五人の王が知らなかった世界
五人の若き王たちは、それぞれの国へ戻った。
そして。
それぞれの王宮で。
それぞれの鋼鉄の部屋に閉じ込められた。
氷の王女エリシア。
光の王女セレナ。
水の王マリウス。
火の王ガルド。
そして、風の王フェリオ。
かつて。
誰よりも自由に命令を下し。
誰よりも大きな権力を持ち。
誰よりも多くの人間を恐れさせていた五人。
しかし今。
彼らを恐れていたはずの家臣たちが。
彼らを閉じ込めていた。
「これは謀反だ!」
「今すぐ開けろ!」
「俺を誰だと思っている!」
五つの王宮で。
同じような怒鳴り声が響いた。
だが。
扉の向こうにいる家臣たちは。
以前のように震えてはいなかった。
彼らは、ただ同じことを言った。
「陛下」
「あなたに、世界を知っていただきます」
若き王たちは、まだ理解していなかった。
自分たちが閉じ込められた理由を。
そして。
自分たちがこれから。
王宮の外に存在する。
本当の世界を見ることになるということを。
---
氷の王女エリシアと、寒さ
氷の国。
一年の大半が雪に覆われる。
白い大地。
凍った湖。
雪に埋もれた森。
そして。
北の果てに建てられた。
巨大な氷の王宮。
その地下深く。
エリシアは閉じ込められていた。
「……寒い」
エリシアは、思わずそう呟いた。
しかし。
すぐに眉をひそめた。
「何で、私が寒がるのよ」
彼女は氷の魔法を操る王女だった。
吹雪の中でも眠れる。
氷の湖の上を歩ける。
普通の人間なら凍え死ぬ場所でも。
エリシアにとっては苦しくなかった。
それなのに。
鋼鉄の部屋は冷えていた。
暖炉はない。
厚い絨毯もない。
豪華な寝台もない。
「おい!」
エリシアは扉を叩いた。
「暖炉をつけなさい!」
しばらくして。
外から声が聞こえた。
「申し訳ございません、陛下」
「何よ!」
「薪が不足しております」
エリシアは呆れた。
「薪?」
「はい」
「森へ行けばいいでしょう!」
「……はい」
「なら、行きなさい!」
「森が、以前ほど残っておりません」
エリシアは黙った。
「どういう意味?」
「長い戦争の間に、多くの木々が失われました」
「……」
「敵軍に焼かれた森もあります」
「……」
「冬を越すため、民が薪として切り倒した森もあります」
エリシアは鼻で笑った。
「だから?」
外の家臣は。
静かに答えた。
「だから、民も寒いのです」
エリシアの表情が止まった。
「……民が?」
「はい」
「王宮には暖房があるでしょう」
「はい」
「食料もある」
「はい」
「毛皮もある」
「はい」
「なら、それを使えば――」
「王宮の中では」
家臣が言った。
エリシアは言葉を失った。
「陛下」
「……」
「王宮の外では、多くの民が暖を取れずにおります」
「そんな話……」
エリシアは口を閉じた。
聞いたことがなかった。
いや。
聞いていた。
何度も。
会議で。
家臣たちが言っていた。
「北部の村で薪が不足しております」
「子供が凍傷を負いました」
「老人が冬を越せません」
「食料が不足しております」
そのたびに。
エリシアは言った。
「あとにして」
「面倒な話は聞きたくない」
「家臣たちで決めて」
「……」
エリシアは鋼鉄の床を見つめた。
「食事を持ってきなさい」
「はい、陛下」
小さな窓が開く。
そこから盆が差し出された。
パン。
少量のスープ。
そして。
冷えた野菜。
エリシアは顔をしかめた。
「これだけ?」
「はい」
「冗談でしょう?」
「本日の北部の村と、同じ食事でございます」
「……何?」
「陛下には、民と同じものを食べていただきます」
エリシアは怒りで顔を赤くした。
「私は王女よ!」
「はい」
「こんな食事を食べる必要がある?」
「ございます」
「なぜ!」
家臣は。
少しだけ間を置いた。
> 「陛下が知らなかったからです」
エリシアは何も言えなかった。
---
数日後。
家臣が報告を持ってきた。
「北部の村について、ご報告いたします」
「……聞くわ」
「はい」
「人口、千二百人」
「うん」
「冬を越せる食料は、残り二週間分」
エリシアの顔が変わる。
「二週間?」
「はい」
「冬は、あとどれくらい?」
「三か月ほどでございます」
沈黙。
エリシアは、ゆっくり尋ねた。
「……子供は?」
「三百十二人」
「老人は?」
「二百一人」
「病人は?」
「増えております」
エリシアは目を閉じた。
「食料を送って」
「どこから?」
