8 イミテーション・ゴールド
「これから、これから、対策会議を、対策会議を、開催する! 開催する!」
松の木ホテル三階の大会議場で、お菓子の国の統治者である大石大王が、ティンバー・ブートレグ伯爵対策会議の開催を宣言した。
「それでは皆さん、着席して下さい」
議長の役を仰せつかった松の木ホテルの支配人さんがいった。
八十畳ほどの大会議室には、大石大王、支配人さん、カロピー、小さな男の子、シュレーディンガー、弘左衛門をはじめ、二十お菓子ほどのお菓子たちが集まっていた。楕円形をかたどったテーブルに、それぞれ着席している。
「なお、わが国の窮状を打開するため、この地をお尋ね下さったお客人は、先ほど、ティンバー・ブートレグ伯爵絡みの騒ぎで昼食をミスされたため、この席は、昼食会も兼ねて行われます」
支配人さんがそういうと、まばらな拍手が場内に巻き起こった。すぐさま、男の子たち一行には昼食が、他の参加者たちには軽食が配膳された。
「こんどは爆発しないだろうな?」
と、弘左衛門が小声で呟く。
「シッ。支配人さんに悪いよ」
と、男の子がやっぱり小声で弘左衛門に言葉を返した。
男の子たちに配膳された料理は以下の如くであった。まず、前菜は <ホウレンソウときのこのサラダ> で、それと二者択一のスープは <オルラ・ポドリーダ> だった。メインディッシュは <シャモのパイ包焼き> で、小さな男の子は辞退したが、その肉料理に添えられたワインはハンガリーの <トカイ・アスズ(5プトーニュ)> であった。
「あー、やっと腹の虫がおさまったわい」
「おお、オレも満足だ。ウィッ!」
豪勢な昼食を食べおわり、そう呟いた二匹の心残りは、食べる時間が少なすぎて、料理を丹念に味わう余裕が持てなかったことだけだった。
その一方で、小さな男の子は、お菓子の国にきてすぐに受け取った鋭い視線を、またもや感じていた。
「では、ブートレグ伯爵の対策会議をはじめることにします!」
料理の皿が仕舞われると、さっそく、支配人さんが宣言した。
「当面の問題は、ブートレグ伯爵の正体と目的が掴めないことですが、そうか、その前に自己紹介をしなければなりませんな」
いって、その場に集まった全員の顔を見まわした。
「では、ベルベル、君からはじめてくれ」
支配人さんの指名を受けて、彼の右隣に座っていた、薄いピンクの衣装を纏った妖精が挨拶をはじめた。
「あたしの名前はベルベル。お菓子の妖精です」
にっこり男の子に笑いかけると、
「あたしも料理が食べたかったな……」
もの欲しそうにそう呟き、お菓子妖精、ベルベルは着席した。
「ぼくはムジークです。お菓子の国の音楽係です」
生きている音楽のムジークは、オルゴールの音色のような声でそう語ると、着席した。
「わしは羊羮。お菓子の国の食料大臣だ。よろしく」
「わたしはフルーツゼリー。美術大臣です」
「おれはカステラ。環境大臣だ」
「あっしは寒氷。建設大臣をやっとります」
「ぼくはカロピー。ビスケットです。このたびは、とくめいたいしを、おおせつかりました」
「わたしはモンブラン。文部大臣です」
「あたくしはパスハ(チーズケーキの一種)。司祭大臣ざあます」
「わしはナポレオン(カスタードクリームとチェリーをはさんだ豪華なパイ)。当然、副官だよ」
「わたしはスワンシュー(白鳥をかたどったシュークリームの一種)。通商産業大臣です」
「おれはヌガー」
と、その苦み走った大人のお菓子が口を開いたとき、小さな男の子は、はた、と気づいた。
(ボクがずっと感じていたのは、このお菓子の視線だったんだ!)
