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聞く耳を持たない王国  作者: 耀悟


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逆転した大陸

円卓の中央には、大きな地図が置かれている。


西の大陸。


東の大陸。


そして。


東の大陸に広がる巨大な勢力圏。


マリウスが言った。


「……もう、俺たちより強い」


ガルドが頷いた。


「軍事力だけじゃない」


セレナが続ける。


「食料も」


エリシアが言った。


「人口も」


フェリオが最後に言った。


「資源もだ」


沈黙。


五人は地図を見つめていた。


かつて。


東の大陸は不毛だった。


だから恐れる必要はないと思っていた。


しかし。


それは間違いだった。


「どうして、ここまで……」


セレナが呟いた。


マリウスが答えた。


「俺たちが与えたからだ」


五人がマリウスを見る。


「金を受け取って、武器を売った」


「食料を売った」


「資源を売った」


「人も流れた」


「技術も流れた」


マリウスは拳を握った。


「俺たちが豊かになるために売ったものが、東の大陸を強くした」


ガルドが立ち上がった。


「じゃあ、今すぐ交易を止める!」


しかし。


エリシアが首を横に振った。


「簡単にはいきません」


「なぜだ!」


「西の大陸も、東からの交易に依存しているからです」


「……」


セレナが続けた。


「東の大陸から金や銀が入ってくる」


「商人たちは、それで商売をしている」


「その商人たちが、今度は王宮にも影響力を持っている」


フェリオが苦々しく笑った。


「つまり」


彼は椅子に座り直した。


「東の大陸は、剣だけじゃなく、金でも俺たちを縛っている」


「その通りです」



---


7 商人たちの反発


その夜。


五大国の主要都市では、商人たちが集まっていた。


「交易を止めるだと?」


「冗談じゃない!」


「東からの金がなくなったら商売ができない!」


「我々の財産を奪うつもりか!」


商人たちは怒った。


彼らは悪人ばかりではなかった。


家族を養うために商売をしている者もいた。


店を大きくするために努力した者もいた。


東から買った商品を西で売り、生活を豊かにした者もいた。


だからこそ。


簡単には止められなかった。


その中に。


黒い衣装を着た男がいた。


「皆さん」


男は静かに言った。


「慌てる必要はありません」


商人たちが振り返る。


「東の大陸は、皆さんを見捨てません」


「どういう意味だ?」


男は笑った。


「東の王は、商人を敵とは考えていません」


「むしろ――」


男は一枚の契約書を取り出した。


「皆さんを、東の大陸の特別な商人として保護するそうです」


商人たちの目が輝いた。


「税を優遇します」


「安全を保証します」


「さらに金も提供します」


「本当か?」


「ええ」


男は微笑んだ。


「ただし」


「西の大陸から、必要なものを買い付けていただきます」


商人たちは互いに顔を見合わせた。


そして。


誰も気づかなかった。


その契約書の隅に。


黒い紋章が刻まれていたことを。



---


8 闇の王


東の大陸。


黒い城。


その最深部。


巨大な玉座に、一人の男が座っていた。


その姿は、霧のような闇に包まれている。


「西の大陸は、ようやく気づいたか」


男が呟いた。


その前に跪く者がいた。


「はい」


「彼らは我々を恐れているか?」


「恐れております」


「それでいい」


闇の王は立ち上がった。


「だが、まだ戦争はしない」


「はい」


「西の大陸には、まだ利用できるものがある」


「人間ですか?」


「それだけではない」


闇の王は窓の外を見た。


巨大な街。


巨大な軍隊。


豊かな農地。


無数の工場。


「欲望だ」


彼は笑った。


「人間は剣よりも、欲望によって簡単に動く」



---


9 五人の王が出した結論


白い城。


会議は夜まで続いていた。


「まず、交易を完全に止めるのは危険です」


セレナが言った。


「民の生活が混乱します」


「ならば、少しずつ変える」


エリシアが答える。


「国内で食料を作る」


マリウスが続ける。


「資源の輸出を制限する」


ガルドが言った。


「武器の流出を止める」


フェリオは地図を見つめた。


「そして」


全員が彼を見る。


「人を取り戻す」


マリウスが頷いた。


「東へ行った人間を、無理やり連れ戻すのか?」


「違う」


フェリオは首を振った。


「戻りたいと思える国を作る」


五人は黙った。


それは簡単なことではない。


東の大陸は、すでに強大だった。


金もある。


食料もある。


軍隊もある。


人口もある。


技術もある。


対して西の大陸は。


長い戦争で疲弊していた。


五つの国は、まだ傷だらけだった。


それでも。


エリシアが立ち上がった。


「やりましょう」


セレナも立った。


「今度こそ」


マリウスも続く。


「五つの国が、別々に戦うのではなく」


ガルドが拳を握った。


「一つの大陸として」


最後にフェリオが笑った。


かつてのような、何も考えていない笑顔ではなかった。


「俺たちは、もう遊んでいる暇はない」


五人は円卓の中央に手を置いた。


その瞬間。


白い城の地下から。


かすかな地響きが聞こえた。


五人は顔を見合わせた。


――ゴゴゴゴゴ……。


かつて先代の王たちが消えた場所。


古代の扉。


その向こうに封印されているもの。


そして。


東の大陸で急速に力を増している闇の王。


すべてが、一本の線でつながり始めていた。



---


10 そして、東の大陸から使者が来た


翌朝。


五大国に同じ知らせが届いた。


東の大陸から――。


正式な使者が来た。


目的は。


宣戦布告ではない。


侵略でもない。


その使者が持ってきたのは、一通の手紙だった。


五人の王は、白い城でその手紙を開いた。


そこには、たった一行だけ書かれていた。


「西の大陸の王たちよ。そろそろ、我々と対等に話し合う時が来た。」




五人は沈黙した。


ガルドが手紙を握る。


「対等?」


フェリオが言った。


「違う」


エリシアが顔を上げる。


「何が違うの?」


フェリオは東の大陸を指差した。


「これは……」


彼の表情が険しくなる。


「対等に見せかけた最後通告だ」


五人はまだ知らなかった。


東の大陸には、すでに西の大陸には存在しない巨大な国家機構が完成していることを。


そして。


その中心にいる闇の王が。


五人の若き王たちが想像している以上に、彼らの行動を長い間観察していたことを。


西の大陸がようやく一つになろうとしたその時。


東の大陸では。


すでに次の計画が始まっていた。


そしてその計画には――。


五人の若き王の誰かを、味方に引き入れるという恐ろしい一手が含まれていた。

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