海底に眠る五人の王
復興した水の国
「ここが、父が消えた場所だ」
空気が変わった。
「先代の王が……?」
「最後に確認されたのが、この海域だった」
マリウスの父。
水の国の先代の王。
五人の王が一斉に姿を消した、あの日。
水の国の王だけは、王宮から海へ向かったという記録が残されていた。
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海底の城
それは。
水の国の城ではなかった。
五人の誰も知らない城だった。
巨大な石の壁。
崩れた塔。
海藻に覆われた門。
何百年。
いや。
何千年も前から、そこにあったように見えた。
「古代の遺跡……?」
セレナが呟いた。
エリシアは首を振った。
「違う」
「何が?」
「見て」
彼女が指を差した。
城の門。
そこには。
五つの紋章が刻まれていた。
氷。
光。
水。
火。
風。
五つの国の紋章。
しかし。
現在のものとは違っていた。
もっと古い。
もっと複雑な形。
「五つの国ができる前の紋章か?」
ガルドが呟く。
マリウスは震える手で壁に触れた。
その瞬間。
海底の城が光った。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
「何だ!?」
フェリオが叫ぶ。
城の門が。
ゆっくりと開いた。
五人の前に。
暗い入口が現れる。
マリウスの父がその城に入って行く。
マリウスは前を見た。
「入る」
「待て」
ガルドが止めた。
「罠かもしれない」
「かもしれない」
「なら、なぜ行く?」
マリウスは答えた。
「父がいるかもしれないからだ」
ガルドは黙った。
そして。
「……分かった」
と言った。
「今度は、一人で勝手に行くな」
五人は顔を見合わせた。
以前なら。
それぞれが勝手な行動を取っていただろう。
しかし。
今は違う。
「五人で行く」
セレナが言った。
「今度こそ」
エリシアが頷く。
「一緒に」
海底の城へ。
五人の若き王は入っていった。
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五つの王座
城の内部には。
水がなかった。
巨大な空間が広がっていた。
まるで。
海そのものが、この場所を避けているようだった。
中央には。
五つの王座があった。
氷の王座。
光の王座。
水の王座。
火の王座。
風の王座。
そして。
その前に。
一人の男が座っていた。
「……」
マリウスが動けなくなった。
男はゆっくりと顔を上げた。
白い髪。
長い髭。
そして。
マリウスと同じ青い瞳。
「父……さん?」
誰も動かなかった。
男は。
ゆっくりと笑った。
「久しぶりだな」
マリウスの父。
水の国の先代王。
死んだと思われていた男が。
そこにいた。
「どうして……」
マリウスの声が震えた。
「どうして、ここにいるんだ!」
父は答えなかった。
「父さん!」
「……マリウス」
その声を聞いた瞬間。
マリウスの目から涙が流れた。
「死んだと思ってた」
父は目を伏せた。
「すまなかった」
「すまなかったじゃない!」
マリウスが叫んだ。
「俺は!」
「俺は、ずっと……!」
父が消えた日。
王宮は混乱した。
貴族たちは争った。
暗殺者が現れた。
マリウスは誰も信じられなくなった。
そして。
生き残るために。
人を疑った。
人を処罰した。
王になった。
「俺が、どんな思いで生きてきたと思ってるんだ!」
父は何も言わない。
マリウスの声だけが。
海底の城に響いた。
「どうして、俺を置いていった!」
長い沈黙。
そして。
父は静かに答えた。
「置いていったのではない」
「……何?」
「お前たちを守るために、消えた」
五人の表情が変わった。
「俺たちを……守る?」
父は立ち上がった。
「五人の王が消えた理由は、同じだ」
そして。
五つの王座を見た。
「我々は、王位を捨てた」
「なぜ?」
セレナが尋ねた。
水の国の先代王は。
静かに言った。
「この世界を滅ぼすものが、目覚めたからだ」
