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身代わり令嬢は二度死に、最愛の幸福を掴む  作者: 桃緑茶


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8/10

8.招かれた人形師

※倫理観のぶっ飛んだ人形師が登場しますのでご注意ください。


おかしい。あまりにおかしい。

ローズマリーを崖から突き落とした執事はこの異常事態を『あの方』へ連絡すべく、密かに屋敷を出た。

(コレも別の場所に保管しておかなければ……)


何故、あれ程痛めつけた女が全くの無傷で現れた?

何故、7日間もの間あの物置部屋から何の気配も無かった?

何故、何故、何故――


自分は屋敷の地下室に居るのだ?


「おかしいわ~、おかしいの~♪」

歌うような女の声が地下から響いた。

「なんだ…?」

「おかしいわぁ~?あの子の加護があったのにぃ~最低限の加護しか発動しないなんてぇおかしいわ~♪」

気付けば、処分する筈の包みが白髪の女の手の中に在った。

異国めいた出で立ちの女は包みを開く。

「やっぱりね~。コレが原因ね~。他にも原因はあるけれどぉ、コレねぇ?

執事さぁん。――どうしてご主人様を呪ったのぉ?」

「誰だ!?」

咄嗟にナイフを抜き去るも、身体が動かない。

「あらぁ~私ぃ?私はぁ~良い魔女よぉ~。だからぁ~。

――飼い主さんの言いつけを守らない子を、約束を守るお人形さんにしてあげるぅ~」


「…………」

「そうそう~、私はぁ~人形師リラよぉ~。マリーちゃんが起きたからぁあの子のお願いをぜーんぶ叶えてあげるわぁ。

ん~?驚いている~?凄いでしょぉ~貴方の身体はお人形さんになったのぉ~。

別に良いでしょお~?――あなた、善良な人間の女の子をお人形さんみたいに扱ったんだもの」



+++++


翌朝。

侯爵家の食堂で朝食の支度を待っていたオーギュスタが突然立ち上がった。


「レイナルドが起きて来ないわ。部屋に呼びに言って」

執事は無表情のまま淡々と告げた。

「奥様、レイナルド様は奥様とお過ごしでございマす」

オーギュスタの眉間に皺が寄る。

「どういうこと!?」


老齢の侍従が慌てて報告に駆けつける。

「奥様……あの……ローズマリー様の部屋……いえ、そのあたりから……ええと……」


「物置?」

オーギュスタは血相を変えた。

「あの子が……あの埃だらけの物置で!?当主ともあろう者が!?」

足早に階段を登りながらも彼女の耳は別の情報を捉えていた。

使用人たちのひそひそ話しをする声――

「聞いた?あの物置からずっと……」

「まさか……!?侯爵様と奥方が……?」


オーギュスタは扉を叩き割る勢いで物置の前に立つと、躊躇なく扉を開け放った。

「レイナルド‼」


飛び込んだ彼女の目に映ったのは——

折角着替えたドレスをはだけさせ、『ローズマリー』を愛撫するレイナルド。

「あら、お義母様。おはようございます。いけませんわ、新婚夫婦の営みを邪魔する何て、品位を疑いますわ」

『ローズマリー』は振り返り、そう告げた。その眼差しは穏やかだが底なしの氷のように冷たい。


オーギュスタは息が詰まった。

昨日までの痩せこけて虚ろだった娘が――まるで宝石を磨いたように輝いている。頬には自然な血色が戻り、瞳には知性と悪意の火花が踊る。そして何よりも……愛息子レイナルドが恍惚とした表情で、彼女から離れようとしないのだ。

