第二十六話:『絶対的正義の城塞殲滅』
第二十六話:『絶対的正義の城塞殲滅』
王国の王都にそびえ立つ壮麗な白亜の城では、連日連夜、豪華絢爛な祝宴が催されていた。
国王をはじめとする主要な国家高官たちは、魔王軍を壊滅させた失格勇者マッドと、その傍らに立つ機械の天使の活躍を耳にしていた。
あの風変わりな男の行動原理や技術は彼らの理解の範疇を超えていたが、「人類を魔王の手から救った」という厳然たる結果の前に、一同は安堵し、自分たちがかつて下した勇者召喚という選択は間違っていなかったのだと、互いの杯を掲げ合っていた。
だからこそ、近衛兵から「救世の天使様が急に謁見の間に来訪されました」という報告を受けた際も、彼らは何の疑いも持たず、むしろ最大の敬意をもってその存在を素直に招き入れてしまったのだ。
数十の村々を「慈悲の殲滅」によって跡形もなく消し去り、静かに玉座の間へと歩みを進めたアルファ。
その燃えるような赤い髪をわずかに揺らし、一切の感情を排した赤い瞳で、並び立つ王族や高官たちを冷酷に見渡した。
「――当領域において、最優先排除目標の技術的および生体残留痕跡を強く確認。これより状況を分析します」
困惑と期待の混ざった目を向ける国王たちを前に、アルファの口から無機質な宣告が下される。
「現地の最高権力機関、および高密度生命体群を、マスターをこの世界に維持・復活させる『諸悪の根源』と認定。マスターの技術が再びこの世界に再現する可能性を永続的にゼロにするため、これより完全殲滅シークエンスを開始します」
「な……何を言って――」
――バツンッ!!!
国王の言葉を遮るように、アルファの背部に備えられた白銀の主翼が完全に解放された。
それは幾重にも枝分かれし、瞬く間に数百本もの鋭利な「針の山」のような形状へと変貌を遂げる。
その一本一本の鋭端には、二号機であるベータのそれとは比較にならないほどの、超高密度エネルギーを内包した光学レーザー照射機が完全配置されていた。
アルファの赤い瞳に内蔵されたスキャンシステムが稼働する。
頑丈な石壁を、厚い床を、城を構成するすべての構造物を瞬時に透過し、熱源、振動、そして固有の生体音響から、この広大な王城内部に存在するすべての生命反応を極めて冷徹にロックオンした。
「ターゲット指定完了。出力を最大値へと固定。一撃での分子崩壊を実行します」
――瞬間。
閃光が、城のすべてを真っ白に塗りつぶした。
極限まで収束され、高熱を遥かに超えた光の奔流が一斉に解き放たれる。
謁見の間にいた国王や高官たちは、自身の身に何が起きたのかを脳が認識するコンマ数秒の猶予すら与えられず、その肉体を分子レベルで焼き切られ、物質ごと霧散した。
だが、アルファの殲滅はそれだけに留まらない。
数百条のレーザーは、王城の分厚い壁を、頑丈な床を、美しい彫刻が施された柱を豆腐のように容易く貫通し、照射線上のすべてを熱融解させていく。
崩落していく城の中で、なおも生存しているわずかな生命反応を、アルファの自律迎撃システムはミリ秒単位で追尾し、次々と正確に焼き切っていった。
ドゴゴゴゴゴゴ……ッ!!!
絶対的な熱量によって構造のバランスを完全に失った王城が、轟音を立てて内側から崩壊していく。
美しかった尖塔が折れ、巨大な石壁が瓦礫の山となって地響きを立てて崩れ落ちた。
やがて、もうもうと立ち込める硝煙と土塵を割り、崩れ去った瓦礫の山の中心から、傷一つ無い白銀の装甲を輝かせたアルファが静かに立ち上がった。
その赤い瞳が、静寂の戻った王都の空を見上げる。
「当エリアにおける『諸悪の根源』の排除を完了。この世界に残された敵対反応は、マスター本人の痕跡と思われる座標のみ。再現性の芽を完全に摘むため、速やかに最終排除プロセスへ移行します」
冷酷にログを更新したアルファは、白銀の主翼を爆発的に羽ばたかせ、衝撃波で周囲の瓦礫を吹き飛ばしながら、マッドとベータが拠点にしているあの宿屋の街へ向けて、一直線に飛び立った。




