第五話:『狂気の実験室(ラボ)と近所迷惑な排熱』
第五話:『狂気の実験室と近所迷惑な排熱』
トントン、と遠慮がちなノックの音が、その部屋の木扉を叩いた。
宿屋の女性が、盆に載せた食事――パンと干し肉と水――を運んできたのだ。
しかし、彼女がドアを開けた瞬間、室内の空気が廊下へ激しく溢れ出した。
「ひぃぃっ、さむいっ!?」
女性は悲鳴を上げてガタガタと震え出した。
部屋の中だけが、まるで真冬のように凍りついていたからだ。
「あぁ、食事か。そこへ置いておけ」
マッドの声に、女性は恐怖のあまり食事を置くと、一目散に逃げていった。
「ふむ、蓄電池には問題がないが、熱交換機の出力が強すぎたな」
マッドは防寒代わりに羽織っていた布団を、鬱陶しそうに床へどけた。
そして、窓辺に設置した冷風機のスイッチを一度止める。
「システムから【雷魔法】を取得したのは正解だったな。電力をためる手間が不要なのはいいが、いずれ発電もするか。部屋の気密性を上げすぎたせいで、熱交換器の出力を下げないと寒くて作業が不便だな」
マッドは出力を適正値まで下げ、再び熱交換器を起動した。
今度は室内をほどよく冷やす、涼しい風が吹き出し始める。
「有無、これならしばらくは快適だな」
満足げに腕を組むマッド。
だが、彼が快適さに満足しているその時、部屋の窓の外側は悲惨なことになっていた。
廃棄された熱のせいで、宿屋の窓枠や屋根は黒く焦げ付き、ダクトから吹き出す凄まじい熱風が、ごうごうと音を立てて近隣の部屋や隣家へと容赦なく送り続けられていた。