「ここで……何をしているの!?」

怒号が壁を震わせた。

「物置で夜を過ごすなんて!侯爵夫人たる者が‼」


「まぁ」

『ローズマリー』はクスクスと哂う。

「貴婦人は屋根のある場所で、愛する夫と過ごすだけで叱責されるのでしたか?おかしな常識ですわね」

オーギュスタは扇子を突きつけた。

「レイナルド!説明なさい‼」


レイナルドは数秒沈黙すると、唐突に膝をついた。

「母上……恐れ入ります。昨夜……マリーと……深い話と…初夜の儀を」

「初夜!?」

オーギュスタの目が血走る。

「こんな汚らわしい場所で!?」


『ローズマリー』はクスリと笑った。

「汚らわしい?そう仰いますけれど……ここで幾度も私の顔を拭ってくださったのはどなたでした?」

オーギュスタの顔色が変わった。

「私が?言いがかりを!」


「いいえ」

『ローズマリー』は椅子から立ち上がり、一歩踏み出した。

「拭いたのではなく……蹴ったではありませんか? 毎晩のように」

聞き耳を立てていた使用人達が凍りつく。当主の目の前で爆ぜる真実はあまりにも生々しい。

「黙りなさい!この人形めが!」

オーギュタは扇子を振り上げた。

『ローズマリー』は静かにレイナルドに枝垂れ掛かり、レイナルドが扇子を止めた。


「まだ続きますか? 昔話は……」

彼女は微笑みながらレイナルドを見た。

「旦那様はどうお考えで?」

レイナルドは喉仏を上下させながら答えた。

「母上……暫くマリーと二人きりでいたい。ああ、父の手紙の通り、母上は父のいる保養所で過ごしても良いだろうな。お互い夫婦水入らずで過ごして行きましょう」


「なんですって……!?」

「その前に、その気性を宥めませんと、病床のお義父様に障りますわ」

「そうだな、…母を地下に連れていけ」

「分かりまシた」

オーギュタの膝が砕けそうになる。

「そして、マリーに嫌がらせをしてきた者たちだが――」

「旦那様、彼らを野放しにするのは簡単ですが、それでは別の家の奥様が不幸になりますわ。…私たちで『教育』をして送り出すのが高位貴族としての務めでしょう?

お義母様にも、『教育』を。きちんと、改めて貰いませんと」


「マリー奥様、お連れしマした」

その言葉が終わるや否や、物置に二つの影が転がされた。かつてローズマリーの部屋にカビたパンを投げ込み続けてきたメイドと、冷水を浴びせ続けた女中の姿だ。

「ひっ……!お許し……‼」

『ローズマリー』の細い指がまるで蛇のように、後ろ手に拘束されたメイドの手首を掴み上げた。


「ローズマリーに食べさせたパンはどんな味でした?」

「ローズマリーに汚水を浴びせて気持ちよさそうだったわね?」


メイドが悲鳴を上げた。

「ご免なさいッ‼わたしは言われてやっただけで……!!」


『ローズマリー』は優しく彼女の顎を持ち上げた。

「あなたの手でローズマリーの髪を…引き千切った回数は覚えていらっしゃる?」

彼女はゆっくりと手を振り上げると——仲間であるはずのメイドが、汚泥に浸したパンをメイドの口にねじ込んだ。

「よく噛んで召し上がってね?」

その優しくも威圧的な『ローズマリー』の言葉に、レイナルドも使用人たちも逆らえない。

それどころか、当主であるレイナルドは『ローズマリー』を恍惚な表情で見つめていた。

ローズマリーに水を浴びせた女中は汚泥がたっぷり入った桶に、その女中仲間が頭を掴んでねじ込んでいる。

バタバタと抵抗すれば、無表情の執事が女中の足を踏みつける。

鈍い音が響こうと、執事は何度も女中の足を踏み折った。

『それが当然だ』そう認識して仕事仲間を痛めつける彼らは、悍ましい怪物に見えた。

「嫌なら代って差し上げたら?それとも夜逃げでもなさるのかしら?

