14 束の間の休息
「なんか疲れちゃったな」
と、魔法の説明会を終え、豪勢な夕食、さらには第二次ブートレグ伯爵対策会議も終えて、大石大王のキャッスルの来賓室に案内された小さな男の子はつぶやいた。
大石大王のキャッスルは、十九世紀ドイツ、ルードヴィッヒ二世によって建造された、こじんまりしたお城 <リンダーホフ城> によく似ていた。ひとことで形容すれば、イチゴののっていない四角いショートケーキといったところか?
「ああ、今日はいろんなことがあったからな」
と、やっぱり疲れた声でシュレーデインガーが男の子に答えた。
「じゃが、おいしい料理はたらふく食べられたよ」
弘左衛門が舌なめずりをしながら、そういった。
すると、シュレーディンガーが、
(まいったな!)
という顔をして、肩をすくめた。
――一時間ほど前の第二次対策会議で決まったことは、以下の如きであった。
『ここで、じっとしてても埒は開かない。こちらから、ブートレグ伯爵のところに出かけていこう』
そして、松の木ホテルの支配人さんが、お菓子の国の地図を開いて、いった。
『お菓子の国のまわりには、危険なところが非常にたくさんあります。そして、ブートレグ伯爵のいるゴルゴンの山に向かうには……』
怖ろしい怪物たちが住むと伝えられる五ヵ所の恐怖地帯を越えていかなければならないということだった。
すなわち――
『 <迷宮の丘> <ミニチュアの荒野> <風の谷> <死の川> <終着の岸辺> をやり過ごさなければなりません』
そして、協議の結果、その遠征の参加者は、小さな男の子、シュレーディンガー、弘左衛門、カロピー、ヌガー、マシュマロ、ムジーク、ベルベルという、一人と二匹と三お菓子と一音楽と一妖精に決まったのであった。ワックスワークがその遠征メンバーから外されたのは、ブートレグ伯爵の裏切りものに対する制裁をおもんぱかってのことであった。
「くそっ、オレのテレポート能力が、この世界では百メートルしか有効距離がないんじゃなければ…… 」
と、ふいにシュレーディンガーが、つい一時間前に気づいた事実についてぼやいた。もし、そうでなければ、彼は遠征の参加者全員を一気にゴルゴンの山に送るつもりでいたのだ。
「コンパクト時空の影響か、はたまた、ブートレグ伯爵の妨害か? ……ま、事実は事実、とやかくいったってしょうがないがな」
諦めよくシュレーディンガーがいうと、
「でも、キミには考える頭があるじゃないか!」
と、男の子が自在猫を慰めた。
すると――
「わしには食欲があるしな」
弘左衛門が、松の木ホテルの支配人さんに特別に作ってもらったジャムパンをなめながら呟いた。
「人生なんて、そんなもんじゃよ」
「弘じいさんにはかなわないな」
いって、シュレーディンガーは、再度、肩をすくめた。
「ところで、そのテレポート能力のことなんじゃが。……どうして、おまえさんは会議場に閉じ込められたとき、それを使おうとしなかったんじゃね」
弘左衛門が、急に思いだしたように自在猫に問いかけると、
「オレは誰かさんの頭のよさを信じていたんでね!」
沈黙。
「単に、忘れてただけじゃないのかね」
「オレは、あんたとは違うよ」
「まあ、まあ、まあ……」
と、雲行きが怪しくなりそうになったところで、男の子がすばやく二匹を仲裁していった。
「とにかく、明日は早いんだ。もう、寝よう!」
* * *
トンテンカン トンテンカン……
そのころ、暗い古城には、木と金をたたく音がひびいていた。
トンテンカン トンテンカン トンテンカン……
「ふーっ!」
大きくため息をつくと、ティンバー・ブートレグ伯爵は、自分の城の実験工作室で伸びをした。
(急がなければ、間に合わなくなってしまう……)
はじめから <非在の森> に住んでいたタコペロリンを別にすれば、彼が男の子たち一行に向けて放った死客は、すでに二人も――イミテーション・ゴールドと魔女――破れていた。もちろん、伯爵の死客には、まだ、とっておきの予備があったが、彼はその前に自作の死客を放ってみようと決意したのである。
(夜が開ける前に完成させなければならん……)
古めかしい懐中時計をじっと見つめると、伯爵は、若干焦りつつそ、う思った。
そして――
トンテンカン トンテンカン トンテンカン
孤独な作業に戻っていったのある。
木と金をたたくその音は、翌日の明け方、五時まで続いた。