ヌガーは続けた。
「職業は教師だが、ここでは有志だ。闘志を燃やす戦士といってもらってもよかろう。お菓子の国の窮状を打開するのに、よその国の人間の助力を求めるとは、笑止千万、寸志に欠ける。情けない。真摯な国民なら、私にならって、大志をいだけ! 嵐は来たり。自国の危機には、自らの手に拳を固め、立ち上がってこそ、お菓子の名士なり。丁々発止発止は武士の意地。戦い終われば、昔の奉仕、楽士か、はたまた琵琶法師、調子よい節、口づさみ、われらの戦史を謡うだろう。立ち上がれ! お菓子の国の君子諸君。山師などには用はない。しかし、といわず、戦え同志。証を立てろ! 風姿に構わず、必死になるのだ! 戦乱必至、ろうたし婦女子、義士男子。憎し伯爵、呼び出して、廉士は進む、悪の阻止。デモクラシーを守るため、意志の力で石投げて、いざゆけわれら、獅子、滅私。燃えよ闘魂、菓子の騎士!」
「ちょっと、いいかげんにしなさいよ!」
と、ヌガーの長広舌を封じたのは、
「わたしはマシュマロ。そこの小うるさいアンポンタンの許婚です」
「安本丹(アンポンタン=カサゴの類で味のよくない魚の俗称)とはなんだ! おれは苦み走った大人のお菓子であって、決して、魚ではないぞ!」
「それがアンポンタンだっていうのよ! 少し、黙っていたらどうなの」
「おれは正しい主張をしたまでだ。お菓子の国のことは、お菓子の国の住人がなんとかすべきなのだ。そう唱えて、どこが悪い!」
「あんたみたいな頭でっかちに、なにができるっていうのさ! せいぜい、戦死か、はたまた頓死、せめてよくって憤死ってとこね。せっかくやってきてくれた、そこ人たちが、私たちに手を貸してくれるっていうんだから、協力して事に当たればいいじゃないの!」
「う、うるさい! 口から生まれた小娘め! おまえこそ、少し黙っていたらどうなんだ!」
「いったわねぇ!」
「まあまあまあ、お二人さん、ここは、ひとつ <白紙> に戻して……」
マシュマロが椅子から腰を浮かしかけたところで、あわてて支配人さんが止めに入った。
「痴話喧嘩は、よしにしましょう」
「だって、そもそも、この人が、あんまりわからず屋なものだから……」
「なにを、この!」
「まあまあまあまあまあまあまあまあ……」
支配人さんは額にびっしょり汗を浮かべている。
(このお菓子たちは、いつもこうなんですよ。困ったものだ)
男の子に目を向けた支配人さんの視線は、そう語っていた。
そのとき大会議場に、息急き切って、伝令が飛び込んできた。それは、すばやい回転運動で定評のあるお菓子、ドーナツだった。
ドーナツは、くしゃくしゃに丸められた紙片を大石大王に手渡した。大王の顔が、見る間にまっ青に変わる。ゴクリとつばを飲み込むと、大石大王はいった。
「会議室の、会議室の、扉を、扉を、閉めるのだ! 閉めるのだ!」
どこから現われたのか『不思議の国のアリス』のトランプみたいな四人のクッキー兵士が、松の木ホテル三階の大会議場の鉄の扉を閉めた。
(いったい、なにが起こったんだろう?)
と、男の子は思った。
(まさか、この会議場にも、ブートレグ伯爵の魔の手が?)