――逃がさないけれど」


オーギュタは半狂乱で喚いた。

「悪魔!人形!レイナルド‼目を覚ましなさい‼」

レイナルドは静かに頭を振った。

「母上……ここはマリーの城となりました。どうぞ地下でお過ごしください」

彼は再び『ローズマリー』の肩を抱き寄せる。その手の強さに迷いはない。

女中の足を踏み折った無表情の執事がオーギュスタの腕を掴み、喚く女を引き摺って行く。


廊下から響く啜り泣きと悲鳴。

冷たい朝陽の中、一人の夫人と侯爵は物置の入り口を封印した。

「これからは自由に動けるわ」

『ローズマリー』が耳元で囁く。

「あなたも私を守ってね?」


レイナルドは無言で頷いた。

背後に響く「悪魔め!」という絶叫を掻き消すように。

夫婦の『新たな生活』が始まろうとしていた――



+++++



「やめなさい、あの悪魔の言いなりになって!この使用人風情が…!ヒィッ!?」

地下室に連れていかれ、激しく抵抗するオーギュスタの手が執事の髪を掴んだ際。

ブチブチと千切れる音とともに、ボトリとそれは落ちた。

それは、人間の頭蓋だった。執事の髪の生え際に沿って縫いとめられた縫合痕と糸が見える。

オーギュスタを拘束する執事の脳は、カラクリめいたものと差し替えられていた。


忌々しい田舎娘を座らせたあの椅子に、オーギュスタは執事によって拘束された。

「ひどいわ~、その子は純粋なだけよ~。可哀そうにぃ、また直してあげるわねぇ。

可愛いお人形さんの『マリー』ちゃんを悪魔なんてひどいわ~。ローズマリーちゃんの幸せの為に頑張るいい子よ~」

拍子抜けするようなのんびりした声が聞こえた。

「お前誰よ!?」

地下牢に響くオーギュスタの怒号が、冷たく湿った石壁に吸い込まれていく。

「私~?そうね~、貴女の言う、悪魔寄りの魔女かしら~?

でもひどいわ~、私は良い魔女なのになぁ~」

白髪に白い瞳の褐色肌の女はクスクスと笑う。

「離しなさい、この女狐!侯爵家になんの用だ!」

オーギュスタが唾を飛ばすが、魔女は気にせず器具を取り出し始めた。


「あらあら~、その前にぃ、執事ちゃんとお話があるのぉ。ねーえ?

――ローズマリーちゃんをいじめたのは、このおばさんの言いつけ?」

「はイ。レイナルド坊ちゃまが下級貴族と突然婚姻したので、鬱憤晴らしで使用人一同ローズマリー様を甚振りました」

魔女が話し掛けているのは、銀の筒に管の付いたものだった。

機械めいた言葉だったが、話し方が何処か脳がカラクリになった執事に似ていた。

「どうしてお坊ちゃまはおばさんの言いつけを破ったのぉ?」

「オーギュすタ前侯爵夫人は令嬢時代に、先代侯爵に婚姻における屈辱の条件を先々代国王へ承諾を得ましタ。夫人が暴力沙汰を起こしワーズ子爵令嬢の目を潰したからデす。

結果、夫人は先代侯爵を恨み、坊ちゃまに先代の嘘を吹き込みました。

父性愛を求めた坊ちゃまは宰相閣下に愛されるためにローズマリー様を選びましタ」

「あらぁ~?ママの愛は足りなかったのぉ?」

「先代侯爵と面影が似ていルので、坊ちゃまは先代侯爵と不和を起こさせる道具でス。

オーギュすタ前侯爵夫人はエリザベート・メイソン公爵令嬢を寵愛していマした。

令嬢とノ婚約の前ニ前に前にロロロローズマリー様ととととととととと」

「あらあら~、沢山お話ししてくれて疲れたのね~、お薬足すわね~」


異様な様相の執事の証言にオーギュスタは、動悸が止まらない。薄暗い地下室には、そこにはすでに数人の使用人が拘束されていた。


「沢山逃げようとしたのよねぇ~、それかぁ、公爵家へのおつかいかしらぁ?

でもぉ、ここは侯爵家でぇ、レイナルドちゃんが当主でしょお?

悪い子が何をしたいのかぁ、聞いておかないとぉ」

「あいつのせいよ……全部!」

オーギュスタが歯を食いしばりながら叫ぶ。


「ふぅん~、全部とはぁ~?」

魔女の声が地下室に反響する。

「いくら~ご令嬢のぉ、お目目が綺麗でもぉ~。潰したら駄目よぉ~?

