第2話 特命50万G! 危険度Bランク迷宮を駆け抜けろ
「500,000Gだと……!?」
冒険者ギルド『ファルム支部』の受付前に、落雷のような伝聞とどよめきが駆け抜けた。
ギルド最高幹部からの直々指名特急便――「24時間以内に『開かずの地下迷宮・第10階層』へ密閉された黒い木箱を届けよ」。
通常ならBランク以上の熟練冒険者パーティが命がけで挑むレベルの超難関クエストだ。
「オッサン、正気か!? 10階層なんてゴブリンどころかミノタウロスや影狼が蠢く地獄だぞ!事故死しに行くようなもんだ!」
「身の程を知れってんだ! 引っ込んで畑でも耕してな!」
嘲笑と怒号が飛ぶ中、陣内航(じんない・わたる/42歳)はどこ吹く風でヘルメットの顎紐を整えていた。
(50万G!……日本円にして約50万円!日本での配達売り上げの1ヶ月分以上じゃねーか!だが、大金に浮かれてちゃプロ失格だ。デリバリーってのはな、事前の準備で成果の8割が決まるんだよ)
ワタルは初仕事で稼いだ50,000Gの一部を握り締め、ギルドを飛び出すと即座に街の道具屋へと向かった。
暗闇を遠くまで照らす『高輝度魔導ヘッドライト』の追加装着。予備の『低級魔石(燃料/1個100G)』の購
入。そして、10階層で孤立しているであろう調査隊のために、回復ポーションと『絶対空間の配達鞄』へ詰め込むアツアツの薬膳スープと出来立てのパンの仕入れ。
仕上げに、愛車『スクート・アルファ』のタイヤの空気圧やブレーキの効き、魔導回路に異常がないか始業前点検を徹底する。
「よし……整備完了。安全第一、確実に届けてみせますか!」
「ブォォォンッ!!」
重厚な魔導エンジンの鼓動が木霊し、純白のスクート・アルファがダンジョンの暗い大口へと勢いよく突入した。
視界を埋め尽くす不気味な暗闇。湿り気を帯びた古びた石造りの狭い階段。だが、ワタルの視界の隅には『神の鳥瞰図』の青い立体ワイヤーフレームが鮮明に広がっていた。
『ナビ音声:前方30m、落とし穴トラップ検知。右側壁面に毒針の罠』
「見えてりゃ罠なんてただの障害物だ!」
螺旋階段を絶妙なステップワークで駆け下り、崩れかけた石床の手前でアクセルを全開!
スロットルをひねり、宙を舞うスクート・アルファ。泥を跳ね上げながら着地を決める!
途中で出くわすゴブリンやスケルトンの群れ。ワタルは体重移動と繊細なブレーキワークで攻撃を紙一重ですり抜けていく。
「すまんね! 配送料を受け取るまでが仕事なんでね、戦闘に付き合ってる暇はないんだよ!」
ダンジョン第10階層。薄暗い古代遺跡の最奥で、先遣隊隊長・ヴァンス率いる調査隊は絶体絶命の危機に瀕していた。食料も尽き、負傷者を抱えたまま大型魔物の群れに完全に包囲されていたのだ。
「くそっ……ここまでなのか……!?」
その時――暗闇を切り裂く一筋の強烈な白光と、猛烈なクラクション音が爆音で轟いた!
「陣内デリバリーです! 大幹部様からの特急便、お届けに上がりました!」
ハイビームと爆音クラクション、さらに買い出しておいた音響魔導具を放ち、魔物の群れを激しく眩ませて強烈に足止め!
「全員、あっちの頑丈な石扉の奥へ走れ! 急げ!」
ワタルの叫びに合わせ、調査隊は崩落しかけた石扉の奥にある『安全地帯』へと雪崩れ込む。ワタルも滑り込み、重厚な石扉をピシャリと閉じ、頑丈な閂を降ろした!
