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身代わり令嬢は二度死に、最愛の幸福を掴む  作者: 桃緑茶


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23/50

23.新米諜報員と人形師リラ②

どこから現れたのか全く分からない。

「どなたです?」

「私ぃ?リラよ~、人形師リラぁ」

「あら、ご親切にありがとうございます。新聞記者のデイジーです」

そう告げて名刺を差し出した。


「お行儀のいい子ねぇ。あ、オーギュスタちゃんわねぇ。悪い子だからぁ、マリーちゃんとレイナルドちゃん達でお仕置き中よぉ~♪」

魔女のような笑顔を浮かべながら、女性は指先で器用に針を操り始める。

実際に魔女なのだろう。肌で感じる魔力が何処か歪んでいる


「あなたが嗅ぎ回っているの~?可愛いわねぇ」

「……コールデン侯爵邸で起きていることを、教えてもらえませんか?」

リラは針山から一本ずつ糸を取り出し、空中で複雑な模様を描き始めた。部屋の調度品が微かに震える。

「誰の命令~?王家のおつかいかしら~?まだ知られたくないのよねぇ~」

何やら秘密の作業があるらしい。

「そちらの名刺の通り、ヴァイオレット商会の編集部門ですよ」

「じゃあ、味方かしらぁ?」


リラが急接近する。

「マリーちゃんの話が聞きたいのかしらぁ?」

「まあ、気になりますねぇ」

この記者も一歩も引かない。と、云うか肝が太い。

「私はここの今の侯爵がロクデナシで、2年ぶりに戻ったと思えばローズマリー嬢とは違う女性とイチャコラしている情報くらいしか知りませんし」

「あら~、レイナルドちゃん、酷い言われよう~」

「後は、この領の管理者さん。先代侯爵様と同じような病気で亡くなってから、本当の意味で立ち行かなくなっていますね。

他にも何人か。どなたも先代侯爵様と縁の深い方ばかり」


「まあねえ~本当は呪いで死んだけれどぉ~」

「呪いですか」

リラは糸玉をくるりと回しながら首をかしげた。

「実はそのマリーちゃんね~、ごく普通のお人形さんだったのぉ~」


「え……?痛っ」


デイジーは自身の頭に針を刺されたのだと遅れて知った。

リラの指先が空気に奇妙な紋様を描いている。まるで目に見えない針で刺繍をしているかのようだ。


「正確にはぁ〜、マリーちゃんはぁローズマリーちゃんの『身代わり人形』なのよ~」

リラは突然ぐいとデイジーの襟首をつかんだ。

「ほらここを見て〜?」

デイジーは自身の能力を強制的に使われている感覚に陥る。

そこは、デイジーも知るヴァイオレット商会が管轄する病院の一室。

ベッドの上には痩せこけ、髪もまばらな女性と――

「…ゼラさん?」


「良かったわぁ、貴女がローズマリーちゃんの病院を知っていて~。でないと貴女の頭がぐちゃぐちゃだったわぁ。

ゼラちゃんのお友達を殺しちゃったらぁ、また絶縁されちゃうわぁ。今度こそぉ殺されちゃう~」

かなり過激な魔女らしいが、一定の分別はあるらしい。

「痛たた…、実際知っているのは『病室』ですけどね。私、一度行った場所なら鏡や反射物を介して『遠視』が使えますから」

それでも、リラの干渉でローズマリー嬢が何をされたか記憶が流れ込んでは来た。

…ついでに彼女を虐げた者達が、リラの生ける作品になっている情報も。

「あらあらぁ、あなた凄いのねぇ……。そんな凄い子なら、不足分を調達できるかしらぁ?」

「不足分ですか」

「ちょっと荒療治になるけれどぉ」

「私が協力すれば良いんですね?欲しいのは…人間の様々な感情と奪われた代償でしょうか?」


リラの目が爛々と輝いた。

「貴女、とっても賢いのねぇ」

「いやー。此処の領地に入って分かりますよ。此処じゃあ、貴女の欲しいものは得られない」

デイジーは苦笑するしかない。

「そうなのよぉ、領民ちゃんはぁ良い子ばかりだものぉ~」

リラは楽しげに手元の針を回した。

「最低でも、500年分の寿命が欲しいのよねぇ~。マリーちゃんとローズマリーちゃんだとぉ、身代わりになる対価がそれだけ必要ぉ~」

「生き物の寿命と、無機物の寿命の差分が問題だと。

特に、本来身代わりなどの用途で作成していない人形…それも年月がそれほど経っていない物質の変化ならば、後付けで諸々の条件が必要でしょうし」

「あらぁ~。本当に賢いのねぇ~頭をぐちゃぐちゃにしようとしてゴメンなさいねぇ~。

そうよぉ、マリーちゃんは私が普通のお人形さんとして作ったのぉ。

ローズマリーちゃんのパパとママから取る訳にも行かないしぃ~。

――ローズマリーちゃんを殺そうとした奴らから、頂きたいわ」


「あなた、狂った風でいますけど、色々考えていますね?」


空気が凍った。

リラの双眸に狂気が宿るが、記者は言葉を止めない。

「前提としてローズマリー嬢の治療で、人形マリーが全ての怪我の身代わりになります。

最低限の条件として、怪我の代償で人形マリーの『2度の死』、そして付与する魔力。

