東西和平会議
東の大陸と西の大陸。
二つの大陸が、初めて同じ場所に集まろうとしていた。
五十年間。
戦争と憎しみを繰り返してきた二つの大陸。
その間には、数え切れないほどの死者がいた。
村が焼かれた。
船が沈められた。
畑が踏み荒らされた。
鉱山が奪われた。
家族が引き裂かれた。
そして、その憎しみこそが――。
闇の王の力になっていた。
だからこそ。
五人の若き王たちは決断した。
戦争を終わらせる。
では、どうやって?
その答えを出すために。
東西和平会議が開かれることになった。
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1 和平会議の開催地
会議の場所として選ばれたのは。
東西両大陸の中間にある、小さな島だった。
かつては何もない荒れ地だった。
しかし五人の王は、そこに新しい建物を建てた。
巨大な円形の議場。
その中心には、一本の柱が立っている。
柱には五つの紋章が刻まれていた。
氷。
光。
水。
火。
風。
そして。
その反対側には。
東の大陸を象徴する黒い紋章が刻まれていた。
「これでいいのか?」
ガルドが建物を見上げた。
「いいと思う」
セレナが答える。
「西の五大国だけの会議にしてはいけない」
マリウスが続ける。
「東の大陸にも、同じだけ発言権を与える」
フェリオが頷いた。
「そうしないと、また同じことになる」
エリシアは黙って建物を見つめていた。
「どうした?」
フェリオが尋ねる。
「怖いのよ」
「和平会議が?」
「違う」
エリシアは首を振った。
「和平が失敗することが」
五人は黙った。
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2 東の大陸から来た者たち
最初に到着したのは。
東の大陸の代表団だった。
黒い鎧。
黒い旗。
黒い馬車。
兵士たちは西の大陸の王たちを警戒していた。
そして。
その中心に、一人の男がいた。
「東の大陸代表、ラグナス公です」
男は静かに頭を下げた。
ガルドは睨む。
「お前たちは、俺たちを信用しているのか?」
ラグナスは答えた。
「いいえ」
「……」
「西の大陸も、我々を信用していないでしょう」
セレナが言った。
「なら、どうして来たの?」
ラグナスは少し考えた。
「これ以上、戦えば」
「東も西も滅びるからです」
誰も反論できなかった。
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3 最初の衝突
会議が始まった。
最初に口を開いたのは。
西の大陸の軍事代表だった。
「まず、東の大陸は武装解除すべきだ」
東側から怒号が飛ぶ。
「なぜ我々だけなのだ!」
「東の大陸が先に武器を捨てるべきだ!」
「西の大陸こそ軍隊を解散しろ!」
「我々は侵略された!」
「こちらも侵略された!」
「お前たちが先に攻撃した!」
「違う!」
会場が騒然となる。
フェリオは頭を抱えた。
「……始まったな」
マリウスが苦笑する。
「まだ五分も経ってないぞ」
ガルドが立ち上がる。
「静かにしろ!」
炎が周囲に広がる。
会場が静まる。
ガルドは言った。
「俺たちは戦争をするために集まったんじゃない!」
一人の東側代表が叫ぶ。
「では、我々の家族を殺した者たちはどうする!」
ガルドは黙った。
「……」
答えられない。
セレナが静かに立ち上がる。
「その質問から逃げてはいけないと思います」
全員が彼女を見る。
「戦争を終わらせるためには」
「誰が悪かったのかを隠す必要はありません」
「しかし」
「復讐だけを続ければ」
「戦争は永遠に終わりません」
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4 処刑された者たちの家族
セレナは。
自分がかつて処刑した者たちのことを思い出していた。
あの時。
彼女は王だった。
自分に逆らう者を処刑した。
正しいと思っていた。
しかし。
その人間にも。
家族がいた。
子供がいた。
親がいた。
友人がいた。
「私にも」
セレナは言った。
「責任があります」
会場が静まり返る。
「私は王になったばかりの頃」
「反対する者を処刑しました」
東側の代表が驚く。
「敵だったのか?」
「違います」
セレナは答えた。
「私に反対しただけの人たちもいました」
沈黙。
「私は」
「王だから正しいと思っていました」
セレナは頭を下げた。
「間違っていました」
誰も言葉を失った。
それは。
女王が自分の罪を認めた瞬間だった。
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5 火の王ガルドの告白
次に。
ガルドが立ち上がった。
「俺もだ」
セレナを見る。
「俺は火の国の王だった」
「自分が王だから何でもできると思っていた」
「政治より遊びを優先した」
「家臣の意見も聞かなかった」
「戦争で焼けた土地を見ようともしなかった」
ガルドは拳を握った。
「俺の国には」
「俺が知らなかった焼け野原があった」
東側の代表の一人が。
小さな声で言った。
「……我々にもある」
ガルドが顔を上げる。
「何?」
「西の軍に焼かれた村だ」
ガルドは黙った。
「なら」
「その村を一緒に復興しよう」
東側の男は驚いた。
「敵の村を?」
「もう敵じゃない」
ガルドは答えた。
「そうするために、この会議をやってるんだろ」
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6 水の王マリウスの提案
マリウスは大きな地図を広げた。
「戦争で破壊された地域を全部書き出そう」
「東も西も関係ない」
地図には。
無数の赤い印がついていく。
沈んだ村。
壊れた水路。
焼けた森。
凍った農地。
枯れた畑。
マリウスは言った。
「水路を共同で修復する」
東側の代表が尋ねる。
「なぜ水の国が?」
「水の国だからだ」
マリウスは笑った。
「俺たちの国は水害で苦しんでいる」
