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聞く耳を持たない王国  作者: 耀悟


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漆黒の城と、吸収される魔法


東西戦争が始まった。


それは、西の大陸の歴史において、最も大きな戦争だった。


五つの国が一つになった。


氷の国。


光の国。


水の国。


火の国。


風の国。


かつては互いに争っていた五つの国が、今は同じ旗の下に立っている。


しかし――。


戦争は、そんな簡単に終わるものではなかった。


大地には無数の兵士が倒れた。


村は焼かれた。


森は破壊された。


川には泥と灰が流れ込んだ。


空には黒煙が立ち上った。


そして。


戦場に流れた血は、大地へ染み込んでいった。


誰も知らなかった。


その血が。


ただ大地へ消えているわけではないことを。


---


第一節 血を喰らう闇


東の大陸。


漆黒の城。


その地下深く。


巨大な黒い石が置かれていた。


石は脈打っていた。


ドクン。


ドクン。


まるで心臓のように。


そのたびに、東の大陸全体へ黒い波動が広がっていく。


戦場から。


何かが吸い寄せられていた。


倒れた兵士たちの生命力。


戦いによって生じた魔力。


大地に流れた血。


人々の恐怖。


憎しみ。


絶望。


それらすべてが。


見えない糸となって。


地下へ。


地下へ。


さらに地下へ。


集まっていった。


そして。


黒い石へ吸収されていった。


「……また、力が増えた」


地下の闇から声が響いた。


闇の王だった。


まだ完全な肉体を取り戻してはいない。


しかし。


五十年間。


先代の五人の王たちによって封印されていた間にも。


闇の王は、世界の変化を感じ取っていた。


「争え」


「憎め」


「恐れろ」


「そのすべてが、私の力になる」


東の軍隊が西の大陸へ攻め込む。


西の軍隊がそれを迎え撃つ。


また一人。


また一人。


戦場で命が失われる。


そして。


そのたびに。


闇の王の力が増していった。


---


第二節 五人の王の疑問


前線の司令部。


エリシア。


セレナ。


マリウス。


ガルド。


フェリオ。


五人の若き王は、戦況を見つめていた。


「おかしい」


エリシアが地図を見ながら言った。


「何が?」


フェリオが尋ねる。


「東軍の兵士たちの動きよ」


「強すぎる」


マリウスが答える。


「確かに」


「何度倒しても、また立ち上がってくる」


ガルドが拳を握った。


「まるで、自分の意思で戦っていない」


セレナが静かに言う。


「実際、そうなのかもしれない」


五人が彼女を見る。


「どういうことだ?」


「戦場で捕らえた東軍の兵士を調べたの」


セレナは一枚の報告書を広げた。


「黒い石の欠片が、身体の中に埋め込まれていた」


「黒い石?」


「ええ」


「その石が、兵士の魔力を操っていた」


フェリオの表情が険しくなる。


「つまり……」


「東の兵士たちも」


マリウスが続ける。


「闇の王に操られている?」


セレナは頷いた。


「おそらく」


ガルドは立ち上がった。


「だったら、全部倒せばいい!」


「駄目よ」


エリシアが止めた。


「どうしてだ!」


「彼らも被害者だから」


ガルドは黙った。


セレナが続ける。


「東軍の兵士たちを殺せば、闇の王はさらに力を得る可能性がある」


「……」


「戦場で生まれたエネルギーが、闇の王へ集まっている」


フェリオが地図を見る。


「じゃあ」


「戦わない?」


「それも違う」


エリシアが答えた。


「東の軍隊を止めなければ、西の大陸が滅びる」


五人は黙った。


敵を倒せば。


闇の王が強くなる。


敵を倒さなければ。


西の大陸が滅びる。


どうすればいいのか。


五人には分からなかった。


その時。


マリウスが地図の北側を指差した。


「……なら」


「正面から戦わなければいい」


---


氷の橋


マリウスが指差した場所。


そこには。


東西の大陸を隔てる巨大な海があった。