先代侯爵様はぁ、それでも婚約者だからってぇ、貴女に更生の余地をくれたのに~。

酷い逆恨みで、呪っちゃったのねぇ。だからぁローズマリーちゃんの腕輪の加護がぁ弱かったのねぇ」

オーギュスタの足元に、奇妙な装飾が施された燭台が置かれた。蝋燭が自動的に灯り、炎が歪な螺旋を描く。


「この燭台ねぇ~誰が作ったかわかる~?」


執事の顔が微かに引き攣った。

「オーギュスタ様の兄君…メイソン公爵様でございます……」

「そうなのねぇ~」

魔女が燭台を爪弾くと、内部から粘ついた液体が滴り落ちる。

「蟲毒の檻なのよぉ~。オーギュスタさんがぁ執事さんに命じて殺した者たちの怨念が閉じ込められているわぁ~。先代侯爵様を呪い殺す為だけにぃ」


オーギュスタの顔が蒼白になる。

しかし次の瞬間、彼女の目に狂気の光が宿った。

「私の兄様がくれたものよ!愚かなあの男は王位簒奪を企てた!罰当たりの贅沢者の罰に!」

「別にぃ、貴女は王女じゃないでしょ~。普通の女の子を壊しちゃうお姫様はぁ、要らないわぁ」


魔女が指をパチンと鳴らす。

「じゃあなんで~。今更~蟲毒の標的をぉ、『コールデン侯爵家で忠義に欠けるものを狙う』に書き換えると思うぅ?」


執事の体がガタガタと震える。

足元の糸が解け始め、臓物のような何かが溢れ出た。

「執事ちゃ~ん。もう少し、『お人形』として役に立ってもらわないとねぇ。オーギュスタさんの記憶、全部吐き出して~」


蝋燭の炎が急激に膨らみ、まるで生き物のように蠢く。

オーギュスタが悲鳴を上げようとした瞬間、執事の口から濁った声が溢れ出した。

「……オーギュスタ様の兄上が……メイソン公爵家が……オーギュスタ様に情報を……」

「メイソン公爵にぃ?じゃあ~、オーギュスタさんは被害者?」

魔女の笑みが深くなる。

「違うわ!私は何も知らない!」


「メイソン家の当主が代わったので…オーギュスタ様は…‥先代侯爵様を呪い殺して……‥メイソン家の令嬢を……」

執事の首筋から黒い液体が滲み出した。

「コールデン家の財産をぉ、おばさんのものにぜーんぶ差し出したくてぇ~?」

「はイ」

燭台の炎がついに執事を包み込む。

「違う!あの男が悪いのよ!私を裏切ってあの女を庇って!」

「目を潰されたワーズ子爵令嬢~?今は夫人だったかしらぁ。亡くなるまで婿入りした旦那様を愛していたのよぉ?その息子さんまで殺しちゃうなんて、悪いおばさんねぇ~」

オーギュスタの怒号が地下牢に響き渡る。しかし魔女は意に介さず、手袋をつけた指先でそっとオーギュスタの額をなぞった。

「可愛いわねぇ~。本当の悪魔はどんな顔なのかしら?」

蝋燭の炎がゆらゆらと揺れ、魔女の白髪が薄闇の中で青白く浮かび上がる。


