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身代わり令嬢は二度死に、最愛の幸福を掴む  作者: 桃緑茶


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27/50

27.監禁された聖女、一発かます

*お尻の描写があります。ご注意ください。

次回、糞旦那に拳が飛びます。

鏡の聖女こと新聞記者デイジーがメイソン公爵邸に捕まって1週間程。

(そろそろ、やらかしてくるでしょうねえ)

エリザベート・メイソン公爵令嬢は叔母のオーギュスタに似て苛烈な性格らしい。

デイジーの顔には殴打された痣が出来ていた。



コールデン先代侯爵に接触した後、追手を撒けないと判断して捕まった。

だが、聖女の証を持つデイジーに追手たちは困惑。

「どの聖女だ?」「死の聖女だと厄介だぞ?」「憤怒の龍侯爵の逆鱗に触れるのでは?」


「あ、私は鏡の聖女って呼ばれていますね。それ兼新聞記者のデイジーです」

捕まろうが、のほほんとした様子の聖女の言葉に、追手は凍り付いた。

新聞記者でもある鏡の聖女は自国だけでなく、ファインブルク王国や蛮族ベリオドールの中枢との橋渡し的存在。


更に、デイジーの能力次第では、攻撃特化の聖女全ての力を受ける羽目になることは理解できた。

特に、死の聖女との相性が良すぎる。

「お嬢様に報告を…いや、当主様の指示を仰ごう」

(ふむふむ。令嬢や妹の面倒な我が儘を当主は許容していると)

なので、特に尋問する訳でもなく拘束をして、メイソン公爵邸に連れてこられた。

尚、彼らは屋敷の鏡をすべて外せと叫んではいた。

(あんまり意味無いんですけどねえ)

デイジーを目隠しして屋敷を見せないようにしているが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『遠視』使いという先入観でその辺りの機転が利いていない。


その追手も当主であるメイソン公爵が『呪い返し』で、コールデン先代侯爵同様の病に伏せっている事に動揺。

死の聖女の関与を恐れ、デイジーの処遇に戸惑っていた。

どうするか混乱する中、令嬢がやらかした。



デイジーの所持品である、コールデン侯爵領で撮ったレイナルドと愛人のデート中の写真を手にして激昂。

デイジーを何度も殴った。

「何で!なんでレイナルド様の傍に居るのが!何処の者かも分からない女なの!!」


夕暮れの光が部屋に入る。拳を受けた頬が焼けつくように疼き、喉からは微かな鉄錆の味が滲んだ。

(女性の拳でも、指輪付けていますからねぇ。結構痛い)

デイジーは令嬢に掴まれ乱れた金髪の隙間から天井を仰いだ。


「申し訳ございません……お嬢様を止める手立てがなく……」

室内で若い女中が震えながらデイジーの腫れた頬を水で冷やす。

彼女の腕も古傷が目立つ。

(手当をしてくれるだけでもありがたいですね)

ああいう手合いは痛みに反応する程苛烈になる。なので、一切の反応を消して無表情で暴力を受けた。

公爵の屋敷の一番端の部屋。牢屋ではないので鍵の造りも甘いだろうが逃げることは難しいだろう。

デイジーの足は鎖で拘束されている。

行き来できるのは室内のベッドと仕置き用の椅子位だ。

鍵開け位は出来るが‥‥‥。



(というか。それじゃあ面白くない)

コールデン先代侯爵の涙を思い出すと、少しは仕返ししておきたい。

呪いでやつれ果て、自身の言葉を無視されても尚、彼が一番に救って欲しいと告げたのは。

会ったことのない義娘ローズマリーの事だ。

あの侍従も苦しい日々だっただろう。

前侯爵夫人の意志に反した同僚は皆怪死し、恐怖を抱えて先代侯爵の介護をしていた。

――一発かましてやりたいとは思う。



「構いませんよ。あの令嬢…エリザベート・メイソン公爵令嬢でしたか、相当溜め込んでいますねぇ」

血を拭いながら微笑みかける。女中が恐る恐る差し入れた紅茶には香草の薫りが漂い、彼女なりの精一杯の誠意を感じた。

カップを持ったままのデイジーを見て、何かに気付いたように、慌てた女中はその紅茶を一口飲んだ。

「どうぞ、問題はありません」

「そんな心配はしていませんよ(まあ、屋敷の情報は転送できましたし)」



「令嬢様は幼い頃からレイナルド様を……」

女中が言い淀む。

「幼馴染として育ち、将来を誓い合われた仲だと」

「あらまあ」

(どうしましょう。そのレイナルド様、お尻を愛して欲しい変態ですけど。女性でも男性でもいいド変態ですけど)

