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君は僕の真面目な婚約者  作者: 青石めい
番外編 婚前狂詩曲(エリック視点)
52/62

七話目

 

 翌日、用意された客室で目覚めた俺は一杯の水だけを飲み干すと、すぐに寝間着からアルカディア王国の騎士装に着替える。


 今日は今のところこれと言った指示は受けていない。昨日のあのやり取りを思えば、今日も国王陛下への見舞いは叶うことはなさそうだ。かと言って、何かの式典に参加するためとか、何かしらの協定を結ぶためと言った外交上の目的でセイクリッドに来ている訳ではない。今頃姫様自身も、実際この滞在期間中にどう過ごすべきか戸惑っておられるだろう。昨日別れる時点では、アレクス殿下は追って知らせると言われていたが……。


 まぁ、姫様に関してはルーシアが付き添っているし、そう心配する必要もないだろう。


 問題は、俺がこの知らない土地でどう時間を潰すか、だ。


 昨日この部屋に案内してくれた小姓の話だと、この部屋の周囲は自由に歩いてもいいと言われていたし、多少うろついても問題ないだろう。


 俺はとりあえず騎士の務めとして、毎朝欠かさず行っている身体トレーニングと、剣術の自主訓練を中庭ですることにした。本国では今はいわゆる中間管理職的な立場にいる俺だが、まだまだ現役を退くなんて年齢じゃない。毎年トーナメントにも出場しているし、何よりルーシアの父君である将軍テオドール閣下は、剣聖とも称される王国一の剣術の使い手でもあった方だ。その才能を引き継いだルーシアも、アルカディア有数の剣の使い手だし、その夫である俺が自己鍛錬を怠る訳にはいかない。……まぁ、俺も部門が変わって彼女とトーナメントで戦うことももうないし、今は彼女に勝つことには拘っていないが。

 俺にとって重要なのは、愛する人をいついかなる時でも守れる自分でいることだけだ。


 そんな訳で、俺が客室からほど近い場所にある中庭の開けたところで、上着だけ外し一人で黙々と訓練をしていたところ、意外な人物が現れた。


 「おや……君は…‥」

 「お、王太子殿下!?」


 現れた、秀麗な美貌をもつ男性に驚き、俺は慌てて剣を引っ込め畏まる。


 「いや、すまない、邪魔をするつもりはなかったのだ」

 「いえ、お見苦しいところをお見せして申し訳ありません」


 俺に申し訳なさそうに謝るマティアス殿下の言葉に俺は恐縮して、頭を下げる。

 

 

 「そんなことはない、君の動きに感心していた。アルカディアの騎士の優秀さは噂に聞いてはいたが、本当に見事な身のこなしだな」

 「お、恐れ入ります……!」


 まったく嫌味のない素直な称賛の言葉に、俺は内心冷や汗をかく。

 

 「知っているだろうが、私はこの国の第一王子、マティアスだ。君の名を問うても良いだろうか」

 「……は!私はアルカディアの騎士、エリック・カーシウスと申します。本国では、アルカディア第5師団の師団長と、ゲオルグ軍事顧問の副官の任に就いております」

 「君がエリック・カーシウスか。君の活躍は、セイクリッドにも聞こえている。とすると、昨日エメセシル王女に付き従っていた女性騎士が、君の奥方のルーシア・カーシウスか」

 「……は、さようでございます」


 隣国であるセイクリッドにも俺達のことが知られているというのは、何とも違和感を禁じ得ない。一体どういった情報が伝わっているのだろうか。俺は居心地の悪さを感じつつ、マティアス殿下に畏まっていた。


 「そんなに恐縮しないで欲しい。私は、4年前に王位継承者として国王陛下に突然指名されるまで王宮外の片田舎で育って来たんだ。王族としても、一人の男としても未熟で、誰かに傅かれるような大それた人間じゃないんだ」


