1 プレリュード
はじめは渦巻のように見えた。
だが、砂塵を舞い上げくるくると回転しながら近づいてくる <それ> は、実は渦巻などではなかった。
ヒュルヒュル ヒュルルゥ……
風の唸りをあげて、 <それ> が近づいてくる。空を越え、丘を抜けて、トキオの外れ、T川にほど近い閑静なS区の住宅地に向かって飛んでくる。 <小さな男の子> の家がある、住宅地の中心部目指して飛んでくる。
* * *
「ふっふっふっ、わしの望みが叶う日も近いな!」
いずことも知れぬ暗くじめじめした古城のなかで、ひとりその男はほくそ笑んだ。
「わしの望み、その気高く尊い、わし以外の誰にも真似のできぬ、極めて利己的ではあるが美しい望みの叶う日も近い」
男は右手に握り閉めた外科用のメスを、古城の窓から射す月明かりにキラリと輝かせると、大理石の台の上に横たえられた彼の <研究対象> に向き直った。
「お客人、用意はよろしいかな?」
凄味をきかす。
「偉大な研究には、つねに犠牲はつきものだ。まず、どこから小削げ取られるのを希望するかね。その表皮か? はたまた、興味溢るる、その内部の構成要素だろうか?」
男の <研究対象> は何もいわなかった。コソリと動きもしない。じっと、うずくまるように、固く冷えた大理石の解剖台の上に身を横たえたままだ。
「では、名誉ある犠牲を!」
ぞっとするような低音の声でそう呟くと、男は、彼の研究対称に向かって、一直線にメスを振り降ろした。




