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身代わり令嬢は二度死に、最愛の幸福を掴む  作者: 桃緑茶


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20/50

20.宰相一家 お尻地獄③

*変態が本領を発揮しますし、マリーもノリノリですので閲覧にはご注意ください。


――…*………。


「‥‥‥キッツイ。大惨事だろ、それ」

リコリスの情報は諜報に長けた彼でもキツイものだった。

「その分お給金は良かったんですけどねぇ、大変でしたよ」

メイソン公爵の奥方は若くして儚くなってしまったが…原因はコレか?

…グリンホルン共和国の隣国フォルテの姫。深窓の令嬢なら、そんな最悪な営みに耐えられる訳が無い。

「待て…『家族愛』をワザとレイナルドに見せたって?確かメイソン公爵家には娘がもう一人いた筈だ。馬車での事故で亡くなったとされているが‥‥‥」

調べた方が良いだろう。


商会の組員が思案する間、リコリスが立ち上がる。

「だからね!マリーちゃんがそんな粗末な扱いを受けるなんて!病気になったらどうするの!?」

「……リコリスおねえさま、私、人形ですのよ?」

マリーはポカンと口を開けた。

「でもっ、綺麗な子が汚れるのは!同じ女の子として勧めません!!」


「でも、レイナルドに恥をかかせられるのよね?」

「うっ」

「ふむ…マリーさんの犠牲を糧にすればよいでしょうね。映像として残しておきましょう。立派な不貞の証明となる」

「ちょっ」

「メイソン公爵の醜態を亡くなった公爵夫人の生家にも情報共有しておきましょう。

フォルテ国の姫の死の真相を知れば、小国とはいえ黙っては無いでしょう。

多勢で申し出ればロージーお嬢様の状態も秘匿しやすい。

――死の精霊の加護を持つあの聖女殿なら、過去の死の記憶も忠実に再現できるでしょうし。

マリーさん、レイナルドにその辺の醜態を吐かすように誘導してください」

「うぐっ」

確実に外堀は埋められ、被害者が更にいるとなるとリコリスの拒否する姿勢は崩れていく。


「証拠映像があれば否定できない。取り敢えずファルケン宰相宛に送っておきましょう。

因みに、バーンベルク侯爵は弟君のセクハラの際、『次は無い』という忠告を破り、ご自身のお尻を狙う状況にお怒りです。

と、言う訳なのでマリーさん。――猶予は5日。

侯爵が抗議の手紙を送る期間はこれがギリギリです。それまでにあの野郎を糞野郎にして下さい」

「分かった。どんな手でも使ってやるわ」

(ああ~‥‥‥マリーちゃんがえげつない道に行っちゃう………。

師匠~ごめんなさいぃ~‥‥‥)


***


レイナルドの野郎を糞野郎にしたかどうか、の是非が判明する宰相一家お尻事件の現場。


カトレアは叫ぶように皆に告げた。

「廊下で彼がお父様の背中に向かって、『愛しています……』と小さく呟いていました!!」


――ファルケン宰相一家の集う場に、沈黙が落ちる。


「嘘だろ!?」


「本当です!耳に届きました。他の臣下も聞いていましたわ。

宰相補佐も隣国のバーンベルク侯爵様も…見目麗しい御方でしょう?

ですので、余計に『宰相閣下との愛の三角関係』の噂が飛躍したのかと…。

噂を否定しようにも、バーンベルク侯爵に言い放ったことは事実ですし‥‥‥。

お父様に相談しようにも…内容が…その‥‥‥」

カトレアは顔を覆って泣き出してしまった。

「カトレア、分かる。ただでさえクソ王太子の件で気を揉んでいるのに、父上の浮気疑惑だろ?

