19.宰相一家 お尻地獄②
*お尻地獄と銘打った以上、その名に相応しいものにした結果、変態が多数爆誕しました。
今回はゼラ・リコリスが話の中心ですが、次話からも変態と変態に苦しむ宰相一家が出ます。ご注意ください。
宰相一家お尻地獄が起きる5日前。
ゼラ達はシモンズ男爵夫妻との、今後の方針を決めていた。
「奥方は怒りのあまり、宰相閣下に怒鳴り込みに行くでしょう。愛妻家として有名な宰相閣下は、愛妾を補佐官に据え置いたと修羅場の真っ只中となります」
まあ、部下の管理体制の甘さもあるのでささやかなものだが。
(宰相の奥方はファルケン公爵家の出。まあ、コールデン侯爵の後ろ盾のメイソン公爵家もやり辛くなるだろ)
夫婦は呆然とゼラを見つめた。
(それにしても、流石はあの先代侯爵の息子だわ、うちの侯爵)
やる事がえげつない。
「どちらにせよ宰相補佐の擁護は無理でしょうね、憤怒の龍侯爵ことバーンベルク侯爵の弟君のセクハラ事件から、何も改善していないのかと糾弾され国際問題になる」
レイナルド・コールデン侯爵が救いようのないクズであった場合、庇い立てるような状況ではない。
「そこで一つ提案があります」
ゼラは少し微笑みかけた。
「噂は噂として流布させつつ、同時に正式な婚姻無効の申し立てを行いましょう。
宰相閣下は現時点では修羅場により、正常な判断ができないかもしれませんが。
証拠が全て揃い次第『宰相閣下は潔白でありレイナルド・コールデンの暴走によるもの』をバーンベルク侯爵に改めて証言してもらいます。
同時に公式な裁判での公表ではなく、秘密裏に交渉することで解決を図ります。ローズマリーお嬢様の婚姻無効と相応の慰謝料の請求です。
王侯貴族の醜聞として公になることを彼らが避けるならば、交渉は成立するはずです」
「もし……拒否された場合は?」
コールデン侯爵家か…前侯爵夫人の生家の妨害の可能性がある。
「私が国王たちを動かします。ただし、聖女ゼラではなく、ゼラ・ローズとして」
ゼラはそこで言葉を切り、一同を見渡した。
「ゼラ殿が?聖女としてではなく?」
シモンズ男爵が尋ねる。
「暴力ではなく、創造が私の武器で‥‥‥」
シモンズ男爵へ説明しようとした瞬間、ゼラの身体から力が抜けた。
「……っ!?」
突如として視界が暗転し、膝から崩れ落ちる。痛み止めがとうに切れており、肋骨が鈍痛を訴え始める。
山賊との戦闘、ローズマリーの救出による負傷。
5日間不眠不休でローズマリーが体験したおぞましい記憶の文字起こしと、侯爵家への情報収集。
その疲労がゼラの身体に一気に押し寄せた。
+++++
「ゼラ殿!」
クラウス弁護士が慌てて抱き留める。ゼラの額には脂汗が滲み、呼吸は浅い。
「だ……いじょうぶです……」
「そんな訳ないでしょう。いい加減休んでください」
ゼラは強がるも、意識は朦朧としている。
リコリスが駆け寄り師を止めに入った。
「師匠!?いいから休んでください!!」
シモンズ男爵の脳裏に、娘の心の叫びである原本を思い出す。
僅かに皺になった場所、雫の落ちた箇所。
『ゼラおねえさん』 『たすけて』
瘦せ衰え、親である自分ですら…娘かどうか理解に時間が掛かった。
崖から落とされ、瀕死の娘を川から引き上げた時。
…娘が付けていた婚姻祝いのブレスレットを見て、どう思っただろうか。
――どれ程悔しかっただろうか。どれ程、無力感に苛まれたのだろう。
娘が受けた2年間の苦痛や悲鳴。
それを我々に分かりやすく書き起こす作業で、どれ程、激情にかられただろうか。
それらを全て飲み込んで、彼女は娘の為にあらゆる手を尽くすというのか。