しかし。


北方には。


一年の大半が凍結する海域が存在していた。


エリシアが地図を見つめる。


「ここなら……」


「そう」


マリウスが言った。


「船で進める」


フェリオが首を傾げる。


「でも、東軍の艦隊がいるだろ」


「だから俺が海を操る」


マリウスは地図上に指を走らせた。


「水の流れを変える」


「船を北へ移動させる」


「そして」


エリシアが続けた。


「氷の橋を作る」


五人の視線が集まる。


「氷の国の北端から」


「海の上に巨大な氷の道を作る」


「その上を船で進む」


フェリオが笑った。


「船を氷の上で?」


「船底を滑らせる」


「そして東の大陸へ近づいたら」


フェリオが立ち上がる。


「俺の風で船を飛ばす」


ガルドが笑う。


「無茶苦茶な作戦だな」


「でも」


セレナが言った。


「正面から何万という兵士と戦うより、犠牲は少なくできる」


エリシアが頷いた。


「目的は東軍を倒すことじゃない」


「闇の王を止めること」


マリウスが言う。


「なら、戦場を避けて直接向かう」


五人は決断した。


その夜。


五大国の魔術師たちが集結した。


氷の魔術師。


水術師。


風の魔術師。


火の魔術師。


光の聖術師。


五つの力が。


一つになった。


---


 東へ


翌朝。


北の海が白く染まった。


エリシアが。


海岸へ手を伸ばす。


「――凍れ」


ズズズズズ……。


巨大な氷が海へ広がっていく。


数百メートル。


数キロ。


さらに遠くへ。


氷の大地が海の上に伸びていった。


「すごい……」


兵士たちが息を呑む。


そこへ。


マリウスが水の魔法を重ねる。


海流が変わる。


船が動き始める。


「今だ!」


フェリオが叫ぶ。


巨大な風が吹く。


帆が一斉に膨らんだ。


船が。


氷の上を滑っていく。


東へ。


東へ。


西の大陸から。


東の大陸へ。


五人の王は。


少数の精鋭部隊だけを連れて進んだ。


大軍を連れて行けば。


戦闘になる。


戦闘になれば。


また血が流れる。


だから。


彼らは少人数で進んだ。


「見えてきた」


フェリオが言った。


水平線の向こう。


黒い大地が見える。


東の大陸。


そして。


その中心。


空を突き刺すように立つ。


巨大な漆黒の城。


「……あれが」


セレナが呟いた。


「闇の王の城」


ガルドが炎を握りしめる。


「行くぞ」


船が東の大陸へ近づく。


最後に。


フェリオが巨大な風を起こした。


「飛べ!」


船が。


空へ浮かんだ。


兵士たちから悲鳴が上がる。


「うわああああ!」


フェリオが笑う。


「落ちるなよ!」


船は風に押され。


大地へ着地した。


ドォン!


砂煙が舞う。


五人の王は。


東の大陸へ上陸した。


---

五十年間の封印


その頃。


漆黒の城の地下。


先代の五人の王たちは。


最後の封印を維持していた。


五十年間。


彼らは。


ほとんど休むことなく。


闇の王を封じ続けてきた。


魔術師は。


人間よりはるかに長く生きる。


二百万年以上生きる者すら存在する。


しかし。


長寿だからといって。


無限の魔力を持っているわけではない。


五十年間。


魔力を使い続けた。


何度も。


何度も。


封印を修復した。


そして。


ついに。


限界が来ていた。


「もう……」


先代の氷王が膝をつく。


「魔力が……」


先代の火王も。


壁に手をつく。


「残っていない」


「まだだ」


先代の光王が叫ぶ。


「もう少しだけ!」


五人は最後の力を振り絞る。


封印の中心。


巨大な黒い結晶が震えている。


「耐えろ!」


五人の魔力が流れ込む。


しかし。


その瞬間。


――パキン。


小さな音がした。


五人が顔を上げる。


「……?」


黒い結晶に。


巨大な亀裂が走った。


――パキ。


――パキパキパキ。


「まずい!」


先代の水の王が叫ぶ。


「全員、離れろ!」


だが。


遅かった。


---


 封印崩壊


――ドォォォォォォォォン!!!


