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15 リドルQ

「では、では、気をつけて、気をつけて、いってくるのじゃ、いってくるのじゃ、ぞ! ぞ!」

 大石大王と、スワンシュー、パスハ、ナポレオン、寒氷、モンブラン、羊羮、ワックスワーク、支配人さん、フルーツゼリー、それにその他大勢のお菓子たちの見送りを受けて、男の子たち一行は、大石大王のキャッスルをあとにした。

 午前六時。

 光輝く太陽は登りはじめたばかりで、空は、まだ薄明といってよい色をしていた。

「あ、見えてきましたよ!」

 と、ベルベルにつり下げられる格好で低空飛行していたムジークが叫んだ。

 すると、とたんに全員が第一の恐怖地帯 <迷宮の丘> ――その頂上に、古代ギリシャの迷宮 <クノッソス宮殿> のような固い大理石の建造物をいただく、荒れた土色がどこまでも続く低い丘――に飲み込まれた。

「キャッ!」

 と、急に安定を失って、ベルベルがわめいた。

「この引力は、なんなの!」

「くそっ、やっぱり、恐怖地帯を回避することはできないんだな」

 ヌガー、マシュマロとともにテレポーテーションを試みていたシュレーディンガーがいった。

「さすがは恐怖地帯じゃな。おかしな力が働いているとみえる」

 男の子とカロピーを背中に乗せた弘左衛門も呟いた。

「自力で回避していくほかないようじゃ」

「また、へんなのが、でてこなければ、いいけど?」

 と、カロピーがいうと、

「さあ、どうだろうね……」

 自信なさそうに、男の子が答えた。

 そして、その予想は見事、当たったのである!


「わたしはリドルQだ!」

 と、男の子たち一行が強力な引力に引き込まれて降り立った宮殿のなかから現われた <それ> はいった。

 四角いところは洗濯機のようだが、そうではなく、ゴテゴテとワイヤーで飾りたてられているところは宇宙観測艇のようだが、そうではなく、目の丸い形はトラックのようだが、そうではなく、腕の伸縮自在なところは掃除機のホースのようだが、そうではなく、二本の太い脚は丸太のようだが、そうではなく、背中についたゼンマイはオルゴールのようだが、そうではなく、胸のQのマークは抽象絵画のようだが、そうではなく、耳が大きいところはゾウのようだが、そうではなく、全体が木でできているところはゲタのようだが、そうではなく…… 。

「じゃ、いったい、なんなのよ?」

 と、イライラしてベルベルが叫ぶと、

「わたしは謎の存在なのだ!」

 と、ゼンマイ駆動の木製ロボットは答えた。

「ここから先に行きたければ、わたしの出す謎を全問解かなければならない」

 と、男の子たち一行の顔を、ジロジロと見まわし、

「ということで、第一問。『たくさんの人が一列になって白い腰布をつけ、結婚の踊りを踊っているもの』なあに? ちなみに、これは、アフリカ、ズールー族の謎である」

「なんだ、こいつは?」

 と、ヌガーがあっけにとられて、いった。

「他人の都合を考えないで出てきやがって?」

「ホレッ、早く答えろ!」

「かんべんしてくれよ!」

 と、シュレーディンガーが呟けば、

「さっさと答えないと爆発するぞ!」

 リドルQがおどした。

「しょうがないわね。あたしが答えてあげるわ」

 ベルベルがいった。

「その答えは、歯、でしょう」

「キンコンカンコン! では、第二問。『嵐は山を去って、軒のへんにあり』とはなーんだ? ちなみに、これは、永正十三年(一五一六年)の日本の謎である」

「嵐が山を…… そんなの聞いたこともないわ?」

 と、マシュマロがいうと、

「ことばあそび、じゃないですか?」

 と、カロピーがするどい直感を働かした。すると――

「あ、そうか! わかった」

 と、男の子が叫び、

「その答えは、風車、だよ」

「キンコンカンコン! では、第三問。『山のなかに綿帽子かぶっているもの』なあに? ちなみに、これは民間伝承である」

「いったい、いつまで続くんでしょうね?」

 と、ムジークがいうと、

「わしには、さっぱりわからん」

 と、弘左衛門がさじを投げた。

「ホラ、早く答えるのだ!」

 と、リドルQ。すると、マシュマロが口を開いた。

「それは有名な謎ね。答えは、ゼンマイ、でしょう」

「キンコンカンコン! では、第四問。ここまではよくやったが、これからはむつかしいぞ! 心して聞けよ! さて、『石のようで石ではなく、そして、のようで、そして、でなく、転がるようで丸くないもの』なーんだ?」

「ホラホラホラ、ついに出たぞ、変な問題が! オレはこいつを心配してたんだ」

 シュレーディンガーがいうと、

「解説はよろしいから、早く答えるのだ!」

 と、リドルQがみんなを急かした。

「どうやら、これはボクかムジークの専門だね。ね、ムジーク?」

 と、男の子がいえば、

「ええ、答えは、ロック・ン・ロール、です」

 と、ムジークが答えた(ロック=石、ン=アンド=そして、ロール=転がる)。

「キンコンカンコンキン! さすがだな。では、第五問……」

「いいかげんにしようぜ。オレはこういうシチュエーションは苦手なんだ!」

 シュレーディンガーがいうと、 

「文句をいうでない。こういった状況では、挑戦者に選択の余地はないのだ。……さて、問題です。『産医師異国(さんいしいこく)に向(む)こう。産後薬(さんごやく)く産(さん)に産婆四郎二郎死産(さんばしろうじろうしさん)。産婆(さんば)さんに泣(な)く、ご礼(れい)には早(は)よいくな……』とはなーんだ?」

「え、なに、それ?」

 と、ベルベルがいえば。

「いやな話だな」

 と、ヌガーが応じ、

「でも、どこかで、きいたような……」

 と、カロピーが呟けば、

「うーむ」

 と、弘左衛門が唸った。

「ヒントはないの?」

 と、男の子がリドルQに問いかけると、

「では、わたしのゼイマイを巻いてくれんかな? じつは、この <迷宮の丘> に来るまでに、わたしの力学エネルギーは、ほとんど尽きてしまい……」

 と、木製がロボットが提案し、動きをギクシャクとさせた。

(どうしようか?)