「お話はぁ、この位で良いかしらぁ。ちょっとぉ、私の趣味に付き合ってねぇ~」

魔女はオーギュスタのドレスを捲り上げてそれをじっと見つめた。

「まぁ~恥ずかしがらなくて良いですよ~、貴女は息子さんをここから出したでしょ~?その時の恰好なだけよぉ~」

「やめろぉ‼」

「ん~でもぉ、そこそこ綺麗かしら~?用?うふふ、マリーちゃんの大好きなぁ、ローズマリーちゃんを苦しめた罰よ~?それにねぇ……」


「こ~んなに悪い子ばかりのおうちには滅多に来られないし~、お人形さんの研究をするのに丁度いい場所だもの~」


魔女の言葉に、オーギュスタが血走った目を向ける。

「誰が誰を苦しめた?私が……私がどう悪いというの……!?」

「ひどいわ~、ほんとひどいわ~。貴女の可愛さで、周りの子が犠牲になっているのも知らないのねぇ~?」

魔女の手に銀色の鋏が現れる。刃の表面が鏡のように滑らかで、そこにはオーギュスタ自身の歪んだ顔が映っていた。

隣の牢から悲鳴が上がる。汚泥パンを無理やり飲み込まされたメイドが、顔を青紫色にして、腹を押さえてもがいていた。その股間からは赤黒い粘液が漏れている。

「あらあら~、若いしぃ、こっちの方が楽しみよねぇ~♪」


魔女はオーギュスタの隣にわざわざ寝台を移す。異臭に顔をしかめるオーギュスタを尻目にメイドを拘束し、腰布を剥ぎ取った。

「……あら~?もうボロボロね~?これじゃ再生実験には物足りないかな~」

金属の冷たい器具を挿入するとメイドが絶叫する。

「でも大丈夫よぉ!あなたみたいに痛みを与えたがりの悪い子さんはねぇ……特別な薬を使ってあげる♪」

「い゛た゛い゛、痛い、痛いぃぃぃいいいいい!!!!!」

「うん、綺麗になったわぁ、良かったわねぇ~いい子いい子♪」


ガラス瓶の液体が注射器に充填されると同時に、オーギュスタの鼻先に突きつけられた。

「これは『再生液』よぉ。皮膚の細胞を若返らせて結合させるのよ~♪でもねぇ……副作用で神経が剥き出しになるの~♪」

「何故こんな事をする!」

オーギュスタが罵声を浴びせる。

「だってローズマリーちゃんが可哀想じゃない?

あの子はあなたたちの拷問でぐちゃぐちゃなんだもの~。だから代わりを作る練習~♪」


魔女の注射針がメイドの下腹部を刺す。即座に全身が痙攣し始めた。

「ほら見て~♪血管が光っているでしょ?これが正常に戻れば再生成功よ~♪」

「狂っているわ!」

オーギュスタが激しく身を捩る。

「狂ってるぅ?そうね~、私はぁ、お人形が大好きだもの~♪

昔はねぇ~普通でちょっと不思議なお人形で満足したんだけどぉ~。

ちょぉっと材料を変えたらねぇ~、ゼラちゃんに叩かれて絶交されたのぉ。

でもねぇ、久しぶりに会ったわぁ。可愛いお弟子さんも居たのよぉ?