大石大王に耳打ちされて、支配人さんが厳かな口調でいった。
「たったいま、秘密情報が入りました」
みんなの顔を疑り深そうに、じっと、見つめる。
「この会議場にティンバー・ブートレグ伯爵の手下が潜入しているらしいのです」
その言葉に全員の目が、はっ、と見開かれる。
「その者の暗号名は、イミテーション・ゴールド!」
「どいつだ! その裏切りものは?」
と、誰よりも早くパイ、ナポレオンが叫んだ。全員の表情を、じっくり見つめる。
「わしの目を逃れられると思うなよ」
ナポレオンが自身たっぷりにそういうと、
「そういうあんたが裏切りものじゃないって証拠はあるのかい?」
挑戦的にヌガーが応じた。
「こういう場合、たいてい真犯人が最初に口を開くものと相場が決まっているのさ」
「あら、あんた、たまにはいいこというじゃない」
と、マシュマロが彼女の許婚を称賛した。
「少し、見直したわよ」
そういうと、彼女はヌガーに寄り添って、その頬にキスをした。
「ムムム…… 」
マシュマロのキスに満足そうなヌガー。
だが、他の面々は自らの不安を隠そうともしなかった。
「怖いわね」
と、スワンシューが呟くと、
「あたくしは、絶対、犯人じゃない、ざあます」
と、パスハが主張した。
「あっしもちがうわい」
と、寒氷がいえば、
「もちろん、わたしでもありません」
と、モンブランが答えた。
「当然、わしでもありえない!」
と、羊羮が怒って叫べば、
「ぼくじゃないよ」
「ぼくでも、ありません」
と、ムジークとカロピーが少し不安そうにて小さな声で証を立てた。
「ばっかみたい、あたしがにせ者のわけないでしょ。ふん!」
と、ベルベルが憤慨すれば、
「おれでもない」
と、カステラが自らを擁護して、
「なんだったら、環境調査の件について話してもいいぞ」
と腰を浮かした。すると、当然のように、松の木ホテルの支配人さんが、
「いや、それは止めておかれた方がよいでしょう」
と、カステラを諭して、
「敵の目的は、案外、そんなところにあるのかもしれませんから」
と、カステラをとどめた。
「困ったな?」
と、シュレーディンガー。
「いっとくけど、金輪際、わしではないからな!」
うろたえながら、弘左衛門。
すると――
「こんな疑心暗鬼はたまたまらんな」
と、フルーツゼリーが苦々しく呟き、
「なんとか、なんとか、ならんのか! ならんのか!」
と、大石大王が表情をくもらせた。
「これじゃ、まったく、らちがあかんな」
と、どっと疲れた様子で支配人さんがつぶやいた。顔に困惑の皺が寄っている。
「ところで、扉のところにいる、四人のお菓子兵士は大丈夫なんだろうな?」
打つ手がないといった顔をしてそう続けると、自分の横にいる小さな男の子に助け船を求めた。
だが、いまのところ、男の子にも、これといった策はない。
「また言葉遊びじゃないのかい?」
と、シュレーディンガーが小さな男の子に耳打ちすると、
「さあ、わかんないよ」
と、力なく男の子が答えた。いくら男の子といえども、材料がこう不足していては、推理のしようがなかったのである。敵、イミテーション・ゴールドかもしれない容疑者は――お菓子兵士を除くとして――一人と二匹と一妖精と一音楽と十四お菓子もいた。シュレーディンガー、弘左衛門、大石大王、カロピー、支配人さん、ベルベル、ムジーク、ヌガー、マシュマロ、羊羮、フルーツゼリー、カステラ、寒氷、モンブラン、ナポレオン、パスハ、そしてスワンシューの一人と二匹と一妖精と一音楽と十四お菓子だ。
「いっそのこと、食べてもらえばいいじゃないか?」
と、ヌガーが、あたりの湿った沈黙を押し払うかのように過激な意見を述べた。
「おれはこう思うんだ」
と、全員の顔を見まわす。
「おれは、お菓子の国の仲間たちを信じている。つまり、おれたちの仲間には、裏切りものはいないと信じるわけだ。すると、この場に紛れ込んだにせ者は、当然、お菓子ではないという推理が成り立つ。とすればだ、本物のおれたちはお菓子だから、犯人、イミテーション・ゴールドは、食べられないやつってことになるだろう。どうだい、この考えは? それにおれたちは……」
「残念だけど、その考えには同意できないわね」
と、ヌガーの発言をさえぎって、お菓子妖精のベルベルがいった。
「だって、あたしはお菓子じゃないもの。それに……」
