第6話 狭小路地と断崖絶壁を駆け抜けろ! バイク配達員の真骨頂!
潮風が心地よく吹き抜ける港町ファルムの朝。冒険者ギルド支部のカウンター越しに、受付のエレナが困り果てた表情で一枚の特急依頼書を見つめていた。
そこへ、プロテクターを身につけたワタルがいつものように爽やかに現れる。
「おはよう、エレナさん! 今日も何か配送依頼はあるか?」
「あ、ワタルさん! 実は……すごく条件が難しくて、他の配達員さんが全員諦めてしまった緊急依頼があるんです」
エレナが差し出した依頼書に目を通すワタル。 目的地は、ファルムの街から少し山側へ入った場所にある**『断崖の旧市街(カルデラ村)』**の山頂に立つ領主の館だった。
そこは急勾配の断崖絶壁に家々がへばりつくように建つ古びた集落で、道幅は人間一人がやっと通れるほど狭く、無数の石階段と急なヘアピンカーブが複雑に交差する「迷宮集落」だ。馬車はもちろん、ワタルの誇る大型キャンピングカー『グラン・キャビン』ですら入口までしか物理的に進入できない。
「依頼内容は、今夜の式典で使う**『焼き立ての豪華巨大ピザ(熱便・七十度)』と、冷たい生クリームをあしらった『特製パフェ(冷便・マイナス二度)』**を、出来立てのまま山頂の屋敷へ同時に届けてほしいというものです」
「なるほど。歩きじゃ急階段を登るだけで時間がかかって、ピザは冷めるしパフェの生クリームは溶けちまうってわけか」
「はい……。急坂で走ればパフェが崩れてしまいますし、八方塞がりで……」
エレナが溜息をつくのに対し、ワタルはニヤリと口元を緩めた。
「狭い路地、急坂、階段、そして繊細な温度管理……。ふっ、これこそ前世で十年間叩き込まれた原付デリバリーの独壇場じゃないか! その依頼、俺が引き受けるぜ!」
「本当ですか!? 難所手当込みで報酬は**二万G(20,000G)**になります!」
グラン・キャビンを走らせ、数十分で『断崖の旧市街』の入口広場へ到着したワタル。ここから先は車両進入禁止の急な石階段が天に向かって伸びている。
「よし、ここからは相棒をチェンジだ」
ワタルが視界の『ドライバーズ・システム』を操作すると、巨大なグラン・キャビンがまばゆい光の粒子となって消え去り、システム空間へとスマートに収納(送還)された。盗難の心配も一切無用の完璧なシステムだ。
ワタルは画面の『召喚』アイコンを指先でタップした。
――シュヴァッ!
光の中から現れたのは、純白の車体が美しく輝く魔導バイク――**『スクート・アルファ』**だ! 黒ヘルメットのアゴ紐をカチリと締め、慣れた手つきで後部キャリアに『ウーバー・コンテナ』を装着する。
「ウーバー・コンテナ、マルチゾーン起動。区画①はピザ保持用に七十度保温、区画②はパフェ保持用にマイナス二度保冷&防振魔法バリア九十九・八%セット!」
二つの料理をそれぞれの区画へ慎重に収め、ガチリとハッチをロックした。
――キュイイイイン!
低級魔石を燃料とする静かな魔導エンジンが滑らかに立ち上がる。
『目的地:カルデラ村山頂・領主館』 『神の鳥瞰図:立体最短ルート表示』
ワタルの視界に、複雑な階段や路地をワイヤーフレームで透過表示するナビゲーションが浮かび上がった。
「よし……行くぜ、スクート・アルファ!」
アクセル(魔導ペダル)を軽く捻ると、純白のバイクは矢のように跳ね出し、眼前に立ちはだかる急な石階段をトトトトッ!と軽快に駆け上がり始めた!
