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聞く耳を持たない王国  作者: 耀悟


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倒してはならない王

漆黒の城。


その地下深く。


誰も足を踏み入れたことのない場所に、古代の石室が存在していた。


そこに若き王たちは、逃げ込んでいた。


壁には、見たこともない文字が刻まれている。


そして、その中央には巨大な黒い石が置かれていた。


五人の若き王たちは、その石を囲んで立っていた。


エリシアが壁の文字を指でなぞる。


「……やっぱり、間違いないわ」


セレナが尋ねる。


「何て書いてあるの?」


「古代語よ」


エリシアは少しずつ読み解いていく。


「『闇は世界を滅ぼす力ではない』」


五人が顔を見合わせる。


「どういう意味だ?」


ガルドが尋ねる。


エリシアは続けた。


「『闇は世界の一部であり、光と同じく必要な存在である』」


セレナが眉をひそめる。


「光と同じく……必要?」


「ええ」


マリウスが石室を見回す。


「だったら、なぜ闇の王は人々を襲う?」


「そこが問題なのよ」


エリシアは壁の奥へ進んだ。


そこには、さらに古い文字が刻まれていた。


「『闇を殺せば、光もまた死ぬ』」


フェリオが絶句する。


「……そんな馬鹿な」


ガルドも首を振った。


「じゃあ、あいつを倒したらどうなる?」


「分からない」


セレナが答えた。


「でも」


彼女は壁を見つめた。


「先代の王たちは、それを知っていた」


五人は黙った。


五十年前。


五人の先代王たちは姿を消した。


誰も理由を知らなかった。


彼らは国を捨てたのだと思われていた。


王位を放棄したのだと思われていた。


しかし。


本当は違った。


彼らは。


この地下で。


五十年間。


闇の王を封印していた。


---


第一節 五十年前の真実


突然。


石室の中央にある黒い石が光った。


「何だ!」


マリウスが身構える。


黒い光が空中に広がる。


そして。


そこに一つの映像が現れた。


五十年前。


若き日の五人の先代王たち。


まだ今の五人よりも若い。


彼らは傷だらけだった。


炎の王。


水の王。


氷の王。


風の王。


光の王。


五人は。


漆黒の城の前に立っていた。


その前に。


巨大な闇が存在している。


「これが……」


セレナが呟く。


「五十年前の闇の王……」


映像の中で。


先代の王たちが話していた。


「倒すことはできない」


「倒せば世界が壊れる」


「しかし、このまま放置することもできない」


「ならば封印するしかない」


五人は。


互いに顔を見合わせた。


そして。


一人が言った。


「五十年必要だ」


別の王が答える。


「五十年?」


「我々五人の魔力を使い続ける」


「その間に、西の大陸を再建する」


「そして」


最後の王が。


静かに言った。


「次の世代へ託す」


映像が途切れた。


石室が静かになる。


フェリオが呟く。


「……俺たちに?」


エリシアが答える。


「そういうことね」


ガルドは拳を握った。


「じゃあ、親父たちは最初から俺たちに王位を渡すつもりだったのか?」


「おそらく」


マリウスが言った。


「だから消えた」


セレナは首を横に振る。


「でも」


「まだ分からないことがある」


「何?」


「なぜ、私たちに何も説明しなかったの?」


誰も答えなかった。


---


第二節 親子の確執


その頃。


地下のさらに奥。


五人の先代王たちは。


まだ倒れたままだった。


五十年間。


封印を維持し続けた。


その代償として。


彼らの魔力はほとんど残っていなかった。


エリシアの父が。


ゆっくりと目を開ける。


「……エリシア」


その声を聞いた瞬間。


エリシアは振り返った。


「お父様……」


父王は苦しそうに笑った。


「大きくなったな」


エリシアの表情が険しくなる。


「五十年も消えておいて」


「今さら……」


言葉が止まる。


父王は何も言わない。


エリシアの目には涙が浮かんでいた。


「どうして?」


「……」


「どうして何も言ってくれなかったの?」


父王は目を閉じた。


「言えば」


「あなたは来た」


