第七話:『優先事項の再提示』
村の広場には、怯えた表情の村人たちが泥まみれの地面に集められていた。
周囲を取り囲む山賊たちが、ギラつくサーベルを突きつけながら怒号を浴びせている。
「おい、そこの白衣! お前も広場の中央で座れ!」
マッドはその言葉を完全に聞き流し、群衆の中でガタガタと震えている宿屋の店主を見つけ出すと、一直線に歩み寄った。
「おい、部屋がこいつらのせいで汚れた。作業に支障が出るから、俺が採取に行っている間に床をきれいに掃除しておけ。宿代はきちんと払っているんだぞ」
あまりに場違いな文句を突きつけられ、店主は顔を引き攣らせる。
「勇者様、それどころでは……今、山賊が……!」
「おら、座るんだよ!」
会話を遮るように、一人の山賊が苛立ちまぎれにマッドの背中を強く蹴りつけた。
しかし、マッドの身体は微動だにしない。
彼は不快そうに首筋を鳴らすと、ゆっくりと振り返り、蹴ってきた山賊の肩をその左手で容赦なく掴んだ。
「――『調合』してやろう」
「あ? 何言って……がはっ!?」
マッドの【分解】と【調合】のスキルが、掴んだ肩を通じて男の肉体の内側へと侵入する。
血管を流れ、心臓へと送られる血液の成分を細胞レベルで加速度的に分解。
瞬時にヘモグロビンとフィブリノゲンを強引に結合させ、不溶性の強固な塊――【血鉄】を、心臓部の直中に直接合成した。
男の胸の中に突如として出現した、八百グラムを超える頑丈なタンパク質由来の鉄の塊。
それが心臓のポンプ機能を内側から粉々に破壊する。
「ごはっ……!、げほっ……!」
山賊はまともな悲鳴すら上げられず、口から大量の暗赤色の血を溢れさせながら、白目を剥いて地面へと崩れ落ちた。
一瞬の出来事だった。
周囲の山賊たちが何が起きたか分からず武器を構えたまま硬直する中、マッドは飛び散った返り血を白衣の袖で無造作に拭った。
そして、腰を抜かしている宿屋の店主へ視線を戻す。
「おい、部屋の掃除だ。分かったな」
男は死体を一瞥もせず、ただそれだけを冷酷に命じた。




