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第4話 灼熱のオアシスと、極上の新鮮便

重厚な魔導エンジンの滑らかな鼓動とともに、巨大な純白の車体――『グラン・キャビン』が、異世界の街道を堂々と滑るように走り出していた。

運転席の重厚な革張りシートに深々と腰掛け、太いステアリングを両手で握りしめるワタル。フロントガラスの視界の端には、ナビゲーション画面が青く浮かび上がっている。

『目的地:交易都市オアシス(推定到着時間:約6時間)』

『※ナビゲーションによる自動運転モードへ切り替え可能です』

「へぇ……目的地を指定すれば、自動運転までこなしてくれるのかよ。マジで至れり尽くせりだな……!」

ワタルは感嘆の声を漏らしつつも、チラリと表示を横目で見やり、ニヤリと笑みを浮かべた。

「だが……今はあえて手動運転で行かせてもらうぜ!」

前世の東京での10年間。雨の日も風の日も、カンカン照りの猛暑の日も、ワタルは原付バイクにまたがり、カッパの中で汗と雨にまみれながら毎日50件以上のフードや小荷物を配り倒していた。休日にキャンプに出かけては、「いつかこんなキャンピングカーに乗って、日本中を気ままに旅できたら最高だろうな……」と遠い目をして憧れていたものだ。だが、薄給の配達員には高嶺の花で、手が出せる代物ではなかった。

「前世じゃ指を咥えて見てるだけだった憧れのキャンピングカーを、今こうして自分の手で運転してんだぞ?楽しくてハンドルから手を離せるかってんだ!」

エアコンの吹き出し風が、24℃に保たれた快適な冷気を心地よく車内に届けている。

「前世の過酷なバイク配達が嘘みたいだな……。快適なエアコンの効いたリビングで運転してるようなもんだ。最高すぎる……!」

ワタルはノリノリでアクセルペダル(魔導ペダル)を軽く踏み込み、どこまでも続く真っ直ぐな街道を加速していった。帰りは楽をして自動運転に任せればいい。今はただ、この夢のようなドライブを心ゆくまで堪能したかった。


出発からおよそ3時間。グラン・キャビンは、緑豊かな街道から高台へと続く見晴らしの良いパーキングスペースへと入った。眼下に広がるのは、見渡す限りの地平線と、異世界の青々とした雄大な山々。

「ふぅ……ちょっと一息入れますか」

ワタルは車を停め、シートをリクライニングさせて伸びをした。IH魔導コンロのあるシステムキッチンへ向かうと、蛇口からやかんにお湯を汲み、スイッチを入れる。

「さてと……絶景ドライブのお供と言ったら、やっぱりコレだよな」

向かったのは、壁際に鎮座する車内自販機。100G硬貨を投入口へ滑り込ませると、ガラゴンッ!と小気味よい音が響く。取り出したのは、カップ焼きそば『イッペイさん』と、キンキンに冷えた『炭酸飲料 ゴク・コーラ』だ。

沸騰したお湯を注いで待つこと3分。シンクで湯切りをし、添付の濃厚ソースとからしマヨネーズを回しかけた瞬間――ガツンと鼻腔をくすぐる香ばしいソースの香りが、車内いっぱいに広がった。

「うっひょ〜〜! たまらん匂いだ!」

助手席に腰掛け、窓から絶景を見下ろしながら、ズババッ!と豪快に麺を啜り上げる。濃密なソースとからしマヨのコクが口いっぱいに広がるのを感じながら、すぐさま冷えた『ゴク・コーラ』のプルタブをパキッと開け、口の中へ流し込んだ。

「んん〜〜ッ!! 濃いめのソース焼きそばに、キンキンに冷えたコーラ!

異世界の絶景を見ながら食うジャンクフードは、マジで飛ぶぞ……!」

至福のひとときを噛み締めながら、ワタルは『ドライバーズ・システム』のコントロールパネルを呼び出した。車体側面に備え付けられた大型ストレージ――『絶対空間の配達鞄 ウーバー・コンテナ』のステータスを確認する。

『ウーバー・コンテナ内ステータス』

『区画①(幻の鮮魚):1℃(凍結回避チルド&海水保持モードON)』

『区画②(生花):5℃(高湿度保冷モードON)』

『防振魔法バリア:稼働中(衝撃吸収率99.8%)』

『荷物ステータス:木箱①(幻の鮮魚)/ 木箱②(生花) → 状態極めて良好』

「よしよし、ウーバー・コンテナも区画ごとにバッチリ機能してるな。魚は凍らない1℃チルド、生花は5℃でみずみずしさをキープだ。これなら砂漠を超えても傷むどころか、獲れたてのそのままだ」