「……当然でしょう」


「だから言えなかった」


エリシアは怒った。


「私は子供だったから?」


「そうだ」


「私が何もできないと思った?」


「違う」


「だったら!」


エリシアの声が響く。


「どうして一人で全部決めたの!」


父王は黙った。


「私たちはあなたたちの子供よ!」


「守るべき存在ではある」


「でも!」


エリシアは涙を拭った。


「何も知らされないまま王になって」


「戦争を止めろと言われて」


「国を立て直せと言われて」


「闇の王まで倒せと言われる!」


父王は静かに答えた。


「だからこそ」


「我々はお前たちに時間を与えた」


「時間?」


「五十年」


「……」


「我々が闇を封じている間に」


「西の大陸を平和にしてほしかった」


エリシアは黙った。


父王は続ける。


「しかし」


「我々の計画は完全ではなかった」


---


第三節 先代王の失敗


五人の若き王たちは。


先代王たちを囲んだ。


ガルドが尋ねる。


「何が失敗だったんだ?」


炎の先代王は答える。


「我々は」


「戦争を止めることができなかった」


「……」


「だから、お前たちに託した」


ガルドは苦笑した。


「俺たちだって、最初は失敗した」


「知っている」


「権力に溺れた」


「知っている」


「民の声を聞かなかった」


「知っている」


ガルドは父を睨んだ。


「なら、なぜ助けてくれなかった?」


先代王は。


長い沈黙の後。


答えた。


「助けることができなかった」


「なぜ?」


「封印を離れれば」


「闇の王が目覚める」


ガルドは言葉を失った。


五人の先代王たちは。


西の大陸を見捨てたのではなかった。


西の大陸を守るために。


そこから離れなければならなかった。


しかし。


その結果。


若い王たちは。


政治を知らないまま王座に座った。


そして。


暴君になった。


「……俺たちは」


フェリオが呟く。


「親父たちがいなかったから、好き勝手したと思ってた」


風の先代王が笑った。


「違う」


「お前たちは」


「自分自身で選んだのだ」


フェリオは顔を上げた。


「……」


「だが」


父王は続ける。


「過ちを認めることもまた、王の仕事だ」


フェリオは。


小さく頷いた。


---


第四節 闇の王の正体


その時。


石室全体が揺れた。


「来る!」


マリウスが叫ぶ。


壁が黒く染まっていく。


そして。


巨大な影が現れた。


闇の王だった。


「くだらぬ話をしているな」


五人が武器を構える。


先代王たちは立ち上がろうとする。


しかし。


身体が動かない。


「無理をするな!」


セレナが叫ぶ。


闇の王は笑った。


「五十年間」


「よく耐えたな」


先代の王たちは答えない。


闇の王が続ける。


「だが」


「もう終わりだ」


ガルドが前へ出る。


「お前を倒す!」


闇の王は笑う。


「倒す?」


「お前たちはまだ理解していない」


巨大な手を広げる。


「私は世界の闇そのものだ」


「私を殺せば」


「人間の心から恐怖も」


「悲しみも」


「怒りも」


「憎しみも」


「すべて消える」


「それが望みではないのか?」


セレナが答える。


「違う」


闇の王が止まる。


「恐怖や悲しみをなくすことと」


「人間から奪うことは違う」


「……」


「悲しみを知るから」


「人は他人を救える」


「苦しみを知るから」


「人は優しくなれる」


セレナは剣を握る。


「闇を消すんじゃない」


「闇と共に生きる方法を探す」


闇の王の顔から。


初めて笑みが消えた。


---


第五節 五人の王の答え


エリシアが前へ出る。


「氷は冷たい」


「でも」


「保存する力もある」


マリウスが続く。


「水は洪水になる」


「でも」


「命を育てる」


ガルド。


「炎は焼き尽くす」


「でも」


「暖かさを与える」


フェリオ。


「風は嵐になる」


「でも」


「種を運ぶ」


セレナ。


「光は眩しすぎる」


「でも」


「暗闇の中で道を示す」


五人は。


闇の王を見つめた。


「だから」


エリシアが言った。


「お前も」


「消す必要はない」


闇の王が沈黙する。


「……」


「ただし」


ガルドが剣を構える。


「人を殺すことは許さない」


