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魔法剣士ガイア  作者: ふぉるて
第1章「真言」
12/156

1─III

「二人とも、大事な話がある。俺に付いてきてくれ」


 アドルのその言葉を受け、ガイアとアスナはアドルの後に続き、受付の奥にある扉へと案内される。

 受付嬢が扉を開けてアドルが入り、二人が「失礼します」と言ってそれに続く。

 先程の受付嬢は部屋には入らず、お辞儀をすると元の受付業務に戻って行った。


 かくしてこの場には、アドル、ガイア、アスナの三人のみとなる。

 アドルは扉の鍵を閉めると、机の椅子へと赴いてそこに座り、書斎机を挟んで二人と向かい合う。

 そして、こう言った。


「ガイア。お前さんの件については、全て了解した。まずは改めて、このクソッタレな世界へようこそ……ってところか?」


 ガイアはそれに対してお礼を述べ、しかし同時に浮かんだ疑問についても問いかける。

 「何故、そんな怪しい供述を行う自分を歓迎してくれるのか」と。

 すると、その問いに対して返ってきたアドルの答えは「検閲を通過(パス)したってこたぁ、お前は少なくとも悪事に手を染めるような輩じゃねぇよ」と、至ってシンプルなものであった。


 それに納得したガイアは、肝心の話の内容について尋ねる。

 すると、アドルは神妙な面持ちに戻り、アスナの報告にあった"異常"についての報告を聞きたいと言った。

 それを聞いたアスナは、「即死させない限り、与えた傷が身体から溢れる黒い瘴気によって再生する異常現象」の事を報告する。

 その時、ガイアはあることを思い出していた。

 それは、あの時確認された「魔蝕」という特記事項。

 もしかすると、それがあの異常現象の名前なのではないかと。

 だが、あの時はその項目の詳細を確認するだけの余裕が無く、判断材料がまだ不足していると判断したガイアは、魔蝕についての報告は行わなかった。


 やがて、アスナからの報告を聞き終えたアドルは、早急に遺体の回収を依頼する事を約束する。

 そして、机の引き出しの内の一つを開けて一枚の紙を取り出し、羽ペンとそのインクと共に、それらをガイアの前に差し出した。


「冒険者ギルドの登録書類だ。留意事項をきちんと把握して、納得したら、所定の欄にサインしてくれ」


 そう言われ、ガイアは書類に目を通す。

 全て異世界の文字で書かれていたが、「翻訳」の加護があるので苦労はしない。

 そして、全て読み終えたガイアは羽ペンを手に取り、所定の欄に「ガイア」と記名する。

 すると、それを確認したアドルは何やら石を取り出し、それをガイアに手渡してこう言った。


「お前さんのギルドカードを作るに当たって、お前さん自身の魔力をカードに登録するんだ。

だから、その石に魔力を注いでくれ」


 そう説明され、ガイアは先程の検閲の窓口での光景を思い出す。

 それは、アスナが差し出した二つ折りの身分証明と、その後に行われた魔力の認証検査の事であった。

 それに納得したガイアは、すぐにその石に手を触れ、その色が変わるまで魔力を注ぎ込んだ。


 それを見届けたアドルは、今度はガイアが住む場所についての話を持ちかける。

 それについての書類を差し出され、ガイアもそれに目を通す。

 そこには、ギルド管轄の寮や、ギルドと提携したシェアハウスについての事が記載されていた。

 そして、その説明を終えたところで、アドルはこう言った。


「アスナ、そういやお前さんトコ、男が一部屋空いてたよな?」


──と。




◇ ◇ ◇




 太陽は傾き始め、空は次第にあけに染まりつつあった。


 ガイアはアドルの提案により、アスナが暮らしているシェアハウスで生活を共にする事になった。

 アドルから、アスナを無事に連れ帰ってくれた事に対する報酬と新生活の支度金が入った封筒を受け取っていたガイアは、そのお金で服や財布、砥石と言った必需品を買い揃え、アスナが暮らしているシェアハウスへと向かった。