完璧な配送環境に満足のドヤ顔を浮かべると、ワタルは残り少なくなったコーラを最後の一滴まで飲み干した。


高台を過ぎ、さらに東へと走り続けること数時間。流れる窓の外の景色は、青々とした緑から一転して、乾いた黄土色の砂と岩の世界へと姿を変えていた。

外気温表示は、なんと『41℃』。ギラギラと照りつける狂乱の太陽が、砂漠の街道を熱病のように炙り立てている。

しかし、グラン・キャビンの車内は相変わらずエアコンの効いた快適な24℃のままだった。

「ひぇ〜……外は完全に熱湯の中だな。車から一歩も出たくねぇ……」

そんな独り言を漏らした直後、ワタルの鋭い眼光が街道の先を捉えた。

ゆらゆらと揺らめく陽炎の向こう、砂漠の街道沿いにへたり込んでいる人影があった。近づいてみると、それは身なりの整った旅装の三人家族――父親、母親、そして中学生くらいの年格好の少女だった。

少女は顔を真っ赤にし、父親の膝に力なく頭を預けて苦しそうに荒い息を吐いている。母親は涙目になりながら、乾ききった革の水袋を傾けているが、水は一滴も出てこない。

「おいおい……あの猛暑の中で水切れかよ!? 完全に軽い熱中症じゃねぇか!」

10年間、街の過酷な環境で配達を続けてきたワタルのプロの観察眼と救護スピリッツが、即座に警報を鳴らした。この暑さの中で放置すれば、間違いなく命に関わる。

「よしっ!」

ワタルは即座にブレーキを踏み込み、砂煙を上げながら親子のすぐ目の前へとグラン・キャビンを緊急停車させた。


――プシューッ!

重厚な電子ロック音とともに、グラン・キャビンの大型スライドドアが静かに横へ滑り出した。その開口部から、砂漠の熱気を吹き飛ばすような冷気がふわりと外へ漏れ出す。

「さあ乗った乗った! 外で倒れてたら死んじまうぞ! 中は涼しいから!」

突然現れた巨大な純白の魔導車と、ドアから顔を出したワタルに呆然とする両親。だが、漏れ出てくる冷気の心地よさに背中を押され、父親は少女を抱きかかえて、おそるおそる車内へと足を踏み入れた。

一歩中に入った瞬間――夫婦は目を見張り、息をのんだ。

「な、なんだこの部屋は……!? 外から見てもバカでかい謎の巨大な箱だと思ったが……中、広すぎないか!?」

父親が信じられないといった様子で声を裏返らせる。母親もまた、キョロキョロと周囲を見回しながら震える声で呟いた。

「ええ……!? 外で見た大きさよりも、ずっと広く感じます……!

まさか、内部の空間を拡張するような高等の『空間拡張魔法』がかけられているのですか……!?」

「それだけじゃないぞ、見てみろ……!

家の一室どころか、貴族様のサロンみたいに豪華な家具に、この冷やす魔法の風……!

砂漠の真ん中だというのに、まるで別世界だ……!」

「はは、空間拡張魔法かどうかは知らんが、とにかく広くて涼しいだろ?さあ、そこのソファに娘さんを横にさせてやってれ」

ワタルの指示に従い、父親がそっと娘をソファに寝かせる。フカフカのクッションと涼しいエアコンの風に包まれ、少女の荒い息遣いがほんの少しだけ落ち着きを取り戻した。

「あ、ありがたや……!

助かりました、交易都市オアシスへ向かう途中で水を切らしてしまい、途方に暮れていたのです……!」

「何か冷たい飲み物は……あ、しまった。キッチン脇の冷蔵庫の中は空っぽだったな」

ワタルは苦笑いしながら、壁際の車内自販機へと向き直った。

「まあいい、自販機あるし! 火照った身体に水分補給と言ったら……やっぱりキンキンに冷えたコレだよな!」

ポケットから100G硬貨を3枚取り出し、素早く投入口へ滑り込ませる。

ガラゴンッ! ガラゴンッ! ガラゴンッ!