しかも男。‥‥‥誰に相談して良いか、分からないよなぁ」

つい最近。タウンハウスで療養中に、やっと兄に打ち明けたのだ。それですら辛そうだった妹を想うと本当に勇気が要っただろう。

「本当だったら、怖くて。でも…事実ではないなら、余計に恐ろしくて‥‥‥」


「なんだそれは……」

宰相の顔面は蒼白となり、小刻みに震えている。部下として扱っていた男に自分の尻を狙われていた恐怖で一杯だ。

叔父が唸るも、カトレアに優しく問いかける。

「彼の言動を詳しく話せるか?」


「例えば父上が退室される際……『寂しいです』とか『ずっと一緒だと思っていたのに』とか独り言のように言うんです。しかも最近頻繁に。

それと‥‥‥。宰相補佐の想いの真偽を知りたくて、調べていました。

2年ほど前から不定期にですが。

お父様がお母様に贈ったアクセサリーやドレスに類似したものを購入しています‥‥‥。

どうやら、バーンベルク侯爵夫人が…夫に贈られた装飾品と類似するものも定期的に購入して…自領に送っているようです――」

侍女がカトレアの私室からその購入履歴を持ってきた。

カトレアの証言と証拠による衝撃は、邸内に冷たい鉛のような重みを落とした。


「つまり……」

叔父が眉間に深い皺を刻みながら声をひそめる。

「奴は宰相補佐として君臨するために、利用できるものは全て使った。

爵位も血縁も……そして君や隣国の侯爵の評判も」


「まさか」

宰相は低く呻いた。

「私の妻や、バーンベルク侯爵の奥方に対する想いや敬意も、踏み躙ったというのか?」


フェリクスが呆然と立ち尽くす。

「父上が母上にお贈りになったデザインを模倣するなんて……目的は何なのです?」

「ローズマリー嬢に…自分の愛を証明しているつもりなのかもしれません。ですが…」

冷遇されていたのであれば、令嬢に届いているかどうかは不明。


元宰相は重々しくため息をつく。

「それではまるで二重の裏切りだ。家族や奥方への侮辱であり、同時に隣国との外交関係を危うくする行為でもある」


その時だった。

「お話し中。失礼します!!」

ファルケン宰相の副官が、薄い封筒と分厚い封筒を抱えて屋敷を訪れた。

「コールデン宰相補佐ならびに、隣国バーンベルク侯爵からの報告です。

バーンベルク侯爵は、レイナルド・コールデン宰相補佐がコールデン侯爵領に戻ってからの行動を独自調査していたようですが‥‥‥」

コールデン宰相補佐の報告は短い。


『妻は無事でした。暫くは妻と共に休暇を過ごします』


それでも、ローズマリー夫人の受けた仕打ちを鑑みて違和感しかない。

「訃報まで出たのだろう?シモンズ男爵夫妻に一報すら入れていないのか」

「そんなマメな男ではないでしょう。それと、あのオーギュスタが黙っているのもおかしいですわ」


バーンベルク侯爵からの封筒を開く。

彼は、諜報員をコールデン侯爵領に派遣していたようだ。

そこにはレイナルド・コールデン宰相補佐と、女性が写った写真。だが――

「この方…ローズマリー嬢ではありません!」


カトレアが書類を覗き込むと悲鳴に近い声をあげた。

「デビュタントで見たローズマリー・シモンズ男爵令嬢と似ても居ません!この写真のお方とは全く違います!!」

カトレアが震える指で差した写真には、ピンクブロンドの髪が陽光に輝く女性の姿があった。上質なドレスに包まれた肢体は均整が取れているが──どこか人工的だ。


「カトレアが見たのはデビュタント…ローズマリー嬢の若い頃とは言え…髪色は変えられるだろうが…。

いや、2年前にローズマリー嬢がご両親と撮った写真が同封されているな」

叔父はそう告げて栗色の髪の少女が無邪気な笑顔で、両親と写る写真。

それと自称コールデンの妻と見比べて告げた。

「……別人だ。じゃあ、この宰相補佐といる女性は?愛人か?」

「何と最低なの!?」


「まだ確認するものがあります」

封筒の中に、厳重に梱包された包みが入っていた。…二つ。



【現状のローズマリー嬢の姿・内密にすること】


【愛人との逢瀬・閲覧注意】



「これは‥‥‥」

『現状のローズマリー嬢の姿・内密にすること』と書かれた包みを手に取る。

宰相の記憶に、洗脳に近い虐待を受けたローズマリー嬢の報告が想起される。

「君たちは見ない方が良い…」

咄嗟に妻と娘を梱包されたそれから遠ざけようとした。

「いいえ、私も公爵家。上に立つ者として見て見ぬふりは致しません」

先ずは、ローズマリー嬢のものを、…開封した。


2年前、両親と撮った写真の令嬢とはまるで異なる、痛ましい姿。

痩せこけ、女性の命とも呼べる髪は抜け落ち、まばらなそれを花柄のスカーフで覆っている。

――身体は、どれ程の傷を負っているのだろうか。

女性のベッドサイドには、2年前の写真で付けていたブローチと同じ意匠のミモザが装飾されたブレスレットが写っていた。

ローズマリー嬢の好きな花なのだろう。スカーフの柄もミモザの花だ。


もう一つ。『愛人との逢瀬・閲覧注意』と書かれたもの。

――決定的な不貞の証拠だろうか。

(何だ…途轍もなく嫌な予感がする)

カトレアには刺激が強いだろうと、侍女に命じて下がらせた。

しかし、気丈にも宰相夫人は見届けるとのこと。


『閲覧注意』と書かれたそれを…開けた。


それは、映像式の魔道具だった。そして、映像が再生される。

激しく肉を叩く音。だが、リズミカルに上がる声は女のものではなかった。

『マリー、最高だっ!』

『気持ちいわねぇレイナルド。マリーは貴方を愛しているわよ』

『こ…これが‥‥‥愛っっっ!!』

逆。

男女が逆。逆!!!