「ありがとう。心配せずとも、私たちはロージーの想いを優先するよ。あの子の傍に居る。…君はどうか、英気を養ってくれないか?」
シモンズ男爵の言葉で、ゼラはようやく目を閉じた。
応接室の長椅子に運ばれるとすぐに医師が容体を確認する。
「肋骨2本骨折と重度の過労……よく意識を保っていましたね」
「師匠…お嬢様の異変に、すぐに駆けつけられなかった事を凄く悔やんでいましたから」
男爵は眠るゼラの傍らに跪いた。
「ゼラ殿……本当にありがとう‥‥‥‥‥‥」
自身が再度手紙を出したころには、弟子と共にコールデン侯爵領に向かっていたという。
ローズマリーの状態から、ゼラが救い出さなければそのまま死んでいただろう。
ゼラはローズマリーの個室の隣の一室で休息をとる事となった。
シモンズ男爵夫妻がローズマリーの病室に入ると同時、娘はぼんやりと目を開けて、キョロキョロと周囲を見回した。
ローズが一生懸命にローズマリーに話しかけている。
「あっパパとママだよ、ローズマリーッ」
「ロージー!!」
「お母様‥‥‥。あれ?お父様…、お怪我、されたの?」
ローズマリーはシモンズ男爵の額の傷を見てそう告げた。
「あ、ああ。ロージーに会いたい一心で、転んでしまった」
「ふふ…危なっかしいわ。…沢山お話ししたいけど、…眠たいわ‥‥‥。
ゼラおねえさんは‥‥‥?」
「師匠は徹夜明けでも働くので、無理矢理寝かしつけて来ました!!」
「あら、リコさんったら…おねえさんは熱心な職人さんだものね。
…お父様たちとも、沢山お話ししたいけど‥‥‥」
「ああ、今は休んでいなさい」
「お父様もお母様も、ロージーの傍に居ますからね。ゆっくり休んで、落ち着いたら沢山お話ししましょうね」
夫人はローズマリーの頬に手を当ててそう告げた。
「うん‥‥‥いっぱい…お話し…しよう?‥‥‥‥‥‥」
ローズマリーは柔らかく微笑んで眠りに付いた。
+++++
その様子を見つめるリコリスに、商会の組員が追加の資料を持ってきた。
シモンズ男爵夫妻はやっと娘と共に過ごす時間を得たので、リコリスとクラウス弁護士で資料を確認する。
「コールデン侯爵の生家、メイソン公爵家のリストですか?
うーん。残りの原本に記録があるのかな…文字起こしを進め…ほあっ!!??」
「どうしました?」
リコリスは驚愕した。
知っている顔がいたのだ。
「弁護士さん。‥‥‥前の職場の情報って、話してもいいんでしょうか?」
リコリスは娼婦だった。その手の話題は詳しい。
ローズマリーお嬢様のことは無論助けたい。
ただ。
このメイソン公爵があんまりすぎて、話すのに躊躇う。
更に、姐さんたちに危害が及ばないか不安だった。
***
リコリスは震える指で資料を指差した。
「こ、この人……メイソン公爵……前の職場のお客でした‥‥‥」
顔写真と詳細なプロフィール。そこには、リコリスが忘れようにも忘れられない名前があった。
「私が娼館にいた頃……この方が来店されたんです。『特殊なプレイ希望』と」
リコリスの喉がごくりと鳴る。
「要求内容が……『君は妹のドレスを着て私を罵倒しろ』、そして『オンナノコにして欲しい、我慢の限界だ』というものでした」
クラウス弁護士も商会の組員も額に手をやった。
「とんでもない性癖の一族ですね」
「いや、結構いますよ?」
リコリスの発言にクラウス弁護士の眼鏡がズレた。
「あの業界って、癒しを求める人と、普段表に出せない気持ちを全面に出す人が多いんですよねぇ。
特に貴族の方って…社会的地位が高くて、厳しく躾けられた反動ですかね?
