↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
34/57

3 救援依頼

 バリン! 


 すさまじい音をたててガラス窓が弾け飛んだ。渦を巻いてまわる文字の群れが男の子の部屋に飛び込んできた。男の子が身構える。すっと脇に避けると、パラライザー(しびれ銃)を構えて、謎の物体に面と向かった。男の子が銃の引き金に手をかける。


 と、そのとき――


 文字の群れの回転がゆるやかになり、意味を持った言葉の配列が、そのなかから現われた。


 き・け・ん・は・あ・り・ま・せ・ん


 意味を持った文字の群れが男の子にそう告げた。


 ぼ・く・の・な・ま・え・は・カ・ロ・ピ・ー お・か・し・の・く・に・の・じ・ゅ・う・に・ん・で・す


「カロピー? お菓子の国? それってなに?」

 目をくるくるまわすと男の子はいった。文字の群れは、もうすっかり回転を止め、しきりにひとつの形になろうとしていた。男の子はその移り変わりをじっと見つめた。奇妙な光景。文字の正体はビスケットだった。文字型のビスケットだ。それがまとまり、ひとつ

となって男の子と同じような子供の姿に収斂した。

「ぼくはカロピー」

 と、子供となったビスケットはいった。

「おどろかせてしまって、ごめんなさい。それから、あの、ガラスまどを、わってしまって、ごめんなさい。とまらなく、なっちゃたんだ、かいてんが。ぼくは、そらを、とぶときには、うずまきになるんだけど、いそいで、いたもんで、ほんとうに、ごめん!」

「キミの方は怪我をしなかったの?」

 男の子は尋ねた。

「ビスケットだったら、けっして固くはないよね?」

「ううん、それだったら、だいじょうぶです」

 カロピーは答え、そして申し訳なさそうに割れたガラス窓を見て、

「かいてんの、しょうげき、は、で、こわしてしまって…… ええと、ほんとうに、ごめんなさい。ぼくって、ドジなんだ」

「そんなに窓のことを気にするんなら、ホラ、見てごらんよ」

 いって、男の子は部屋の入口を指差した。カブトムシみたいなロボットが、ちょうどノソノソと入ってくるところだった。

「掃除ロボットさ。お隣のおじいさんが造ったものなんだ。とっても高性能で、修理も得意!」

 男の子がそういうあいだにも、カブトムシ型の掃除ロボットはガラス窓の破片を拾い、ひとたびそれを体内に取り込むと、小型核融合炉で融解して、たちまち元の形に戻してしまった。

「す・ご・い・!」

 カロピーが文字の配列で答えた。どうやら彼は、驚くとそんなふうにしてしゃべってしまう癖があるらしい。

「ところで、ボクにどんな用事があるのかな?」

 緑茶とケーキでカロピーの気持ちを落ち着かせると、男の子はいった。

「わざわざ、ボクのところまで来たからには、理由があるんでしょ?」

「うん、そうなんです。……じつは――」

 お菓子の国の住人と自ら名のる文字型ビスケットのカロピーは、語りはじめた。

「おかしのくには、いま、たいへんな、ききに、みまわれているんです。ティンバー・ブートレグ、と、なのる、はくしゃくが、ひとつきまえに、あらわれて、おかしのくにの、なかまを、さらいはじめたのです」

 それは突然の出来事だったようだ。

 平和なお菓子の国――どうやら、それは現代物理学でもまだ完全に謎が解かれていない、超ひも理論によって要請される隠れた次元(コンパクト時空)にあるらしい――に現われたティンバー・ブートレグ伯爵は、数々の悪行を重ねていた。最初はただ珍しそうに住人たちにちょっかいを出すだけだったが、やがて、その残忍な性格そのままに、外科用のメスでお菓子たちの表面をこそげとり、クリームやシロップをなめては閲にいっていたらしい。そして、ついに、お菓子の国の住人たちが恐れていたように誘拐(お菓子さらい)がはじまった。

「ブートレグはくしゃくは、おかしのくにの、はずれにある、ゴルゴンのやまに、すんでいます。そこは、けわしく、おそろしい、かいぶつのいる、やまで、ぼくたちの、なかまは、いままで、あしを、ふみいれたことも、ありません」

 ブートレグ伯爵がいったいどのような方法を用いて、突如としてお菓子の国の中心地に現われ、仲間を浚っていくのか、カロピーたちには想像もつかないという。

 そして話題はふいに男の子自身のことになった。

「たすけて、ほしいんです。たまたま、ぼくたちは、あなたたちの、かつやくを、ききおよびました。うちゅうかいじゅう、なんでもたべちゃうゴンを、たいじした、はなしをです。ぼくたちの、むエネルギーほうしゃの、ネットワークが、そのえいぞうを、とらえました。ぼくたちを、たすけられるのは、たぶん、あなたたちしか、いないんです。それに――」

 お菓子の国には子供、もしくは子供の心を持ったものしか入れないのだという。

「ネフェッツの排除定理かもしれないな」

 と、いつの間に現われたのか、自在猫のショレーディンガーがいった。つい先日、ゲームをしていたコンピューター・ディスプレイの上に乗っかっている。

「排除定理は、集合論の一風変わった命題なんだ。ある種の集合は、互いに混じりあえない性質を持っている。たとえば、通常の人間たちが妖精を見られないのは、次元の物理的拡張に、その定理が抵触するからだという数学者の説もある」

「ふうん」

 と、男の子。

「ま、堅苦しい話は、それくらいにしとこうかな」

 シュレーディンガーが悠然として呟いた。

「ところで君は」

 と、男の子に向かい、

「こうまで頼まれたんじゃ、むろん、断れんよな!」

 ついで、カロピーに向かい、

「おれは行くぜ。ティンバー・ブートレグ伯爵とやらと戦ってやろうじゃないか!」

「じゃ、弘左衛門を呼んでこなくっちゃ」

 しばし熟考すると、男の子は答えた。

「弘じいさん? あんなオイボレが役に立つもんかね」

「そんなこと、いうもんじゃないよ」

 と、男の子がシュレーディンガーを諭した。

「生きてる時間が多ければ、それだけ、いろんな経験をしているんだからさ」

「そういうもんかね? ま、いいわさ。とにかく、いっぺん啓之助翁の所に行こう」

「オーケイ!」

 と、男の子は答え、子供の姿をした文字型のビスケット、カロピーに向かっていった。

「ということで、話は決まったよ。ボクたちが力になれるといいんだけどね」

「あ、ありがとう、ご・ざいます!」

 カロピーが答えた。そして感動のあまり、何故か英語で続けた。

「I am very grad to see you ! (あなたたちに会えて本当によかった!)」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。