地下神殿が爆発した。


巨大な闇の力が。


一気に噴き出す。


五人の先代王たちは。


吹き飛ばされた。


壁に叩きつけられる。


床を転がる。


「ぐっ……!」


「う……」


「父上!」


しかし。


若い王たちは。


まだその場にいなかった。


先代王たちは。


起き上がろうとした。


だが。


腕に力が入らない。


「立て……」


先代の風の王が呟く。


しかし。


身体が動かなかった。


「もう……」


「力が……」


五十年間。


封印のために魔力を使い果たした。


肉体を支えるだけの力さえ。


ほとんど残っていなかった。


「これで……」


先代の光の王が息を吐く。


「終わりか……」


その時。


暗闇の奥から。


足音が聞こえた。


コツ。


コツ。


コツ。


五人の先代王は。


顔を上げた。


黒い影が。


ゆっくりと歩いてくる。


「……ようやく」


声が響いた。


「外へ出られる」


---


闇の王。


その姿は。


最初。


人間のようだった。


黒い衣。


黒い髪。


黒い瞳。


しかし。


その身体からは。


常に黒い霧が流れている。


「五十年間」


闇の王は言った。


「よく耐えたな」


先代王たちは答えられなかった。


「お前たちの力は見事だった」


「だが」


闇の王は。


先代王たちの横を通り過ぎた。


「もう必要ない」


先代の火の王が。


最後の力で叫ぶ。


「待て!」


闇の王が振り返る。


「何だ?」


「子供たちには……手を出すな」


闇の王は。


ほんの少し笑った。


「若い王たちが来たな」


そして。


城の外へ歩いていった。


---


 五人の若き王


漆黒の城の外。


五人の若き王たちは。


城門の前に立っていた。


エリシア。


セレナ。


マリウス。


ガルド。


フェリオ。


五人は。


一人の男と向かい合っていた。


黒い人間。


闇の王。


「お前が……」


ガルドが炎を燃え上がらせる。


「闇の王か!」


闇の王は答えなかった。


ただ。


五人を見つめる。


「父上たちは?」


エリシアが尋ねる。


「生きている」


「なら、返して!」


セレナが叫ぶ。


闇の王は笑った。


「五十年間」


「私を封印していた者たちか」


「お前たちの親は強かった」


「だが」


「もう終わった」


マリウスが剣を抜く。


「なら」


「俺たちが終わらせる」


その時だった。


空から。


何かが飛んできた。


黒い影。


人間の形をした。


それは。


かつて戦前に現れた。


闇の王の分身だった。


「何だ?」


フェリオが空を見上げる。


黒い影は。


一直線に。


闇の王へ飛んでいく。


「待て!」


セレナが叫ぶ。


しかし。


止められない。


黒い影が。


闇の王の身体へ吸い込まれた。


――ズン。


大地が揺れた。


闇の王の身体が。


大きく膨張する。


「ぐ……」


骨が変形する。


腕が巨大化する。


背中から黒い岩のような突起が伸びる。


身体そのものが。


巨大な黒い岩石へと変わっていく。


数十メートル。


百メートル。


さらに巨大に。


最後には。


山のような黒い怪物となった。


五人の王は。


言葉を失った。


「これが……」


フェリオが呟く。


「本体……?」


巨大な怪物が。


ゆっくりと顔を上げた。


「そうだ」


声だけで。


空気が震える。


「これが」


「私だ」


---


 最初の攻撃


「行くわよ!」


エリシアが叫んだ。


彼女は地面に手を置いた。


「氷よ!」


――ズズズズズズ……!


地面が一瞬で白く染まる。


巨大な氷の波が。


地面を這うように進んでいく。


闇の王へ向かって。


「続け!」


ガルドも。


地面へ手を置いた。


「炎よ!」


――ゴォォォォォ!


