヘルメットに、体にフィットするタイプの素材で作られたつなぎ、さらにブーツと手袋といった形状をしている。全身タイツのような格好だが、女性用には小さなスカートが付いていた。そのどれもがそれぞれのパーソナルカラーに染められており、左胸には白く染め抜かれた星がある。
古臭いデザインの戦闘服だが、航輝は結構気に入っていた。皆で同じ服を纏うと、左胸の星が正義を象徴しているような気さえしてくる。
《ラ・フィエスタ》の戦闘員は、手に戦槌を持ち、手際よく建物を打ち壊してゆく。
鋭一が言ったように、手際の良いものだ。しかも、指定された建物以外に傷一つつけていない所もすごい。
航輝は、感心しながらも、作戦リストに挙げられた作戦工程表を一つ一つ確認していった。
あらかた破壊した戦闘員は、商店街の入り口、駅前の広場に、でかい首領の銅像を建てようとしている。事前に商店街の空き店舗に運んでおいて貰ったのだそうな。
商店街、全面協力である。
「よし、そろそろだな。二人とも準備は良い?」
スターライツレッドに変身した航輝が確認すると、二人は手を上げてそれに答えた。
いよいよだ。
「よし、最後に作戦を確認するぞ。俺と鋭一さんが、戦闘員を片付けている間に、悠里があの像をスターライツバズーカ―で破壊。怒ったおじさんが女幹部バイラオーラを呼び出すから、そっからは、二人は下がって待機。俺と都で戦うのを観戦ってことで!!」
「はーい」
悠里が、間延びした返事をする。
破滅的に不器用な悠里でも、動かない銅像ならば、当てることが出来るだろう。
航輝が、飛び出そうとしたところで、鋭一が声を掛ける。
「航輝、作戦手順が決まっている『おままごと』みたいな戦いだが、気を抜くなよ。あいつら、強いぞ?」
むかし、何度も戦ったことのある鋭一の言葉だけに、航輝はアドバイスを神妙に受けておくことにした。
「はい!」
二カ月ぶりの戦闘だ。
正義の味方としては、やはり興奮する。
「まてぇい!!」
航輝の言葉が大きく商店街に響き渡る。
「なぁぁにやつだぁぁぁ!!」
《ラ・フィエスタ》首領ドン・ファンが、声の主を探す。それにしても重蔵おじさん、ノリノリである。三年のブランクを感じさせない。
航輝達は商店街の入り口、銅像の近くまで走り寄ると、大声で言った。
「貴様らの悪事はそれまでだっ!!」
「なぁぁにぃぃー!!」
「商店街の皆さんを脅かす悪の組織めっ!!我ら、《スターライツⅤ》が成敗してくれるっ!!」
それにしても、べたべたな展開である。
しかし、屋外でギャラリー達に自分達の組織の事を宣伝しながら戦うには、こういった『解りやすい展開』が、それなりに効果的なのだ。
実際、商店街を遠巻きにしてみているギャラリー達も。
「おおっ!!ようやく正義の味方の登場だ!!」
「遅くないか?つか、《スターライツⅤ》って誰?」
などと、組織の名前を連呼してくれている。
なかには。『通な人』もいて。
「《スターライツⅤ》か……珍しいな。」
「知ってるの?」
「ああ、最近戦闘したとか聞かないんだけどな。昔からこの辺にある正義の組織だよ。正統派スタイルの『戦隊系』正義の組織ってやつだな」
「ふーん」
などと隣の女性に得意げに解説している。
ああいう人がいると、勝手に解説してくれるから正直助かる。
「街並みを破壊して、自分たちの思うがままにするとは、ゆるせんっ!!」
最近では「斜に構えたヒーロー」や「ウイットに富んだジョークをかますヒーロー」なんてのも流行っているみたいだが、航輝のような頭の固い人間には、このやり方しか解らない。
「それにしても、良くもここまで破壊してくれたもんだぜ」
「でも、間に合ってよかったわっ!!」
鋭一と悠里もさっきまで、ずっと破壊活動が終わるのを見学しながら待機していたのだが。そんなことは、おくびにも出さずに、航輝に続けて言ってくれる。
名乗りを上げるまでじぃーっと動かずに聞いてくれていた重蔵は、マントをはためかせ。
「小癪な。返り討ちにしてくれる!!お前たち、いけっ!!」
お約束通り、というやつである。
