162話
良く見えない。
結構動きも速い。
しかもあの紅蓮の鎌を短い剣、ツーハンドで捌いている黒の服を基調とした使い手。
その動きは演武の様な。でも軽くは無いんだ。
寧ろ一撃一撃が重いんだけど早い。
動き、身体の捌き共に洗練されている。
……何だあの人?
というか、ガルムくんなの?
それしか無いよね? ね?
……わわわっ。もしかして貴重な犬系男子の変身シーンを見逃した?
私としたことが…………。
「くっ…………ぐぬぬぬぬ」
鎌の数は10枚。
恐らく4枚程は倒したのかも。
私は2枚だったけど14枚を捌きながら倒すのは恐らく至難の業で多分無理ゲー。
でも犬系男子は傷一つ負っていない様に見えた。
……いや、そんな事は無い。
的確な動きだけど微妙に腕とかにかすったりしている。
「おお。傷が消えた……」
特に何かした気はしないから恐らくアレだ。
自動回復系。
ふむふむ。私もきっと練習すれば出来そうなんだけどね。
あのマグマで死に戻りを繰り返していたらコツは掴んでいる気がしたんだ。
ほっそりとして精悍な顔つきをしている犬系くん。
中々やりおる。
裏を付く動きで二枚同時に叩き落とし更に短い剣で二枚抜き。
貫いた紅蓮の鎌を無造作に外し次の獲物とばかりに狙いを定めている。
――――強い。
確実に数を減らしている。
だが紅蓮の鎌も容赦ない。
しかし動きは双方徐々にキレが無くなってきている気がした。
んん?
時折犬系男子のおしりをふわっとしている鎌。
一体何なんだろう。とか思考している私も一体何なんだろうか?
いやでもね、そうなんだもん。仕方ないでしょ、私もやられたしー。
鎌の残数は6枚――――の筈が……あれれ?
気が付くと後2枚になっていた。
そこで違和感を感じた私。
犬系くんが倒したの?
私の眼をかいくぐって?
何かがおかしい。
ふと鎌を見るとサイズが大きくなっている気がした。
むむ……。
もう少し近づいて見てみようと思い距離を半分詰めるとそこでこの戦いに変化が訪れた。
2枚の鎌が私目掛けて向かってきたんだ。
「ちょ……うそでしょー」
覚悟を決めて先ずは叩き落とそうとした所、紅蓮の鎌は私の目の前で止まり一つに融合。
目の前には一本の大きい鎌として私の手に収まった。
「鎌の武器…………」
自分が生み出した魔法から勝手に生成された紅蓮の鎌。
私は少し複雑な気分でその手にした鎌を軽く振るった。
「………………軽い」
「お前、やるな! こんな直ぐに俺に変身を解かせるとは」
「あ、やっぱそうなんだ……。きみは人間なの?」
「…………そうだ。まあ良いか……俺の名前はトルク。冥王のトルクという。コレでも世間では強者として少しは知られている者だ。…………お前は?」
「あ、そうか。まだ名乗って無かったかな――――私の名前はさらお…………じゃーなくてさらっちだよ! よ、よろしくね!」
わっわっ、危ない危ないそれ本名! 名乗っちゃったよう。いやいやせーふ。セーフだよね!
「……………………あ」
最近、他でも名前……聞かれていた気がする。
思い出せないけど私、やっちゃったかしら。
「解った。お前の勝ちだ! さらっち……という事で俺様の負けだ、もう動けん。後は好きにしろ!」
「え? …………えーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
「あんなの出されたら無理だろ! 巫山戯やがって!」
「……あはははは。そ、そうですよねー」
トルクさんはもう立っているのもやっとだと座り込んだ。
私はそこまで疲れていなかったけど目線を合わせるため近くで座った。
近くで顔を見るともうね。顔が強そう。
眉毛がくいっと斜めに上がってて怒って無くても怒って見える様な感じ。
マッチョには見えないけれどあの腕。殴られたら漫画みたく吹き飛びそう。
そんな強そうなトルクさんでも紅蓮の鎌14枚は厳しかったみたい。
「…………何故、犬の姿だったんですか?」
何となく疑問に思った事を聞いてみた。
「あぁ。それはな……此処へ来る時に必要だったからだ」
「なるほど、そういう制約みたいなのもあるんですね…………」
「……お前はどうやって此処へ来た?」
「私は…………騙されて確かカプリスダンジョンの7階層から。気が付いたら200階層へ来ていました」
「…………ソイツは凄ぇな! 正ルートかよ。生き残って辿り着けるなんてお前……化物だな」
「何度も死にましたよ? ハハハ……」
思い出す度に壊れそうになる私。
「なるほどな。それならその強さ――――頷ける。そうか、騙されたか……そんな事したい人間は一人しか知らんから俺の知っている人物だろう」
「サマーさんという人とパーティメンバーに騙されました」
「……そうだな。俺はソイツらをを知っている。何故お前を騙したのか、見当も付く……知りたいか?」
トルクさんはそう私に話す。
恐らく……彼等は彼等なりの理由があって――――――――こうした。
そして、私がこうなった。それが今現在。
…………知らない方が良いのかも知れない。
せめて聞くなら彼等の誰かから。
懺悔の心を持っているのなら。聞いても良い気もする。
しかし、知ってしまったら。私が少しでも納得する理由があったなら。
――――――――私は彼等を許せるのだろうか?
「もし、その時があったら、教えてください。……今は――――知りたくないです」
「…………解った。そうだな。知りたいなら本人から聞くのが一番良いかもしれん」
「そういえば何故此処に居るんですか?」
「……ん? 大会が行われていると聞いて飛び入り参加させて貰っただけだ」
「……ですよねー。参加者はまだいるって事ですよね?」
「あぁ、そういう事か。俺の予想だと後2、3人位だと思うが正確な人数は知らぬ」
そっかそっか、もう少しか。
あー早く着替えたいなぁー。
「じゃあ、トルクさん……私、次行きますので。機会が有ったらまた…………」
「…………お、おう。…………そうだな。またな強者よ!」
色々と情報も聞けたし、微妙だけど一応勝ちは勝ちだし。
怪我もしてないしうんうんおっけ。
次いこお――――あ、忘れものしちゃった。
歩きながら考えていた私は一番の忘れ物を思い出した。
「トルクさん………………一番大事なもの――忘れていました。うふふふ…………」




