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身代わり令嬢は二度死に、最愛の幸福を掴む  作者: 桃緑茶


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31/50

31.魔女との交渉と第三王子お尻地獄の一編

*次回、第三王子お尻地獄をお送りいたします。

魔女。人間の破滅を好む魔術に長けた狂人共の集い。

過去、500年かけて魔女狩りを執行し奴らを滅そうとした結果、4-5万人処刑した魔女とされた者たちのうち…真なる魔女は一桁しか狩り殺せていない。

挙句、その指揮していた教団は禁忌に触れ解体された。


魔女にも天敵はいる。この世界の調整者とも言われる、神に近い存在。

だが、彼らは人間の味方ではない。



「デイジー殿。――どちらの魔女か、分かりますか?」

故に、先ずは人間として魔女を見極めなければならない。

長き年数を生きた魔女は甘味やら美味い食事で宴などを催せば、ある程度こちらの言い分を通せる。

死の聖女も魔女で在り、前者かつ会話が成立しやすい魔女だ。

‥‥‥彼女の邪視の能力は見た対象を死に至らしめるので、交渉に関しては精査する必要があるが。


だが、新興の魔女はそうはいかない。

ベリオドールの長、魔女ドロテア。御年130歳の老女ですら新興派だ。

新たな魔女は狂人で探求心が強く、下手な懐柔策は取れない。


「新興の魔女ですね。というか、危うく頭を潰され掛けましたし。

彼女は一貫して悪人とされる者のみ獲物としています」


国王たちの間に重い沈黙が落ちた。魔女の存在は自国にも暗い影を落としていた。

彼女たちの残虐さは、想像を超える域にある。

「彼女は我々の禁忌――善なる者への危害は加えていません。『調整者』の区分を超えていない。――そちらの、とても痛い所を突かれるでしょうね」


グリンホルン共和国の側妃の王宮から、ヴィルヘルム第三王子の母と来訪していた祖父母が突如消えた事件があった。

彼女らは血濡れの息子と共に地面に伏せられた。

魔女ドロテアは告げる。

「我が地の者らを、貴様らの国の者が呪術の贄にした。よって、国王ら10名の王族の首を求めたが。この小僧は自身の代わりに第二王子は生かせと抜かした。

足りぬ故、貴様らが代われ」

側妃である母と祖父母は、無惨に痛めつけられたベリオドールの民の分まで拷問して構わないのでヴィルヘルムの助命を願い出た。

ヴィルヘルムはそれに猛反発して埒が明かない。


当時のデイジーはバーンベルク領からの鬼電で、ヴィルヘルム第三王子に鏡の加護を繋げたことがある。

バーンベルク侯爵も単独で出向き、死の聖女も仲介して。

2年かけてようやく、魔女は条件を変えた。

『呪術を行使した者、関わった者の首を貰う』


その首謀者の痴態の映像に魔女ドロテアはケタケタと笑い、猶予は出来た。

死の聖女は嘔吐したが。



――さて、魔女リラだが、彼女は――


「やはり……直接の交渉は危険すぎる」

宰相ファルケンが呻くように言った。彼の額には深い皺が刻まれていた。

「探求心だけは一級の私を『回れ右』させたんですよ。ですので、危ないでしょうね」

「それなら、誰が『コールデン前侯爵夫人の収監』を為すというのだ?」

ファルケン宰相が疲れた声で問うた。


「帰還途中の聖女ですよ」

デイジーの声は不思議と落ち着いていた。

「れっきとした男でありながら聖女でもある──ヴィルヘルム第三王子殿下です」


「王子?」

国王が首を傾げる。

「彼にそのような重責を負わせると?」

「魔女の『庭』は特別な結界に覆われています。彼の聖なる力なしでは、その門も正しく開けません」

ついでに言えば、ヴィルヘルムは魔女ドロテアに気に入られた。

彼本人は不服だろうが、ある意味魔女ドロテアの庇護下にあるので一定以上の安全は保障できる。

デイジーはゆっくりと立ち上がり、窓の外を見やった。

「それに魔女リラは『悪い人間の素材』を求めています。それなりに妥協していますよ」


「妥協?」

宰相が苦々しく呟いた。

「狂人との取り引きなど……」

「生存のためです。向こうも、本腰入れて狩られるリスクは欲していません。

ですので、『妥協』として悪人の素材に絞っています。さて」


死の聖女からメモが転送される。

「ふむ…」


【脳や心臓が無くとも、『ガワさえ揃えば拘束形態として成り立つ』という条件付けで、引き渡しを行う事】


