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聞く耳を持たない王国  作者: 耀悟


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東の大陸


東の大陸に黒い旗が掲げられてから、三日。


西の大陸の五大国は、かつてないほど緊張していた。


氷の国では、国境の見張りが強化された。


光の国では、神殿の魔導士たちが東の大陸から発せられる魔力を観測していた。


水の国では、すべての港に警戒命令が出された。


火の国では、兵士たちが武器庫の点検を始めた。


風の国では、山の頂上に設置された見張り台から、東の空を監視していた。


しかし。


五人の若き王たちは、戦争を望んでいなかった。


王たちは再び、五大国合同会議を開いた。


会議室には、五人の王と五人の最高顧問が集まっていた。


中央の円卓には、大陸全体の地図が広げられている。


エリシアが地図を見ながら言った。


「東の大陸は、すでに私たちを上回る力を持っています」


ガルドが腕を組む。


「軍隊も、食糧も、人間も、向こうの方が多い」


マリウスが続けた。


「船も増えている。しかも東の海岸には巨大な港がいくつも建設されている」


セレナは静かに地図を見つめた。


「そして、闇の王」


フェリオが椅子にもたれかかった。


「問題はそこだな」


五人の視線が集まる。


「俺たちは、闇の王が何者なのかすら分かっていない」


最高顧問たちは黙っていた。


やがて、セレナが口を開いた。


「ならば、直接聞けばいい」


ガルドが驚く。


「東へ行くのか?」


「そう」


「敵の本拠地だぞ」


「だからこそ」


セレナは答えた。


「戦争を始める前に、話をする必要があります」


エリシアが頷いた。


「賛成です」


マリウスも続く。


「俺も行く」


フェリオが笑った。


「五人全員で行くか?」


ガルドが立ち上がる。


「王が全員で敵地へ行くなんて、普通なら無茶だぞ」


フェリオは肩をすくめた。


「でも、俺たちは普通の王じゃない」


エリシアが小さく笑う。


「それは、良い意味ですか?」


フェリオは苦笑した。


「……昔は悪い意味だったな」


五人は顔を見合わせた。


そして。


誰も反対しなかった。


---


第一節 出発


一週間後。


水の国の巨大な船が港に停泊した。


船の名は――《五大陸号》。


水の魔法によって船体は強化され、風の魔法によって帆は必要以上の速度を生み出す。


火の国の魔導炉が動力を支え。


光の国の結界が船を守り。


氷の国の魔法が食糧を長期間保存する。


五つの国の技術が。


初めて一つの船に集まった。


出発の朝。


五人の王が船へ乗り込む。


エリシアは甲板から港を見つめた。


かつて。


彼女は王座に座っているだけだった。


今は違う。


「帰ってくるまでに、国を守ってください」


エリシアが最高顧問に言った。


「お任せください」


セレナも最高顧問を見る。


「民の声を聞き続けてください」


「もちろんでございます」


マリウスは水路の地図を渡した。


「復興計画は止めないでくれ」


「承知しております」


ガルドは拳を握った。


「武器は、戦争のためじゃない」


「はい」


「町を守るために使え」


「承知しました」


最後にフェリオ。


彼は少しだけ考えてから言った。


「……会議を続けてくれ」


最高顧問が微笑んだ。


「もちろんです」


「俺がいなくても?」


「陛下がいないからこそ、続けるのです」


フェリオは笑った。


「そうか」


五人は船に乗った。


やがて。


巨大な船が港を離れていく。


西の大陸を離れ。


東の大陸へ向かって。


---


第二節 海の向こう


航海は順調だった。


最初の数日は。


五人の王たちは甲板で話をしていた。


「東の大陸って、どんな場所なんだろうな」


フェリオが海を見ながら言う。


マリウスが答える。


「俺たちが知っている東の大陸は、古い地図だけだ」


「不毛の大陸」


ガルドが呟く。


「昔はそう呼んでいた」


エリシアは遠くを見る。


「でも、今は違う」


「農地がある」


セレナが言った。


「都市もある」


マリウスが続ける。


「巨大な港もある」


フェリオが苦笑した。


「俺たちが馬鹿にしていた大陸が、俺たちより強くなったわけか」


誰も否定しなかった。


その夜。


船は突然、大きく揺れた。


「何だ!」


ガルドが立ち上がる。


船員が叫んだ。


「海流が変わりました!」


マリウスが海を見る。


「違う」


「これは海流じゃない」


海面が。


黒く染まっていた。


「魔力だ」


マリウスが言った。


「海底から、巨大な魔力が上がっている」


エリシアの表情が険しくなる。


「闇の王……?」


その瞬間。


海の底から。


巨大な光が浮かび上がった。


五人は息を呑んだ。


海面に。


一人の男の姿が現れた。


老人だった。


白い髪。


長い髭。


そして。


水の魔法をまとった身体。


マリウスは。


その顔を見た瞬間。


動けなくなった。


「……父上?」


男は。


静かに目を開いた。


「マリウス」


「父上!」


マリウスは甲板から身を乗り出した。


男は微笑んだ。


マリウスの目に涙が浮かんだ。


「なぜ……」


「すべてを話す時が来た」


先代の水王は言った。


「だが、今はまだ東へ進め」


「東で待っている者がいる」


そして。


海の中へ消えていった。


マリウスは呆然と海を見つめていた。


フェリオが肩を叩く。


「また会えたな」


マリウスは頷いた。


「ああ」


しかし。


彼の表情には喜びだけではなかった。


父は。


なぜ海底にいたのか。


なぜ帰ってこなかったのか。


そして。


何を守っているのか。


その疑問が。


新たに生まれていた。


---


 五人の先代王


数日後。


船は東の大陸へ到着した。


港には。


驚くほど多くの人間がいた。


農民。


商人。


兵士。


職人。


魔法使い。


そして。


西の大陸から移住した者たち。


フェリオは目を見開いた。


「こんなに人がいるのか……」


マリウスも驚いた。


「都市そのものが巨大だ」


東の大陸は。


もはや不毛の大地ではなかった。


荒野だった場所には畑が広がり。


乾いた土地には水路が引かれ。


山には鉱山が開かれている。


巨大な工房からは煙が上がっていた。


街道には馬車が行き交い。


港には何百隻もの船が停泊している。


エリシアが呟く。


「私たちが、知らない間に……」


東は。


国になっていた。


文明になっていた。


そして。


巨大な力になっていた。


---


 黒い城


五人は東の大陸の中心へ案内された。


そこには。


巨大な黒い城が建っていた。


城の周囲には兵士が立っている。


しかし。


誰も武器を向けなかった。



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