第九話:『新たな素材と不完全な強酸』
第九話:『新たな素材と不完全な強酸』
ジェットブーツの推進力を切り、マッドが着地したのは、見たこともない奇妙な鉱脈が剥き出しになった山岳地帯の小さな村だった。
土埃を上げて降り立った彼を、すぐさま異様な集団が包囲する。
それは人間の兵士ではなく、青い肌と銀色の髪を持つ、美しい武装した魔族たちだった。
彼らは一斉に鋭い槍の穂先をマッドへ向ける。
「おい! ここは魔王四天王、イグニス様の占領下にある領域だ! 妙な格好の人間め、大人しく投降しろ!」
突きつけられた刃を前にしても、マッドの端正な顔立ちはピクリとも動かない。
彼は白衣のポケットに両手を突っ込んだまま、冷淡に言い放った。
「俺は悪の組織の、元・開発部幹部のマッドだ。そちらの所属など知らん。俺の用件が先だ。その鉱脈の奥を調査させろ」
そう言ってマッドは空いた右手をポケットから抜くと、進路を阻む正面の魔族へ向けて、手のひらに収まるサイズの丸い球体を無造作に投げつけた。
――バシャリッ!
それは、王都の城を略奪した際に出た余り物の成分で作り、水風船のような薄い膜に詰めておいた【希硫酸】の弾だった。
球体は正面の魔族の顔面に直撃して呆気なく割れ、透明な液体がその青い肌へと飛び散る。
直後、ジュゥゥゥゥ……という、皮膚が化学反応で融解する嫌な音が辺りに響き渡った。
「い、ぎゃああああああああっ!? 顔が、俺の顔がぁぁぁっ!」
美しい顔を両手で覆い、猛烈な激痛に悶絶しながら地面へのたうち回る魔族。
その悲惨な光景を見下ろしながら、マッドは深くため息をついた。
「チッ、やはり希硫酸では威力が甘いな。濃硫酸の方が効率的か。しかし、フッ素樹脂の耐酸性ゴムを精製するなら、二号機の機体制作のためにどのみち大量の酸が必要になるしな……」
ぶつぶつと独自の計算式を呟きながら、マッドは歩き出す。
悲鳴を上げて地べたに転がっている魔族の身体を躊躇なく踏みつけ、あまりの光景に呆然と立ち尽くしている他の魔族たちを完全に無視して、目的の鉱脈が眠る薄暗い洞窟の奥へと平然と入っていった。