「ハァ、ハァ……助かった……! 10階層に配達員だと……!?」
扉の外で激しく暴れる魔物の不気味な打撃音が響くが、安全地帯の中は完璧に防護されている。冷や汗を拭い、へたり込む調査隊。
安全を確保したところで、ワタルは傷ひとつない『魔導封印』が施された黒い木箱と受領票を差し出した。
「ふぅ、受領印をお願いします。それと……命からがら逃げ切った後のメシは格別ですよ。これ、サービスです!」
『絶対空間の配達鞄』が開かれ、ジュワァと溢れ出す湯気。コンテナから出されたのは、アツアツの薬膳スープと香ばしいパン! 危機を脱して緊張がほぐれた調査隊は、温かい食料に取りつき大涙で貪り食った。
「う、うめえええっ! 生きててよかった……煮えたぎるほどアツアツだ!」
腹を満たし息を吹き返したヴァンスが、木箱の封印を解く。「一体、ギルド大幹部はこんなところまで配達員に何を運ばせたんだ……?」
箱が開いた瞬間、ひんやりとした冷気が漂う。そこにあったのは――フレッシュなイチゴと生クリームが美しく盛られた、特注の『冷製特大ホールケーキ』だった!
「「「け、ケーキだとー!!???」」」
安全地帯の中に爆笑と悲鳴が響く。
「あの大幹部様……無事に合流できたらみんなで祝杯をあげろって、ケーキを出前させたのかよ!」
「崩れやすいケーキなのに、一ミリも崩れてねえ冷え冷えだ!」
「ガハハハ! 最高だぜ! 助けてくれた上に温かい飯と冷たいケーキまで届くなんてな!」
夕暮れ時。ギルドへ帰還し、受領サイン入りの伝票を叩きつけたワタルに、受付のエレナは悲鳴を上げた。
「た、たったの3時間で第10階層から受領印を持って帰還……!? 調査隊も全員無事!?」
ギルド中が静まり返り、次の瞬間、大歓声が沸き起こった。「あのオッサン本物だ!」「10階層へ出前して無傷で戻ってきたぞ!
ギルドマスターから差し出される重厚な金貨の袋――500,000G!
『ピコン♪【ミッション完了】実績:ダンジョン特急配送成功!』
・ギルド評価爆上がり:FランクからDランクへ特例飛び級昇格!
・莫大なドライバーEXP獲得:【Driver Lv.2 → Lv.10】へ一挙到達!
視界に浮かび上がるシステムウィンドウ。
『Driver Lv.10到達を確認。車両ツリー特別機能【早期解放】が利用可能です。コスト:480,000G』
『未解放分:48件』
『一括解放コスト:480,000G(1件あたり10,000G)』
「48万G払えば、念願の動く拠点……キャンピングカーが今すぐ手に入るのか。宿代も節約できるし、手元に2万G残るなら安いもんだ! 即買いだ!」
ワタルは迷わず購入ボタンをタップした。
夜の帳が下りる街の外の広々とした草地。ワタルは画面の『召喚』アイコンを押し込んだ。
――ブワァッ!!
溢れ出すまばゆい光の粒子。地の底から響くような重厚な魔導エンジンの鼓動とともに、そこに見上げるほど
巨大でピカピカの純白とブルーの大型車両――魔導キャンピングカー『グラン・キャビン』がドーンと鎮座した!
「うおおおお……!」
ワタルは思わず声を上げた。
巨大な車体に、流れるような美しいフォルム。磨き上げられたボディは月明かりを浴びて輝き、力強いタイヤと重厚な車体が、見る者を圧倒する存在感を放っている。
実はワタル、筋金入りのアウトドア好きだった。
日本にいた頃から、休日にはキャンプに出かけ、自然の中で過ごす時間を何より楽しみにしていた。いつかは自分だけのキャンピングカーを手に入れ、好きな場所へ自由に旅をする――そんな夢も持っていたのだ。
しかし、現実はそう甘くない。キャンピングカーは高価だし、維持費だって馬鹿にならない。結局、憧れは憧れのまま、いつか叶えたい夢として胸の奥にしまい込んでいた。
それが今、目の前にある。
しかも、ただのキャンピングカーじゃない。魔法の力で動き、異世界のどこへだって連れていってくれる、夢のような一台だ。
「……マジかよ。俺のキャンピングカーが……!」
ワタルは不敵な笑みを浮かべながら、巨大な車体を見上げた。
いや、これはもう仕事道具なんかじゃない。
相棒だ。
「よし……! 中はどうなってるんだ?」
ワタルは少年のように目を輝かせながら、グラン・キャビンへと駆け寄った。
(第2話・完/第3話へ続く)
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
ついに手に入れた、念願の魔導キャンピングカー『グラン・キャビン』!
果たして、この相棒とともにワタルは異世界でどんな旅を繰り広げるのか?
次回、第3話もお楽しみに!
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それでは、次の配達でお会いしましょう!