赤い炎が地面を這う。


氷の隣を。


巨大な炎が進んでいく。


二つの力が。


同時に闇の王へ向かっていった。


氷。


炎。


相反する二つの力。


闇の王まで。


あと数十メートル。


あと十メートル。


氷が。


闇の王の足元へ迫った。


その瞬間。


闇の王が。


片手を地面へ向けた。


「……」


黒い空間が。


手の前に現れた。


まるで。


世界そのものに穴が開いたようだった。


――ズォォォォォン。


氷が。


消えた。


「え?」


エリシアの目が見開かれる。


炎も。


消えた。


「何だと!?」


ガルドが叫ぶ。


炎も。


氷も。


一瞬で。


完全に消滅した。


そして。


闇の王の前の地面には。


巨大なクレーターだけが残った。


静寂。


五人の王は。


誰も動けなかった。


エリシアが。


震える声で呟いた。


「……魔法が」


ガルドが振り返る。


「何?」


エリシアは。


自分の手を見つめた。


「魔法が……」


そして。


闇の王を見る。


「吸収された!」


---


 絶望の能力


フェリオが叫ぶ。


「吸収って……どういうことだ!」


エリシアは答えられない。


ガルドが炎を再び燃やす。


「なら、もっと強くすればいい!」


「待って!」


セレナが止める。


「駄目!」


「なぜだ!」


「今のを見たでしょう!」


セレナは闇の王を指差した。


「私たちの魔法は、攻撃にならない!」


マリウスも気づいた。


「むしろ……」


「使えば使うほど」


フェリオが呟く。


「奴を強くする?」


闇の王が。


静かに笑った。


「その通りだ」


五人の顔から。


血の気が引いた。


「お前たちの魔力は」


闇の王の身体へ集まる。


「氷も」


「炎も」


「水も」


「風も」


「光も」


「すべて」


「私の力となる」


ガルドが歯を食いしばる。


「ふざけるな……」


闇の王は。


巨大な腕をゆっくり上げた。


その動きだけで。


地面が震える。


「さあ」


「若き王たちよ」


「お前たちはどうする?」


「魔法を使えば」


「私を強くする」


「魔法を使わなければ」


「何もできない」


五人は。


初めて。


完全に追い詰められた。


そして。


遠く離れた城の地下では。


先代の五人の王たちが。


起き上がることすらできないまま。


ただ。


子供たちの戦いを感じ取っていた。


「……戦うな」


先代の氷王が呟く。


「闇の王には……」


「普通の魔法では勝てない……」


しかし。


その声は。


若き王たちには届かなかった。


漆黒の城の前。


五人の王は。


巨大な闇の怪物を見上げていた。


エリシアが。


静かに言った。


「……考えなきゃ」


セレナが頷く。


「魔法以外の方法を」


マリウスが剣を握る。


「俺たちは」


ガルドが続ける。


「殺し合いを終わらせるために来た」


フェリオが空を見上げる。


「だったら」


五人は。


再び闇の王を見る。


「戦場そのものを変えるしかない」


その瞬間。


東の大陸全体に。


巨大な闇の波動が広がった。


西の大陸では。


無数の黒い石が。


一斉に光り始める。


そして。


五人はまだ知らなかった。


闇の王が吸収しているのは。


魔法だけではない。


戦場で流れた血。


人々の恐怖。


憎しみ。


そして。


西と東の両大陸に存在する。


生命そのもの。


すべてが。


闇の王を完全な存在へ近づけていた。


東西戦争は。


単なる大陸間の戦争ではなかった。


世界そのものの力を。


闇の王へ与える戦争になっていた。


そして。


五人の若き王たちは。


初めて気づく。


――敵を倒すだけでは。


この戦争には勝てない。


――戦争そのものを。


終わらせなければならない。


だが。


そのためには。


敵となった東の兵士たちを救い。


戦場に流れる血を止め。


そして。


闇の王が生まれた本当の理由を知らなければならない。


五人の王の前に。


かつてないほど大きな試練が。


立ちはだかっていた。

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