第四話:『辺境のインフラと偽造通貨』
第四話:『辺境のインフラと偽造通貨』
上空を吹き抜ける風を切り裂きながら、マッドは眼下に広がる異世界の景色を見下ろしていた。
顔からガスマスクを剥ぎ取り、慣れた手つきで懐のストレージへと仕舞い込む。
「とりあえず研究拠点が必要だな。なるべく人間の法が届かない辺境の方が、手つかずの資源が多く眠っていそうだ」
ジェットブーツの出力を調整し、空中を滑空しながら周囲を鋭く観察する。
緑豊かな王都の周辺とは異なり、進むにつれて荒々しい岩肌と険しい連峰が目立ち始めていた。
「とりあえずあそこだな」
山間にひっそりと佇む、小規模な集落――辺境の村を発見し、マッドは迷わず降下を開始した。
地面に静かに着地し、何食わぬ顔で村の薄暗い宿屋のドアを叩く。
受付の年老いた店主は、妙な身なりのマッドを不審そうに見つめながらも、ぶっきらぼうに言った。
「一泊……五十イェンになりますな」
「貨幣を見せてくれ」
「あん? なんだお前、この国の金も持ってねえのか?」
マッドは端正な顔立ちを崩さず、淡々と要求した。
店主は眉をひそめながらも、懐から錆びついた金貨、銀貨、そして銅貨の三種類を取り出してカウンターに並べた。
「ほらよ、これがこの辺りで流通してる貨幣だ」
「なるほど、質量と規格、それから金属の配合比率は……この程度か」
マッドの目は、瞬時にそれらの構成情報をスキャンしていた。
彼はシステム画面を開くと、王都の謁見の間で略奪し、経験値で新しく取得しておいた二つの生産系能力を起動する。
【汎用アクティブスキル:鍛冶を取得しました】
【汎用アクティブスキル:加工を取得しました】
マッドは己の素材ストレージにアクセスした。
王都から剥ぎ取ってきた純金、純銀、純銅のデータ。そこに、道中の岩場から少しだけ『分解』して回収しておいた鉛と鉄の微量成分を混ぜ合わせる。
「『鍛冶』、および『加工』。形状コード、現行通貨に指定」
マッドの手のひらの中で、小さな光の粒子が収束する。
次の瞬間、彼の指先から、金属が擦れ合うチャリンという小気味いい音が響いた。
「これでいいだろう。銅の純度も、表面の摩耗具合も現物と完全に一致しているはずだぞ?」
カウンターに置かれたのは、汚れ一つない、だが重量も成分も完全に模倣された銅貨が五枚。
店主は不審そうにそれを手に取り、噛んだり傷をつけたりして確かめたが、完璧な本物の硬度だった。
「……確かに、間違いねえな。二階の一番奥の部屋を使いな。食事は一階だ」
鍵を受け取ったマッドは、出されたスープと硬いパンという貧相な食事を一口だけ口にし、すぐに顔をしかめてスプーンを置いた。
「家畜の餌か? 栄養素の純度が低すぎる」
そのまま二階のあてがわれた部屋へと入り、木製のドアを閉める。
隙間風が容赦なく吹き込む、傾いたベッドがあるだけの殺風景な空間だった。
「まずはインフラだな。空調も換気も気密性もクソだ。最高傑作(2号)の設計に入る前に、最低限の環境の準備くらいはしてもいいだろう」
マッドの指先が再び静かに動き、脳内で部屋の改造プランを組み立て始めた。