「王宮の倉庫から」
「すべての村へ送れば、王宮の備蓄も減ります」
「減ればいい!」
エリシアは叫んだ。
家臣が黙る。
エリシアは続けた。
「王宮に食料があって」
「民が飢えているなんて」
「……おかしいでしょう」
扉の向こうで。
誰かが小さく息を呑んだ。
「陛下」
「何?」
「今の言葉を、もう一度よろしいでしょうか」
「嫌よ」
「記録したいのです」
「……聞こえていたでしょう」
「はい」
「なら記録しなさい」
家臣は。
少しだけ笑った。
「承知いたしました」
エリシアは食べかけのパンを見つめた。
冷たい。
固い。
それでも。
口に運んだ。
「……まずい」
「申し訳ございません」
「謝らないで」
「はい」
「民は、もっとまずいものを食べているんでしょう」
「……はい」
エリシアは。
ゆっくりと目を閉じた。
「だったら」
そして。
小さな声で言った。
「私が先に、お腹いっぱいになるわけにはいかないでしょう」
その日。
氷の国の若き王女は。
初めて。
自分の国の寒さを知った。
---
光の王女セレナと、処刑された男
光の国。
白い神殿。
黄金の塔。
眩しいほど美しい王宮。
かつて。
セレナは自分の国を。
世界で最も正しい国だと思っていた。
光は正義。
光の国は正義。
そして。
自分は光の王女。
だから。
自分に逆らう者は。
間違っている。
そう信じていた。
「陛下」
牢の外から声がした。
「何?」
「面会を希望する者がおります」
セレナは笑った。
「私に会いたい?」
「はい」
「誰?」
「……ある女性でございます」
「貴族?」
「いいえ」
「商人?」
「いいえ」
「では、何者?」
家臣は答えなかった。
「……まあいいわ」
セレナは椅子に座った。
「会わせなさい」
鉄格子の向こう。
一人の女性が現れた。
質素な服。
疲れた顔。
そして。
幼い少年の手を握っていた。
セレナは首をかしげた。
「誰?」
女性はセレナを見た。
その目には。
怒りがあった。
「……お父さんを返してください」
セレナは眉をひそめた。
「何?」
少年が言った。
「お父さんを返して」
「誰のお父さん?」
女性が答えた。
「私の夫です」
「だから、誰?」
女性の声が震える。
「あなたが処刑した人です」
セレナの表情が変わった。
「……名前は?」
女性は答えた。
「アルベルト」
セレナは黙った。
覚えていた。
数年前。
自分に反対した家臣。
「女王陛下は間違っている」
そう言った男。
そして。
セレナは命令した。
「処刑しなさい」
それだけだった。
「あなたの夫は」
セレナは言った。
「反逆罪よ」
「違います」
女性が即座に言った。
「陛下に反対しただけです」
「王に逆らった」
「民を守ろうとしたんです!」
女性が叫んだ。
セレナの身体が震えた。
「夫は」
「北部の村に食料を送ってほしいと言いました」
「税を下げてほしいと言いました」
「兵士たちをこれ以上戦場へ送らないでほしいと言いました」
セレナは何も言えなかった。
「それなのに」
女性は続けた。
「あなたは夫を反逆者と呼んだ」
少年が言った。
「お父さんは悪い人じゃない」
セレナは少年を見る。
「……」
「お父さんは、僕に本を読んでくれた」
「……」
「病気の人を助けてた」
「……」
「お母さんに花をあげてた」
セレナは顔をそむけた。
「……出ていって」
女性が言った。
「何ですって?」
「もう一度、言ってください」
セレナは怒鳴ろうとした。
しかし。
声が出なかった。
少年が。
ただ。
こちらを見ていた。
「お父さんを返して」
セレナは。
初めて。
自分が処刑した人間に。
家族がいたことを考えた。
「……返せない」
女性の顔が歪む。
「分かっています」
セレナは。
震える声で言った。
「返せないの」
少年が泣いた。
セレナは。
自分の手を見た。
光を操る手。
傷を癒やすことのできる手。
それなのに。
自分は。
命を奪った。
「私は……」
セレナは呟いた。
「光の力を使う資格があるのかしら」
誰も答えなかった。
その夜。
セレナは眠れなかった。
そして。
初めて。
自分が処刑した人々の名前を。
家臣に調べさせた。
一人。
また一人。
名前が出てくる。
そして。
その全員に。
家族がいた。
--
水の王マリウスと、沈んだ村
水の国。
青い海。
巨大な川。
無数の港。
水の国の王マリウスは。
水を操ることができた。
だから。
水を恐れたことがなかった。