死の聖女からのメモに記された衝撃的な提案は、静謐な空気を一瞬で変質させた。


「なるほど……そういう方法もあり得るわけですか。見た目や思考は本人だけど、中身が丸ッと入れ替わった『生きた人形』の連行って事でしょうね」

デイジーはこめかみに指を当てて俯く。その瞳には微かな嫌悪感が揺らめいていた。


国王は眉間に深い縦皺を刻みながらも、「理論上は理に適っている」と低く唸った。

「『本人の肉体』と『本人の魂』が同一であれば形式上の拘束は成立する。物理的な部位を欠損していようと……」

「倫理的には異論だらけだがな」

宰相が歯噛みした。


「問題はその『魂の拘束』が確実かどうか。肉体と精神は不可分な関係にあるのでは?」

「……原理的には可能なのです」

デイジーの声が硬い。聖女としての知識が即座に回答を弾き出している。

「実際、魔女の長はそれで肉体の死を遂げて別の器に入れ替わって魔女狩りを凌いだと」


宰相の甥であるフェリクス魔術師副団長が青ざめた顔を上げた。

「それって……人体実験みたいなものでは?」

「魔女の知識と実践ですからねえ。魔女との向き合い方は、『適度に』『関わり過ぎない』こと。首を突っ込んだ場合の補償は出来ません」


デイジー自身、どう考えても正気とは呼べない手段を支持することは本望ではない。

「ただし、この条件付けは、ある意味合理的な落とし所です」

妥協と合理の境界線を越える行為ではある。

しかし、魔女との交戦は破滅へ舵を取る行為。


重い沈黙が広がった。

「だからこそヴィルヘルム王子殿下の役割が重要になるのです」

デイジーは続ける。

「殿下は同時に二つの属性を持ち合わせている。聖女の資格と王族の権威。彼の存在そのものが『儀式の正当化』を担保できます」

「聖女でもあり王子でもある――奇跡的なバランスか」

国王が感慨深げに呟いた。



「無論、殿下には事前説明が必要ですが」

宰相が慎重に言葉を選ぶ。

「受け入れてくれるだろうか?」


「魔女の恐ろしさを一番に知っていますよ、あの人は」

デイジーは薄く笑った。


+++++


「あー疲れたー」

デイジーはベッドにダイブした。

彼女は魔塔の魔術師クロヌスと共に、事件の詳細を記録する予定だったが、流石に疲れた。

それと、聖女デイジーの名で保護した女中の再就職先も、ヴァイオレット商会に要請中だ


「本当に噂を拡散する必要があった?」

クロヌスが眉をひそめて尋ねる。


デイジーは包帯の巻かれた手を伸ばして微笑んだ。

「そりゃあそうでしょう。私への暴力沙汰何て、ローズマリーさんに比べれば軽いものです。まだまだ高位貴族の権威が強いですからねえ。ただの断罪だけでは不十分なのですよ」

「あんまり感心しないけど。女の子の顔を殴るなんて」

「いやー、私も術でメイソン公爵令嬢のお尻に拷問器具をぶっ刺しましたからねぇ。四つん這いのまま王都の病院に搬送されて、さぞ屈辱でしょう」


クロヌスは呆れたように頭を振る。

「とにかく、無理はしないでね。傷がまだ……」


「わかっていますよ」

デイジーは窓の外を見る。第三王子帰還で歓声が沸き、街は活気に溢れている。しかし彼女の目は冷静に未来を見据えていた。


「さて、これからが本番です。

私は敢えて、コールデン前侯爵夫人と因縁のあるジョンソン・ワーズ文官と同じ順序を踏みました。…結果、監禁されました。

これでレイナルドの派閥も簡単に彼を擁護できなくなります。と、いいますか、国際問題になりかねないので動けないですね。

さあ、帰還した聖女殿にはかなり難易度の高い問題が出されますが、彼なら飲み込んでくれるでしょう」



***


「貴公の……尻を公開検査することで、この法の正当性を証明してほしいのだ」


『貴族男性純潔法』を前にヴィルヘルム第三王子は静まり返った。

高官たちは互いに視線を交わし、中には明らかに困惑した表情の者もいる。


「これが……国のためになると仰るのですね?本気かクソジジイ」


「そうだ」



+++++


「…何でこういう変な法律はスッと通るんだろうね」


「戦争回避の為ですからねえ」

貞操帯を付けられて子孫断絶されかけるわ、蝉になるわ。

実父から公開で尻を見せろと真面目に言われて碌な目に合っていないヴィルヘルム王子。

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