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聞く耳を持たない王国  作者: 耀悟


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もう一人の王

五人の王は、再び集まった。


エリシア。


光の王女セレナ。


水の王マリウス。


火の王ガルド。


風の王フェリオ。


以前の五人なら、ここで責任を押しつけ合っていた。


「水の国が悪い!」


「火の国が勝手に武器を売ったからだ!」


「商人を止めなかったのは誰だ!」


「東の大陸に人を送ったのは誰だ!」


そんな争いになっていたかもしれない。


しかし。


今は違った。


マリウスが地図を広げた。


「東の大陸の軍港です」


赤い印が無数についている。


「以前は、ここには何もありませんでした」


ガルドが眉をひそめる。


「今は?」


「巨大な港になっています」


フェリオが地図を覗き込む。


「船は?」


「数年前の十倍」


「兵士は?」


「推定で、西の大陸全軍に匹敵します」


「食料は?」


「自給できています」


誰も言葉を発しなかった。


セレナが静かに尋ねる。


「東の大陸には、誰がこれを作ったの?」


最高顧問が答えた。


「闇の王です」


その言葉だけで。


部屋の空気が変わった。


「……封印されているはずでしょう?」


セレナが言う。


「はい」


「なら、なぜ?」


最高顧問は答えた。


「闇の王自身が動いているのではありません」


「では?」


「闇の王の封印が弱まり、漏れ出した闇の力が人間を動かしているのです」


五人は顔を見合わせた。



---


3 闇の王の方法


東の大陸では。


一人の男が巨大な宮殿の窓から西の大陸を眺めていた。


黒い衣。


銀色の髪。


その瞳には、異様な光が宿っている。


彼こそ。


東の大陸を支配する者。


闇の王だった。


だが。


彼は玉座から動かなかった。


「まだだ」


側近が頭を下げる。


「はい」


「西の大陸を攻めるな」


「……攻めないのですか?」


闇の王は笑った。


「なぜ攻める必要がある?」


彼は机の上に、一枚の紙を置いた。


そこには。


西の大陸から東へ流れた物資の一覧が記されていた。


武器。


鉄。


木材。


食料。


魔石。


そして人。


闇の王は指で紙をなぞった。


「彼らは自分から持ってきてくれる」


側近は黙って聞いていた。


「金を渡せば、武器を売る」


「銀を渡せば、食料を売る」


「宝石を渡せば、人間まで来る」


闇の王は笑った。


「人間とは面白い生き物だ」


「目の前の黄金のためなら、未来まで売ってしまう」


そして。


彼は最後の紙を取り出した。


そこには五大国の情報が書かれていた。


「しかし」


闇の王の表情が変わる。


「五人の王が成長している」


エリシア。


セレナ。


マリウス。


ガルド。


フェリオ。


「以前の子供たちなら、簡単だった」


闇の王は椅子に座った。


「だが今は違う」


「民の声を聞き始めた」


「互いに協力し始めた」


「そして――」


闇の王は小さく笑った。


「先代王たちの秘密にも近づいている」



---


4 五人の最高顧問


西の大陸では。


五人の最高顧問たちも動き始めていた。


王たちが再び権力を握るだけでは。


もう間に合わない。


だから彼らは。


王だけではなく、民も政治に参加できる仕組みを作り始めた。


村から代表を出す。


農民から意見を聞く。


商人にも帳簿を公開させる。


軍の物資を管理する。


税の使い道を知らせる。


そして。


王が間違えた時には。


最高顧問が止める。


かつてなら。


そんな仕組みは考えられなかった。


王は絶対だった。


しかし。


五人の王たちは、もう知っていた。


絶対的な権力を持った人間は。


簡単に間違える。


だからこそ。


権力を一人に集中させてはいけない。


「王を支えるだけでは足りない」


最高顧問の一人が言った。


「王が間違った時に、止められる国にするのです」


別の最高顧問が頷く。


「そして民が苦しんでいる時、王のところまで声が届く国にする」


それは。


かつての五人の王たちが、最も嫌っていた仕組みだった。


しかし。


今の彼らは違った。


「聞く耳を持つ王国」


それこそが。


彼らが目指す新しい西の大陸だった。



---


5 届いた一通の手紙


そんなある日。


五人の王のもとへ、一通の手紙が届いた。


差出人は。


東の大陸。


セレナが封を切る。


中には短い文章が書かれていた。


> 五人の王へ。


戦争を望まない。


西の大陸にも、東の大陸にも、これ以上の犠牲は必要ない。


一度、話し合いたい。


東の大陸より。




フェリオが眉をひそめた。


「罠じゃないのか?」


ガルドも腕を組む。


「俺もそう思う」


マリウスは黙っていた。


エリシアが尋ねる。


「セレナは?」


セレナは手紙を見つめた。


「……行ってみる価値はあると思う」


「危険だぞ」


「分かっている」


「殺されるかもしれない」


「それでも」


セレナは顔を上げた。


「戦争を始める前に、話し合うべきです」


五人は沈黙した。


かつて。


彼らは話し合いを嫌っていた。


今は。


話し合わなければ何も始まらないと知っている。


「五人で行く」


エリシアが言った。


「俺も賛成だ」


マリウスが続く。


「俺も」


ガルド。


「行こう」


フェリオ。


そして最後に。


セレナが頷いた。


「決まりですね」


しかし。


最高顧問は反対した。


「お待ちください」


五人が振り返る。


「東の大陸は、西の大陸を超える力を持っています」


「だからこそです」


エリシアが答えた。


「敵を知らずに戦うことはできない」


「……」


「それに」


エリシアは手紙を握った。


「私は知りたい」


「何をです?」


「なぜ東の大陸が、ここまで強くなったのか」


その言葉に。


誰も答えなかった。



---


6 海底からの声


その夜。


水の国の海底。


かつてマリウスが父と再会した場所で。


深い海の底から。


再び声が響いた。


「マリウス……」


海面から遠く離れた場所。


誰にも届かないはずの声だった。


「東へ行ってはならぬ」


マリウスの父だった。


その手には。


古代の紋章が握られていた。


「なぜだ……」


父は海底の闇を見つめる。


「闇の王が恐ろしいからではない」


「では?」


「東の大陸には――」


父は言葉を止めた。


そして。


かつて五人の先代王たちが隠した真実を思い出した。


「まだ、もう一つの王がいる」


海底のさらに深い場所。


そこには。


巨大な石碑が沈んでいた。


五つの紋章。


そして。


六つ目の紋章。


それは。


五大国のどの国にも存在しない紋章だった。


父は震える声で呟いた。


「五人の王が消えた本当の理由は……」


「闇の王を封印するためだ」


「しかし、封印は失敗に終わった」

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