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聞く耳を持たない王国  作者: 耀悟


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王なき国を支える五人の最高顧問


五人の若き王たちが、それぞれの国で復興に取り組み始めてから、しばらくの時が流れた。


氷の国では、凍死と飢えに苦しんでいた北方の村々に、火の国から運ばれた暖房用の魔石が届けられるようになった。


光の国の魔法使いたちは、凍りついた農地を浄化し、作物が育つ土地を少しずつ取り戻していた。


水の国の魔術師たちは、川や海を利用して大量の食料や木材、石材を各地へ運んだ。


火の国では、焼け野原となった土地に新しい町が建設され始めていた。


そして風の国では、農民たちが失われた畑を耕し始めていた。


五つの国は、ようやく互いの力を必要としていることを理解し始めていた。


しかし――。


五人の王が政治を学び始めたからといって、すべてが順調になったわけではなかった。


むしろ、五人が初めて知ったのは、


「国を治める」ということが、想像していたより遥かに難しいという現実だった。



---


1 王がいなくても動く国


ある日のこと。


風の国の王宮。


フェリオは、鋼鉄と鉛で補強された部屋の中にいた。


以前なら、この部屋を牢獄だと思っていただろう。


しかし今では違った。


机の上には、大量の書類が積まれている。


農地の復旧状況。


村ごとの人口。


食料の備蓄。


河川の状態。


森林の再生状況。


そして、民から届けられた要望書。


フェリオは一枚ずつ目を通していた。


「……多すぎる」


思わず呟く。


その声を聞いて、扉の外にいた最高顧問が答えた。


「これでも、以前より減っております」


「嘘だろ?」


「本当です」


フェリオは頭を抱えた。


「王って、毎日こんなことやってるのか?」


「本来はそうでございます」


「……俺、よく今まで王をやってたな」


最高顧問は少し間を置いて答えた。


「正確には、王としての仕事をほとんどしておりませんでした」


「……」


「陛下?」


「分かってるよ」


フェリオは苦笑した。


以前なら、その言葉だけで最高顧問を処罰していただろう。


しかし、今は違った。


「もっと言ってくれ」


「はい?」


「俺が間違っていたら、ちゃんと教えてくれ」


最高顧問は静かに頭を下げた。


「承知いたしました」


その頃。


五つの国では、同じような光景が広がっていた。


氷の国のエリシア。


光の国のセレナ。


水の国のマリウス。


火の国のガルド。


風の国のフェリオ。


五人の王は、少しずつ政治を学んでいた。


しかし、それでも問題は山積みだった。


そして、そんな五人を支えていたのが――。


五人の最高顧問だった。



---


2 五人の最高顧問


五人の最高顧問は、それぞれ異なる国の出身だった。


しかし、共通する使命があった。


王の命令をただ実行することではない。


王が間違えたときには止めること。


民の声を王へ届けること。


そして、王がいなくても国が動く仕組みを作ること。


それこそが、五人の最高顧問が新たに掲げた使命だった。


ある日。


五人の最高顧問は、再び五大国の境界にある会議場へ集まった。


円形の巨大な部屋。


中央には、西の大陸の地図が置かれている。


最高顧問たちは地図を見つめた。


「北方の氷の国では、食料不足がまだ続いている」


「火の国では、焼失した森林の再生が必要だ」


「水の国では、水害対策が急務だ」


「風の国では、農民不足が深刻だ」


「光の国では、処刑された者たちの家族への補償が問題になっている」


五人は、それぞれの国の問題を報告した。


だが、一人の最高顧問が言った。


「しかし、一番重要なのは別の問題です」


全員が顔を上げる。


「何だ?」


「王がいなくても、国を維持できる仕組みです」


部屋が静かになった。


「王が病気になったら?」


「戦場で倒れたら?」


「暗殺されたら?」


「あるいは――」


最高顧問は一瞬言葉を止めた。


「先代の五人の王のように、突然姿を消したら?」


誰も答えなかった。


先代の王たち。


五人の突然の失踪。


そして東の大陸。


その謎は、まだ残っている。



---


3 民衆の声を集める


最高顧問たちは、新しい制度を作ることにした。


各地の村に代表者を置く。


町には民会を作る。


農民、商人、職人、漁師、鉱山労働者。


それぞれが意見を述べられる場所を作る。


さらに、その意見を王宮へ届ける。


「王に直接言えないことを、どうする?」


一人の最高顧問が尋ねた。


「匿名でも届けられるようにする」


「王に都合の悪い意見も?」


「当然だ」


「王を批判する意見も?」


「当然だ」


「王が間違っているという意見も?」


五人の最高顧問は顔を見合わせた。


そして、一人が答えた。


「それこそ必要だ」


それは、かつての西の大陸には存在しなかった制度だった。


王に逆らうことは危険だった。


王の機嫌を損ねれば処罰される。


だから誰も、本当のことを言わなかった。


しかし、それでは王は自分の国の本当の姿を知ることができない。


最高顧問たちは、その失敗を繰り返さないと決めた。



---


4 最初の民会


風の国。


ある山間の村で、最初の民会が開かれた。


集まったのは、農民、木こり、商人、職人、老人、若者たち。


中央には、一枚の大きな紙が置かれている。


「何を書いてもいいのか?」


農民の一人が尋ねた。


「はい」


「王への不満でも?」


「はい」


「最高顧問への不満でも?」


「はい」


「税金への不満も?」


「もちろんです」


村人たちは顔を見合わせた。


そして、一人の老人が口を開いた。


「では……言わせてもらおう」


