11 或るi世界が……
あたりは緊張で静まりかえっていた。
「困ったな」
と、最初に口を開いたのは、松の木ホテルの支配人さんだった。
「とにかく、本当に出られないのかどうか、調べてみましょう」
いって、四人のお菓子兵士に扉や張出し窓を探らせた。
「どうだ?」
「だめですね!」
「だめですね!」
「だめですね!」
「だめですね!」
四クッキーのお菓子兵士が同時に答えた。
「うーむ」
と、支配人さん。
「どうしたものだろう?」
一方、小さい男の子たちは実験をしていた。シュレーディンガーや弘左衛門と手分けして、テーブルや椅子やをぶつけてみていたのである。
「ホーラ、いいかい、シュレーディンガー?」
「オーケイ」
ガチャン!
確かに二つのテーブルは一つになった。
「じゃあ、三つではどうだろう? 弘左衛門、シュレーディンガー、オーケイ?」
「オーケイ」
「よっしゃ」
ガチャン!
<三つ> の椅子も <一つ> になった。
「なるほどね」
と、男の子。
「少し、はっきりしてきたよ」
「では、ここから抜け出る方法がわかったのかね?」
と、弘左衛門。
「ううん、まだそこまでは、とてもね……」
すると、ひとりと一匹の話を聞いていた支配人さんががっくりと肩を落した。
「だめですか?」
「いまのところは……」
と、男の子が答えた。
すると――
「人間やお菓子でも試してみたいところだな」
ヌガーがいい、
「あぶないから、やらない方がいいと思うけど……」
男の子がヌガーに忠告した。
「でも、たぶん、 <二つ以上のもの> が <一つ> になるって法則は成り立っていると思うけどね」
「ふん、いやな子供だ!」
いって、ヌガーが男の子たちに敵対した。
「だいたいだな、おまえたちがお菓子の国にやって来なければ、ブートレグ伯爵の攻撃は、もっとゆっくり進むはずだったんだ! そうすれば、おれたちにも打つ手が……」
すると――
「また、つまらないいいがかりをつけて!」
と、マシュマロがヌガーの発言に憤慨した。
「わからず屋! みんなが協力しなければならない、こんなときに、くだらないことをいって……」
「なにを! おれは自分が正しいと思っていることを発言したまでだ。それのどこが悪い!」
「ああ、いやだ、いやだ。アンポンタンは、これだから困るのよ! あんたは、いったい自分を何様だと思ってんの!」
「おまえこそ、自分を何様だと思ってるんだ! いったい、わからず屋は、どっちの方だ!」
「いったわねぇ! このクズ、ボケナス、アンポンタン!」
「てめえ、クソッ、いいたいことを抜かしやがって!」
「大あほう!」
「大まぬけ!」
「ボケナス!」
「ぽんつく!」
「トーヘンボク!」
「ぼくねんじん!」
「底抜け!」
「抜け作!」
「頓痴気!」
「昼行灯!」
「表六玉!」
「三太郎!」
「与太!」
「甚六!」
「不間!」
「へま!」
「ドンツク!」
「身知らず!」
「うつけ!」
「バカ!」
「やるきか?」
「ええ、いいでしょう! やってやりましょう!」
威勢よくいい放って、マシュマロが腰を浮かした。議論が、一転いい争い―― <激しい感情のぶつかりあい> ――に変わった。
その瞬間――
どこか遠くで、
パン!
と玉の弾ける音が、男の子たちの耳に聞こえた。
そして、気がつくと、ヌガーとマシュマロが気を失っていた。
沈黙。
「なによ、これ!」
と、ベルベルが恐怖の悲鳴を上げる。
「二お菓子は大丈夫なの?」
だが、その問いに答えるものはいない。
一人と二匹と十二お菓子と一音楽と一臘細工が表情を凍らせた。
再び、沈黙。
「二お菓子を助け起こしなさい」
という支配人さんの声が、うつろにあたりにこだました。
「新しい <現象> だ!」
と、男の子。
「どうも、そうらしいね」
シュレーディンガーがひっそりと呟いた。
「これは」 「いったい」 「どういう」 「こと」 「ざあます」 「か?」 「あっしたちを」
「おとしいれた」 「魔女の」 「魔法は」
「ぜんたい」 「どんな」 「法則に」
「のっとっていると、のっとっていると」 「いうん」
「でしょう!」
「さっぱり、わけがわからんな」
と、シュレーディンガーが困惑の表情でいつぶやいた。
「みなさん、お二お菓子は大丈夫のご様子です」
しばらくしてから、お菓子兵士のひとりがいった。見ると、ヌガーは頭を抱え、マシュマロは口をOの字に開け、放心している。
「おれたち、どうしたんだ?」
ヌガーがいうと、
「こわいわ!」
マシュマロがヌガーのそばに寄り添った。
そこに――
へっ へっ へっ へっ へっ
不気味な魔女の笑い声が聞こえてくる。
「さて、どうですかね、みなさまがた。わたしの魔法の法則性はわかりましたかな?」
ぞっとするしわがれ声でそう続ける。
だが、そのとき――
小さな男の子の瞳がキラリと輝いた。
(そうか、これはもしかすると、 <あれ> かもしれないぞ!)
りりしい表情できっと唇を結ぶと、男の子はシュレーディンガーとヌガーを手招きし、
「まだ、確証はないんだけれど」
そう前置きすると一匹と一お菓子に耳打ちした。
「つまり、この魔法に隠された法則性は――」
ゴニョ ゴニョ ゴニョニョ……
「うーむ!」
「なるほど!」
聞かされて、それぞれに納得するヌガーとシュレーディンガー。
「だが…… 」
「しかしな」
「もちろん、証明は必要さ。で、それなんだけど」
ゴニョ ゴニョ ゴニョニョ……
「なーる」
「しかし、それでうまくいくかな?」
「だめだったら、また考えればいいさ」
いって、男の子は右手の人差し指で小さな身体のてっぺんを差し示すと、にっこり笑った。
「みんなの頭でね!」