貫かれているのは、レイナルド本人だった。


映像が再生されると同時に、部屋の空気は完全に凍りついた。


そこに映し出されたのは、肌も露わな男女――いや、正確には一人の女と一人の『女』と見紛うばかりの宰相補佐だった。

『ねえ、レイナルド。お義母様もこうやってメイソン公爵を愛していたのね?』

『そっそうっっっ!!伯父上は母上に愛されてヒヒィンッ!!家族愛とはこうあるべきだと母上はおっしゃったァァアンッ』

汚声をあげているのは、紛れもなくレイナルド・コールデン宰相補佐その人。

『亡くなったソフィア伯母上にもォオンッ、この愛を与えたのにィッ理解されずに儚くなったとォオン、伯父上は言っていたぁぁぁあああああっっっ』

彼が普段着ているスーツが散乱したベッドの上で、信じられないことに女のように喘いでいる。


――途轍もなく不穏な言動が聞こえたが、視聴している者たちの思考は固まっていた。


甘ったるく媚びる声。かつて見た目だけは聡明そうであり、整った顔立ちは快楽に蕩け切り、涎と涙と鼻水で見るも無残な有様だ。

腰を高く掲げ、背後にいる女――おそらくマリーと呼ばれたピンクブロンドの髪の『愛人』の女に貫かれ、甲高い雄たけびを上げる。

その度にリズミカルな乾いた音と水音が混じり合い、下品極まりない音楽となってファルケン公爵のタウンハウスの一部屋に響き渡る。


それ以降も恐ろしい発言が続く。

曰く。

『宰相閣下にもこうやって愛して欲しかった』

『君が僕を愛してくれるならそれでいい』


執事の一人は重要な証拠だろうと、速記でレイナルドの発言を虚無の顔で書き記していく。


「うぷ……」

最初に音を立てたのはフェリクスだった。彼は口元を押さえながらよろめき、次の瞬間にはドア付近にあった花瓶の中に盛大に胃の中身をぶちまけた。

「げほっ……うぇ……嘘だろ……あんな……あんな……っ!」

咳き込みながら言葉にならない嗚咽を漏らす。その背中を必死でさすっている侍従もまた顔面蒼白で唇を噛み締めていた。


「ぐっ……!」

続いて父親である宰相も喉元を抑え込み、堪え切れなくなった。

執事が持ってきた桶に、一度二度と苦しげな呼吸と共に酸っぱい液体をぶちまける。

彼ら父子にとって、部下ないし同僚が獣のように交尾する様子はあまりにも直視し難かったらしい。


あと、汚い。

美男美女の性の営みなのに、色々と汚いので不快感が半端ない。

こんなものは本当の糞野郎だ。


一方で、壁際に佇む叔父と元宰相とファルケン夫人は三人揃って同じ表情を浮かべていた。

「……」

まさに『死んだ魚』としか形容しようがない虚ろな瞳で画面を見つめているのだ。

何か言うべき言葉を探してはいるものの、その表情筋はピクリとも動かない。

唯一動いたのは眼球のみ。

「あ~……」

「うん……まぁ……ねぇ……」

「へー、メイソン公爵がオーギュスタに甘いのって…へー‥‥‥」

と、いった感じで無意味な相槌だけが虚空に消えてゆく始末だ。


その間にも画面の中では行為がどんどん白熱してゆく。

更に驚くべき事に彼自身も積極的で、最早誰が攻め側なのかまったくわからない状況となっていたのだ。


――一時間後、彼らは憔悴していた。


コールデン侯爵家当主並びに、メイソン公爵家当主のお尻地獄の全貌が赤裸々となった。

「これはもう治療不可能かもしれん……」

やっと発せられた台詞には絶望感すら含まれていた。