 そして今、夕暮れが町を包む中、二人はその家の前に立っている。

 アスナが玄関の脇にある呼び鈴の引き金を引き、扉の内側から鈴の音が聞こえる。

 やがて足音が聞こえ、解錠音と共に扉が開かれる。


「……アスナちゃん? えと、おかえり……。随分早かったね?」


 そう言って姿を現したのは、眼鏡を掛けた童顔の女性であった。

 女性はズタボロの服装のアスナに驚き、そして後方に控えていたガイアに視線を移す。


「それで、えっと……、あなたは?」


「ええと……、初めまして。今日からこの家にお世話になることになりました、ガイアと申します。

アドルさんからお手紙を預かっているので、少々中でお話しさせて頂いてもよろしいですか?」


 ガイアはそう説明して、アドルが二人に宛てた封筒を手渡す。

そして、女性はその内容を確認すると、「どうぞ」と言ってガイアを招き入れた。


 リビングに案内されたガイアは、装備を脱いでインナー姿になり、ソファーに着席する。

 インナーと装備がコボルドによってズタボロにされてしまっていたアスナは、一度部屋に戻って私服に着替えた後、リビングに姿を現した。


 アスナはガイアの隣に座り、その向かいには、机を挟んで同じく男女の二人組が座っている。

 そして、ガイアとアスナは、二人に事の顛末を報告する。

 やがて、ガイアがこれからここで世話になることまで話し終えると、二人は納得した様子で「よろしく」と握手を交わす。

 そこからは、お互いの自己紹介となった。


 女性の方はフェズと言い、先程二人を玄関で出迎えた彼女である。

 種族はエルフで黒縁の眼鏡を掛けており、肩まである茶色の髪の毛は、ワンカールボブで整えられている。

 ガイア達の一つ上で先輩に当たるのだが、やや低めな身長と童顔のせいで、一見年上に見えないのが特徴だ。


 そして、その隣に座っている男の名前は、シュウ。

 同じく一つ上の先輩で、フェズと行動を共にしている冒険者であり、種族は虎のビーストらしく、耳と尻尾は黄色に黒のラインが入っている。

 また、金髪の黒眼であり、中々のイケメンである。

 しかし、放置していたのか寝癖が残っており、それが何とも残念な雰囲気を醸し出していた。


 そうやって挨拶を終えたガイアは、シュウに三階の空き部屋へと案内される。

 大体八畳ほどの広さがあるその空間に、備え付けのベッドやタンス、振り子時計、装備の立て掛けツリー、そして机と椅子が置かれていた。

 それに加えて、シュウの説明が行われる。


「家具はこれらが備え付けだ。三階が男で、二階が女。一階は共同スペースで、飯をどうするかはその時々で応相談。シャワールームは二階と三階で、洗面所はどの階にもある。家賃は一人辺り月一万Gだ。

本当はもう二人居るんだけど、今は依頼に行ってて居ないから、お前の歓迎会は、その二人も含めて全員揃った時だな」


 シュウはそこまで説明すると、「何か質問あるか?」とガイアに言った。

 ガイアはシュウの説明を聞きつつ、装備の立て掛けツリーに自分の装備を置くと、「他は、特には大丈夫です」と言った。


 シュウが部屋を後にし、ガイアは買い揃えた荷物の荷解きに入る。

 衣服を分類別にタンスに入れ、インナーから私服に着替えた後は、装備品の手入れを行う。

 「戦闘技能」によって授かった恩恵に預かり、慣れた手つきで返り血の拭き取りや砥石がけを行ったガイアは、一階へと降りる。


 その一階のキッチンでは、フェズが料理を行っていた。

 予定には無いガイアとアスナの分が増えたとあってか、晩御飯の準備に追われているその姿を見ていられず、ガイアは手伝いを名乗り出る。

 そうして晩御飯の準備がはかどる中、ふとフェズがこんな言葉を口にした。


「……ガイアさん、アスナちゃんの事なんですけど……」


「はい、何か?」


 そこからフェズがガイアに語ったのは、アスナの身の上話であった。

 両親を目の前で殺されて孤児となり、冒険者に保護されて修道院で育った事。

 修道院の院長であり、元冒険者であるジーノを師と仰ぎ、共に暮らしてきたと言うこと。

 そして、今回同行し、コボルドの凶刃に掛かってしまった他の二人も、アスナと親しい間柄にあったと言うこと。


「じゃあ、アスナは……」


「はい……。本当は、思いっきり泣きたいんだと思います。

でも、あの子はそれを見せまいとしてるような……、そんな風に見えたんです」


 そこまで言うと、フェズは一拍おいてこう続ける。


「知り合ったばかりの方にこんな事をお願いするのも変だとは思いますが……、ガイアさん、なるべくアスナちゃんの傍に居てあげてくれませんか?」


 その言葉に、ガイアはただ一言「はい」と頷き、晩御飯を作る手を動かし続けたのだった。


 そして翌日、ガイアとアスナの二人に、ギルドマスターのアドルから「明日、式場で三人の葬儀が行われる」との連絡が入る。

 ガイアは葬式用の服のレンタルを予約するため、その日はアスナと共に城下町へと駆り出していた。

 だがやはりと言うべきか、その日のアスナの顔は、やはりどこか終始影が差したものであった。


 そして、再び日付は変わり、葬式当日。

 アスナは、ガイア達の前から姿をくらましていた。

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