 恐縮しきりの俺につられたように、マティアス殿下自身も体を縮こまらせた。


 昨日から思っていたが、この方は強烈な個性を持つセイクリッドの王族内で一人だけだいぶ毛色が違うようだ。まず、王族にしては腰が低すぎるくらい低い。こんな隣国の一騎士である俺にまで、丁寧な言葉使い、態度で接してこられている。それに、やたら気が弱く自信がない印象が拭えない。絶世の美男子と呼べるほど類稀な容姿をお持ちのなのに、それを鼻にかけるどころか自分でその価値に気付いてもいないらしい。むしろ卑屈になっていると言ってもいいかもしれない。


 今は亡きエメセシル様の兄君ユリウス殿下も物腰は柔らかな優しい印象の王太子だったが、彼は芯は通った意志の強いお人だった。


 マティアス殿下がここまで自己評価が低いのには、お育ちも関係しているのだろうか……?


 「……失礼ですが、それでは殿下は王太子位に就かれるまでは、ご自分が王族であることもご存じなかったのですか?」

 「……恥ずかしい話だが、そうなのだ。私が幼い頃に母もとうに亡くなっており、周囲からは父親がどんな立場の人間か聞かされておらず、たまに父親筋のものと思われる近況を確認する文が送られて来たことはあったが、父親と直接会ったことも無かった。母の生家はそれほど高い身分ではなかったため田舎貴族の気楽な暮らしをしていたのだ。国王に亡き側妃との間に王子がいること、正妃との間の第二王子が極めて優秀なことは、一国民として知っていたが、その行方知れずの第一王子が自分だなんてまさか思いもしないことだった。それを知ったのと、王位継承者に指名されたのが同時だったものだから、まさに天地がひっくり返る思いだったよ」


 昔を懐かしむような遠い目をして、マティアス殿下はしんみりと語られている。


 「だから、国王陛下が正妃の子で生まれながらの王子であるアレクスではなく、私を王位継承者に指名されたことはまさに青天の霹靂だ。4年前に事実を知って、そのまま訳も分からず王位継承者に必要な帝王学や教養を学ぶこととなった。しかし、今でも信じられない。本当に自分がその第一王子なのかと。それに父王が年齢が同じで、幼い頃から次代の王として教育を受けて来たアレクスではなく、田舎者の私などを指名されたことも未だに理解できない。生まれ順で指名されたのなら、本当に筋違いな話だ。アレクスほど国民に愛されている王族はいない。頭がよく、決断力に優れ、自信に満ち溢れている。なぜ彼が今まで培って来たものを、無碍に出来るのかと。それに、犠牲になったのはアレクスだけではない、メルヴィナにしても可哀そうなことだ」


 だんだん自分で話している内に、さらに困惑を深めたらしいマティアス殿下の語気がやや強くなって来る。


 「メルヴィナ様?」


 俺は思わず問い返していた。


 「昨日私を叱り飛ばしていた女性だ。彼女は国内一の名家の令嬢で、将来の国王正妃候補として幼少から教育を受けて来た王妃になるべく育てられた、美しく聡明な完璧な女性なんだ。そして、彼女は本来の王位継承者と目されていたアレクスと恋仲だったのだ。私の存在はそんな二人を、心ならずも引き裂いてしまった。本当に、今でもなぜ最初から辞退をしていなかったのだと自分でも腹立たしくなる。彼女ほどの誇り高く賢い素晴らしい女性を、使命のためにこんなちっぽけな男に縛り付けて申し訳が立たない。せめて彼女に不誠実なことはすまいと、誓って彼女には指一本触れていないが、私と婚姻関係にあるということだけでも彼女の名誉を汚しているようなものだ。出来ることなら、アレクスの元にメルヴィナを返してやりたいと思っているが……、アレクスがアルカディアに婿入りしてしまえばそれも叶わなくなる」


 そう言って、深刻な様子で頭を抱えたマティアス殿下を俺は困惑して見つめていた。


 ええと、なんて言うか、マティアス殿下はアレクス殿下とはまた別の意味で偏った考え方の持ち主のようだ。思い込みが激しいというか、悲観的すぎるというか。


 俺が見る限りでは、仮に過去に恋愛関係にあったのが本当だったとしても、アレクス殿下とメルヴィナ様の間にそういった恋慕がお互いに残っているようには思えなかった。少なくともアレクス殿下は今現在セイクリッドの王位継承者になるのを拒んでいるようだし、メルヴィナ様にしても昨日責めていたのはマティアス殿下が王太子であることじゃなく、むしろそれに逃げ腰の姿勢に対して腹を立てているようだった。


