託された平和
家臣たちは、マリウスの父を見るなり息を呑んだ。
「……まさか」
マリウスの父は深く頭を下げた。
「長い間、隠していたことをお話ししなければなりません」
2 先代王たちは逃げたのではなかった
マリウスの父は静かに語り始めた。
「皆様は、先代の五人の王が突然消えたと思っておられるでしょう」
「はい」
セレナが答える。
「私たちは、ずっとそう思っていました」
マリウスの父は首を横に振った。
「違います」
「……え?」
「先代の王たちは、自分たちの意思で西の大陸を離れたのです」
五人は言葉を失った。
「では、なぜ?」
老人は東の大陸を指した。
「闇の王です」
その言葉が会議室に落ちた。
誰も動かなかった。
「東の大陸には、かつて強大な王が存在しました」
「その名を――闇の王」
「闇の王は、ただの一人の魔術師ではありません」
「倒れた魔術師の魔力、血が大地に吸収されて、それを力に変える存在でした」
エリシアが尋ねた。
「封印されていたのでは?」
「はい」
「しかし、その封印が弱まり始めたのです」
マリウスの父は続けた。
「西の大陸では、五つの国が何百年も戦争を続けていました」
「争いが増えました」
「飢餓が増えました」
「病気が増えました」
「そして、それらすべてが――闇の王の力になっていたのです」
マリウスが青ざめた。
「つまり……」
「私たちが戦争を続けるほど」
ガルドが続けた。
「闇の王が強くなっていた?」
マリウスの父は頷いた。
「その通り」
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3 五人の先代王の決断
「先代の五人の王たちは、ようやく気づきました」
マリウスの父は目を閉じた。
「自分たちでは、西の大陸の戦争を止められない」
「互いの国を憎む貴族」
「復讐を求める兵士」
「利益を求める商人」
「王を利用する者たち」
「誰もが戦争を終わらせることを望んでいなかった」
セレナが呟いた。
「だから……私たちに託した」
「はい」
「平和を?」
「そうです」
マリウスの父は頷いた。
「五人の先代王は、後継者たちに西の大陸の未来を託しました」
「そして自分たちは――」
老人は東を見た。
「東の大陸へ向かったのです」
フェリオが立ち上がった。
「一体、何をするために?」
マリウスの父は答えた。
「闇の王の封印を強めるためです」
五人は息を呑んだ。
「五人の王は知っていました」
「自分たちが西の大陸を統治し続ければ、戦争を終わらせることはできない」
「だから、自分たちがいなくなることで、新しい世代に国を託した」
「そして、自分たちは東の大陸へ向かい――」
マリウスの父の声が震えた。
「命を懸けて、封印を強めようとしたのです」
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4 では、なぜ帰ってこない?
フェリオが尋ねた。
「だったら、どうして帰ってこなかった?」
マリウスの父は答えなかった。
「……」
「俺たちは、ずっと父や母を恨んでいた」
フェリオの声が震える。
「自分たちを捨てたと思っていた」
「違ったのか?」
マリウスの父は静かに言った。
「捨てたのではない」
「託したのだ」
その言葉に。
フェリオは目を伏せた。
ガルドも拳を握った。
セレナは唇を噛んだ。
エリシアは静かに涙を流した。
マリウスは何も言わなかった。
長い間。
彼らは先代王たちを憎んできた。
自分たちだけを残して消えた。
何も説明しなかった。
突然、王座を押しつけた。
そう思っていた。
しかし。
本当は。
五人の王は、最後まで王だった。
自分たちでは解決できない問題を。
次の世代に託したのだ。
そして、自分たちは最も危険な場所へ向かった。
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5 父たちは今も戦っている
「では」
マリウスが顔を上げた。
「父上たちはまた東の大陸にいくのですか?」
マリウスの父はしばらく黙っていた。
そして。
「……おそらく」
と答えた。
6 長い沈黙の後。
ガルドが口を開いた。
「俺たちも、東へ行くべきだ」
フェリオが彼を見る。
「先代王を手伝うのか?」
「それもある」
ガルドは拳を握った。
「だが、その前に西を守る」
エリシアが頷いた。
「先代王たちが私たちに託したのは、国そのものではありません」
「平和です」
セレナが続ける。
「私たちが東へ行って、ここを空ければ」
「また貴族たちが争い始めるかもしれない」
マリウスが地図を見る。
「ならば、五大国の仕組みそのものを変える必要がある」
フェリオが笑った。
以前の彼なら。
こんな面倒な話から逃げていただろう。
だが。
今は違った。
「五人で決めるんじゃない」
四人が彼を見る。
「家臣も」
「民も」
「農民も」
「商人も」
「みんなで決める」
フェリオは言った。
「五人だけで王国を動かす時代は終わりだ」
エリシアが微笑んだ。
「賛成です」
セレナも頷く。
「私も」
マリウスも。
ガルドも。
五人は円卓の前に立った。
かつて。
この大陸では。
王の命令が絶対だった。
しかし。
これからは違う。
王は民の声を聞く。
家臣は王に意見する。
商人には責任を持たせる。
軍は国を守るために使う。
そして五つの国は。
互いに支え合う。
それこそが。
先代王たちが託したものだった。
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7 東の大陸からの贈り物
しかし。
その翌朝。
一隻の船が水の国の港へ入った。
船には大量の金貨が積まれていた。
そして。
一通の手紙があった。
差出人は――東の大陸の商人。
マリウスは手紙を開いた。
そこには。
一行だけ書かれていた。
『五人の王へ』
『あなた方の父たちが守ろうとしているものを――』
『我々はすでに手に入れた』
マリウスの表情が変わる。
その瞬間。
遠くの海から。
黒い霧が立ち上った。
五人の王は知らなかった。
東の大陸では。
闇の王の本体の封印が。
少しずつ。
少しずつ。
弱まり始めていることを。
そして。
西の大陸から流れ込んだ武器。
食糧。
資源。
人。
そして膨大な財宝。
それらすべてが。
東の大陸に新たな力を与えていたことを。
五人の先代王たちは。
それを止めるために戦っていた。
だが。
もう時間は残されていなかった。
五人の若き王たちは。
西の大陸の平和を守りながら。
やがて東の大陸へ向かわなければならない。
父たちを探すため。
闇の王の封印を守るため。
そして――。
自分たちが始めた平和を。
自分たち自身の手で守るために。
西の空に。
五つの国の旗が並んだ。
長い戦争の時代が終わり。
新しい時代が始まった。
だが。
その平和の向こうには。
まだ誰も知らない。
巨大な闇が待っていた。