偉そうに指示を出す側ほど、潜在的にはマゾが多くてですね。
それでもこの人は特級ですよ。
実の妹にオンナノコにされて目覚めるって…マジモンの変態ですよこの公爵」
「リコリスさん。それで娼館の方たちは大丈夫なんですか?…その、変態相手で」
「うちはそういう特殊なお客の受け入れ可ですからね。ただ、もしメイソン公爵の逆恨みで何かあったら……」
リコリスの目に迷いが見える。恩人たちが危険に晒される可能性を案じているのだ。
「リコリスさん、我々がお店を保護します。何か、新しい手掛かりが掴めるかもしれません。
彼らの弱点や過去の失態が明らかになれば……」
弁護士の言葉にリコリスは意を決して、うなずいた。
「わかりました。話します」
***
会議室に戻った商会の組員が調査結果を広げ、リコリスと情報をすり合わせたメイソン公爵の変態性は想像以上だった。
曰く、幼少期から妹オーギュスタによってお尻を開拓され、オンナノコにされる快楽に目覚めてしまい、以来ずっと妹を崇拝し溺愛しているとのことだった。
メイソン先代公爵とコールデン先代侯爵はその変態性とオーギュスタの凶暴性を高位貴族の恥だと危惧した。よって、オーギュスタの物理的な隔離を前提とし兄の性癖の治療の方針で、コールデン先代侯爵と婚姻を結んだ。
不幸なのはメイソン先代公爵が認知症を患い、過去に決定していたその変態の兄を後継者に決めた事だろう。
「――わざわざ、隣国の娼館で発散する辺り、相当ですけどねぇ」
夜の華たちが集めた情報の一部とはいえ、とんでもない情報だ。
その『家族愛』をワザとレイナルドに見せたことも、メイソン公爵は他の娼婦に話したという。
「えー、つまりメイソン公爵もコールデン宰相補佐も、幼少期の刷り込みで歪んだ性癖と愛情を持つようになったと……」
「共和国のファルケン宰相への父性愛も…お尻を愛して欲しい願望を『家族愛』と曲解している可能性もありますね」
「宰相閣下から万年筆を贈られたのを、ナニと勘違いしているのやら」
クラウス弁護士は無表情ながら、冷や汗をハンカチで拭う。
「あ、そうだ。
マリーさんにその特殊行為を侯爵にしていただくのはどうでしょうか?」
商会の組員がそう切り出した。
因みにマリーは商会がいつの間にかコールデン邸に仕込んだ、通信映像の魔道具でそれを聞いている。
情報共有の関係上、商会の一部の人間にはマリーの件を告げている。
と、云うか。マリーの状況をとうにバーンベルク侯爵は把握済みだった。
兎に角、リコリスは組員の言葉に否定的だ。
「それって……かなりハードになりませんか? 公爵の性癖を考えると」
リコリスが公爵に接客した経験が、予想以上の重圧となって甦る。
「その営みでレイナルドを墜とせるの?教えて」
マリーが身を乗り出して尋ねる。
「ええ……かなりハードだよ?私の魅了だけで良くない?」
「それだけ秘密にしておきたいことなのでしょう?やるわ」
「なるほど」
商会の組員がニヤリとした。
「つまりメイソン公爵と同じ営みをすれば奴も堕ちるということか」
「ええと……相手のお尻を使うんだよ? しかも相手がオンナノコの役となると、色々汚いの……」
リコリスは困惑しつつも制止しようとする。
「ふぅん……具体的には?」
マリーが食い入るように問う。顔は好奇心に輝いている。
「マリーちゃんが汚れるの、ヤダよ、私」
「……なるほどね」
マリーが拳を固めた。
「要するに私があのクズを徹底的に支配出来るってことよね。ローズマリーを虐げたあいつらを完膚なきまでに辱められるなら安いものですわ」
「だけどね!」
リコリスが声を張り上げる。
「問題は腸内洗浄の手間とか、あと排泄機能の低下よ!」
「……どういうこと?」
マリーが首を傾げる。組員とクラウス弁護士はポーカーフェイスを決め込んで居た。
「公爵の肛門括約筋は、それはもう緩かったの!!びっくりしたわよ!?こっちもお客に負担を掛けなうように、準備万端だったのに!!
あと、お尻が緩んだら簡単に漏れちゃうのよ。普通の行為なんてもう最悪なんだから!!」
「待て、ちょっと待て。詳しく教えてくれ」
商会の組員が慌てて説明を求めた。