「水害だと?」
牢の中で。
マリウスは報告書を読んでいた。
「川が溢れた?」
「はい、陛下」
「堤防を直せばいい」
「堤防を作る人員が足りません」
「金を出せ」
「金だけでは、人は集まりません」
「なぜ?」
「戦争で、多くの男たちが死にました」
マリウスは黙った。
「村は?」
「……沈みました」
「何人?」
「五百人ほどの村でございます」
「全員?」
「逃げられた者もおります」
「じゃあ、よかったじゃないか」
外が静かになった。
マリウスは顔を上げた。
「何だよ」
家臣が言った。
「陛下」
「何?」
「村が沈んだ、という意味をご理解いただいておりますか?」
「家が水に浸かったんだろ」
「違います」
マリウスは眉をひそめた。
「何が違う?」
「村が消えたのです」
沈黙。
「畑が」
「家が」
「墓が」
「学校が」
「市場が」
「そして」
家臣の声が低くなる。
「そこで生きてきた人々の生活そのものが、消えました」
マリウスは何も言えなかった。
数日後。
彼は初めて。
水の中の村を見た。
もちろん。
牢から出されたわけではない。
家臣たちが。
水の魔法を利用して。
巨大な水鏡を作ったのだ。
鏡の中に。
沈んだ村が映し出される。
屋根だけが見える家。
水の中に沈んだ畑。
流された橋。
倒れた木。
そして。
小舟の上にいる人々。
「……」
マリウスは立ち上がった。
「家が」
「はい」
「沈んでいる」
「はい」
「俺なら……」
マリウスは手を伸ばした。
「水を動かせる」
「はい」
「水を引かせれば……」
「可能でしょう」
「じゃあ!」
家臣が静かに言った。
「なぜ、今までなさらなかったのですか?」
マリウスは。
答えられなかった。
水害の報告は。
何度も届いていた。
しかし。
マリウスは。
海で遊ぶことを優先した。
豪華な船で宴を開いた。
「……俺」
マリウスは。
水鏡の中の村を見る。
「俺は、水を操れるのに」
「民は水に負けていたんだな」
そして。
水の王は。
初めて命令した。
「地図を持ってこい」
「陛下?」
「沈んだ村の全部だ」
「はい」
「俺が、水を引かせる」
「……」
「ただし」
マリウスは言った。
「俺一人で決めない」
家臣が驚く。
「専門家を集めろ」
「堤防を作る者」
「農民」
「船乗り」
「村の人間」
「全部集めろ」
マリウスは。
水鏡を見つめた。
「水のことを知っているのは、王だけじゃない」
---
火の王ガルドと、焼けた大地
火の国。
赤い大地。
黒い火山。
燃えるような太陽。
そして。
炎を操る王。
ガルド。
「今日の連絡事項は?」
「本日は、ある村についての報告です」
「なんだ」
「陛下が焼いた村です」
ガルドが止まった。
「……何?」
「三年前の戦争で」
「西部国境の村に」
「陛下ご自身が炎を放たれました」
ガルドは笑った。
「敵兵がいたんだ」
「はい」
「なら仕方ないだろ」
「村人もおりました」
「……」
「避難できなかった者も」
「……」
ガルドは怒鳴った。
「俺は知らなかった!」
「はい」
「敵兵だけを狙った!」
「はい」
「なら、俺の責任じゃ――」
ガルドの声が止まる。
家臣が言った。
「命令したのは、誰ですか?」
沈黙。
「炎を放ったのは、誰ですか?」
「……俺だ」
「では」
「責任は、誰にありますか?」
ガルドは壁を殴った。
「くそっ!」
その夜。
ガルドは。
焼けた村の報告を聞いた。
家を失った人。
親を失った子供。
畑を失った農民。
火傷で働けなくなった男。
そして。
ガルドを憎む人々。
「当然だろうな」
ガルドが言った。
「俺でも俺を殴る」
家臣が驚く。
「陛下」
「俺は火を操る」
「はい」
「火は暖かい」
「はい」
「料理もできる」
「はい」
「暗い場所を照らせる」
「はい」
「でも」
ガルドは拳を握った。
「俺は、火を壊すために使った」
翌日。
ガルドは。
初めて自分から言った。
「村へ行く」
「しかし、陛下はまだ監禁中です」
「分かっている」
「では?」
「俺を連れて行け」
「……何?」
「部屋から出すな」
ガルドは言った。
「牢のままでいい」
「でも、村を見せろ」
家臣たちは。
互いに顔を見合わせた。
数日後。
巨大な鋼鉄の馬車が。
焼けた村へ向かった。
中にいるのは。
火の王ガルド。
村人たちは。
鋼鉄の格子の向こうにいる王を見た。
「……あれが」
「火の王だ」
「俺たちの村を焼いた」
石が飛んだ。
ガン!
