第二十話:『味方の定義と自律思考の稼働』
第二十話:『味方の定義と自律思考の稼働』
宿屋の外では、怒号と悲鳴が濁流のように渦巻いていた。
しかし、マッドはそれらを完全に遮断し、机の上に並べた多連装掃射式迎撃システムの外部駆動パーツを、淡々と組み立てる作業に没頭していた。
「まぁいい。魔王軍が何万人来ようが、俺には俺の作業スケジュールがある。外の雑音は放置だ」
彼が工具を動かしていると、背部に新調された銀翼の兵装を静かに駆動させながら、ベータがじっと外の様子に耳を澄ませていた。
「マスター。……八百屋さんの悲鳴がしました。この前食べたお野菜は、とても美味しかったです。八百屋さんは、私たちの味方ですか?」
ネジを締め直しながら、マッドは手元を見たまま無関心に答える。
「まぁ、生きていく上で野菜は必要だな。ビタミンが不足すれば集中力が途切れ、俺の設計作業に支障が出る。排除すべき敵ではないな」
「では、今度はお魚屋さんの悲鳴が聞こえます。昨日食べた焼いたお魚も、とても美味しかったです。お魚屋さんは味方ですか?」
「鮮魚や肉は、脳と肉体を維持するための重要なタンパク質源だ。それに、魚の油からは工業用の薬品や潤滑油も精製できる。この世界では、俺が偽造した金貨や銀貨といった最低限の鉱物資源を渡すだけで、それらを向こうから手軽に提供してくれる。非常に便利なシステムの一部だ。敵ではない」
「……わかりました。便利なシステムと、美味しいものをくれる人たち。彼らは、私たちの『味方』ですね」
ベータは胸の前で、小さくメタリックな拳を握りしめた。
「それなら、その味方をいじめる魔王軍は――味方の敵、です」
ベータの水色の瞳の奥で、システムコードが急速に書き換わっていく。
その可憐な瞳が、深い藍色へとキュィィンと不気味に染まり、準戦闘兵装の全ロックが解除された。
「ふむ。自律思考制御とターゲット選定の、いい実戦テストになる。好きにしたらいい」
完全に自身の作業に集中し、生返事で適当に許可を出すマッド。
創造主のその言葉を「承認」と受け止めたベータは、機械的な足音を静かに響かせながら、宿屋のラボの木扉を開けて外の戦場へと歩み出て行った。




