乙女が泣けば、デフレスパイラルー3
「ふぅははははははーッ!!」
作戦が始まった。
夕凪南口商店街に重蔵の声が響き渡る。
今の重蔵は、悪の組織の大首領『ドン・ファン』である。
上質なシルクのシャツに、黒いズボン、長い黒ブーツに羽のついた帽子という出で立ちだ。
長いマントを翻し、目元だけを隠す半マスクと口髭の下には、にやついた笑みが張り付いている。
『ドン・ファン』とはスペインでは優男の代名詞である。
このコスチュームもそのあたりを意識して造られているのであろうが、重蔵が身に纏うと、大きく突き出たビール腹に短い脚のオヤジとなってしまう。
あまり格好の良いものではないと、娘の都は思うのだが、本人は気に入っているらしい。
当然この衣装は、『変身』によって纏ったものであるので、見た目からは想像もつかない強度を誇る。
高速で走る車の正面衝突を受けても、着用者には傷一つつかないだろう。
「この駅前商店街はぁぁ《ラ・フィエスタ》の首領『ドン・ファン』が戴くことにするぅぅぅ!!!!」
通行人は、何だ?何事だ?と近づいてくる。
正義と悪が予定調和の中で戦うこの時代、通行人達も心得たものだ。
敵の首領が「駅前商店街は戴いた!」というのなら、逆に「駅前商店街以外は安全」と言う事になる。
まぁ、流れ弾に当たる危険性が無いわけでは無いが、スリルや珍しいものを見たいという心の方が勝った通行人が多くいるのも事実だったりする。
彼らは、遠巻きに見ながら。
「おい、なんか駅前で悪の組織が侵略活動してるよ?!」
「おお!最近ゲリラ侵略なんて珍しいな!」
などと囁き合い、携帯電話などで撮影を行う。
なかには
「おい!あれ《ラ・フィエスタ》だよな。最近、活動聞かなかったから、消滅したのかと思ってたぜ」
「正義の味方どこだよ?」
「まだ来てないんじゃねぇの?」
などと、無責任に話し合っている者もいる。
「もう!お父さんったら、やりすぎよ!」
物陰から覗く都が抗議の声をあげた。
既にバイラオーラに変身しているが、出番はまだ先である。
「イーッ!イーッ!!(まぁ、久しぶりの出撃ですからねぁ、首領も嬉しいんじゃないですか)」
傍らにいる、戦闘員Aが冷静に突っ込みを入れる。
「だからって、張り切り過ぎじゃない?ほら、あの店まで破壊しちゃって!」
「イーッ!(大丈夫ですよ、お嬢。あれは壊してほしいって言われてた店舗です。)」
戦闘員Bが、都の言葉に冷静に応対する。
「イーッ!イーッ!イーッ!!(今回、の我々は、商店街整備の一環で出撃していますからねぇ。指定されたものはきっちり壊しておかなけりゃいけません)」
冷静な戦闘員って、なんかイラッと来るわねぇ……と内心では思いながらも、言ってることが正しいので黙っている事にした。
「イーッイーッ!(壊して良い建物と悪い建物が、混在していますからね。お嬢も気を付けてください)」
戦闘員というより、もはやお目付け役である。
「わかったわよ」
商店街の会長さんから頼まれた建物はあらかた破壊したようだ。
この後、《スターライツⅤ》が登場して戦闘員を倒したら、都のバイラオーラの出番だ。戦闘員の話では、「我々も全力で戦うから、お嬢さんの出番はないかもしれませんよ」などと言っていたが、戦闘員では航輝達には勝てないだろう。
緊張はしているが、緊張で何もできないという程ではない。
さっき航輝が話しをてくれたのが効いている。
航輝だって作戦前だから、あんな悩みを言うのは悪いんじゃないかと、悩んでいたら車から出てきて話も聞いてくれた。
武器や防具について詳しく話してくれたから落ち着いているのではない。
航輝に、「ありがとう」と感謝され、努力を認められたことが効いているのだ。
そろそろ《スターライツⅤ》が出て来る時間ようだ。
都は大きく息を吸い込むと言った。
「よーし。みやこ姉さんが、一肌脱いであげますか!」