鋼鉄に当たる。
また。
石が飛ぶ。
ガン!
ガルドは動かなかった。
「陛下!」
家臣が言う。
「お戻りください!」
「いい」
ガルドは。
焼けた大地を見ていた。
「俺が見なきゃいけない」
一人の少年が。
格子の前に立った。
「お前が、王か?」
「ああ」
「父さんを殺したのか?」
ガルドは。
ゆっくり答えた。
「……俺の命令で死んだなら」
「俺が殺した」
少年は。
何も言えなくなった。
ガルドは言った。
「ごめんでは、済まない」
「だから」
「俺にできることを教えろ」
それは。
ガルドが初めて。
民に命令したのではなく。
民に問いかけた瞬間だった。
---
風の王フェリオと、畑を失った男
風の国。
フェリオは。
欠けた皿を見ながら。
毎日、会議に出ていた。
牢の中で。
「次」
「南部の農村について」
「次」
「河川の氾濫地域について」
「次」
「干ばつの地域について」
「次」
「戦争孤児について」
以前なら。
聞くことすらしなかった。
しかし。
今のフェリオは違った。
「待て」
「はい」
「その農民は、何歳だ?」
「四十七歳です」
「家族は?」
「妻と子供が三人」
「畑は?」
「失いました」
フェリオは黙った。
「何で?」
「戦争でございます」
「敵に焼かれた?」
「……味方の軍によって」
フェリオの顔が変わる。
「何?」
「軍が通るため、畑を潰しました」
「誰の命令だ?」
「……王宮から出た命令です」
フェリオは。
ゆっくりと椅子に座った。
「俺か」
「当時の陛下の印がございます」
「……俺だな」
家臣は答えなかった。
フェリオは。
長い間。
何も言わなかった。
「会わせてくれ」
「誰にですか?」
「その農民に」
数日後。
農民が牢の外へ来た。
痩せた男だった。
フェリオを見て。
深く頭を下げる。
「王よ」
「……頭を上げろ」
男は顔を上げた。
「畑を失ったんだな」
「はい」
「俺の命令で」
「はい」
「怒っているか?」
男は答えた。
「怒っております」
フェリオは。
少し笑った。
「正直だな」
「嘘をついても、畑は戻りません」
フェリオの笑顔が消えた。
「……そうだな」
「俺は」
男は続けた。
「陛下を憎んでいました」
「うん」
「今も、憎んでおります」
「……うん」
「しかし」
男はフェリオを見た。
「陛下が変わったと聞きました」
フェリオは。
恥ずかしそうに顔をそむけた。
「まだ分からない」
「はい?」
「変われたかどうかなんて」
フェリオは言った。
「俺じゃなくて、お前たちが決めることだろ」
農民は。
しばらくフェリオを見ていた。
そして。
初めて。
ほんの少しだけ笑った。
---
五人の王、同じ言葉
それから。
数か月が過ぎた。
五つの国。
五つの牢獄。
そして。
五人の若き王たちは。
それぞれ違う世界を知った。
エリシアは。
寒さを知った。
飢えを知った。
セレナは。
自分が奪った命の。
家族を知った。
マリウスは。
水に沈んだ村を知った。
ガルドは。
自分が焼いた土地を知った。
フェリオは。
自分の命令によって畑を失った農民を知った。
そして。
ある日。
白い城から。
五人へ同時に連絡が届いた。
「五人の王よ」
「再び、白い城へ来い」
五人は。
それぞれの牢の中で。
同じことを考えた。
――今度は。
何のために。
白い城へ行くのだろう。
数日後。
五人は。
再び同じ部屋に集められた。
しかし。
以前とは違う。
レオンはいない。
カイルはいない。
ルミナもいない。
今、そこにいるのは。
氷の王女エリシア。
光の王女セレナ。
水の王マリウス。
火の王ガルド。
風の王フェリオ。
五人は。
以前と同じ円卓を見る。
そして。
しばらく。
誰も話さなかった。
最初に口を開いたのは。
フェリオだった。
「……お前ら」
「何よ」
エリシアが言う。
「変わったな」
ガルドが鼻で笑った。
「お前もな」
「俺は元から立派だった」
「どの口が言う」
「うるさい」
マリウスが笑った。
「前のお前なら、今頃美女の話をしていたぞ」
「それを言うなら、お前だって」
「……」
マリウスが黙る。
セレナが。
静かに言った。
「私たち」
四人が彼女を見る。