そのほうがギャラリーに解りやすくて良いのだ。
「われら《スターライツⅤ》星空の輝きはお前たちを決して逃さない!!」
決まり文句に、ギャラリーから拍手が上がる。
航輝の口上と共に、戦闘が始まった。
《ラ・フィエスタ》の戦闘員が武器を構える。
先ほど商店街の破壊活動をしていたため、手に持っているのは、ハンマー……すなわち、戦槌というやつだ。
航輝も腰から剣を抜いて構えた。
スターライツレッドのパーソナルウエポン『スターライツソード』は、刃渡り八十センチのブロードソードの形状をしている。
戦闘員相手に、強力な熱線銃を使うのは正義の味方としてどうかと思うので、今回は剣だけで切り抜けようと思ったのだ。
最初に飛び出したのは、ドン・ファンの傍らにいた戦闘員CとDだった。
「イーッ!!」と叫びながらが航輝の方へ向かって来る。
戦闘員Cが掛け声とともに、戦槌を振り下ろす。
「はっ!!」
航輝は、戦槌を恐れずに、一歩前へ踏み込んで避ける事にした。
どうせ、この剣で攻撃するには、相手の懐に潜らなければならないのだ。
戦槌がフルフェイスのヘルメットの脇を掠める。
必殺の大振りが空振りに終わった戦闘員Cは、あわてて戦槌を引き戻そうとする。
航輝はその間を与えない。
「やぁぁッ!!」
剣を抜き、戦闘員Cの胴を狙い、突く。
その瞬間、背後に「ぞくり……」と嫌な予感を感じた。
「……っっ!!」
攻撃を中断し、その場にしゃがみこんだ。
バランスを崩すが、関係ない。
航輝が長身をかがめると同時に、航輝の頭があった場所を切り裂いて風が通り過ぎた。
戦闘員Dが、航輝の背後に回りこみ、戦槌を大きく横に薙いだのだ。
目の前の戦闘員Cだけに集中していたら、反応できなかった。
「イーッ!!」
その間に、戦闘員Cは距離を取り、武器を構えなおす。
航輝は、低い姿勢から右足を軸にして、戦闘員Dの脛に切りつけた。
はずした。
態勢を崩した航輝に戦闘員Cの攻撃が再び襲う。直撃は免れない。
「よぉっと!!」
航輝が覚悟を決めた瞬間、前に、スターライツイエロー……すなわち鋭一が入り込み。武器のナックルで、戦鎚の一撃を受け止めた。
《スターライツⅤ》と《ラ・フィエスタ》の名誉のために言えば、戦闘に関して、何も『計画』は練られていない。
正義と悪の組織同士が、名誉をかけて戦う、昔ながらの闘いが繰り広げられたのだ。
その真剣さは、ギャラリーとして観戦している通行人達にも伝わった。
「お、おい、結構、見ごたえがあるな」
「ああ、かなり本気で戦ってるぜ」
「おれ、友達呼ぶわ、中々見れないもん、こんな白熱した戦い」
「ああ、でも少しだけ後ろに下がっておこうぜ」
ギャラリーたちは口々に言い合い、距離を取り始める。
「くっ!!(戦闘員なのに、強いッ!)」
戦闘員と手合せした航輝が受けた印象は、それだった。
「さすが《ラ・フィエスタ》だぜ、末端の戦闘員まで鍛えられてやがる」
戦闘員Cの一撃を受けた鋭一が、顔の前で腕を十字にクロスしたまま言う。
攻撃を受けたところからは、いまだに煙が立ち上っている。
「戦闘員まで鍛えるんですか?」
あまり聞かない話に、驚いて、航輝は鋭一に尋ねた。
「ああ、《ラ・フィエスタ》みたいに『本物』の悪の組織はな。戦闘員にも戦闘訓練を欠かさないってわけだ」
《ラ・フィエスタ》は80人からなる、悪の組織だ。
戦闘員も五十名近く存在する。
それら全ての戦闘員に、戦闘訓練を施すというのだ。
その手間と費用は、どれだけかかる事だろう。
航輝達、零細の正義の組織とは、規模が違うのだ。
「あの戦闘員の動き、覚えがある。俺も何度かやりあった、大ベテランの戦闘員だぜ。志摩制作所では専務をかなんかをやっていたはずだ」
都の家の事務所で、資料を整理していた小太りの男が確か専務と呼ばれていた気がする。
あの人が、こんな動きをするなんて。人は見かけによらないものである。
戦闘員だって、経験を積めば、キレのある動きが出来るという事だ。
では、今まで戦ってきた悪の組織は何だったのだろうか?
