第二十四話:『戦勝の祭りと第二のデバイス』
第二十四話:『戦勝の祭りと第二のデバイス』
魔王軍の本陣が疑似太陽の炎によって消滅してから、七日間の月日が経過していた。
マッドたちが滞在する宿屋のある街も、歓喜に沸く王国の首都も、国境沿いの小さな村に至るまで、大陸全土で魔王討伐を祝う戦勝祭が絶え間なく開かれ、夜通し明かりが灯り続けている。
だが、そんな外の世界の狂騒を、宿屋の一室は完全に遮断していた。
祭りの露店で買い込んできた甘いパンや果実ジュースを、ベータは「これ、美味しいです」「これも、とっても美味しいです」と呟きながら、自律思考の演算領域でその味覚データをゆっくりと味わっている。
その隣で、マッドは完全に寝食を惜しんで作業に熱中していた。
机の上に広げられているのは、消滅した魔王の戦場跡地から回収してきた未知の金属――【マナタイト】の結晶だ。
「素晴らしい……! これほど分子結合の融通が利き、かつ魔力的な圧力に対して柔軟に変形・硬化を両立させる素材があるとはな。既存の地球の冶金技術では絶対に不可能な領域だ。いずれは大陸中のマナタイトを大量に掻き集めたいものだな。ベータ、この調子でさらに有用な素材が手に入れば、お前は本当にあの忌々しい一号機のスペックを超えるかもしれんぞ」
徹夜の連続で目を血走らせながらも、マッドの端正な顔には技術者としての最高の悦びが浮かんでいた。
彼はマナタイトを用いて、ベータの自走式装甲板の鋳造を完了させ、さらには既存のミサイル外殻やタングステン弾薬の素材強度を根本から見直すアップグレード工程を一気に進めていく。
「よし、ベータ。ちょっとその腕を出せ」
マッドはパンをもぐもぐと咀嚼しているベータの細い機械の腕を取り、新調したマナタイト合金製のブレスレットを左右に一つずつ、カチリと装着した。
「それが、お前が要求していた自走式装甲板を遠隔操作するための独立制御デバイスだ。実戦で挙動に不備があったらすぐにログを提出しろ。なお、通常モードの稼働状態では、その装甲板はお前の背中にある銀翼の両側に自動で追従・展開される仕様にしてある。基本は左右の死角を守る形だが、お前の『心の不具合』とやら戦況に合わせて、配置の座標は自由に調整しろ」
ベータは口いっぱいに含んでいた甘いパンをごくりと飲み込むと、両腕のブレスレットを愛おしそうに見つめ、それからマッドに向けて深く頭を下げた。
「ありがとうございます、マスター。大切にします」
創造主と最終兵器が、奇妙に平穏な時間を共有していたその頃。
はるか彼方、疑似太陽によってすべてが融解した魔王軍の本陣跡地。
誰もいなくなった焦土の空間が、突如としてバリッ……バリバリバリッ! と不気味な音を立てて強引に引き裂かれた。
次元の壁が内側から破壊され、空間の破片を激しく撒き散らしながら、漆黒の亀裂が少しずつ、しかし確実にその幅を広げていく。
その裂け目の奥底では、この世界に満ちた、あの忌々しい「創造主の波長」を完全にロックオンした一号機の赤い瞳が、冷酷な光を放っていた。