その辺は言わないでおこう、親切な女中の夢を壊すのは良くない。

令嬢も幼き頃に誓った、レイナルドが覚えてもいない恋慕に縋っているのだろう。

…実際のレイナルドは伯父と実母の愛の時間…実母オーギュスタが若きメイソン公爵をオンナノコにする様子を見て特殊性癖に目覚めたのだが。

愛人のマリーがレイナルドの尻を愛する前は、宰相閣下にお尻を愛して貰いたい変態だが。

(…令嬢の夢だけは壊さないであげましょう。痛いけど)

 

デイジーの瞳に映るのは傷を手当てするため、女中が用意した水盆の中の映像。

遥か離れたバーンベルク侯爵領の商会で組員がメイソン公爵家の見取り図を睨む姿だった。


「おーい、大丈夫ですかー?」

水盆に呼びかけながら女中に気づかれないよう小声で会話を続ける。

鏡が無くとも、紅茶や水盆の水面や窓などを介して、会話は可能だ。

水面が揺れ、組員の声が波紋と共に伝わってきた。

『無事か? 位置は分かった。だが……』

「ですが?」

『お前のいる公爵邸……警備が異常だ。しかも増援が続々と到着している』

「でしょうねぇ、クーデター中みたいですし。私も予想していました。でも最悪の事態ではないですよ?」

『そうか? 顔がひどい状態に見えるぞ』

「これぐらい平気ですよー」

とはいえ、あまり時間を掛けると使用人の心境も変わっていくだろう。

(なるべく早く、『事』を起こしてくれれば、逃げられますがねぇ)


***


「レイナルド様に愛人など認めない!」

性懲りもなくやって来た公爵令嬢。

エリザベートが鞭のようにしなる革紐でデイジーを叩いた。革紐が当たった大理石のタイルが軋み、デイジーの頬の血痕が引き伸ばされていく。


(あらあら。完全に理性飛んでいますねぇ、でも待っていました)

水盆越しの組員たちの息遣いが聞こえる。

「もう少しだけ耐えろ」という囁きに唇だけで応じた。

今はまだ救助班が建物を取り囲んでいる段階だ。


「ここにある玩具……全部試してあげるわ」


(さて……始まりますね)

壁際の棚には悪趣味な道具が並べられていた。

エリザベートが歩み寄り、それを手に取る。


「お待ちください! お嬢様!」

部屋の隅で震えていた女中が突然叫び、割って入った。

「この方は……聖女様ではありませんか!どうかお止めください!!」


エリザベートの目がデイジーの胸元に釘付けになった。蝉の意匠は聖女の証。


「フンッ……」

嘲笑を浮かべながらも、エリザベートは一度手を引いた。

そして女中を革紐で叩いた。しかも、顔を。

「聖女って純潔が必要なのでしょう?そうじゃなくなればいいのよ」

よろけた女中はエリザベート付きの侍女に腹を蹴られ、呻いていた。

(いや。出産しても聖女でいる方も多いんですけど。童貞じゃない聖女の場合はどうなんでしょう?)


彼女は棚から拷問器具を取り出した。

「これを使えばいいわ。女なんてみんな同じだもの。悲鳴を上げるだけ」

(さすがにマジな拷問器具出てきましたね。こちらの準備は万端ですが。問題はタイミング)

知っていて使うのであれば、デイジーも容赦はしない。


「聖女だからといって特別扱いはしないわよ」

拷問器具がデイジーの脚に近づく。



刹那。

扉が爆発音と共に吹き飛んだ。王都騎士団が剣を抜いた状態で十数人が雪崩れ込む。


「王都騎士団だ!公爵家エリザベート嬢、即刻武器を捨てよ!」


一瞬の静寂。それから騎士隊長が一歩進み出る。

「ふざけるな!こいつだけでも壊してやる!!」

エリザベートが狂乱して拷問器具をデイジーに向ける。


「あなたの大好きなオーギュスタ夫人の所為で、貴女はレイナルドと結婚出来ません。可哀そうなお嬢さま」

そう告げたデイジーと『目が合った』。

「どう云う事よ」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これ、()()なんですよ」

(…切り札ですよっ…と)