 それに、今のマティアス殿下の言葉が本当ならマティアス殿下とメルヴィナ様は、身体的な意味でまだ夫婦になっていないということになる。マティアス殿下からしたらそれがメルヴィナ様を尊重しているつもりになっているようだが、果たして彼女にとっても同じ意味を成すだろうか?一般的に、高貴な家柄に嫁がれた女性には、跡継ぎを産むと言う責務がつきまとう。ましてや王位継承者の妻ならなおさらだろう。それは、男の俺からは想像もつかないほどのプレッシャーなんじゃないだろうか。清いままの関係であることが周囲に知られているとしたら、そのこともマティアス殿下の王位継承を良く思わない勢力の格好の攻撃の材料だし、実際セイクリッドの将来を考えても後継者を設けないことは由々しき事態である。


 まぁ、メルヴィナ様がマティアス殿下を異性としてどう思っているかを俺は知らないから、自分の責務以上に好きでもない男に触れられたくないと考えられている場合もあるだろうが。


 ……どちらにしても、マティアス殿下は自分だけの解釈で、自分は王位にもメルヴィナ様にも相応しくないと判断されているようである。


 「……マティアス殿下、差し出がましいことを申すようですが、いささか殿下のお悩みは杞憂のようにお見受け致します。少なくとも殿下を指名された父王陛下や、アレクス殿下、メルヴィナ妃は殿下の資質について疑われているようではないと思います。要は、それに対する向き合い方なのではないかと思うのですが」


 俺は思わずいらぬお節介を口にしてしまっていた。本来なら、異国の王位継承者に俺なんかが進言していい立場でも、内容でもない。


 「向き合い方……?」

 「……あなたが思うほど、周囲はあなたを否定してはいないのではないでしょうか?もう少し、きちんとアレクス殿下やメルヴィナ様とも話し合われてみては?」


 俺はそう言いながらも、マティアス殿下の王太子位を追及しているらしいセイクリッド議会の議員達の意見については分からないがな、と脳裏で考えていた。


 その時―――。


 「お話し中失礼致します、王太子殿下」


 ふいに、俺達の会話に割り込む声が聞こえた。


 「ジーク!」


 マティアス殿下が俺の背後にいるらしい人物の名を呼んだ。俺が振り返ると、アレクス殿下の護衛騎士であり側近のジーク殿が畏まっていた。


 「お邪魔だて致しまして、申し訳ございません。アレクス殿下が、そこのエリック殿をお呼びで御座いまして」


 ジーク殿の謝罪に、マティアス殿下はすぐに頷いた。


 「そうか、それならすぐに行かれるといいだろう。エリック・カーシウス、おかしなことを聞かせてすまなかったな」

 「め、滅相も御座いません!俺こそ過ぎた言葉を……!」

 「いや、とても参考になった。君とはまたいつか、機会があれば話をしてみたい。では私はもう行く」

 「は……!恐縮です」


 最後まで腰の低い王太子殿下を、俺は身を縮こまらせながら見送った。


 マティアス殿下の姿が見えなくなり、俺がジーク殿に改めて向きなおると、何故かジーク殿はにこにこ笑っていた。


 「……?ジーク殿?」

 「あ、これはすみません。感心してしまって」

 「……は?」


 俺より少し年長の彼がくすくすと笑っている姿に、俺は困惑した。


 「……いえ、エリック殿は簡単に他人の警戒を解いてしまう、不思議な魅力がありますね」

 「はい!?」


 俺は言われている意味が分からず素っ頓狂な声を出した。え、どういう意味だ。俺はルーシア一筋だし、男に口説かれても一つも嬉しくないぞ!?


