第二十一話:『青髪の天使と五万の消滅』
第二十一話:『青髪の天使と五万の消滅』
ベータが宿屋の外へ出た直後、街の混沌たる空へ、水色の髪をなびかせた白銀の天使が静かに舞い上がった。
それは、自身らを最強と自負し、傲然と進軍してきた魔王軍の本隊にとって、絶対的な終焉の合図だった。
――キュィィィンッ!
ベータが背中に広げた銀翼の先端から、人工ガーネットの媒体によって限界まで収束された高出力レーザーが何条もほとばしる。
光線は地上の魔族たちの肉体を紙切れのように容易く焼き切り、一瞬で大地へ撃ち落としていく。
空から牙を剥いて襲いかかる飛竜の群れと、それに跨る魔族の騎兵に対しては、背部に新設された小型ミサイルポッドが全弾開放された。
シュシュシュシュシュッ!
無数の尾を引いて放たれたレーザー誘導ミサイルが、上空の飛竜たちを次々と捉え、肉片と爆炎の混ざり合う木っ端微塵の火球へと変えていく。
なおも街の外から津波のように押し寄せる魔族の大軍に対し、ベータはその細い腰のフレームに取り付けられた、空間転送式のリロード機構を持つ迫撃榴弾砲を起動した。
――ドォォン! ドォォン! ドォォン!
絶え間ない金属の脈動と共に、多段式の榴弾が容赦なく撃ち出される。
マッドの計算通りのリロード補助によって放たれた鋼鉄の雨は、進軍する魔族の最前線、恐怖に混乱する軍の中央、さらには退路を断つための後方へも正確に降り注いだ。
爆発的な轟音と超高速のタングステン鉄片が周囲を蹂躙し、後続の魔族軍を文字通りのひき肉へと変えていく。
死に物狂いになった魔族の魔導師たちが放つ反撃の攻撃魔法が、数発、ベータの装甲へ直撃した。
しかし、新調された耐熱性フッ素樹脂のハイブリッド皮膚は火花を散らすだけで、その内部フレームには傷一つ付かない。
ベータは全く構うことなく、翼の先端から再び無慈悲な光線を照射し、地上の敵を焼き尽くしていった。
王都を攻め落とすために進軍し、ただの「ついで」としてこの街に立ち寄ったはずの魔王軍十万の先行部隊――そのうちの五万人は、わずか数分でその99.9%がこの世から消滅した。
「おおお……! 天使様だ!」
「神様が、青い髪の天使様を遣わしてくださったんだ!」
壊滅した戦場と、硝煙の向こうに佇む美しい鉄の少女を見上げ、街全体が歓喜の声に包まれる。
人々が救世主を崇める中、ベータは地上にいる八百屋さんやお魚屋さんの姿を見つけた。
彼らの顔や肩に、戦火に巻き込まれたかすり傷があるのを見た瞬間――ベータの複合コアの奥底が、チクリと奇妙な痛みを感知した。
人間で言うところの、胸の痛みだった。
それでも二人の無事を確認したベータは、それ以上群衆と関わることを避けるように、翼を羽ばたかせてそそくさとマッドの待つ宿屋のラボへと戻るのだった。