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不毛の大陸の正体
「東の大陸だ」
父は言った。
「不毛の大陸……」
エリシアが呟いた。
誰も住めない大陸。
草木は少ない。
川は枯れ。
土地は荒れ。
五つの国は、長い間。
あの大陸をただの死んだ土地だと思っていた。
「違う」
先代王は言った。
「不毛なのではない」
五人は彼を見た。
「封印されているのだ」
「何が?」
ガルドが尋ねる。
父の顔から。
笑みが消えた。
「かつて」
「西と東の大陸には、一つの巨大な王国が存在していた」
五人は黙って聞いていた。
「その王国は、五つの魔法を使う者たちによって作られた」
氷。
光。
水。
火。
風。
「最初は、一つだった」
五人の国。
五つの力。
「しかし」
先代王の声が低くなる。
「人間は、力を欲しがった」
より強い魔法。
より大きな土地。
より多くの民。
そして。
一人の王が。
闇の力を手に入れようとした。
「……一人で?」
「そうだ」
その王は。
氷を奪った。
光を奪った。
水を奪った。
火を奪った。
風を奪った。
「その結果」
海底の城が震えた。
「世界そのものが壊れ始めた」
闇の力は。
本来。
人間が持つべきものではなかった。
大地が凍った。
炎が大陸を焼いた。
海が陸地を飲み込んだ。
巨大な嵐がすべてを破壊した。
そして。
光が人々の命を奪った。
「五人の王が協力して」
先代王は続けた。
「その王を封印した」
封印された場所。
それが。
東の大陸だった。
「つまり」
フェリオが言った。
「東の大陸は」
「巨大な牢獄だ」
先代王が答えた。
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五人の先代王が消えた理由
マリウスが父を見た。
「じゃあ、どうして父さんたちは消えた」
先代王は。
深く息を吐いた。
「封印が弱くなった」
五人の顔が変わった。
「十数年前」
「我々五人は、同じ夢を見た」
白い城。
地下。
古代の扉。
そして。
声。
『東の封印が弱まっている』
「我々は知っていた」
先代王は言った。
「五つの国が再び争えば」
「封印は完全に壊れる」
「なぜ?」
エリシアが尋ねた。
「五つの魔法は」
父は答えた。
「互いに争うための力ではないからだ」
氷。
光。
水。
火。
風。
五つの力は。
世界を支えるために存在していた。
一つが暴走すれば。
他の四つが抑える。
一つが弱まれば。
他の四つが支える。
それが。
古代から続く世界の仕組みだった。
「しかし」
五つの国は。
長い間、争った。
氷と火。
水と風。
そして。
光を中心とした権力争い。
五つの力は。
本来の役目を失っていった。
「だから」
先代王は言った。
「我々は決めた」
五人の若き王たちを見る。
「自分たちが消えることを」
「……何?」
「五つの国に、同じ恐怖を与えるためだ」
セレナが目を見開いた。
「恐怖?」
「王が消えれば」
先代王は続けた。
「国は混乱する」
「そして」
「新しい時代が始まる」
「でも!」
マリウスが叫んだ。
「そのせいで、俺たちは殺されかけた!」
父は目を伏せた。
「分かっている」
「跡継ぎ争いが起きた!」
「分かっている」
「何人も死んだ!」
「分かっている」
「俺たちは……!」
マリウスは言葉を失った。
父は。
苦しそうな顔をしていた。
「我々は」
静かに言った。
「間違えた」
五人の若き王たちは。
黙った。
「我々は、自分たちなら正しい未来を作れると思っていた」
「しかし」
「お前たちを、あまりにも危険な場所へ置いてしまった」
先代王は。
ゆっくりと頭を下げた。
「すまなかった」
王が。
息子たちに頭を下げた。
誰も。
何も言えなかった。
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地下の声の正体
その時。
海底の城が。
再び大きく揺れた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
「何だ!?」