人形マリーから溢れる憎悪の制御のため、ローズマリー嬢を慮る者の『感情』。

それとローズマリー嬢を加害した者の『生命力』が必要。

『贄』が目視できる範囲に、ローズマリー嬢か人形マリーがいなければならない」

リラの狂気が徐々に治まっていく。

「それと、現在も呪いに抗っているコールデン先代侯爵様、領地管理人の御子息、コールデン領前騎士団長、先代召し抱えの執事、使用人、神官‥‥‥。

呪いで寿命を削られた人たちの寿命を、加害者たる悪人から徴収したい。

ですが、悪行を証言させるために前侯爵夫人や屋敷の使用人では寿命をゴッソリ絞り切っても足りない。

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

ついでに言えば、諸々金銭などを吸い取った後に、前侯爵夫人派が報復を企てた際に抑止力となる彼らが必要でしょう?」


「‥‥‥なぁんで、分かっちゃうのぉ?」

「ただの勘ですよ。…そうすると、儀式の場所が必要でしょう。

『贄』やら『儀式』とは言いますが、誰彼と命を奪わないのであれば、打って付けの場があります」

魔力が潤沢にある者。良心を持つ者と、ローズマリー嬢をあのようにした者達が必ず集う場所。


「半年以内で良ければ、心当たりは在りますよ」

「あらぁ。凄いじゃない、賢い子だわぁ!よく分かるわねぇ~、で?どこかしら~」

記者は告げる。

「グリンホルン共和国ヴィルヘルム第三王子帰還の宴。この国の英雄の宴ですから、絶対来ますよ。貴方が望むものが」

と、いうかその辺りの方が良い。

本人には悪いが、まあ英雄と持ち上げられるのを嫌う人だし、宴を多少壊しても寛容だろう。

「さすがぁ~!」


「ただ、あんまり引っ掻き回すのは勧めません。会場には強烈な聖女が4・5人来ます」

聖女自体500人いるのだ。ついでに言えば増加している。

「下手すればマリーさんごと貴女も潰されます。

寿命をゴッソリ抜いて良い方、半分に留める方、数年で抑える方に分けて、事前にゼラさん辺りに報告しておく方が良いでしょう。

で、目的だけ果たして撤収してください」

「うふふ~、そうなのねぇ、教えてくれてありがとうねぇ~」


「まあ、庇う必要も無いでしょうけど。罪の重さでやっちゃっていいんじゃないですかね?

あと。

ローズマリー嬢の件、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?

体調が良くないので、信頼する侍従さんを介してですけど」


「あらぁ、会ったのぉ?」

「ええ、なので。うっかり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

それで貴女は困っているのでしょう?」



記者は此処に来る前、如何にかコールデン先代侯爵様の保養地の屋敷に潜入した。

異常な監視の目の多さに驚いたが、如何にか侵入した。


そこで、寝たきり状態で呼吸もままならない状態で手紙を書く、瘦せ衰えた先代侯爵を発見したのだ。

病人特有の臭いを嫌い、彼の監視は薄かった。

その際、記者の身に着けていたアミュレットがぶっ壊れた。

――先代侯爵に向けられた、尋常ではない悪意によって。

これはマズイと、そのアミュレットを先代侯爵の首に下げると彼の呼吸は幾何か安定した。

とある聖女の加護が込められたそれは、壊れても3分後に自動修復される。

一時的に『死』を与えた対象に反射したからか、先代侯爵の呼吸は幾何か楽になったようだ。

騒ぎを聞きつけた彼の侍従は記者に感謝を述べて、見つからないうちに逃げるように告げた。

取り敢えず記者自身の能力を告げて、監視が無いときに連絡をくれと伝えると、先代侯爵は震える手で記者の腕を引き、手紙を差し出した。


『国王陛下へ』『元老院議長へ』『ローズマリー嬢へ』『シモンズ男爵へ』『ワーズ子爵へ』…

あまりにも弱い筆圧の文字で、何度も血を吐きながら。

届かないと分かって尚…書き綴り、送っていたのだろう。

「貴女の、信頼できる、者へ、知らせてください。ローズマリー嬢を…無辜の民を…お救い下さい。

――()()()()()


血を吐きかすれた声で。

涙を流し、衰弱しきった細い手で。

それでもヘルムート・コールデン先代侯爵は、震える手で手紙を持ち、鏡の聖女デイジーに託した。



手紙の分だけ被害者は要る。

人命云々を目の前の魔女へ説く気は無い。


「ゼラちゃんに怒られなくてすむわぁ。お人形さん、沢山壊しちゃったものぉ」

そう話すや否や、リラは室内から消えた。


「‥‥‥。メイソン公爵領に調査、行きますかねぇ」

その前に、記者は中間報告を行った。

「ベルさんの加護付きのアミュレットは先代侯爵に渡しちゃいましたし。

託されたものはキチンと届けないと。

追手、振り切れていませんしねぇ」


メイソン公爵領に入った後。

――記者の足取りは途絶えた。

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