「ほら、熱中症には水分補給だ。シュワッとするけど、美味いから飲んでみな!」

ワタルが取り出したのは、表面にびっしりと冷たい水滴をまとわせた、漆黒の缶――『ゴク・コーラ』だ。プシュッ!と軽快な開栓音を立ててから、父親、母親、そして少し意識を取り戻した少女の手へと手渡す。

「こ、これは……? 氷のように冷たい……金属の筒……?」

手にした瞬間のあまりの冷たさに目を丸くする父親。見たこともない黒い液体におそるおそる口をつけ、ゴクリとひと呑みした。

次の瞬間――父親と母親、そして一口含んだ少女の目が、見開かれた!

「「「な、なんだこれはぁぁぁ――っ!? 冷たい!? 甘い!? パチパチ弾ける……!? 美味すぎる!!」」」

喉を突き抜ける爽快な炭酸のパチパチ感と、身体の隅々にまで行き渡るような濃厚な甘み、そして何より狂暴な砂漠の暑さを一瞬で吹き飛ばす圧倒的な冷たさ!

「おいしい……! お父さん、これ、すっごくおいしいよ……!」

顔色の良くなった少女が、両手で缶を握りしめながらゴクゴクと勢いよく飲み干していく。

「こんな美味い飲み物がこの世に存在するか……!? 身体の火照りが、一気に引いていく……!」

未知のシュワシュワした冷たい飲料の衝撃に、異世界の親子は感動の声を上げながら、乾ききった喉へと夢中でコーラを流し込むのだった。


『ゴク・コーラ』で体力をすっかり回復させた親子3人を乗せ、グラン・キャビンは再び交易都市オアシスに向けて走り出した。

窓の外は、ゴツゴツとした岩や砂利が転がる過酷な砂漠の悪路。馬車であれば、ガタガタと骨に響くような酷い揺れで車酔いを起こし、這うような速度でしか進めない難所だ。


しかし――グラン・キャビンは、馬車の数倍もの速度で走りながらも、車内にはピタリと微振動すら伝わらない。机の上の缶コーラすら倒れる気配すらない滑らかな走りに、後部座席の父親が目を見開いた。

「な……なんだこの乗り心地は……!? 馬車なら酔って胃がひっくり返るほどの悪路だぞ!?なのに、まったく揺れない……!!」

「ええ……! それに、この信じられない速さは何なのですか!?

まるで平坦な石畳の上を滑っているかのようです……!」

「ハハ、グラン・キャビンの足回りには強力な防振魔法と超性能サスペンションが組み込まれてるからな。どんな悪路だろうがシルキーライド(極上の乗り心地)ってわけだ」

「おじさん、すごーい! 全然気分悪くないよ!」

「よしよし、オアシスの街まですぐだからな。送っていってやるよ!」

プロの配達員の走りに、親子は心からの尊敬の眼差しを向けるのだった。


灼熱の太陽が照りつける砂漠の巨大オアシス都市――『交易都市オアシス』。

その街の中央にそびえる領主館の前庭へ、巨大な純白のグラン・キャビンが堂々と滑り込んできた。

集まっていた街の人々や館の兵士たちが「な、なんだあの巨大な白い箱は……!?」とざわめく中、スライドドアが開く。無事に体力を回復した親子が下車し、ワタルに深々と頭を下げて感謝を伝えて去っていく。

そこへ、焦った様子のオアシス領主と結婚式のスタッフたちが駆け寄ってきた。

「お、おお……! 港町ファルムからの指名配達人とは、お主のことか!? 港町から半日で着くだと……!?

だが、中身の『幻の鮮魚』と『生花』は無事なのか!?

この灼熱の砂漠だ、傷んでおったら結婚式が台無しになってしまう……!」

「まあまあ、落ち着いてくださいよ。……よし、見ててください」

ワタルは車体側面へ向かうと、大型ストレージ――『絶対空間の配達鞄ウーバー・コンテナ』のハッチロックを解除した。

――プシューーーーーッ!!

重厚なロック音とともにハッチが開いた瞬間、白く濃厚なドライアイスのような冷気が勢いよく溢れ出し、砂漠の熱気を一瞬で吹き飛ばして周囲へ広がる。その冷気と氷結魔法の威力に、領主や従者たちが「ひぇっ!?」と声を上げて後ろへのけぞる。

ワタルは冷気の中から、依頼主から預かった二つの木箱を取り出し、前庭のテーブルへと置いた。

「それじゃ、検品をお願いします」

パカッと木箱の蓋を開けた、その瞬間――

――バシャンッ! パチパチッ!