ガルドが炎を出す。
「父さん!」
マリウスが叫ぶ。
先代王は。
暗い通路を見た。
「来た」
「誰が?」
セレナが尋ねた。
その時。
五つの王座の後ろ。
暗闇の中から。
一人の老人が現れた。
五人の若き王たちは。
その顔を見た。
そして。
驚いた。
「……あの老臣?」
白い城で。
彼らに説教した男。
『このままでは、大陸が崩壊する』
そう言った。
あの老人だった。
しかし。
違っていた。
白い城で見た時より。
はるかに若い。
いや。
若いというより。
人間ではないようだった。
老人の瞳には。
五つの色が宿っていた。
氷の青。
光の白。
水の蒼。
火の赤。
風の緑。
「お前たちは」
老人が言った。
「ようやく真実の入口に立った」
フェリオが叫ぶ。
「お前は誰だ!」
老人は答えた。
「名など、長い年月の中で失われた」
そして。
五人を見た。
「私は」
海底の城全体が光る。
「五つの王国が生まれる前から、この世界を見守ってきた者だ」
「地下の扉の声は……」
エリシアが呟く。
老人は頷いた。
「私だ」
セレナの目が鋭くなる。
「なぜ私たちを試した」
「王だからだ」
「……」
「お前たちは」
老人は言った。
「力だけは持っていた」
「王冠も持っていた」
「軍隊も」
「魔法も」
「民の命を奪う権力も」
五人は動かなかった。
「だが」
老人の声が響く。
「王ではなかった」
エリシアが拳を握る。
「だから監禁したの?」
「違う」
老人は答えた。
「監禁したのは、お前たちの家臣だ」
「私は」
少し笑った。
「ただ、その機会を見ていただけだ」
フェリオが顔をしかめる。
「何だよ、それ」
「人間は」
老人が言った。
「誰かに教えられるだけでは変わらない」
「自分で失敗し」
「自分で苦しみ」
「自分で気づかなければならない」
五人の前に。
五つの光が現れた。
「だから」
老人は言った。
「お前たちは、まだ試されている」
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東の大陸が動き始める
その瞬間だった。
海底の城全体が。
激しく揺れた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
「今度は何だ!?」
フェリオが叫ぶ。
水の壁が震える。
石が崩れる。
天井から砂が落ちた。
先代王の顔が青ざめた。
「まさか……」
「何だ!?」
マリウスが叫ぶ。
先代王は答えた。
「封印が」
「動いた」
五人の王が顔を見合わせる。
老人が。
ゆっくりと東を見た。
「遅かったか」
「何が遅いんだ!」
ガルドが叫ぶ。
その瞬間。
海底の城の壁に。
巨大な映像が映し出された。
東の大陸。
誰も住まない。
不毛の大陸。
その中央。
黒い大地が。
ゆっくりと割れていた。
バキバキバキバキ……!
大地の裂け目から。
黒い霧が噴き出す。
そして。
何かが。
大地の下から。
ゆっくりと立ち上がった。
巨大な影。
人間のような姿。
しかし。
あまりにも大きい。
「……何だ」
マリウスが呟く。
老人は。
答えなかった。
ただ。
絶望したような声で。
一言だけ呟いた。
「闇の力を持った王が」
「目覚める」
海底の城に。
沈黙が落ちた。
東の大陸。
不毛の土地。
そこに封印されていたもの。
それは。
ただの怪物ではなかった。
かつて。
五つの国を一つにし。
そして。
五つの力すべてを奪った。
最初の王。
世界を滅ぼしかけた。
古代の支配者。
その目が。
ゆっくりと開いた。
暗闇の中で。
五つの色が光った。
氷。
光。
水。
火。
風。
そして。
遠く離れた西の大陸で。
五人の若き王たちの魔力が。
同時に震えた。
老人が言った。
「若き王たちよ」
五人が振り返る。
「今度こそ」
老人の声が。
静かな海底に響いた。
「お前たちは選ばなければならない」
マリウスが尋ねる。
「何をだ」
老人は答えた。
「王冠を守るのか」
「民を守るのか」
「自分の国だけを救うのか」
「それとも」
五人を見つめる。
「五つの国と共に、世界そのものを救うのか」




