9 ……のようなもの
「ところでヌガー、君がさっきいいかけた話なんだけど」
と、一難去って、みんなが落ち着いたところで、小さな男の子がいった。場所は同じ松の木ホテルの大会議場である。
「ああ、あれのことか」
いって、ヌガーは支配人さんを見た。
「彼に話してもかまわないかな?」
(かまわんだろう。ワックスは、もう味方になったことだし……)
支配人さんが目でヌガーに答えた。すると、躊躇なく、
「ひとことでいえば、ここが、お菓子たちの天国だっていうことさ」
ヌガーが男の子に説明した。
「え? どういうこと」
と、男の子。
「つまりだな」
と、ヌガーは続けた。
「ここの住人は、いわば、天国の住人みたいなものなんだ。天国だといいきってしまうと正確さを欠くが、似たようなものだろう。要するに、ここにいるお菓子たちは、みな、人間界で、一度はおいしいと思われたお菓子たちばかりだというわけさ。だから、さっき君が懸念したように、食べられたとしても、通常の意味では、おれたちは死なないんだ」
「ふうん、そうなの」
と、男の子が目をくるくるまわして状況を飲み込もうとした。
「おいしいと思われたってことは、一回は、食べられてるっていうことだよね?」
「ああ、その通り」
「ここ、お菓子の国は、おいしいお菓子たちの商品見本市みたいなものなんですよ」
と、支配人さんがヌガーの説明を補足した。
「それに、あなた方だって、ここに来るときに一回食べられているでしょう?」
「あのチョコレートバーの自動販売機のことかい?」
と、シュレーディンガー。
「ええ、そうです」
と、支配人さんが答え、
「あなた方にとっては、食べられるというのは気持のよくないことかもしれませんが、わたしたちにとって、それは、アメリカ樹海大学のマイクル・ビショップ教授が指摘したような単なるカニバリズム(喰人習慣)ではなく、ひとつの至福体験といってもよいものなのです」
「うーん、やっぱり、よくわかんないや」
と、目を白黒させると、男の子が正直な感想を述べた。
「本質的に違った種族間のコミュニケーションって、むつかしいんだね!」
「だが、それを補うのが知性だろう」
と、シュレーディンガー。
「違うかい?」
「それが、本質的に違った種類の知性でなければね」
いって、男の子が、ふっと、ため息をついた。
と、そのとき――
モクッ モクッ モクッ
モクッ モクッ
モクッ モクッ
あたりに魚を焦がしたみたいな、いやな臭いの煙がたちこめた。そして――
ボン!
鋭い爆発音が聞こえ、そのなかから、
「わたしは子供が嫌いだ。ハッ、ハックシヨン!」
黒い頭巾に黒い服を纏った全身黒づくめの魔女が現われた。




