第八話:『試作燃料の燃焼実験』
第八話:『試作燃料の燃焼実験』
腰を抜かしたままガタガタと震える宿屋の店主を、マッドは冷徹な眼差しで見下ろした。
「おい、採取から戻るまでに掃除しておけよ? 部屋が汚いと次の設計図が引けない」
静かに睨みつけるマッドを、残された三人の山賊が血走った目で取り囲む。
「て、てめえ……許さねえ!」
「よくも仲間をやりやがったな!」
色めき立つ山賊たちが一斉にサーベルを構え直すが、マッドは深くため息をつき、懐から小さなガラス瓶を取り出した。
「俺は忙しいんだよ。これ以上、研究のスケジュールを遅らせるな」
親指でビンの蓋を弾き飛ばすと、マッドは自分へ向かって踏み込んできた三人の男たちへ、躊躇なく中身の透明な液体を浴びせかけた。
それは、この村の周辺で密かに集めておいた草木や松脂を『分解』し、不純物を極限まで取り除いて精製した【超高揮発性の植物性ガソリン】だった。
次の兵器――最高傑作二号の駆動燃料として、試験的に作り出しておいた試作品である。
衣服に染み込んだ独特の青臭い匂いに山賊たちが顔をしかめた瞬間、マッドの手元で一本のマッチが擦られた。
シュッ、と小さな火花が爆ぜる。
「点検終了だ」
火のついたマッチが宙を舞い、先頭の男の胸元に落ちた刹那、爆発的な轟音と共に猛烈な紅蓮の炎が燃え上がった。
「ぎゃあああああああっ!?」
「あづい! あづいいいいいっ!」
植物性ガソリンの凄まじい揮発性と引火力は、一瞬にして三人の肉体を包み込んだ。
森の匂いを限界まで煮詰めて焦がしたような、強烈で不快な植物油の臭い煙が、広場一帯に生々しく巻き散らされる。
悶絶しながらのたうち回る人間火達磨を一瞥もせず、マッドは踵を返した。
足元のジェットブーツのスイッチを入れ、高周波の駆動音を響かせる。
キィィィィン、と空間が爆ぜ、マッドの身体が垂直に浮かび上がった。
彼は燃え盛る山賊たちと、唖然としてそれを見上げる村人たちを置き去りにしたまま、まだ未点検の採取エリアへ向けて、青空の彼方へと瞬時に飛び去っていった。