「王だったのに」
セレナは続ける。
「自分の国を、何も知らなかったのね」
誰も否定しなかった。
「私は」
エリシアが言う。
「寒い人がいることを知らなかった」
「俺は」
マリウスが言う。
「沈んだ村を知らなかった」
「俺は」
ガルドが言う。
「自分が焼いた土地を知らなかった」
フェリオが言う。
「俺は」
少しだけ笑った。
「会議で、全部聞いていたのに」
そして。
真剣な顔になる。
「聞いていなかった」
静かになった。
セレナは。
自分の手を見た。
「私は」
彼女の声は小さかった。
「人を殺したのに」
「その人の名前すら、覚えていなかった」
誰も。
すぐには言葉をかけなかった。
五人は。
自分たちが犯したことを。
知り始めたばかりだった。
その時。
部屋の扉が開いた。
老臣たちが入ってくる。
そして。
一人が言った。
「陛下方」
五人が見る。
「これより」
老臣は。
円卓の中央に。
五つの書類を置いた。
「本当の会議を始めます」
フェリオが聞く。
「俺たちは、まだ監禁されているのか?」
「はい」
「いつ出られる?」
「分かりません」
ガルドが言った。
「ふざけるな」
「ですが」
老臣は。
五人を見た。
「今までの陛下方なら」
「すぐに部屋へ戻り」
「怒鳴り」
「命令し」
「何も聞かなかったでしょう」
五人は黙った。
「今の陛下方は」
老臣は続ける。
「何が違いますか?」
エリシアが答えた。
「……分からない」
セレナが言う。
「まだ、何も償えていない」
マリウスが言う。
「だから、これから決めるんだろ」
ガルドが腕を組む。
「難しいことを言うようになったな」
フェリオが笑う。
「お前もな」
老臣たちは。
ほんの少しだけ笑った。
そして。
円卓の中央に置かれた。
最初の書類を開いた。
「まず」
老臣が言う。
「氷の国北部で、食料不足が起きております」
エリシアが。
すぐに答える。
「詳細を教えて」
「はい」
「人口は?」
「約――」
「子供は?」
「――」
「他国から食料を送ることは?」
マリウスが言った。
「水の国から船を出せる」
「氷の海を渡れるの?」
エリシアが聞く。
ガルドが言った。
「俺の炎で港の氷を溶かせる」
セレナが。
地図を見る。
「待って」
「光の国からも支援できる」
フェリオが笑った。
「何だ」
「今度は、ちゃんと同盟っぽいな」
五人は。
初めて。
民を救うために。
話し合った。
意見を聞いた。
反対した。
そして。
反対された。
しかし。
誰も怒鳴らなかった。
誰も処刑しようとしなかった。
誰も。
部屋から出て行かなかった。
長い会議が終わった頃。
窓のない白い城の地下で。
再び。
あの声が響いた。
「聞く耳を持たなかった王たちよ」
五人が振り返る。
「……誰だ!」
ガルドが叫ぶ。
しかし。
声は続けた。
「ようやく」
「他人の痛みを知り始めたか」
五人は。
黙って聞いた。
そして。
暗闇の奥から。
低い笑い声が響いた。
「だが」
「王になるということは」
「民の痛みを知ることだけではない」
エリシアが言った。
「何者なの?」
声は答えない。
その代わり。
円卓の中央。
五人の国の地図が。
突然。
黒く染まり始めた。
「何?」
セレナが立ち上がる。
地図の東。
不毛の大陸。
そこから。
黒い影が広がっていく。
マリウスの顔が青ざめた。
「東の大陸からだ」
フェリオが言う。
「何が来る?」
その声が。
最後に答えた。
「お前たちが」
「知らなかった世界のすべてだ」
地響きが起きた。
白い城が揺れる。
そして。
五人の若き王たちは。
まだ知らなかった。
自分たちが政治を放り出していた間。
西の大陸だけではなく。
東の不毛の大陸でも。
長い間。
何かが目覚めようとしていたことを。
氷の王女エリシア。
光の王女セレナ。
水の王マリウス。
火の王ガルド。
風の王フェリオ。
五人は。
初めて同じ敵を見た。
そして。
初めて同じ問いを考えることになる。
――自分たちは、本当に王なのか。
西の大陸に。
再び風が吹き始めた。
それは。
平和の風ではなかった。
遠い東の大陸から。
何かを運んでくる。
不吉な。
そして。
運命を変える風だった。