「だから、水を恐れるだけじゃなく」
「水と付き合う方法を考える」
「東にも技術を提供する」
東側の技師が地図を見る。
「本当に?」
「本当に」
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7 氷の王女エリシアの提案
エリシアは北方の地図を広げた。
「氷の国では」
「今も冬に多くの人が苦しんでいます」
「暖房用の燃料が足りない」
「食料も足りない」
そして。
東の大陸を見た。
「東には」
「火山地帯がありますね」
東側の代表が頷く。
「ある」
「なら」
「火山の熱を利用しましょう」
会場がざわめく。
「地熱を利用して」
「北方の都市を暖める」
「さらに」
「西の大陸の食料を東へ送り」
「東の大陸の燃料を西へ送る」
「互いに必要なものを交換するのです」
ラグナス公が。
初めて笑った。
「それなら」
「戦争より、ずっと儲かりそうですね」
会場に。
小さな笑いが起こった。
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8 風の王フェリオ
最後に。
フェリオが立った。
「俺は」
「風の国の王だ」
「風は国境を知らない」
誰もが彼を見る。
「東から西へ吹くこともある」
「西から東へ吹くこともある」
「風は」
「どちらの味方でもない」
フェリオは続けた。
「だから」
「俺たちも」
「国境だけで相手を決めるのをやめよう」
「人間を見るんだ」
「東の人間」
「西の人間」
そんな分け方ではなく。
「困っている人間を助ける」
「腹を空かせている人間に食料を渡す」
「怪我をした人間を治す」
「家を失った人間に家を作る」
「それだけでいい」
会場は静かだった。
やがて。
東側の一人の兵士が。
ゆっくり立ち上がった。
そして。
剣を床に置いた。
「俺は」
「西の兵士に兄を殺された」
誰も動かない。
「だから」
「西の人間を憎んでいた」
彼は涙を拭った。
「でも」
「俺にも」
「もう戦う力が残っていない」
そして。
頭を下げた。
「戦争を終わらせたい」
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9 黒い霧
その瞬間だった。
会議場の天井から。
黒い霧が降りてきた。
「何だ!」
兵士たちが武器を抜く。
エリシアが叫ぶ。
「全員、動かないで!」
黒い霧は。
人々の間を漂っていた。
そして。
怒りを抱えている者のところで。
濃くなった。
「……闇の王だ」
セレナが呟く。
「会議を壊そうとしている」
ガルドが炎を出そうとする。
しかし。
エリシアが止めた。
「駄目!」
「なぜだ!」
「戦えば」
「憎しみが強くなる!」
五人は。
武器を下ろした。
そして。
東側の代表にも呼びかける。
「武器を置いて!」
一人。
また一人。
剣を置く。
槍を置く。
弓を置く。
黒い霧が。
少しずつ薄くなっていく。
「やっぱり……」
マリウスが呟く。
「憎しみそのものが」
「闇の王の力なんだ」
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10 和平条約
その日。
初めて。
東西両大陸の代表が。
一枚の紙に署名した。
第一条。
東西両大陸は、互いを敵国とみなさない。
第二条。
捕虜をすべて解放する。
第三条。
戦争によって破壊された村を共同で復興する。
第四条。
食料・水・燃料・鉱物を互いに融通する。
第五条。
軍事力を段階的に縮小する。
そして。
最後の条文。
セレナが読み上げる。
「第六条」
「東西両大陸は」
「闇の王の力となる憎しみを生み出さないため」
「未来の世代に」
「戦争の歴史を正しく伝える」
署名が終わった。
五人の若き王たちは。
互いに顔を見合わせた。
「終わったな」
フェリオが言った。
ガルドが笑う。
「いや」
「始まったんだろ」
エリシアが頷く。
「そうね」
マリウスが笑った。
「これからが大変だ」
セレナも微笑んだ。
「でも」
「五十年間できなかったことを」
「今日、始められた」
その瞬間。
会議場の外から。
大きな歓声が聞こえた。
東の人々と。
西の人々。
両方が。
同じ旗を振っていた。
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11 しかし、和平は簡単ではなかった
その夜。
会議が終わった後。
五人は別室に集まった。
フェリオが言った。
「なあ」
「何?」
「俺たち、これで本当に平和になったと思うか?」
エリシアが首を横に振る。
「いいえ」
「俺もそう思う」
マリウスが言った。
「条約に署名しただけだ」
ガルドが腕を組む。
「民の中には」
「まだ西を憎んでいる奴もいる」
セレナも頷く。
「東を憎んでいる人もいる」
沈黙。
そして。
フェリオが言った。
「じゃあ」
「俺たちは」
「平和を作り続けなきゃいけないんだな」
五人は。
静かに頷いた。
だが。
その頃。
会議場の地下。
誰も知らない部屋で。
一人の男が黒い石を握っていた。
「和平など」
男は呟いた。
「長くは続かない」
黒い石が脈打つ。
「人間は」
「一度憎んだ相手を」
「そう簡単には許せない」
男の目が。
黒く染まっていく。
「ならば」
「次は」
「人間同士ではなく」
「王たち自身を争わせればいい」
そして。
男は。
五人の若き王たちが署名した和平条約を見つめた。
その条約の裏側には。
誰にも気づかれないほど小さな黒い印があった。
闇の王の紋章。
東西和平会議は。
成功したように見えた。
しかし。
本当の戦いは。
ここから始まる。
和平を結ぶことより。
和平を守ることの方が。
はるかに難しい。
そして五人の王たちは。
次の朝。
一通の手紙を受け取る。
差出人は。
――五人の先代王。
そこには。
たった一行だけが書かれていた。
「和平条約に署名した五人の中に、裏切り者がいる。」
五人は。
互いの顔を見た。
誰も。
何も言わなかった。




