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異端のダークヒーラー、魔国幹部として人類を衰退に導くようです~金と知識を求めていただけなのに、なぜか伝説になっていました~  作者: 浅見朝志


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第91話 出禁になった

「──というわけでございまして、アギト様。申し訳ないのですが、アラヤ様とオトガイ様は二人でクラブへ向かってしまいまして……」



ミルフォビアは、ただ一魔VIPルームで待っていたアギトへと、深々と頭を下げる。



「クク……キウイめ……!」



ゴウッ! と猛々しい魔力を放出したアギトは、悪魔さえも裸足で逃げ出すような形相をその顔へと浮かべると、



「興奮してくるではないか……! あやつが、オトガイと仲良くしてくれている。それすなわち、吾輩の義理の息子への第一歩……そういうことだろう?」


「は、はあ……」



なかなか見ることないアギトのそのご機嫌ぶりに気圧されつつ、



「えっと、それでどういたしましょう? われわれもクラブへと向かいましょうか?」


「いや、後は若い者同士に任せよう……とはいえ、」



アギトは腕を組んで少し、唸る。



「クラブ、か。吾輩は行ったことがないが、急速に治安が悪化していると聞くな? オトガイはともかくキウイの身が心配ではあるところだ」


「それなら問題ないかと」



ミルフォビアは断言する。



「護衛としてシェスさんが付きっきりになってくださるハズですので」






* * *






クラブ。

それはケバケバしい色とりどりの魔力灯に照らされたうす暗い室内で酒を飲んだり、一部の魔鳥族たちの騒音のようなけたたましい音楽に合わせて踊り狂える場所。

その情報はおおむね正しいようだった。



「キウイ様、どうか私から離れぬよう」


「うむ。わかっているよ」



凛としたたたずまいで俺の腕を掴むシェスの言葉にうなずきつつ、低音がズンズンと体の奥底に響く室内、俺はアチコチへと目を向ける。



……なんともよりどりみどりだね。



アルコールに肝臓を浸す魔族、『おまえの肘がぶつかった』『いいやおまえの膝が先に入った』と言い合いが殴り合いに発展する魔族、その場で青姦し始める魔族……

地獄があるならこんな場所かもしれないな、と思えるばかりの場所だった。



「ヒュゥ~ッ! キウイっち、楽しんでるぅっ!?」


「ああ。それなりにね」



酒の入ったグラスを片手に、ステップを踏みながらやってきた赤鬼娘──アギトの娘オトガイへと返答しつつ、俺は特に気になっているテーブル…… " いかにも " な魔族たち数人が目を見開いて、しかし突っ伏したまま動かなくなっているその場所へと近づいた。



「口端に泡、それに瞳孔が開いている……」


「あらら、死んでる? 急性アルコール中毒ってやつ?」


「いや、」



呼吸はある。なのでその息を手で扇いで嗅いでみることにした。

アルコールと混じり、ほんのりと薬品っぽいニオイ。



「なるほど」



薬か何かで神経だけを無理やり覚醒させられている、というところだろうか。

テーブルに置かれているグラス……そのニオイも嗅いでみる。薬はコレか。



「まあそれは後回しだ。よしよし、作用を見ようか」



さっそくダークヒールをすることにした。

酷使させられているであろう神経の治療だ。

診察用魔力と治療用魔力を流し込んでいくが、体から脳までなんともスムーズに魔力が通る。



「ククク……シャブ漬け患者は抵抗なく弄くり回せて楽でいいな」



普通、脳へと魔力を流し込もうとすれば無意識にでも抵抗を受けるもの。それは生存本能というヤツで、本来はそれがなかなか手ごわいのだ。しかし、薬に脳まで冒された者はそうはならない。