「お前が、今まで相手にしてきたのは、うわべだけの悪の組織ってわけだ。もしくは、損害を恐れて、適当に相手されてたにすぎん」
鋭一が、航輝の内心を見透かしたように、教えてくれた。
……ちっくしょう。軽んじられている事は解っていたつもりだが、やはり悔しい。
鋭一は、ナックルのリミットを外す。彼も本気で戦うつもりらしい。
「うれしいだろ?航輝。『本物』の悪の組織が『本気』で相手してくれているんだぜ!?」
「はいッ!!」
燃えてきた。
戦闘員だからと、熱線銃を使わないで倒そうと、考えていたことが恥ずかしい。
目の前の戦闘員CとDさんには、胸を借りるつもりで全力を出そう。
「イーッ!(いやー、気持ちのいい若者だねぇー!!)」
「イーッ!イーッ!!(ああ、復帰第一戦に、相応しいですなぁー)」
彼らも、やる気十分のようだ。
航輝は、ホルスターから熱線銃を引き抜くと。
右手に剣、左手に銃と言う風に構えた。
今度は本気で行く。
「先行くぞっ!!」
鋭一が駆けだす。
航輝は、熱線銃を構えると。
戦闘員たちの足元を狙って撃った。
知り合いの戦闘員相手に、銃を当てるつもりは無い。
援護するための牽制になれば良いのだ。
「イーッッ!」
もくろみ通り、彼らは、航輝の牽制にたじろいだ。
「せぇいやっ!」
その間、距離を詰めた鋭一が、掛け声とともに、戦闘員Cの胸に目がけて、ナックルで三連撃のパンチをみまう。
戦闘員Cはそのパンチを辛うじて武器で受けるものの、バランスが崩れた。
チャンスだ。
航輝は、飛び込んだ。戦闘員Cからすれば、鋭一の陰から急に飛び出したように見えるだろう。剣による突きを見舞う。その間、熱線銃でもう一人の戦闘員Dの足元を撃って足止めしておくことも忘れない。
「やぁぁぁぁ!!」
掛け声とともに、戦闘員Cの肩口に、剣を振り下ろした。
戦闘員のコスチュームと航輝の武器が振れ、大きな火花が散る。しっかりと強化されたコスチュームであれば、航輝のパーソナルウエポンで一度切ったぐらいでは、切り裂かれることは無いのだ。
ただ、すさまじく痛い事だけは確かだ。
「イーッッッ~~~~~~~!!!」
戦闘員Cが倒れる。気絶したようだ。
その間、鋭一がさらに腕を頭の前で交差したままに、戦闘員Dへと接近する。
「イーッ!」
戦闘員Dは戦鎚を横なぎに振って応戦するが、鋭一が狙ったのは戦闘員D自身では無く、振り回している武器だ。
「ふっ!!」
短い呼吸と共に、アッパーカットの要領で、武器にナックルを当て、跳ね上げる。
戦闘員Dは、そのまま武器を振り下ろして攻撃しようとするが、航輝は、鋭一が作ったその短い時間で、航輝は戦闘員Dの近くまで接近することが出来ていた。
「させないぞ!!」
振り下ろされた戦鎚を、剣で受けとめる。
たじろいだ戦闘員Dに鋭一が接近すると、その腹を目がけてストレートパンチ。
鈍い音と大きな火花と共に、戦闘員Dは吹き飛んだ。
稽古でも、中々上手くいかない連携攻撃が成功してホッとした。
「よくやったぞ。航輝」
鋭一が小声で、誉めてくれた。
「ありがとうございます」
さぁ、いよいよ都の出番だ。