と、ムジークを、じっと見つめて、
「彼だって違うわ!」
ベルベルの言葉に、生きている音楽のムジークが、申しわけなさそうに頭をたれた。
「どうやら、行きづまっちゃたようだね」
と、ついに男の子が意見を述べた。右掌をぐるぐるまわすと、オーバーオールのポケットを探った。
「ボクにも、さっきヌガーがいった以外の方法は思いつかないな。でも、こうやって話している相手を食べるなんて、ちょっと、ぞっとしないからね」
「いや、しかし、おれたちは、食べられても……」
と、ヌガーがなにかをいいかけると、
「だめだ、ヌガー! いまは、それ以上いうんじゃない!」
松の木ホテルの支配人さんが、あわててその発言を止めた。
「私たちのその秘密は――少なくとも――ブートレグ伯爵の手下がいないところでなければ、いうことは許されん!」
「わかったよ、支配人さん」
「で、さっきの話の続きなんだけど」
と、青いオーバーオールのポケットに手を突っ込んだ男の子が、シュレーディンガーに耳打ちした。
「最後の手段で、青い玉を使うしかないと思うけど、キミはどう思う?」
「他に方法がなければ、しかたがないだろうな……」
と、シュレーディンガーが男の子を見て頭を抱えた。
すると――
「さっきのヌガーの仮定、つまり『ここに紛れ込んだにせ物はお菓子ではない』という仮定が正しいとすればじゃ」
と、それまで黙って考え込んでいた弘左衛門が、ふいに口を開き、いつになく明朗闊達な口調でいった。
「大事な玉を使わなくてもよい方法があるぞ!」
「え!」
「本当ですか?」
と、支配人さんが身を乗りだして弘左衛門に尋ねた。彼は男の子たちの会話に耳を澄ましていたのだ。
「つまりじゃな、わしは犬じゃからね……」
謎めいた言葉を残し、にやっと笑うと、弘左衛門は、すばやく楕円形のテーブルをまわりはじめた。
クン クン クン
その場に居合わせたお菓子たちの匂いを嗅ぐと、決心したように、その巨体を、のそっと、あるお菓子のうしろに近づけ、
「犯人はあんただよ。環境大臣」
静かにそういい放った。
「もっとも、さっきの発言から、あんたが怪しいとは思っておったんじゃがね」
「そうか! 匂いなんだ」
と、急に気がついて、男の子が叫んだ。
「ね、そうでしょう、弘左衛門。ヌガーの仮定が正しいとしたら、お菓子たちを食べなくたって、犯人がわかるはずなんだ!」
「エッヘン!」
と、男の子のその言葉に弘左衛門が鼻を高くした。
「弘じいさんの喰い道楽も、たまには役に立つことがあるんだな」
と、妙なふうに感心してシュレーディンガーがいった。
「いくら鼻がよくたって、味や匂いを知らなけきゃ、役立たずだからな」
珍しくシュレーディンガーに褒められて、弘左衛門がますます鼻を高くした。
すると――
正体を暴かれたお菓子の国のにせ環境大臣、カステラの姿が急速に変形をはじめた。
もとのカステラの形がこわれて歪み、男の子にも見なれた <何物> かの姿に変わっていった。
そして、それは――
チョコレートパフェ?
「どういうことなんだ!」 「あたくしには、さっぱり?」「わからんな」
「わしは夢を見ておるのか?」 「なんでチョコパフェが?」
「あたまが狂っちまいそうだね」 「皆目見当がつかんね」 「ぼくにだって?」
「わたしだって、そうよ」 「ねえ、ヌガー、理由は?」 「わけがわからん」
「ふしぎ、ですね」 「わたし、おかしくなりそう」
「あたしに説明してよ」 「説明を、説明を、求む! 求む!」
「ねえ、シュレーディンガー、キミになら?」
「無駄だよ、さっぱりだ!」
「いや、わしには、わかるような気がするよ」
最後に、弘左衛門がそういった。
すると――
「本当ですか?」
と、くだんのチョコレートパフェが泣きそうな声で答えた。
「ああ」
と、弘左衛門が優しくうなずく。
「みんなに君の正体をいってもいいかな?」
「ええ、そうしてください」
「では、いおう」
そこで、弘左衛門はちょっとの間を置いた。
「彼、イミテーション・ゴールドは、おそらく、本物のお菓子に憧れた、臘細工の商品見本なのであります。すなわち彼は……」
――彼、イミテーション・ゴールドは、小さな男の子たちの世界に住む、臘細工の商品見本だった。そして、彼は、弘左衛門が見破ったように、本物のお菓子に憧れていた。
では、その彼が、なぜ?
