1─II
ガイアは預けていた物を受け取り、門を潜って城下町へと足を踏み入れた。
そうしてまず視界に飛び込んだのは、人力車や冒険者、商人、一般市民といった多種多様な人々が行き交う広場と、その広場の北と東西の三方向にそれぞれ延びる大通りであった。
ガイアはアスナからこの町についての説明を聞きつつ、向かって正面にある通りを進んで行く。
「基本的に、ここみたいな大きな町っていうのは、円の大通りの内側に東西南北を繋ぐ十字の大通りが走っているの。
そして、その大通りによって、町は四つの区画に区切られているのよ。
方角毎に区画も決まってて、北東部がその町に暮らす人達の"住宅街エリア"。
南東部が、生産拠点から運ばれてきた穀物や魚なんかが売り買いされる、活気溢れる市場が存在する"市場エリア"。
そして北西部は、修道院や治療施設、式場、墓地、各種ギルド等が存在する"施設エリア"。
最後の南西部は、飯処や娯楽施設、鍛冶屋、宿屋といった建物が軒を連ねる"宿場エリア"になっているわ。
後、検閲所正門前の広場から中央広場までの南大通りは、商業ギルドから許可を得た商人が出店を開ける"商人街道"になってて、露店では色んな物が売られているわ」
その説明を終えたアスナは、十分な説明を終えたとあってか、「ちょっと急ぐわよ」と言って先を行く。
ガイアもそれに早足で続き、石畳で舗装された道を足早に歩いて行く。
やがて二人は南大通りから中央広場を抜け、西の大通りへと入る。
そこから大通りに繋がる道の一つへと入り、二人は施設エリアに到着する。
そして、三回ほど角を曲がった所で、その建物は姿を現した。
建物の玄関らしき門扉は開け放たれ、その内部からは賑やかな喧騒が聞こえてくる。
玄関の淵の上には看板が掲げられており、そこには竜のレリーフに剣と杖が交差したシンボルマークが描かれている。
そして──
「ここが、私達の冒険者ギルドよ。……さ、行きましょ」
そう言って中へと入るアスナに続き、ガイアもギルドに足を踏み入れた。
そうしてまず現れたのは、ロビーと受付の窓口であった。
プレートに異世界の文字で「受注手続」「依頼報告」「依頼発注」「その他総合」と書かれた四種類の窓口の内、アスナは「依頼報告」の受付へと向かう。
すると、二人に気付いたその窓口の受付嬢は少々怪訝な顔を浮かべつつ、アスナに声を掛けた。
「アスナちゃん、どうしたの? それに、そっちの彼は?」
そう尋ねる受付嬢に、アスナはパーティメンバーのギルドカードを渡し、事の詳細を報告する。
そして──
「……成る程、それは仕方ないわね。まずは、生還お疲れ様……。
で、その助けてくれたのが、彼って訳ね?」
事の顛末を全て聞き終えると、彼女はベズアーの毛皮袋を背負ったガイアを一瞥し、そう言った。
そして、受付嬢はガイアの方に身体を向け、挨拶と自己紹介を交わす。
「アスナちゃんを助けてくれて、ありがとね。とりあえず、君が背負ってるそれ、預かろっか?」
「あ、お願いします」
受付嬢に勧められ、ガイアはベズアーの毛皮とその中身を彼女に渡す。
そして、この城下町に住んで冒険者として活動したいという旨を伝えた上で、検閲の担当者から預かったギルドマスター宛の手紙の入った封筒を手渡す。
「厳封」の判が押されたそれを受け取った受付嬢は、「少々お待ち下さい」と言い残すと、奥の方へと姿を消した。
すると、ものの数分もしない内に、受付嬢が再び姿を現す。
その後ろには、スキンヘッドが光る強面の老人を引き連れている。
その老人は右足が義足になっており、ややぎこちない歩き方で二人の下へと近付いてきていた。
やがて、その老人は二人が待つ窓口の席に座ると、こう口を開いた。
「アスナ、よく無事に戻ってきてくれた。……で、お前さんがガイアか」
スキンヘッドの老人はアスナに掛けるべき言葉を述べた後、ガイアの方に身体を向ける。
ガイアは「はい」と頷き、それに続けてアスナ以外の三人の命を助けられなかった事を詫びる。
だが、老人はその詫びに対し、こう言った。
「いや、お前さんが謝ることは何もねぇよ。こんなクソッタレな世の中だ。町の外じゃ、いつ死んだっておかしくねぇ。
……アスナを助けてくれて、ありがとうな」
老人のその言葉から、ガイアに対する思いやりが痛いほど伝わってきた。
だが、それもまた事実なのだろう。冒険者という仕事は、それだけ死と隣り合わせなのだ。
そして、老人はこう言葉を続ける。
「そういや、自己紹介してなかったな。俺ぁ、ここのギルドマスターを務めてる、アドルって者だ」
こうして、ガイアはギルドマスター・アドルと初めての邂逅を果たしたのであった。