マリウスが続ける。


「人を操ることも」


フェリオ。


「戦争を利用することも」


セレナ。


「人の憎しみを煽ることも」


そして。


五人が同時に言った。


「それを止めるために、俺たちは戦う」


闇の王は。


しばらく五人を見つめていた。


そして。


低い声で笑った。


「面白い」


「何が?」


「お前たちは」


闇の王の身体から黒い霧が溢れる。


「五十年前の王たちとは違う」


「……」


「彼らは私を封じた」


「だが」


「お前たちは」


闇の王が笑う。


「私を理解しようとしている」


---


第六節 新しい封印


闇の王が腕を上げた。


巨大な黒い力が集まる。


五人は身構えた。


しかし。


先代の光の王が叫んだ。


「待て!」


「何?」


「闇の王を攻撃するな!」


五人が止まる。


「では、どうするの?」


セレナが尋ねる。


先代王は。


石室中央の黒い石を指した。


「封印を作り直す」


「また五十年?」


ガルドが叫ぶ。


「違う」


先代王は首を横に振った。


「今度は」


「五人だけで封印しない」


「では?」


「大陸全体で」


五人は驚いた。


先代王は言った。


「西の大陸の五つの国」


「そして東の大陸」


「両方の人間が」


「互いに憎しみを捨て」


「力を合わせる」


「それが本当の封印だ」


エリシアが理解する。


「つまり」


「闇の王の力である憎しみを」


「人々自身が弱める?」


「その通り」


セレナが言った。


「戦争そのものを終わらせることが」


「封印になる」


先代王が頷く。


「五十年前」


「我々にはできなかった」


「だから」


「お前たちに託す」


---


第七節 東西の大陸へ


漆黒の城の外。


東軍と西軍は。


まだ対峙していた。


しかし。


五人の王たちは。


武器を置いた。


そして。


両軍の中央へ歩いていく。


「王たちが来たぞ!」


兵士たちがざわめく。


ガルドが叫んだ。


「聞け!」


東軍も西軍も。


動きを止める。


「俺たちは」


「もう戦わない」


ざわめきが広がる。


「何を言っている!」


「敵を倒せ!」


「戦え!」


怒号が飛ぶ。


しかし。


フェリオが叫んだ。


「俺たちは五つの国の王だ!」


風が吹く。


「そして!」


セレナが続ける。


「あなたたちの王でもある!」


マリウスが言う。


「東の大陸の兵士も」


「西の大陸の兵士も」


「同じように家族を持っている!」


エリシア。


「同じように」


「帰る場所がある!」


ガルド。


「だったら!」


「もう殺し合う理由なんてない!」


一人。


また一人。


兵士たちが武器を下ろし始めた。


剣が。


地面に落ちる。


槍が。


地面に置かれる。


盾が。


静かに倒れる。


その瞬間。


空に広がっていた黒い霧が。


ほんの少し。


薄くなった。


闇の王が。


初めて苦しそうな声を上げた。


「……やめろ」


五人は顔を見合わせる。


闇の王の力が。


弱まり始めている。


「そういうことか」


マリウスが呟いた。


「戦争そのものが」


「奴の力だったんだ」


セレナが頷く。


「だったら」


「私たちがすべきことは決まっている」


五人は。


東西の両軍を見渡した。


「戦争を終わらせる」


その言葉が。


大陸中へ響き渡った。


そして。


五十年間続いた封印戦争は。


新しい段階へ入った。


しかし。


闇の王は。


完全には消えていない。


むしろ。


人々の心の奥底に潜みながら。


最後の抵抗を始めようとしていた。


――憎しみを失えば。


――私は消える。


――ならば。


――もう一度、人間同士を争わせればいい。


漆黒の城の地下で。


闇の王の瞳が。


静かに開いた。


そして。


西の大陸と東の大陸の両方に。


新たな声が響き始めた。


「敵を信じるな」


「裏切られるぞ」


「和平など偽りだ」


「先に攻撃しろ」


それは。


誰かの声ではなかった。


人々自身の心の中から生まれた声だった。


五人の若き王たちが戦おうとしている本当の敵。


それは。


闇の王そのものではない。


人間の中にある。


憎しみだった。

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