ジックリと詳しく、生きたままのその動きを観察することができた。



……ほう? これはこれは。



「いやはや、実に興味深いっ!」



俺はてっきりこの者たちがシャブ漬けかと思っていたのだが、違った。

脳を冒しているのは薬品の作用ではない。



──魔力だ。



脳内を侵食しているのはこの者のものではない何か別の魔力なのだ。

先ほども考えていた通り、薬ならいざ知らず、得体の知れない魔力が脳に対して無抵抗で流し込まれるはずがない。だが、実際にそうなっている。

これは……非常に興味深い " 謎 " だ。



「クフ、クフフフ……おもしろいっ!」


「……キウイっち? あーしにはさ、アンタがひたすら酔いつぶれた魔族の頭撫で続けてるようにしか見えないんだケド、それホントに楽しい?」


「楽しいっ!!!」



診た感じ、その魔族らの脳は魔力に浸食されてダメになりつつあった。なので、ちゃちゃっとその魔力をダークヒールで中和させてしまおう。

そのノウハウならすでにある。死の国の王……ジャームに操られていたシェスたちを解放した際に何度もやった手順だ。



「よし、これでしばらくすれば目を覚ますだろう。さあ、次に行こうじゃあないか!」



クラブ内には同じような状態の魔族たちがたくさん転がっていたので、俺は次々にその魔族らを診察&ダークヒールを繰り返していく。

すると、



「──う、うぅ……な、なんだおまえは……!」



今しがたダークヒールした魔族のゴブリン種とオーク種の男たちが意識を回復させた。そしてテーブルへと伏していた体を起き上がらせるなり、ギロリと俺のことをにらみつけてくる。どうやら、あまり良い手合いではなかったらしい。



「俺たちに、何をしやがった……!」


「ただのダークヒールだよ。いやぁ、有益な検体の提供に感謝するよ」


「……ザケやがってっ!」



ペッと。オークの男が唾を吐き捨て、



「せっかくトリップ中だったってのに水を差してんじゃねーよっ!」


「代わりの " 酒 " を買ってきやがれや、コラ──」



その二体の魔族たちは悪態を口々にしながら俺へと殴りかかって来ようとして、しかし。



「キウイ様に手出しをするな」



メキリッ。シェスの拳がオークのこめかみに鋭くめり込んだかと思うと、そのままの勢いでテーブルを粉砕して、そのカケラごと下の床へと叩きつける。

それと同時、



「ヒャハッ、ケンカかぁっ! 最っ高のノリじゃんっ!」



どこから取り出したのか、いつの間にかトゲ付き棍棒を手にしたオトガイもまたそれをブオンと振り回す。メキョッという骨の凹む音とともに、ゴブリンが店内の奥の壁へと激突した。

そのクラブ内の騒音に勝るほどの轟音に、



「──オイッ! 何事だっ!?」



その騒ぎを聞きつけて、一魔の男がやってくる。

派手なスーツに身を包んだ六本の腕に二本の脚を持つ蜘蛛人種の男だった。

サングラスをかけた八つの単眼すべてで俺をにらみつけているようだ。



「派手に暴れやがって。落とし前つける準備はできてだろうなぁっ!?」


「いったい私が何をしたというのだね」


「状況見ろやっ!!! テメェの連れがウチの客をボコッてくれてんじゃねぇの!」


「……フム、彼らが客か。では、君がこのクラブの経営者か何かなのかい?」


「おうともよ。俺様がこの店のオーナー、イワガネだ」



イワガネと名乗った蜘蛛人種は口にくわえたタバコへと火を付けると、



「さっきからよぉ、酒で潰れてたハズの客たちがケロッとした顔で起きて帰っていきやがる。テメェらの仕業か?」


「酒? ……ああ、ダークヒールした魔族たちのことかな?」


「ダークヒール……? ん、おまえまさか……」



イワガネは喉を詰まらせるようして、俺のことを見た。

恐らくではあるが、俺の正体に心当たったのだろう。

そして、いったい何を思うのか。



……俺には魔国へと味方した人間の英雄という良い評判もあれば、たかだか人間ごときがダークヒーラーなんてという悪評もある。

 


彼はいったいどちらだろうね?

まあ、反応を見るにおおよその予想はつくが。

イワガネは深呼吸でもするかのようにタバコをジリジリと吸う。何かを深く考えているようだった。

それからしばらくして。



「……なるほどな」



たっぷりと白い煙を吐き出しながら、



「出禁だ、テメェら」



ひと吸いしたタバコを床に投げ捨て、踏みつけにして言う。



「ウチは客を音楽と酒で気持ちよくフラフラにさせてやる場所なんだ。そこへわざわざ酔いを覚ますようなマネしにくるんじゃねぇよ……!」



俺たちはそうして、シッシと。クラブから追い出されてしまう。



「あらら。暴れ足りないなぁ。もうちょい派手な展開になったら楽しめたのにねぇ」



オトガイはしかし気にした様子もなく、俺の肩を叩いてくる。



「あーし、他のクラブも知ってるしソッチ行こーよ。ソッチは多少暴れても多めに見てくれるしさ」


「いや、クラブはもういい」



俺は歩き出す。

向かうのは王都の中心。数多の店の並ぶ市場通りだ。



……それにしても酒、か。



「私は謎を謎のままにはしたくないのでね。ウィンドウショッピングと行こうじゃないか」




いつもお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第92話 酒という暗喩あんゆ」です。

明日もよろしくお願いします!


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魔力を染み込ませるなんて効能があるのに酒かな…酒かも…
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