『なんだこれ、にせものじゃない?』
『にせものなんて、いらないわ! あたしは、ほんものがたべたいのよ』
喫茶店のショウケースに飾られた彼を見てそう叫んだ街の子供たちの心ないそんな言葉が、イミテーション・ゴールドに本物のお菓子に対する劣等感を、そしてさらには、くるおしいまでの憧れの気持を抱かせたのであった。
その言葉を聞くまでの彼は、毎日毎日、いかにして本物のお菓子らしくふるまおうかと、一生懸命研究を重ねていた、清く正しい商品見本であった。
『あ、そうか! 本物のチョコレートパフェはクリームに輝きがあるんだね!』
『へぇー、チョコレートムースって、こんな色をしていたんだ!』
だが、ひとたび、自分が本物ではない、ただのにせもの(イミテーション)なんだと思い込まされてしまえば、もう、あとには引き返せない。
意気消沈して街をさまようゴールドに、ある日、声をかけた者がいた。
『どうだい、わしのいうことを聞けば、本物のお菓子にしてやろうじゃないか?』
言葉巧みにゴールドを騙したその男こそ、いま現在のお菓子の国の最大の脅威、ティンバー・ブートレグ伯爵だったのである。
「ごめんなさい。ぼくは、ただ、本物のお菓子になりたかっただけなんです。ほっぺたがとろけて落ちそうになるくらい、おいしい、本物のお菓子になりたかっただけなんです。それ以外の望みなんて、なんにもないんです」
弘左衛門に正体を見破られたイミテーション・ゴールドは、最後にそう泣き叫んだ。
彼によると、本物のカステラは、前の晩に睡眠薬入りのお酒 <招興善醸酒> を送られ、まだ、ぐっすり寝込んでいるはずだという。カステラの酒好きを利用した作戦だった!
「そりゃたしかに」
と、しばらくしてから、弘左衛門がゴールドにいった。
「君は食べてもおいしくないかもしれない。じゃがね、君が持っている、なんにでも変身できる能力は、それはそれで、かけ替えのないものじゃと思うがね」
「本当に、そうでしょうか?」
と、ゴールド。
「本当に、そんな <にせもの> にしかなれない能力が?」
「にせものじゃないよ!」
と、ゴールドと弘左衛門の話に割って入ると、男の子が叫んだ。
「蝋細工は立派な芸術だと思うよ。キミはキミにしかできない能力を、もっともっと誇っていいのさ。ね、弘左衛門、シュレーディンガー、それにお菓子の国の皆さん。そうでしょう?」
「うん」 「ああ」 「そうだね」
「ざますわ」 「まったくもって」
「正しい」 「その意気で行きねぇ」
「むろん」 「賛成」
「ええ」 「ほんと」 「できるさ」 「できるとも」
「世界一の蝋細工に」
「なれるとも」
「がんばれよ!」
「イミテーション、イミテーション ・ゴールドを ・ゴールドを、お菓子の国の、お菓子の国の、名誉市民に、名誉市民に、迎えることを、迎えることを、決定する! 決定する!」
それは男の子たちに勇気づけられ、すっかり改心したイミテーション・ゴールドに対する、大石大王の粋な計らいであった。
「ありがとう、みなさん!」
と、涙をポロポロこぼしながらイミテーション・ゴールド、いや、世界一の蝋細工になろうという希望に燃えた、ワックスワークはいった。
「とにかく、せいいっぱい、がんばります!」
松の木ホテルの大会議場にわれんばかりの拍手が巻き起こった。
* * *
「バカモノめが! くだらん情けに絆されおって……」
人気のない暗い古城で、ティンバー・ブートレグ伯爵は怒り心頭に発していた。
それというのも――
イミテーション・ゴールドに送った指令暗号がお菓子たちに察知されてしまうとは、明らかに、伯爵自身のミスであったからだ。小さな男の子たちを陥れる作戦失敗の責任の、少なくとも半分は自分にあると理解していたからだ。
「だが、もうそんなケアレスミスは犯さんからな…… そして、ふっ、ふっ、ふっ、次なる死客は手強いぞ。……なあ、婆さん」
不気味にそう呟くと、背後に控えた黒ずくめの老婆を振り返った。
「はい、はい。わたくしに任せて下されば、すべてはみな遺漏なく」
「よし、おまえに任せた! 彼らをぎゅうという目に合わせてやるのだぞ!」
「ええ、かしこまりまして、ございます」
これも不気味な声色の老婆――魔法使い――はうなずくと、その場から、すっと、消えた。
あとには暗い古城に、ティンバー・ブートレグ伯爵の狂気の笑い声だけがこだましていた。