「な、なんだあの白い乗り物は!? 階段をバイクで登っていったぞ!?」 「ひえぇぇ! 手すりスレスレをもの凄いスピードで曲がっていく!!」
通りかかる住民や徒歩の配達員たちが目を見開いて叫ぶ。 前世の東京で十年間、狭い裏道や悪天候を走り抜いたワタルの体重移動とブレーキコントロールはまさに神業だ。絶妙なハングオンでヘアピンカーブをすり抜け、手すりとの隙間わずか数センチを速度を落とさずに疾走していく。
防振バリアのおかげで、コンテナの中のパフェは生クリーム一つ崩れていない。
あっという間に山頂の屋敷前に到着し、キッと鮮やかにブレーキを効かせて停車した。
「異世界デリバリーです! お届けに上がりました!」
半信半疑で出てきた依頼主の目の前でウーバー・コンテナを開くと、ピザからはアツアツの香ばしい湯気が立ち上り、パフェは氷のように冷えた完璧な姿を保っていた。
「な、なんだと……!? あの階段だらけの山頂まで、出来立てのまま数分で届いただと……! 魔法か、いや神業だ!!」
大感動の依頼主から受取確認の判を受け取り、ワタルは一気に**20,000G(金貨2枚分)**の依頼を完了したのだった。
山頂への超特急便を完璧に完遂したワタルの神業バイクテクは、あっという間に旧市街から下の港町へと噂となって駆け巡った。
山頂の屋敷を後にしたワタルのもとへ、路地裏の住民や商人たちが次々と駆け寄ってくる。
「おい、配達人さん! 下の街の市場から、急ぎで薬を届けてくれ!」 「うちの食堂の焼き立て弁当を、向かいの区画の現場まで運んでほしい!」 「鍛冶屋の親方へ、この重い工具箱を届けてくれねぇか!?」
次々と舞い込む小口の配送依頼。それを見た瞬間、ワタルの胸の中で前世の血が激しく騒ぎ出した。
「ふっ……1件500G〜1,500Gの短距離小口案件か。前世じゃ『1週間150件配送』のクエストをこなしてたんだ。この程度のラッシュ、望むところだぜ!!」
ワタルのプロ魂に火がついた。 彼は受けられるだけの小口依頼を一気に三十五件分まとめて引き受けた!
「よし、一気に配り倒すぞ!」
『ゴッド・ナビ』が三十五件の配達先を瞬時に計算し、最も効率的な一筆書きのマルチストップルートを視界に青く描き出す。
――キュイーンッ!
スクート・アルファが、旧市街と下の街の毛細血管のような狭い路地裏を縦横無尽に駆け抜ける!
「はい、お薬お届けです!」 「アツアツのお弁当、時間ぴったりに到着しました!」 「鍛冶屋の親方、工具箱です! 受け取り印をどうぞ!」
1分1秒の無駄もないピット作業のような素早さで、荷物を渡し、判を受け取り、次へと加速する。 防振バリアと正確無比なライディングにより、どんな狭い曲がり角でも荷物は無傷。
住民たちは、風のように路地を駆け抜け、笑顔で完璧に荷物を届けていく純白のバイクとワタルの姿に「すげえ……本物のプロの配達員だ!」と大歓声を送った。
昼過ぎから夕方にかけて、ワタルは一度も集中力を切らすことなく、怒涛の三十五件連続配送をたった一人で完璧に完遂した!
夕暮れ時。茜色に染まる港町ファルムの冒険者ギルド。
ワタルがギルドのカウンターへ歩み寄り、ドサッと山のような受領確認書の束を置いた。
「エレナさん、本日の配送完了分だ。確認頼む!」
「は、はい! ……って、えええぇぇぇーーーっ!!?」
書類を数えたエレナと周囲の冒険者たちが、ひっくり返りそうな大声を上げた。
「山頂への特急便だけじゃなくて……短距離配送を一人で三十五件も配ったんですか!!? 合計で三十六件完了!? 1日のギルド新記録ですよ!!」
「ハハ、スクート・アルファの機動力を活かせばこれくらい余裕さ!」
本日の報酬内訳:
•山頂屋敷への超特急便:20,000G
•小口連続マルチ配送(35件分+チップ):50,000G
•【本日合計報酬】:70,000G(金貨7枚分)!!
さらに、システム画面の通算実績が激しく更新される。
『本日達成件数:36件』『通算配送完了数:6件 → 42件』『次回目標【100件完了(マリン・キャリバー解放)】まで、あと58件!』
ギルドを出たワタルは、スクート・アルファをシステムへ収納し、代わりに『グラン・キャビン』を召喚して車内へ入った。
温水シャワーで汗を流し、エアコンが24℃に効いた涼しい居住スペースへ。 車内自販機に100G硬貨を投入し、キンキンに冷えた『缶ビール ハイパードライ』を取り出す。
――プシュッ!!
「今日もお疲れ様でした、俺! 乾杯!!」
ふかふかの革張りソファに深く腰掛け、ゴールドの泡が立つビールをぐっと喉へ流し込む。
「くぅぅぅ〜〜〜っ!! 1日で三十六件配り倒した後のハイパードライ……脳みそに染み渡る美味さだ……!!」
大動脈を疾走するグラン・キャビンと、毛細血管を駆け巡るスクート・アルファ。 二つの相棒を使い分ける配送の面白さに浸りながら、ワタルは最高の達成感とともに夜の街並みを眺めるのだった。
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