第二十九話:『最終兵器の姉妹と絶対の壁』
第二十九話:『最終兵器の姉妹と絶対の壁』
ベータの背部に備えられた小さな銀翼が、耳を聾するほどの駆動音と共に限界まで展開された。
「――ファイア!」
翼の先端から、人工ガーネットの輝きを伴った幾条もの収束レーザーがアルファへと向けて一斉に射出される。
同時に、背中のポッドから無数のミサイルが白煙の尾を引いて空を埋め尽くした。
しかし、絶対的な調停者たる一号機の壁は厚かった。
ベータの放ったレーザーは、アルファの周囲に展開された目に見えない高密度の空間障壁によって完全に屈折・遮断され、迫り来るミサイルの群れも、彼女の手前で展開された電磁パルスバリアによって信管を強制起動され、すべて肉薄する前に虚しく爆散していった。
爆炎の煙を割って、ベータは空中でさらに高度を上げる。
「一号機……いえ、私の『姉さん』。現時点において、あなたにとっての最優先排除目標は私です。私を機能停止させない限り、マスターを支えるこの街の人々も、マスターも、傷つけることはさせません」
水色の髪を激しくなびかせ、銀翼を広げたベータの青い瞳が、アルファの冷酷な赤い瞳を真っ向から睨み据えた。
その細い身体からは、創造主への献身と味方を守るという強い熱量が放たれている。
アルファは自身のインジケーターをミリ秒単位で更新し、淡々と状況を再定義した。
「――二号機による確実な戦闘妨害、および当世界における唯一の技術的脅威因子と認定。これより、プロトコルの優先順位を書き換え、二号機の最優先処理プロセスを実行します」
「馬鹿者が! 何をやっているんだ、ベータ!」
下空からジェットブーツで並走するマッドが、怒りで顔を真っ赤にして叫んだ。
「お前がマナタイトの盾を数枚追加した程度では、アルファの規格外の最大出力には全く及ばないんだぞ! 俺たちには奴の装甲を分子崩壊させるための『準備』が必要なんだ! これは勝利という結果を導き出すために、絶対的な原理として必要な工程なんだぞ!」
創造主の怒号を受けながら、ベータは視線をアルファに固定したまま、静かに、しかしどこか優しく通信コードを返した。
「――わかっています、マスター」
それが無謀な戦闘であると理解しながらも、ベータは左右のマナタイト装甲板を前方に固定し、マッドの身を庇うように、絶対的な破壊の前に毅然と立ち塞がった。




