4 旅立ち
「それでは、気をつけて行ってくるんじゃぞ!」
例によっていやがる弘左衛門を無理矢理ジャムパンで説得して、お弁当と水筒を持ち、帽子を被ってお菓子の国に出立せんとする男の子たち一行に向かって、大乗寺啓之助がいった。
今日の啓之助は粋な着流しでバッチリと決めていた。丸い伊達眼鏡をかけ、扇子を持った姿は、まるで大正デモクラシー当時の学者のようだ。たとえていえば、いまだ旅立った夢の世界で現役活躍する古老SF作家の今日泊亜蘭翁というところか?
「そうだ、いいものがある!」
と、急に思い出したように和服姿の大乗寺啓之助が叫んだ。数々の珍品・奇品が整然と並べられた実験室からプリンターリボンほどの大きさの箱を持ってくると、
「つい先日、完成したばかりなのじゃが……」
いって、箱の中身を男の子たちに披露した。
「わあ、きれい!」
と、男の子が答える。啓之助が持ってきた箱のなかには、赤、青、緑、三種類のビー玉が入っていた。どういう材質でできているのか、窓から差し込む朝の光りを受けて、キラキラと内側から輝いている。
「これは?」
と、男の子が問いかけた。
「ひとことでいえば、願望具象化球じゃな」
大乗寺啓之助が答えた。
「状況に応じて願いが叶う玉だと思えばよいじゃろう。カール・プリブラムの脳波―ホログラム・パラダイムから発想したものだ。本当に危険な目にあったら使いなさい。念じて、危機的状況を発生させた相手に投げつければよい。そうすれば、たぶん、なんとかなるじゃろう。内部空間通信波で、いつでも、またどこでにいても、わしのコンピューターとリンクされておるからな」
「ありがとう、おじいさん!」
いって、男の子は大乗寺啓之助に感謝をした。着ていたオーバーオールのポケットに三色の玉を大切にしまい込むと、ついで二匹の仲間と、お菓子の国からの特命大使に向き直った。
「ということで、さあ、出発しようよ!」
「おお!」
「ええ、いきましょう」
「ああ、いやじゃな!」
男の子の呼びかけに、それぞれの仲間が、それぞれのやり方で答えを返した。
「えっと、ところで?」
と、気勢が上がったところで、ふいに男の子がカロピーに問いかけた。
「行くのはいいけど、お菓子の国には、いったい、どうやれば行けるの? まさか部屋の真中に魔法陣を描くとかいわないよね?」
そういって、男の子は楽しそうに両目をくるくるとまわした。すると、お菓子子供のビスケット、カロピーが自信を持って彼ら全員に答えた。
「ほうほうは、あります。まあ、ぼくに、まかせておいて、ください!」