少なくとも一時間の映像記録で、今日一日分以上に疲れ果ててしまったであろう、一同の心情を如実に表していたと言える。


その後しばらく沈黙が続いた後、誰ともなしにぽつりと呟いた。

「……つーか、こいつ。誰でもいいから尻の穴を埋めてもらって…愛情表現(?)。して貰いたいだけだったんだな……」

誰に向けてということもなく言った台詞だが、妙に腑に落ちるものがあって一同納得してしまう。


「メイソン公爵夫人が儚くなった原因は、アレなのかも知れませんわ……」


映像視聴後、全員が屍のような姿勢で椅子に沈んでいた。

夫人が絞り出すように言ったその言葉が、今の状況における最も適切かつ辛辣な事実だった。


「……レイナルドの尻から『愛』が溢れすぎている件について、メイソン公爵に問わねば」

叔父がボソリと呟いた言葉に、誰も何も返せなかった。

フェリクスと宰相はそれぞれ用意された桶に向かい、『オエッ』と嗚咽を続けている。

フェリクスの侍従も顔面蒼白で吐いていた。


「あの方、初対面ではとても品のある青年でしたのに……」

と呟いた。


「正真正銘の糞野郎だったわけですか」

フェリクスが吐き捨てるような声で応えた。



――が、バーンベルク侯爵からの書簡はまだある。

と、いうか映像式魔道具からプリッと出て来た。

それは無造作に机に乗った。


ヘロヘロのフェリクスが机上のもうひとつの書簡をめくる。

「‥‥‥バーンベルク侯爵閣下からの指示です。『ローズマリー嬢の婚姻無効を進めよ。コールデンの職場復帰後は容赦するな。愛人の素性は無視せよ』──その最後に恐ろしい一文が」

「…何と?」


「『ソフィア・フォルテ・メイソン公爵夫人の生家に彼女の死の真相を送りました。フォルテ国の王は姉の死の真実を知るべきでしょう。

王は公爵家の異常性から逃れるべく、己の死を偽装したサフィニア・メイソン公爵令嬢との面談を申し出ている。

レイナルド・コールデン宰相補佐の愛人を、第三王子の帰還の宴に招くことを条件に彼女の居所を教えましょう。私も立ち会いますが、令嬢は父親を恐れていますので当然のことです』」


沈黙の中、窓の外で風が鈍く鳴った。

尻の件は一旦頭の隅に追いやり、叔父が静かに指摘した。

「ローズマリー嬢の件、ソフィア元王女の件。

奴の母親の生家――メイソン公爵家も関与している。

公表すれば国全体が揺らぐ。だが奴らの罪は尻の件含めて晒さねばならぬ」


元宰相が頷く。

「先ずは陛下に報告を。コールデン宰相補佐に近付く者は全員監視下に置くべきだ。メイソン公爵を招集しコールデン宰相補佐との関係を洗い出せ。

バーンベルク侯爵に詫びと共に情報提供を申し出よ」


フラフラの宰相は気を引き締めて決然と宣言した。

「明日の朝議でコールデンを呼び出し尋問する手筈を整える。それまでは口外無用だ。

シモンズ男爵の意向も聞きたいが…。

隣国で療養中の娘の元に居る以上、あのような尻狂いとローズマリー嬢は縁を切るべきだろう」

「あなた。あんなものの妻など、汚点ですわよ。

オーギュスタの動きが把握できないのは口惜しいですが、愛人が当主の尻を制している隙に無効の手続きを進めておきましょう」


「「異議なし」」


「「うっおえっ」」


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