 「いや、おかしな意味ではないのですよ。アレクス殿下にしても、マティアス殿下にしても性格に難があると言いますか、あまり人の意見に耳を傾けられるような方々ではないのですが、エリック殿の言葉には比較的興味をお示しになりますし、とても頼りにされているように思います。下手をしたら長くアレクス殿下にお仕えしている我々よりも」

 「そ、そんなことはないのでは?俺はアレクス殿下に振り回されているだけのように思いますが……」


 俺が弱った口調で言うと、ジーク殿は実感の籠った様子で大きく頷いた。


 「それはアレクス殿下にお仕えしている者全ての宿命ですね。しかし、あの偏屈なアレクス王子に心を開かせるなんて、並大抵のことではありません。私が見る限り、エリック殿はアルカディアでもとりわけ人付き合いが難しい方々とも広く人間関係を持たれていたようですし、やはり才能なのでしょう」

 「そ、そうですか……?」


 な、なんなんだ、今日は。手放しで誉められる日なのか?さっきから背中がこそばゆくて仕方ない。


 俺はむずむずする背中に顔を顰めつつ、ジーク殿に案内されるままセイクリッド王宮内のある一角に辿り着いた。


 昨日案内された客室のある棟とは反対側の棟にあるそこは、また雰囲気が異なり随分年季の入った古めかしい。数百年も時を重ねていそうな、褐色に輝く木製の柱や天井のそこここにレリーフが施され、床や壁に傷の補修のあとも散らばっている。その廊下を抜けた先に、これまただいぶ年を経た樫の扉があり、その脇を兵士が控えていた。


 「ジーク殿、ここは?」

 「ここはセイクリッドの議事堂です。そしてこの部屋で今議員達とアレクス殿下が討論の真っ最中です」

 「はぁ!?」


 いつのまにか、普段議員が内政業務を進める政治の中心地に足を踏み入れていたこと、そしてその閣議を行っている場所に自分が招かれていることに俺は仰天した。


 アレクス殿下が閣議に参加されるのは分かる、まだ正式にアルカディアに婿入りされている訳ではないし、王族の一人としてセイクリッドの政治に参画されるのは当然だろう。だが、俺は隣国の王女に付き従う、一介の騎士に過ぎない。ましてや外交官でもない俺に、機密事項が満載のはずの閣議に呼ぶとは、アレクス殿下は一体どういう了見だろうか?!


 「な、何かの間違いでしょう?俺はこんな場所に入れませんよ」

 「いえ、アレクス殿下のご指名です」


 いやいやいや、おかしいだろそれ!


 嫌な予感しかしない俺は、そこで踵を返し逃げ出そうとした、が。


 「アレクス殿下、エリック・カーシウス殿をお連れしました」

 「ジークか、入れ」


 俺が行動に移す前に、ジーク殿が入室の許可を取ってしまった。本当にアレクス殿下、一体何を考えているんだ?!


 俺は腰がひけつつ、促されるまま観念して国会室の中に入る。俺の入室と共に、一斉に中で席についていた人物達が討論を中断し俺を睨んだ。ただ一人、アレクス殿下だけが涼しい顔で俺を出迎えた。


 「よく来たな、エリック。お前の証言が聞きたい」

 「しょ、証言と言いますと……?」

 「俺がいかにアルカディアに馴染んでいるか。俺がアルカディアにとって、どれだけなくてはならない存在であるかについてだ」


 自分で言うかこの人……。


 「は、はぁ」


 俺はあまりにも突拍子もない展開に、間抜けな声を出してしまった。


 そんな俺にアレクス殿下は近寄り、ぎろりと剣呑な視線を浴びせかけ、俺の背中を叩いた。そんな俺にますます周囲の議員達の熱烈な視線が向けられる。こ、これは腹を括るしかなさそうだ。


 「さぁ、エリック、このおいぼれ共に聞かせてやってくれ。俺が婿入り先にどれだけ貢献しているかを」

 「……。そ、そうですね。アレクス殿下は、我が国でクーデターが起った時に真っ先に、我らが姫君エメセシル様の保護に尽力して下さり、国王陛下の救出王宮奪還に力を貸して下さいました」

 「そうだな。その時にお前には個人的にも、手を貸してやった、そうだな?」

 「………。ソウデスネ。その後、殿下は我が国の王国軍の構造改革にも着手されまして、今まで埋もれていた人材の発掘、クーデターの際の我が国の膿の除去にもご意見を下さいました」

 「そうだな。俺がお前を取り立ててやったんだったな。それ以外にもあるだろう」


 ……一体、これは何の茶番を演じさせられているんだ?