「黙れ平民風情が――グギャアァァァ!?」

令嬢の絶叫が響き渡る。

エリザベートの体が激しく痙攣していた。


「な……何だ!?」

公爵令嬢の背中が弓なりに反り返り…明らかに異常な動き。

彼女は自身の肛門に拷問器具をぶっ刺していた。


「あちゃ~。…すみません、私、怒っていたものですから」


デイジーの片目はこういった非常事態において、死の聖女の瞳術が行使できるように術式を施してあった。

殺意或る者、悪意ある者の行使する力をそのまま跳ね返す。

ただし、彼女と魔力量にあまりにも差がある上、目という繊細な場所での術の発動。

使用は日に二回のみ。効果も劣化するので、視界内の相手を行動不能にするに留まる。

『普段のお前ならね。お前はそうそう怒りの感情に呑まれないけれど。

怒りを帯びていれば私と同等の力を持つだろう』


コールデン先代侯爵の件で、デイジーは怒っていたようだ。

なのでデイジーにやろうとしたことがエリザベート自身にはね返った。

純潔を散らすのは避けたのだが、尻に拷問器具を刺してしまった。まあ、自業自得ではある。

尚、救援が来なくても拉致した連中の眼球の水晶体。それに有象無象の光景を見せてかく乱して逃げる位は出来た。

それをしなかったのは、メイソン公爵家に明確な捜査の手を入れる為。

聖女と云う肩書き一つで内部を暴けるなら、殴ればいい。



「デイジー!!」

騎士たちが使用人を拘束する中、黒い外套を翻して飛び込んできたのは――魔塔の魔術師だった。

「あ、クロさんすみません。パンツ取って下さい」

と、言っても令嬢に破かれて布切れになっているが。

「!!??何をされた!!??」

(あー……これ私、キレられますね)

「令嬢に破られました。取り敢えず顔と…女中さんがお腹を殴られましたね。

…うーん、別にスラックスだし履かなくてもいいですかね」

「せっ聖女様の荷物を持って来ます!!もしくは私の物を使ってください!!新品ですから!!」

「あ、あの女中さんは私を公爵令嬢から庇って殴られました。被害者です」

魔術師は素早く脈拍と負傷箇所を確認すると、治癒魔法を行使する。

「痛い?」

「ええ……ちょっとひどめのビンタ受けただけです。あ、完治はしないで下さいね証拠なので」

痛みを笑顔で押し隠す。

パンツを持ってきた女中にもクロヌスは治癒魔法を掛けてくれた。


「申し訳ございません!!聖女様の下着は在りませんでした!!」

デイジーの荷物は荒らされていたようで、下着一式無かったそうだ。

粗末なものですみませんと、女中の新品パンツを貰った。

(まあまあ大変でしたねぇ。……でも、ちゃんと届けましたよ)


高位貴族の一門を裁くきっかけを。


騎士や魔塔の魔術師がブチ切れて、聖女の下着を盗んだものをひっ捕らえろと怒号を上げる。

「メイソン公爵は捕獲できました?」

「ああ、酷いものだよ」



「うわー……私のパンツ‥‥‥」

パンツを履いてスラックスも着用したデイジーはメイソン公爵を見て唸った。

公爵領の主館奥座敷。巨大な天蓋付きベッドの上で呻く巨漢。メイソン公爵の醜態は惨憺たるものだった。

何故か頭に被せてあるのはデイジーのパンツだった。


「ご覧ください。あれがかつて栄華を誇った公爵家の一角とは誰も思うまい」

騎士が低い声で報告する。

「公爵は数週間前から蟲毒によって腸内に毒虫を産みつけられ、直腸が溶け落ちた状態で呪い返しを受けています。肛門括約筋は既に機能せず、排泄制御不能の状態です」

お尻が汚いからデイジーのパンツを頭に履かせたのだろう。


「蟲毒でしたか。そりゃあそうなるでしょうねぇ」

デイジーは異臭に口を覆う。

「聖遺物なら効果があるだろうと、聖女様の、その。下着を被せたのでしょう」


「誰が人攫いの暴行犯に慈悲を掛けますか。死んでも居ないしむしろ怒っていますよ、お気に入りなのに。

他の下着は見つかっていないんでしょう」


呪いを恐れて装備させたのだろう。クロヌスから殺気が漏れていた。

「公爵閣下は王都の地下牢へ移送されます。王室直属医師団による治療は承認済みですが……」

「治らないでしょう」

デイジーの断言に騎士が息を飲む。

「完全に自業自得ですよ。蟲毒で人を死なせた。

はい、こちら呪殺された人のリストです。まだ生存されている方のリストもどうぞ。

後は、無関係な人々や呪術の犠牲になった人へ被害が向かないようにするくらいですね」


(それにしても)

「エリザベート嬢はどうなるんです?」

「あの御令嬢も廃嫡は免れないでしょう。拷問器具で自傷した傷の治癒をしようにも、器具が抜けないので。あのまま王都に搬送します」

「それはそれは」

屈強な騎士でも抜けなかったので、専門医に見せるそうだ。


「あと、メイソン公爵の後妻の方は?」

「生きてはいますが……」

夫人は公爵よりも酷い。目も潰れたらしく、意識朦朧としているらしい。



(まあ、エリザベート嬢だけ無事では逃しませんよねぇ)

事と次第によっては、前公爵夫人の娘のように保護も辞さなかったが。

その必要は無い。


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