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身代わり令嬢は二度死に、最愛の幸福を掴む  作者: 桃緑茶


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26/50

26.ゼラ、ローズマリーに結婚を提案する

*次回、監禁された聖女が酷い目に合います。

その代わり、加害者のお尻が地獄を見ますのでご注意ください。

ローズマリーは窓辺の花を見つめながら呟いた。

「私、19歳になったのね」

婚約が決まってから事故に遭い、気付けば2年も経っていた。


「この体じゃあ、もう結婚なんてできないわよね」

ローズマリーは寂しそうに笑った。


その時、ちょうど病室に入ってきたゼラが軽く肩を竦めて言った。

「それなら私と結婚するかい?」

ローズマリーは目を丸くした。

「えっ!ゼラお姉さんと?」

「冗談じゃないさ。ま、ロージーが嫌じゃなければね、喜んで相手になるよ」

ゼラの声はどこか真剣だった。


ちょうどその瞬間、書類を抱えたクラウス弁護士が入室してきた。ゼラの言葉を聞いて手元の書類がバサバサと床に落ちた。


「……今……なんと?」

クラウスの顔が硬直している。

ゼラは苦笑した。

「私のところでの風習でね、妻同士の契りと言うんだったかな?」


「奥さん同士?」

ローズマリーが首を傾げる。


「本来は既婚者同士の女性同士の妻の契りのことさ。お互いを姉妹や親友のように第一に考え、旅行に行き、一緒の墓に入る事もある。ま、夫のいる結婚とは別の形で家族になるということ…だったと思うけど」

あまりにザックリした説明。

ゼラの説明を聞きながら、クラウス弁護士の緊張が僅かに和らいだ。彼は密かに安堵の溜息をつく。

(つまりゼラ殿は未婚だし、私も機会があるということか)


ローズマリーはクラウス弁護士の微妙な空気に気付きつつも、からかうように笑った。

「じゃあ私にもチャンスがあるのね!もし貰い手がなかったらゼラお姉さんのお嫁さんにしてもらってもいいかしら」

「ああ。ロージーが望むならね」

「わあ、ゼラおねえさんがローズマリーの家族?僕は賛成っ!」

はしゃぐ二人にゼラは優しく微笑んだ。


「もちろんだとも。だがまずはロージーの健康が第一だ。何も急ぐことはないからね」

クラウス弁護士が小さく咳払いを繰り返す。

「どうしたのさ、クラウス。風邪?無理するなって言ったじゃない」

「あらまあ。でも師匠、それって既婚者同士でしょう?」

リコリスがにっこり笑って割り込んだ。

「そうだったかな。まあ、そういうのもありかなと提案してみただけだよ」


ゼラは楽しそうに答えたが、クラウスは内心穏やかではなかった。

結婚なんてワードが出た時点で動揺したのに、まさか妻同士の契りなんてものがあったとは。夫のいる既婚者同士のものだと。


――ゼラ殿はまだ独身だぞ?


クラウスの混乱をよそに、リコリスに追随してローズマリーも続ける。

「クラウスさんはどう思いますか?私とゼラおねえさん、姉妹みたいな関係で一緒に暮らしても?」

「え?あ、ああ……お嬢様が望むなら私は何も……」

しどろもどろになりながら何とか答えるのが精一杯だった。平静を保とうとしているのか、何もない所を掴み書類を集めようとしている。

ゼラは小首を傾げつつも資料を拾いクラウスに渡した。

「クラウス、例の件の最新情報と、修正点について少し話したいんだけど」

ゼラが真面目なトーンで切り出してきた。

「ああ、はい。今すぐ」


これ幸いと挨拶をして席を立ち、ゼラと共に病室の隣の執務室へ移動するクラウス。


「リコさん、おねえさんって恋愛関係、鈍い?」

「そうなんですよねぇ。ずーっと仕事一筋ですし、…私生活も雑ですよー」

「あらあらー、おねえさんにはしっかり者の彼氏さんが良いかもしれないのに」

「ですよねぇ、目の前にいるんですけどねー」

「「お似合いだと思うんだけどなぁ」」


ひそひそ話で恋バナを楽しむ二人とローズであった。



扉が閉まると同時にクラウスは大きく息を吐いた。

「……まったく。肝が冷えましたよ。結婚だなんて単語が飛び出すから」

「ああ。冗談が過ぎたかな。驚かせてすまなかったね。

正式な結婚とかじゃあないけれど、一生あの子を支えるって意味では良いかなって思ってさ」

ゼラは悪戯っぽく微笑んだ。

「まあ、私自身、結婚はあんまり考えていないけどね。細工師としてまだまだだし、やる事が多い」

いつもそうだ。飄々とした態度で本心を見せない。

「まあいいさ。それより本題だ、第三王子の帰還の宴の件だけど――」

冷静を装って資料を広げたが、さっきの会話がどうしても頭から離れない。

ゼラは強い。

商会に入る前は独学で法文を読み解き、職人たちを不当な労働から守っていた。

ローズマリーを救出するために躊躇なく行動する覚悟を決めた。

そんな強さに惹かれている。しかし同時に、自己犠牲的すぎる危うさも感じていた。


ローズマリー嬢の時だってそうだ。自分が怪我をしているにも関わらず、休むことなく証拠集めに奔走した。

一人で無理をして、一人で抱え込む。

彼女の心の闇を垣間見て、押しつぶされそうになっても。

涙で目を赤く染めないため、泣き声を隠す為水桶に顔を突っ込んで泣いていた。

そして、彼女が安心できるように頼れる『姉』としての姿勢を崩さない。


だから目を離せない。


「……クラウス?」

「ああ、すみません。それに伴う装飾品の配布ですが――」

今までは深入りせず、弁護士と依頼人の関係を保つことを重きに置いていた。

…少しだけ、踏み込むとしよう。

彼女の姉の件。禁術の件。


何もかも抱え込ませないように、力になろう。



+++++


夜になり、病室の窓から月明かりが差し込んでいた。ローズマリーはまだ眠りについていなかった。


「お父様」と彼女は父親に話しかけた。

「私、怖い夢を見ることがあるの。だけどその夢の中の情景がよく見えない……まるで霧の中にあるみたい」


シモンズ男爵は娘の手を握りしめた。

「大丈夫だよ。怖いものはパパが全部追い払ってしまうから」

「…うん。あ、オールス様にお花のお礼、ちゃんと言えてないわ。こちらでのお仕事が終わったのよね?」

「ふふ…ロージーは夢心地でちゃんとお礼を言っていたよ?」

「やだ、起こしてくれたらいいのに。…今度はキチンとお礼を言いたいわ」


ローズマリーが髪の件を気にしたら、父もオールス卿も丸坊主にする勢いだった。

ゼラまでやり兼ねない勢いだった。

身体が動かない事は怖い。

でも、両親や優しい人たちが傍に居てくれるから、少しずつでも出来ることが増えるといいとローズマリーは思った。

それが彼らへの恩返しになるだろう。



『身代わり人形』の件は着実に進んでいる。

事実、ローズマリーから『マリー』の事を話すことは減っていった。

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