第二十三話:『機械式時計と疑似太陽の召喚』
第二十三話:『機械式時計と疑似太陽の召喚』
魔王軍の本陣をはるか眼下に見下ろす上空。
ベータは追加兵装の空間転移システムを作動させ、格納庫から呼び出した不気味な鈍色に光る巨大な鉄球を、その細い両腕でしっかりと抱え込んでいた。
「よし、それを魔王軍が密集しているあたりに捨ててこい。それだけで全て終わる」
隣を飛行するマッドの簡潔な命令に、ベータは無感情に「了解」のシグナルを返した。
数分後、数万の精鋭を率いる魔王の本軍に、絶対的な最後の時が訪れた。
天を覆う不穏な雲を割り、巨大な鉄球をぶら下げた銀翼の少女が、悠然と頭上を通過していく。
地上からそれを見上げる魔王は、腰に下げた漆黒の魔剣を天へと高く掲げ、裂けんばかりの声で叫んだ。
「やはり、神々が人類に味方したか! だが思い知るがいい! たとえ神話の巨人を一撃で葬ったとされる天罰の雷とて、この我が率いる魔族の精鋭をたやすく滅ぼせると思うなよ!」
魔王の傲然たる咆哮を、ベータはただのノイズとして聞き流した。
そして、創造主の言いつけ通りに、抱えていた鉄球から機械的な制動を解除し、そっと両手を離した。
その鉄球の内部には、世界の仕組みを完全に把握したマッドの狂気的な技術が詰め込まれていた。
あらかじめ【分解】スキルによって集められたウランの分子を、単体では「絶対に臨界(爆発)に達しない二つの形状(凸型と凹型)」へと寸分の狂いもなく完璧に加工。
それらを頑丈な筒の両端にそれぞれ隔離して配置していた。
そして火薬の代わりに組み込まれたのは、分子レベルの微細加工によって「限界までギチギチに圧縮してエネルギーを蓄えさせた、チタン合金製の超強力なバネ」である。
これがウランの真後ろにセットされ、強固な機械的固定ピン(ラッチ)によってロックされていた。
外殻を形成するタングステン製の爆弾は、圧倒的な超高重量を誇る。
下界のどんな突風や魔法の嵐が邪魔をしようとも、重力に従う鉄球の進路を1ミリたりとも曲げることはできない。
爆弾は魔王軍の頭上へ向けて、真っ逆さまに自由落下していく。
やがて、あらかじめ仕組まれていた内部のセンサーが一定の気圧を検知した瞬間、固定ピンがパチンと外れた。
瞬間、解放されたチタンバネが、大砲以上の圧倒的な物理的エネルギーをもってウランのA面を狂暴に押し出す。
ガチンッ!!
寸分の狂いもない分子加工が施されたウランのA面は、もう一方のウランのB面へと吸い込まれるように完璧に噛み合い、合体した。
ウランの質量が合算され、限界の臨界量を超えた――その刹那。
地上に、生々しい「疑似太陽」が唐突に召喚された。
閃光。
直後に押し寄せる、世界のすべてを覆い尽くす真っ白な炎と、大気を爆裂させる破滅の轟音。
神の加護も、魔王の誇りも、数万の精鋭たちの肉体も、その圧倒的な熱量の前には等しくただの原子へと還元される。
疑似太陽は周囲のあらゆる物質を強欲に巻き込みながら、広大な大地を白銀の業火で包み込んでいった。