会場が静かになる。


「王宮は、我々の暮らしを知らなすぎる」


最高顧問は黙って紙に記録した。


別の女性が言った。


「食料を運ぶ道が壊れています」


若い農民が言う。


「川の水を畑へ引けるようにしてほしい」


商人が言う。


「東の大陸から来る商人について調査してほしい」


その言葉に、最高顧問の手が止まった。


「東の大陸?」


「はい」


「何か問題が?」


「最近、金や銀を大量に持った商人が増えています」


「……」


最高顧問は、その話を詳しく聞くことにした。


東の大陸。


金。


銀。


商人。


そして、西の大陸から流出する武器、食料、資源、人々。


まだ誰も、その意味を完全には理解していなかった。



---


5 王に届いた民の声


数日後。


フェリオの部屋。


最高顧問が報告書を読み上げていた。


「山間部の村からの要望です」


「読んでくれ」


「農道の修復」


「分かった」


「水路の整備」


「必要だな」


「食料価格の安定」


「商人たちとも話し合おう」


「そして――」


最高顧問が少し間を置いた。


「王宮への不満です」


フェリオが顔を上げた。


「読め」


「本当に?」


「俺が言ったんだろ」


最高顧問は紙を開いた。


「『王様は、自分たちがどれだけ苦労しているのか分かっていない』」


フェリオは黙った。


「『王宮は贅沢すぎる』」


フェリオの顔が少し曇る。


「『税が重い』」


「……」


「『もっと村へ来てほしい』」


フェリオは長い間、何も言わなかった。


そして。


「全部、そのまま記録しておけ」


「はい」


「俺に都合の悪いことほど、消すな」


「承知しました」


フェリオは小さく笑った。


「昔の俺なら、こんな報告をした奴を怒鳴ってたな」


「はい」


「……またそれか」


最高顧問は微笑んだ。


「ですが、今の陛下は違います」


フェリオは窓のない鋼鉄の壁を見つめた。


「違う王になれるかな」


「なれます」


「どうして?」


最高顧問は答えた。


「陛下が、聞こうとしているからです」



---


6 王がいなくても


やがて、五大国で新しい制度が完成していった。


王が命令するだけの国ではない。


民が意見を出す。


地方が報告する。


各分野の専門家が分析する。


最高顧問がまとめる。


そして最後に、王が判断する。


もし王が判断できない場合には、最高顧問たちが暫定的に政治を行う。


もし王がいなくなった場合には――。


国そのものが止まらない。


それが五人の最高顧問の目指したものだった。


ある夜。


五人の最高顧問は、再び集まった。


「これでいい」


「王がいなくても、民会は続く」


「地方の行政も続く」


「食料の配給も止まらない」


「軍も勝手に動かない」


最後の言葉に、全員が頷いた。


王が暴走しても止められる。


王が倒れても国を守れる。


そして民の声が王へ届く。


それは、かつての西の大陸にはなかったものだった。



---


7 しかし、東の大陸では


同じ頃。


西の大陸から遠く離れた東の大陸。


急激に発展した大地。


かつては「不毛の大陸」と呼ばれていた場所。


そこに、一つの巨大な城があった。


黒い城。


その最深部。


闇の王の分身は、玉座に座っていた。


目の前には、一人の商人が跪いている。


「西の大陸では、新しい制度が始まったようです」


「ほう」


「王たちは、以前ほど自由に命令できなくなっています」


闇の王は笑った。


「それは困るな」


「ですが、我々には別の手があります」


商人が袋を開いた。


中には大量の金貨。


「金は、まだ西に流れています」


「そうか」


「商人たちは利益を求めています」


闇の王は立ち上がった。


「人間は面白い」


金。


銀。


財宝。


それらを欲しがる者は多い。


そして。


欲望は、国境を越える。


「ならば」


闇の王は窓の外を見た。


「西の大陸から、もっと多くのものをこちらへ運ばせろ」


「武器を?」


「武器だけではない」


闇の王は静かに言った。


「食料も」


「資源も」


「人も」


そして。


「西の大陸自身の力を」


その声は、暗闇の中へ消えていった。



---


8 五人の最高顧問が知らないこと


その頃、西の大陸では。


五人の最高顧問たちが、必死に国を立て直していた。


民の声を聞く。


食料を配る。


農地を復旧する。


水害を防ぐ。


森林を再生する。


戦争の傷を癒やす。


彼らは、少しずつ成功していた。


しかし。


その一方で。


東の大陸へ流れているものも増えていた。


金を求める商人。


利益を求める企業。


東の大陸からの投資。


豪華な財宝。


そして――。


西の大陸の武器。


食料。


資源。


人。


五人の最高顧問たちは、まだその全体像を掴んでいなかった。


そして五人の若き王たちも知らなかった。


自分たちが作ろうとしている新しい国の仕組みが完成するより早く。


東の大陸では。


西の大陸を内側から弱体化させる計画が、着々と進められていることを。


さらに――。


海底に眠るマリウスの父。


消えた五人の先代王。


闇の王の封印。


そして、西の大陸と東の大陸を結ぶ、古代から続く秘密。


すべては一つにつながっていた。


その夜。


五人の最高顧問のもとへ、一通の報告書が届いた。


紙には、たった一行だけが書かれていた。


「東の大陸へ向かった商船のうち、帰還した船が一隻もありません。」


五人の最高顧問は、互いの顔を見つめた。


そして、一人が静かに言った。


「……ついに始まったのかもしれない」


西の大陸の平和を守る戦いは。


まだ始まったばかりだった。

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