第三十話:『理不尽への反逆と壊れゆく対話』
第三十話:『理不尽への反逆と壊れゆく対話』
上空の戦場は、二つの最終兵器が放つ圧倒的なエネルギーの奔流によって、白一色に染まりつつあった。
アルファの巨大な白銀の主翼から放たれる高出力レーザーの掃射に対し、ベータもまた銀翼の出力を限界まで引き上げて光線で応戦する。
双方の背後からは、自動追尾式の多連装ミサイルが絶え間なく撃ち出され、空中で激突しては爆鳴を轟かせていた。
アルファはその絶対的なパルスバリアと空間障壁によってすべての衝撃を無効化し、傷一つ無い姿で滞空している。
一方のベータは、マナタイト製の可動装甲板を幾重にも展開してかろうじて直撃を凌いでいた。
マナタイトには柔軟な自動修復機能が備わっていたが、現在のベータの出力では再生速度が全く追いつかない。
盾の隙間をすり抜けた極小のレーザーや爆風の余波を受けるたび、ベータのメタリックな肉体には少しずつ不快な亀裂が走り、白い装甲が剥がれ落ちて欠損していった。
「やめろ! 引き際を見極めろ、ベータ! これは合理的な計算の末に敗北が決定している、極めて不毛な戦闘だ!」
背後で見つめるマッドが、声を枯らして叫ぶ。
その天才的な頭脳は、あと数十秒で二号機のシステムが完全に崩壊するという未来を正確に弾き出していた。
だが、ノイズの混ざり始めた通信コードの向こうから、ベータは静かに、唐突な問いを創造主へと投げかけた。
「マスター……一つだけ、教えてください。マスターは、どうして前世で『悪の組織』に入ったのですか? どうして、あの正義のヒーローたちと戦っていたのですか?」
「……なんだと?」
あまりにも戦場にそぐわない的外れな質問に、マッドは思わずあっけにとられた。
しかし、火花を散らしながらボロボロになっていくベータの姿を見た瞬間、それが壊れゆく彼女との「最後の会話」になるのだと、彼の冷徹な理性が察知した。
マッドはチッと苦々しく舌を打ち、血走った目で叫び返した。
「パンチ十トン、キック百トン、平気で空を飛び回り地球を何周もする。挙句の果てには、必殺技が当たれば絶対に勝利が確定する……そんな物理法則を無視した理不尽なヒーローたちに対して、俺は、純然たる誰もが納得できる『科学の再現性』で対抗したかっただけだ! 悪はいつも負けて、正義は設定の都合でいつも勝つ。悪の組織の科学者として、その合理的ではない、仕組みとしての理不尽がただ許せなかった、それだけだ!」
激しい爆音の隙間で、マッドの吐き捨てた本音が空に響く。
それを聞いたベータは、処理容量の限界を迎えつつある複合コアの奥底で、愛おしそうにウインドウを明滅させた。
「……やはり、そうなのですね。博士は……最初から勝敗の結末が固定されていた、不条理な弱者を、その科学で救済したかったのですね」
「そんな崇高なもんじゃない! ただの偏執的な技術者のエゴだ!」
マッドは怒鳴ったが、ベータの壊れかけの微笑みのような駆動音は、もう止まらなかった。