「「「ひえぇぇぇぇーーーっ!?」」」

木箱の中から元気よく水しぶきが上がり、1℃チルドで守られた獲れたての『幻の鮮魚』が跳ねて飛び出さんばかりにピチピチと暴れ出した!

そして隣の木箱には、5℃の適温で朝露のような瑞々しい水滴を弾かせ、今摘んできたかのように鮮やかに咲き誇る

『極上の生花』!

「な、ななな……なんじゃこりゃあぁぁぁ!? 砂漠の真ん中で……海魚が元気いっぱいに跳ねておるだとぉ!?」

「お、お花も……! 葉っぱ一枚枯れるどころか、摘みたてのフレッシュな香りが立ち込めています!!」

「異世界デリバリー、ご指定の品を完璧な鮮度でお届けにあがりました! 受取完了のサイン、いただけますか?」

「書く! いくらでも書くぞ! 素晴らしい、神技だ……! まさに伝説の配達人じゃ!!」

領主は興奮冷めやらぬ様子で、ギルドの受取確認書に素早くサインと豪華な判を押すのだった。


領主から受け取った受取確認書をギルド支部へ提出し、正規の報酬**200,000G**を受け取ったワタル。ずっしりと重い金貨の袋を腰に下げると、ニッコリと破顔した。

「よしっ! 20万Gゲット! 頑張って走った甲斐があったな」

そのまま帰路につくかと思いきや、ワタルは賑やかなオアシスの大通りへと足を進めた。

「せっかく遠出してきたんだ。オアシスの街を満喫していかない手はねぇよな!」

まずは魔法道具店へ向かい、グラン・キャビンの燃料となる『中級魔石(1個1,000G)』をまとめ買いして車内へ補充。続いて食材店を巡り、砂漠特産の新鮮な肉や果物を購入してシステムキッチンの冷蔵庫へストックしていく。

一通り買い出しを終えると、食欲をそそる芳醇でスパイシーな香りが漂う露店街へ。

「うほっ、美味そうな匂いだ……!」

露店で買い求めたのは、香ばしい煙を上げる『砂漠角羊(サンド・ラム)のスパイス串焼き』と、甘い蜜が溢れる『オアシス金椰子(きんやし)の実』。

あつあつの砂漠角羊の串焼きをガブリと噛み千切ると、ジューシーな肉汁と絶妙な異世界スパイスの香りが口いっぱいに広がる!

「うんめぇぇええ! スパイスが効いてて最高だな! 異世界のグルメ巡りも配送の大きな楽しみだぜ!」


すっかり日が暮れ、砂漠の空に満天の星々と幻想的な月が浮かび上がる頃。ワタルはオアシスの街外れにある見晴らしの良い丘にグラン・キャビンを停泊させた。

露店街でテイクアウトした『砂漠トカゲ(サンド・バイパー)の辛口ジャーキー』や『ナッツのスパイス和え』をテーブルに並べると、壁の自販機へ向かう。

100G硬貨を投入し、取り出したのは表面がキンキンに冷えた『缶ビール ハイパードライ』だ。

――プシュッ!!

軽快な開栓音とともに、シュワッと香ばしい泡が立ち上る。

「今日もお疲れ様でした、俺!」

エアコンの効いた涼しい車内。ふかふかの革張りソファに深く腰掛け、キンキンのビールをグッと煽る。

「くぅぅ〜〜っ!! 20万G稼いだ後の冷えたハイパードライとスパイシーなおつまみ……最高すぎるだろ!!」

窓の外には、幻想的な明かりが灯るオアシスの美しい夜景と、夜空に広がる星海。前世の狭いボロアパートでは味わえなかった最高の贅沢と開放感に包まれながら、ワタルは至福の晩酌を堪能した。

「ふぁぁ……よく食べたし、よく飲んだな……」

シャワーを浴びて清潔なスウェットに着替えると、大人が二人横になっても余裕のあるふかふかのダブルベッドへダイブする。

「明日はオアシスのギルドでファルムへの帰り便を探して、ゆっくり自動運転で帰るとするか……」

ふんわりとした枕に顔を埋めると、ワタルは満たされた心地よい疲労感とともに、深い深い眠りへと落ちていくのだった。


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