159話
そんな私の前には更に強い敵が現れた。
恐らく。今まで対峙した敵の中では別格。
もしかしたら地下200階層級の化物。
「ふむ……。お前なら連鎖識の腕を倒したのも頷ける」
「………………腕?」
…………あぁ。確かそんな敵を倒した気がするね。忘れちゃったけど。
「……あの腕はそうそう倒せない位には強い筈なのだがな」
「思い出した。確か運良く体重を掛けたクリティカルな一撃が入った奴だね」
「お前が奴の右腕を倒してくれたお陰で俺にもチャンスが出て来た。という事で次は俺が相手だ」
「…………何ソレ面倒くさ」
「あはは、そうだな。面倒くさいな。でもそれ位には奴との因縁があったのでな。俺にとってはそういう事になる」
「……そっかー。でも私も強いよ?」
「そう。もうこのフロアーには強者しかいない…………行くぞ!」
向かってきた。
相手は少し細身の人……では無いだろうから種族は解らない。
まだ少し距離があると思った矢先に敵のいる空間がブレた。
直ぐに違和感に対応、後方へと小刻みにジャンプ。距離を取る。
相手は…………空間を移動した?
そんな感じに見えた。しかも早い。
直ぐさま無詠唱のウインドカッターを予測した空間移動先にぶん投げた。
おまけとばかりにサンドカッターも投げて二段構えの攻撃。
即席の魔法とは言えある程度の攻撃力はあるソレを相手は弾いた。
しかし二の矢のサンドカッターは弾けずにヒットしている。
ふむふむなるほど。
「クッ……やるな、人間よ」
敵は右腕を左手で触り摩る動きをした。
すると腕に刃の様な物が生えたのか腕から出現したのか。
良く解らないが鋭そうな…………とても鋭利に見える。
再び同じ呪文を繰り返し放ると今度はその刃で私の魔法を切った。
つまりは対応した。
「その技はもう見た――――」
「…………わわっ」
先程までは空間移動でもソコまでの距離では無かったのだが今回のは目の前まで飛んできた。
空間移動後直ぐに近接。刃の付いた腕を振るってきた。
とても避けられそうも無かった為に素手。掌に魔力を纏わせてガード。
本来こんな使い方したことが無かったが出来た。
あ、でも少しお手々斬れてるよぅ。痛いなぁ。もう。
親指の先から滲み出る血をひと舐めし敵を睨んだ。その距離三メートル程。
敵はそんな私を良く解らない。私には理解出来ない顔をしながら見ている。
何だろ。あの表情?
「っっっっっっっっっ……ふぅ…………ゴクリ」
喉を鳴らした? 血?
「もしかして…………吸血鬼?」
「…………半分正解」
ニチャアと口を広げ、笑いながら私に鋭い八重歯を見せた。
「うわぁ……」
「俺が勝ったら吸い尽くしてヤルぞ!」
「……絶対負けないから!」
とは言ったものの先手は殆ど相手。
私は単に攻撃を合わせているに過ぎない。
どうしたものか……。
距離が近かったから近接の組み手や殴り合いになったが恐らく少し不利。
この状態が長引くのを嫌った私はタイミングを見計らい後方へジャンプ。
しかし相手にも合わされた。
「くっ…………」
「ふはははは……」
気が付いたときには遅く私は敵の吸血鬼に馬乗り、マウントを取られていた。
「俺の勝ちだ!」
「……………………」
敵吸血鬼もどきは恍惚とした表情をしていた。
そこまで血って美味いのか?
だがそんな状態の私は至って冷静だった。
まず手を口に近づける。そして強く歯で斬る。
どばっと血が飛び出た腕を宙に振るった。
直後、吸血鬼の意識は私のドバッと出ている血。
宙にしぱぱと浮いている血に集中していたというよりポカンと血を見ていた。
予定通りに馬乗りを押し上げすかさず呪文詠唱。
力が入っていない相手をどかすのはとても簡単だった。
「…………ファイアボール!」
自らの手を保護して即席のファイアボールを近距離で放つ。
「それはズルい……」
目の前の吸血鬼もどきのお腹には穴が開いてチリチリしていた。
どうやら貫通した感じ?
「…………キミの名前は?」
「…………さらお」
「――――――――うん。礼を言うぞ強者よ!」
そう話した名も無き吸血鬼もどきは塵となった。
「…………名ぐらい名乗ってよう!」
後々で知ったけど不死の軍団長の『血糊』というらしかった。
しらんけど覚えとくよ。
『流石、血みどろヒャッハーたん』『血で勝ったな、がはは』『馬乗りぐへへたすかる』
『そんな血みどろひぉやっはーたんかわよす』『敵も少し間抜けだったな』『血には抗えないのだろう』
『お前らだって可愛い下着とかヒラヒラと飛んでいたら取りあえず見るだろ。俺は見る』『だな!』
『……だな』『そりゃ見る』
「…………ふぅっ。ふぅっ」
止血を魔法でして取りあえず大丈夫。少しすれば塞がる筈。
なんとか勝った。
うんうん。
また私、強くなった気がするゾ。限界を突破した気がする。
カメラに向かってポーズを取ってニコッと笑った。
だがしかし、一度ならず2度までも。
そうなのだ。
今の私は血みどろだった。
自分の血がドバドバと顔にもかかっていた。
『血が似合う少女さらっち』『血みどろポーズ助かる』『あぁ……笑顔は良いのに』
『解ってる。天丼はお約束』『さらっちの血。俺も舐めたいぺろ』
『俺なんか変な性癖に目覚めた』『あんまり血を写すとBAN食らうよー』
『……さらっちはさらおちゃん…………ないしょだよ』
またやってしまった。
もう故意と思われても仕方が無い。
しかもそうだね。血は駄目だね。
実況編集で改ざんしておこう。
緑色にして…………見せられないよっと。
多分…………耐えっ。
危ない危ないうふふふふ。
……違う意味で整ってきた気がする。
◇◇◇◇
遠目で見つめる二人。
その距離は限りなく遠くとても肉眼では見えない程の場所。
「ほほぉ…………」
「いやいや、何でアイツあんなに強くなったの?」
「さらちゃんってあんなに強くなる才能あったんだ」
「しかし急激過ぎる。あの変わり様は…………そろそろ変身とかするんでないの?」
「それは何かやだなぁ……今のままが可愛いのに」
「――――目測を誤ったか?」
「さらちゃんだからね。でも今すぐ戦えば良い勝負出来るんじゃ無いかな?」
「……うーん。今日ワシ女の子の日なのだがのー」
「…………………………………………へー。ソウナンダ」
「嫌ウソじゃよ、ごめんねナルちゃん……」
「で、どうするのよ? 今なら最悪でも勝てるよ?」
「…………まぁ別に負けても良いか」
「あ、それもそうだね。さらちゃんを強くさせるのが目的な訳だったし……」
「という訳で、数日空けてみようかの。その数日でどれ位強くなるかも見てみたい気もするし」
「余裕だねー。多分、このまま行くと負けちゃう気がするなぁ」
「その時は二対一でボコって変な風に納得させれば良いんじゃよ」
「それもそうだねー」
彼等もまた意外にノー天気だった。