 と、男の子がその場の全員に目で問いかけると、


 (そうじゃな)  (まあ)   (いいんじゃ)

     (ないですか?)

  (オレたちは)   (紳士的な)  (淑女的な)

          (集団ですものね!)


 と、みんなも目で同意した。

「じゃ、ゼンマイを巻くよ!」

 男の子がリドルQのうしろにまわり、


 うんしょ こらしょ えっこらせ!


 と、重い鉄のゼンマイをまわした。

「ふーっ、楽になった」

 と、リドルQ。

「では、諸君らのいまの行為に対する報酬として、ヒントを与えよう」


 いって、古英語の詩を吟じた。

「『Sir, I send a rhyme excelling

In sacred truth and rigid spelling.

Numerical spirits elucidate,

For me, the lesson's dull weight.

If Nature gain,

Not you complain,

Tho'Dr. Johnson fulminate.

  君よ、私はすぐれた詩を送る。

  神聖なる真理と厳格な綴字(つづりじ)   

  において、

  数の霊のが私のために、

  この課業の退屈な重荷を解き明かす。

  もし自然が勝つなら、

  たとえジョンスン博士がどなっても、

  君は不平をいうな(吉岡修一郎訳)』


「えー!」

 と、男の子が叫んだ。

「それって?」

「し、ですね。それも、どうやら、かず、に、かんけい、あるらしい……」

「あたし、数字は苦手だわ!」

 ベルベルがぼやくと、

「なーる。やっと、オレにもわかるのが出てきた」

 と、シュレーディンガーが満足そうにうなずいた。

「その問題の答えは、3・141592653589793238462643383279502884197……。すなわち、π(円周率)だ!」

「キンコンカンコンキン! うーむ、ヒントが優しすぎたか?」

 と、リドルQがくやしがると、

「え、わかんなーい?」

 と、マシュマロが不平をもらし、

「 <おぼえ歌> なんだよ。日本と外国のね!」

 答えに気がついたヌガーが彼の許婚にいった。

「つまり」

 と、シュレーディンガー。

「最初のは、語呂合わせで、ヒントの英詩は字数合わせなんだよ!」

 いって、迷宮の大理石のかけらを拾うと、丘の地面に書いた。


 さんいしいこく む

 産 医師異国 に向こう。

 3・14159265


 さんごやく さん さんばしろうじろう  

 産 後薬 なく産 に産 婆四郎 二郎

 3 589793 23 846 26 


 しさん

 死産。

 43


 さんば   な   れい  は


 産 婆さんに泣く、ご礼 には早よいくな

 3 83 279 50 2884197


「…… ということさ。英語の詩の方は、それぞれの単語の語数が数になっている」


 Sir, I send a rhyme excelling In

 3 ・ 1 4 1 5 9 2


 sacred truth and rigid spelling.

 6   5 3 5  8


 Numerical spirits elucidate,

 9 7 9


 For me, the lesson's dull weight.

 3 2 3 8  4 6


 If Nature gain, Not you complain,

 2 6 4 3 3 8


 Tho' Dr. Johnson fulminate.

 3 2 7 9


「フム。では、第六問」

 と、リドルQがいった。

「『丸いようだが目玉でなく、近く、のようだが、近く、でなく、見ているようだが食べるもの』なーんだ? ちなみに今度はヒントなしだ」

「このロボットは、どういう頭の構造してんだろうな?」

 と、シュイレーディンガーがいま出されたばかりの問題になげき、

「ま、食い物のことは、広じいさんにまかせよう」

 と、弘左衛門に権利をゆずった。

「あ、わしか? ええと、目玉が近くて食べるもの? なんじゃいそりゃ?」

「コレコレ、題意はちゃんと把握せねばならんぞ!」

「近くってことは、そば、ってことでしょう」

 と、おそるおそるムジークがいうと、

「あ、そうか、わかった。答えは、月見そば、じゃ」

 と、弘左衛門が嬉しそうに答えた。

「キンコンカンコンキン!」

 と、リドルQ。

「なんか簡単だったね」

 と、男の子がいうと、

「まあ、そんなもんじゃない?」

 と、ベルベルが感想を述べた。

 リドルQは、むっつりしている。

 と――

「では、第七問。最後の問題だ!」

 急に声を大にして、そういい放った。

「果たして、諸君らに、この問題が解けるかな?」

 と、凄味をきかし、

「『エキセントリックな性格をした、おつむの弱い男が、ひとりごとをいいつづけ、ユーレイと話をし、あげくの果てにはジーサンを刺し殺して…… 』という芝居の題名はなーんだ?」

「ハムレット(イギリスの劇作家、シェイクスピアの四大悲劇のひとつ)!」

 すかさず、男の子が答えると、


 ドンガラ ガッシャン ギッコギコ…… 


 哀れ! リドルQは壊れ、男の子たち一行は第一の恐怖地帯 <迷宮の丘> をクリアしたのであった。


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