第二十二話:『防御の定義と魔王の鎧』
第二十二話:『防御の定義と魔王の鎧』
すべての追加兵装の組み込みが完了し、基準戦闘能力値を大幅にクリアしたベータの姿は、一見すると非常にコンパクトにまとまっていた。
背部には鋭利な銀翼、腰の左右には予備の近接大振動ブレードを携え、白銀の複合兵装はまるで美しいドレスのようなシルエットを形成している。
マッドは手元の制御モニターを見つめながら、片手で顎をさすった。
「よし、最低限の戦闘兵装は揃ったな。これで前世の悪の組織が保有していた量産型破壊兵器よりは、スペック上は遥かに上だが……やはり一号機の出力と比べると、基礎構造の性能がまだ弱い。ベータ、先ほどの先行部隊との実戦において、不備のある挙動や、不足を感じた兵装はあったか?」
創造主の問いかけに、ベータは藍色から本来の水色へと戻った瞳を静かに瞬かせた。
「自走式で個別に制動可能な、独立型の防護盾、および可動式装甲板の追加を要求します」
「防御だと!?」
マッドは露骨に不快そうな声を上げ、ペンを机に叩きつけた。
「兵器とは、対象を効率よく破壊するための兵器だ。そもそもお前のハイブリッド皮膚は、現時点でこの異世界の最高水準の耐久度を誇っている。今更そんなデッドウェイトになる装甲を追加したところで、全体の防御効率はこれ以上上がらんぞ?」
「いえ、大型の光学破壊兵器を最大出力で運用する際、その膨大な反動から自身のフレーム、および『周囲の環境』を熱波から保護しながらの連続射撃が可能になります。……それに」
ベータは少しだけ俯き、胸の複合コアの演算領域に触れた。
「自律思考モードの際、私の機能の一部に定義されていないノイズ――『心の不具合』が発生した際、それが周囲を巻き込むケースを演算すると、攻撃実行までにコンマ数秒の迷い(ラグ)が生じます。該当識別『味方』を不慮の爆風から物理的に隔離する、絶対的な盾が必要です」
「ふむ……」
マッドは怒りを収め、合理的な思考へと切り替えた。
「自律制御時における行動選択の無駄を削り、攻撃の挙動を滑らかにするための追加オプションか。迷いというバグをシステム的に相殺できるなら、修正案として却下する理由はないな。だが、手持ちのタングステン鋼程度では、たかが超高熱耐性と超硬度しか得られん。独立稼働するシールドに不可欠な柔軟性と、より強靭な複合耐久性を両立させる素材はどうする?」
「邪魔な『魔王』を排除して、素材として回収しましょう」
ベータは淡々と、しかし極めて明確な回答を提示した。
「魔族の軍勢は、私たちの便利なシステムである『味方』を攻撃し、作業環境を脅かします。それに事前のデータベースによれば、魔王軍の上級幹部や魔王自身の鎧には、高品質の『マナタイト』という、柔軟かつ強固な結晶合金を精製できるこの世界特有の金属が含まれています」
マッドの唇が、狂気的な笑みへと吊り上がった。
「……ふむ。素材の価値を自ら精査し、次の獲得目標を逆算する性能。初期の自律型としては期待以上の成長だな。いいだろう、その魔王の鎧とやらを効率よく毟り取りに行くか」
マッドが即座に立ち上がり、ベータと共に宿屋の屋根を蹴って魔王軍の本隊が待つ空へと飛び立った、ちょうどその時。
はるか遠方。
王国の都を壊滅させるべく、数万の本軍を率いて堂々と進軍していた魔王の背筋に、これまでに感じたことのない、悍ましい極寒の寒気が一瞬にして走り抜けたのだった。