だけどぉ、ゼラちゃん凄く警戒していたなぁ、お姉ちゃん悲しいわぁ~」

魔女は笑いながら器具を洗浄する。


「それで、わたくしをどうするつもりだ?」

オーギュスタが憎悪に満ちた声で問う。

「どうするって~?とりあえず、あの可愛いメイドちゃんと同じ再生実験よねぇ~♪経産婦をぉ再生できたらぁ凄いじゃないィ?」

魔女が注射器を取り出して近づく。

「やめろ!触れるな、下賤が!!」


「そんなこと言われてもぉ」

魔女は楽しそうに、オーギュスタの皮膚に触れながら、徐々にメスを近づけていく。

「マリーちゃんが言うんだものぉ~、『人形遊びがしたい』って~♪」

オーギュスタが恐怖の表情を見せた瞬間、魔女のメスが素早く彼女の胸元を裂いた。

鮮血が飛び散る。肉と骨が露になり、激痛に喘ぐ。

「痛いかしら~?でもねぇ、ローズマリーちゃんはずっと痛かったのよぉ?」


「やめて……許して……!」

「ダメダメぇ~♪大丈夫よぉ、すぐに治るわぁ♪」

魔女が傷口に再生液を注入する。爛れた傷が泡立ち、肉芽が隆起し、奇妙な生き物のようなものが蠢き始める。

「さてさてぇ、今度は下の方を観察しましょうか~♪」

「いや!いやぁあああ!!」

悲鳴が地下室に反響し、他所の牢からも似たような嗚咽や呻きが混ざっていく。

「ひぃいいい!?」


魔女が嗤う。

「ねぇ~教えて?レイナルド君はどこへ行ったの?」

「知るもんですか!」

「あはは~、そうよね~♪知る訳ないか~マリーちゃんとデートだものねぇ♪」

「な…何で…母親のわたくしがこんな目に合っているのに!?」

「う~ん?貴女はレイナルド君のお父さんを病気にしたしぃ、嫌がるローズマリーちゃんでぇ、楽しんでいたじゃなぁい?」

「!!??」


鉄の扉が開く音がした。

レイナルドが『ローズマリー』と手を繋ぎ入ってきた。拘束され、甚振られるオーギュスタを見る彼の目は虚ろだった。

「マリーちゃん、旦那様とのデートはどうだった~?」

「ふふ、中々楽しいものだったわ。ね、レイナルド」

『ローズマリー』が甘えた声を出す。

「ああ、『マリー』」

「クスッ。ね、リラ、実験楽しい?」

「うん!ありがとうね、マリーちゃん大好き!今日はぁ凄いもの見せるわよ~♪」


魔女が牢の女中を指差す。

「この子は~レイナルド君のパパと同じ病気を完全再現したのぉ~。それでぇ、完全再生したら~良い魔女のお務めも完了よねぇ♪」

魔女が銀色の筒を取り出しメイドの頸に密着させる。緑色の光が溢れた瞬間――

「ギャァァア!」

肉の焼ける匂いと蒸気が立ち上る。女中の身体は硬直し口から泡を吹いた。

「完成~♪新品同然~♪……あら~?他の合併症は治らないのねぇ、この子、お人形さんになっちゃったわぁ、うっかりねぇ。

マリーちゃん、他のお人形さんはぁ?」

「今日の分はこれだけよ」

「ガーン、マリーちゃん厳しい。でも好きぃ♪」


『ローズマリー』がレイナルドの袖を引く。

「じゃあこの人をお願いしようかしら~?使い古しの肉袋だけど~♪」

視線の先にはオーギュスタ。

「なっ……!」

オーギュスタが絶句する。

「レイナルド様、やってくれますよね?」

マリーの問いにレイナルドは陶酔したような表情で告げる。

「……マリーが望むなら」

「ふふ、優しいのねレイナルド」

「母上……ご安心ください。マリーと僕で『再教育』させて頂きます」

レイナルドが母のドレスを引き裂いた。


「止めてレイナルド!正気に戻りなさい‼」

「正気?僕は最初から『彼女の玩具』なんですよ……」


「ギャァァァア!!!痛いいたいぃぃぃぃぃいいいいいいいい!!!!!!」


「あら~失敗ね~♪分厚過ぎたわねぇ~、痛かった~?ごめんね~」

魔女が舌を出して笑う。

「ご苦労様、レイナルド。さあ、身体を清めましょうね」

『ローズマリー』が立ち上がりレイナルドの頬に口づけする。

「マリー…」


「マリーちゃん、この子、ちゃんとしたお人形さんにしていいかしら~?」

「良いんじゃない?お義母様のお世話係も居るでしょう?

まだ他にも材料はあるでしょ?明日はもう一人の方で試しましょう」

「その後は~、マリーちゃんのお世話係かなぁ♪先ずはぁ、新しいお友達を作ろうかしら~♪」

「……ねえ、その痛い回復をローズマリーに使うの?」


「使わないわよぉ?」

あっさりした魔女の言葉にオーギュスタやメイド達は呆然とする。

「あ~んな良い子に痛い想いはさせないわぁ~。デリケートな場所だもの~。色んな壊れ方をしてもらうだけ~」

「ふーん?悪い子に使うだけならいいけど」


地下牢に残るのは絶望の叫びと『人形』作りに勤しむ魔女。

皮の椅子に拘束されたまま、オーギュスタは呻くしかなかった。

「化け物……息子を返して……」


「ふふ~。ママの傀儡から、マリーちゃんの傀儡になっただけよぉ?

マリーちゃんはレイナルドちゃんを『愛して』くれるからいいじゃない~?」

暗闇から囁く声は誰のものなのか――

血の臭いに満ちた地下室で、『人形遊び』は続く。


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