 

 そう内心疑問でいっぱいになりながらも、俺は横からの圧力に屈し、続けた。


 「アレクス殿下は、婚約者であり将来の我が国の女王になられる王女エメセシル様と良好な関係を築かれており、またアルカディア国王陛下からも絶大な信頼を得ていらっしゃいます。その高い政治手腕、決断力は将来の我が国にとってなくてはならないものと存じます」

 「よく言ってくれたエリック・カーシウス。まさにその通りだな。そんな訳で、俺はアルカディアをエメセシルと共に正しく導く使命がある。もはや俺はアルカディアに帰化したも同然で、セイクリッドの人間ではないと思って欲しい」


 俺の言葉にさも満足そうに頷いたアレクス殿下は、自信満々に俺達を見つめているセイクリッドの議員達に宣言した。途端に議員達がざわめく。


 「……お言葉ですが、アレクス王子。殿下が極めて優秀なことは殿下の叔父でもあり、幼少より存じ上げているこの私めも良く承知しております。だからこそ、その類まれな支配者としての才をお持ちの殿下に、他国ではなくあなたがお生まれになったこの国で、手腕を発揮して頂きたいのです」


 アレクス殿下の叔父?!俺は発言をしたその中年の男を驚いて見つめた。確かにその男は、アレクス殿下や、昨日お会いした王妃殿下に少し似た顔立ちをしている。議員の中でも特別な地位に就いているらしかった。おおかた、セイクリッドの宰相閣下というところか。


 「叔父上、あなたが正妃である母の弟という立場上、俺を推して下さっている気持ちも分かる。しかしなぜ、国王陛下の決定に従えない。それに、なぜ兄上の才能を認めないのだ」

 「……恐れながら、マティアス殿下の生まれ時期についてはいささか疑問が御座います。なにせ、生まれ月から遡った時期には、側妃殿下は宿下がりをされており国王陛下と寝所を共にされた記録は御座いませんからな」

 「……ドゴール卿。わざわざ過去に遡って、そんな個人的なことまで調べ上げたのか」


 アレクス殿下の呆れるような声が、国会室内を木霊した。アレクス殿下に冷たくあしらわれ、ドゴール卿と呼ばれたその男は一度恐縮したように頭を下げたが、怯まなかった。


 「は……、しかし、重要なことです。資格のない者を、王位に就かせる脅威に比べれば、公人である国王陛下の個人記録の調査は手続きの範囲内でしょう」

 「随分身勝手な言い分だな。国王陛下が回復されたら俺から耳に入れるとしよう」

 「私はその時には国王陛下御自身が、我々の意見を理解して下さると信じております」

 「……ちっ、埒が明かんな。とにかく、俺が今回帰国したのは父上の見舞いのためだけだ。それが数日たっても叶わないのであれば、エメセシルと共にアルカディアの公務を再開しなければならないのでな、すぐにアルカディアに取って返す」

 「……それが王子のご意向であれば、仕方ありませんね」


 平行線のままの議論に、苛立ったアレクス殿下がついに会話の打ち切りを告げた。


 「しかし、せっかく隣国から王女殿下がお越し下さったのです。長年の同盟国である我が国を知って頂く良い機会ですし、これを機により親密な交流関係を築いていきたいものですね。ささやかですが、明日の晩にエメセシル王女を歓待する歓迎会を催させて頂くことを、王妃殿下の許可を頂いております。殿下、エメセシル王女様が楽しんで下さることを期待しておりますよ」

 「……何だと?」


 国会室を立ち去ろうとしていたアレクス殿下は、ドゴール卿の含みのある物言いに眉をひそめ、睨み付けた―――。


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